6年生の社会科、「わたしたちの生活と政治」。日本国憲法の三つの原則、国会・内閣・裁判所、そして市の政治。今の教科書では、6年生の最初にこの単元が来ていることが多いと思います。(配列は教科書によってちがうので、お使いの教科書で確かめてください)
この単元、内容が抽象的で、子どもにとっては「覚えること」が多い単元です。三権分立、国民の三大義務、国会の仕事…。テスト前に暗記して、終わったら忘れる。正直、そんな単元になっていませんか?
今回は、審議まとめの「主権者教育」の話から、この単元を見直してみます。
審議まとめの主権者教育
審議まとめは、社会科の改善の方向として、主権者教育について、こう書いています。
社会参画意識を高めることが求められる中、若年層の政治参加や社会への当事者意識について、改善傾向は見られるものの、依然として課題が見られる。このため、子供たちが主体となって実感を持つことができる実践的な活動をより一層重視するとともに、外部機関との連携・協働や他教科との連携強化を促進する。その際、選挙管理委員会や地方公共団体、NPOなどの外部機関との連携を進め、多様な立場の人々との協働を通して、合意形成や意思決定の過程を学ぶ機会の充実を図る。
ポイントは、最後の「合意形成や意思決定の過程を学ぶ」です。選挙で選ぶ、だけではない。みんなで決めるとはどういうことか、その過程を学ぶ。
模擬選挙のよさと限界
6年生の主権者教育といえば、模擬選挙が定番です。選挙管理委員会から本物の投票箱や記載台を借りて、架空の候補者の演説を聞いて、投票する。
これ、子どもは本当に盛り上がります。本物の投票箱の重み。投票用紙を折って入れるときの、ちょっと緊張した顔。体験として、とても価値があります。
ただ、模擬選挙だけで終わると、子どもの中に残るのは「選挙は、選ぶこと」です。でも、実際の政治は、選んだ後の方が長い。選ばれた人たちが、意見の違う人たちと話し合い、調整し、決めていく。審議まとめのいう「合意形成や意思決定の過程」は、むしろそっちです。
市の政治で「過程」を学ぶ
そこで使いたいのが、単元の中の「市の政治の働き」の部分です。教科書では、公園や子育て支援センターなどの施設ができるまでの過程が、事例として出てくることが多いと思います。(事例は教科書によってちがうので、お使いの教科書の事例で考えてみてください)
- 住民の願い(要望)
- 市役所での計画
- 市議会での話し合いと議決
- 予算(税金)
- 完成
この流れを、「誰の、どんな意見がぶつかったか」という目で読み直します。
「公園をつくってほしい人もいれば、その土地を別のことに使いたい人もいる。お金は限られている。どうやって決めたんだろう?」
教科書の事例を「決まったこと」としてではなく、「決めるまでの話し合い」として読む。そうすると、市議会が何をしているところなのかが、急に具体的になります。
自分たちの「決める」とつなげる
さらに、子どもたち自身の「決める」経験とつなげます。
学級会、児童会、委員会。子どもたちは、学校の中で、すでに「みんなで決める」ことをしています。以前の連載で書いた、安易な多数決ではなく「納得解」をつくる学級会。あれは、小さな政治の練習です。
「児童会で、休み時間のボールの使い方を決めたとき、どうやって決めた?」「反対の人もいたよね。どうした?」
学校の中の話し合いと、市議会の話し合い。規模は違っても、意見の違う人と、限られたものをどう分けるかという点では同じです。審議まとめのいう「他教科との連携強化」には、特別活動との連携も入ってくると思っています。
外部機関とつながるなら
審議まとめは、選挙管理委員会、地方公共団体、NPOなどとの連携を挙げています。
選挙管理委員会
模擬選挙の道具の貸し出しや、出前授業をしてくれるところが多いです。お願いするときに、「投票の仕方」だけでなく、「選挙で選ばれた人が、その後何をするのか」も話してもらえるよう相談してみると、単元のねらいとつながります。
市役所・市議会
市議会の見学や、議会だよりの活用。子ども議会を開いている自治体もあります。お住まいの地域で、どんな取組があるか調べてみるのもおすすめです。
連携のときに気をつけたいこと
前回の社会の記事でも書きましたが、審議まとめは、外部人材の活用が「形式的な連携にとどまっている場合」を課題にしています。来てもらって話を聞いて終わり、ではなく、子どもの問いを事前に渡しておく。「市議会では、意見が分かれたとき、どうやって決めるんですか?」。そういう問いがあると、話の中身が変わります。
政治的中立について
最後に一つ。政治の学習では、教師の政治的中立が求められます。特定の政党や政策の是非を、教師が子どもに押しつけない。
なので、模擬選挙の候補者は架空の人物にする。現実の争点を扱うときは、複数の立場を公平に示す。このあたりは、学校や自治体の方針も確認しておきたいところです。
単元計画のイメージ
「決めるまでの話し合い」を中心にした単元計画です。教科書によって、憲法と市の政治のどちらから入るかや、時数がちがうので、ここでは14時間ほどの目安で書いています。
| 段階 | 時 | 主な学習 | 中心の問い |
|---|---|---|---|
| 出会う | 1 | 学校の中で「みんなで決めた」経験を出し合う | わたしたちは、どうやって決めてきた? |
| 問いをもつ | 2 | 身近な公共施設を出し合い、誰が、どうやって作ったかを考える | この公園は、誰が、どうやって決めて作ったの? |
| 調べる | 3〜5 | 教科書の事例で、施設ができるまでの過程を調べる | 住民の願いから完成まで、どんな話し合いがあった? |
| 考える | 6 | 意見がぶつかったところを考える | 反対の意見があったら、どうやって決める? |
| つなげる | 7 | 市議会の仕事と、税金の使われ方を知る | 限られたお金を、どう分ける? |
| 体験する | 8〜9 | 模擬選挙をする | 選ぶとき、何を大事にする? |
| 広げる | 10〜12 | 国の政治(国会・内閣・裁判所)と日本国憲法を学ぶ | 国の政治でも、同じように決めている? |
| ふり返る | 13 | 学校の話し合いと、市や国の政治を比べる | 小さな政治と大きな政治、同じところは? |
| 未来へ | 14 | 自分たちが政治に関わる方法を考える | 今のわたしたちにも、できることは? |
市の政治から入って、国の政治へと広げる流れにしています。身近なところで「決めるまでの過程」をつかんでから、規模の大きい国の政治に進むと、国会や内閣の仕事が、ただの暗記ではなくなります。
第6時の流れ 「反対の意見があったら、どうやって決める?」
単元の山場の一つ、第6時を細かく書いておきます。ここでは、架空の事例を使います。
導入(5分):「ある市に、空き地があります。この空き地を、何に使うかを決めることになりました」と、架空の市の地図を見せます。
意見を知る(10分):空き地の使い方について、立場のちがう住民の意見をカードで示します。
- 子育て中の人:「子どもが安心して遊べる公園がほしい」
- お年寄り:「病院に通うための駐車場がほしい」
- 商店街の人:「お客さんが集まる広場がほしい」
- 近所の人:「静かな場所のままにしてほしい」
グループで話す(15分):グループで、市の担当者になったつもりで、どう決めるかを話し合います。予想される子どもの声はこんな感じです。
- 「公園と駐車場を、半分ずつにすればいい」
- 「でも、半分ずつだと、どっちも小さくなって使いにくいかも」
- 「静かにしてほしい人のために、夜は使えないようにしたら?」
- 「多数決で決めればいい」
- 「でも、多数決だと、お年寄りの意見が負けるかもしれない」
最後の二つのやりとりが出てきたら、ぜひ全体で取り上げます。多数決は、早く決められる方法です。でも、少ない人の意見が届かないこともある。学級会で「納得解」を考えてきた経験があれば、子どもは自分たちの言葉で、このことを説明できます。
全体で話す(10分):グループの案を発表し、「どの案なら、反対の人も納得できそう?」を考えます。一つに決める必要はありません。「実際の市では、こういう話し合いを、市役所や市議会でしているんだね」とつなげます。
まとめ(5分):「みんなで決めるときに、大切なこと」をノートに書いて終わります。
【配慮:架空の事例を使い、実在の地域の具体的な争点にはしない。実在の事例を扱う場合は、複数の立場を公平に示す】
模擬選挙の進め方
第8〜9時の模擬選挙は、選挙管理委員会の協力が得られれば、本物の投票箱や記載台を借りて行います。進め方の例を書いておきます。
- 候補者を決める:架空の候補者を三人つくる。それぞれの「約束(公約)」を、学校生活に関わる内容にする(例:「休み時間を5分長くします」「図書室の本を増やします」「校庭に花壇をつくります」)
- 公約を比べる:三人の公約を読み、それぞれのよいところと、心配なところを考える
- 演説を聞く:先生や、協力してくれる人が候補者役になって演説をする
- 投票する:受付、投票用紙の交付、記載、投票箱への投票の順で、本物の手順にそって投票する
- 開票する:選挙管理委員の役の子どもが、開票し、結果を発表する
- ふり返る:「何を大事にして選んだ?」を書く
ふり返りの問いを、もう一つ足すのがおすすめです。「選ばれた人は、このあと、どうやって約束を実現する?」。たとえば、「休み時間を5分長くする」と約束した人が当選しても、それだけでは実現しません。授業の時間はどうするのか、先生たちは賛成するのか。選んだあとの話し合いが、本当の政治の始まりであることに気づくきっかけになります。
税金と予算の考え方
第7時の「限られたお金を、どう分ける?」は、税金の学習につながる時間です。子どもにとって、税金は身近なようで、見えにくいものです。
まず、身の回りの、税金で作られているものや、税金で行われているサービスを出し合います。学校の建物、教科書、道路、公園、消防署、ごみの収集。子どもは、自分たちの生活の中に、税金で支えられているものがたくさんあることに驚きます。
そのうえで、市の予算の配分を、簡単なグラフで見せます。市のホームページには、予算の使い道が子ども向けに説明されていることもあります。【配慮:実際の予算の数字を使う場合は、出典と年度を示す】
「もし自分が市長だったら、どこにお金を多く使う?」と聞くと、意見が分かれます。「学校」「病院」「道路」。どこにお金を使うかを決めることが、政治の大事な仕事の一つであることが分かります。
板書のイメージ
第3〜5時の板書は、施設ができるまでの流れを、黒板の左から右へ、矢印でつないで書きます。住民の願い→市役所での計画→市議会での話し合い→予算の決定→工事→完成。
そして、それぞれの段階の上に、「ここで、どんな意見がぶつかった?」と書いた吹き出しを貼ります。子どもが考えた意見のぶつかりを、吹き出しの中に書き込んでいきます。完成までの流れが、すんなり進んだのではなく、たくさんの話し合いを経てきたことが、目で見て分かります。
つまずきやすいところと手立て
- 国会・内閣・裁判所の役割を覚えられない子:学校の中の役割にたとえます。「きまりを決めるところ」「きまりにそって仕事をするところ」「きまりを守ったかどうかを判断するところ」。たとえを使うと、三つの役割のちがいがつかみやすくなります。
- 政治を「自分には関係ない」と感じる子:身の回りの、税金で作られているものから考えます。「この教科書も、税金で配られている」。自分の生活と政治のつながりが見えると、少し身近になります。
- 話し合いで、多数決しか思いつかない子:学級会での経験を思い出させます。「学級会で、反対の人がいたとき、どうした?」。自分たちの経験が、政治の話し合いを考える手がかりになります。
- 模擬選挙で、候補者の人気だけで選んでしまう子:公約を比べる時間をしっかりとります。「この約束、本当にできそう?」「この約束で、困る人はいない?」と、公約の中身を考える問いを出します。
評価の目安
この単元の「思考・判断・表現」は、第6時の話し合いと、第13時の「小さな政治と大きな政治」の比較で見ると、ねらいに合っています。
- 十分にできている:立場のちがう意見を整理し、多くの人が納得できる決め方を考えている。学校の話し合いと市や国の政治を比べて、共通点を説明できる
- おおむねできている:立場のちがう意見があることは分かっているが、決め方の工夫はまだ考えられていない
- もう一歩:政治の仕組みと、自分たちの生活を結び付けることがまだ難しい
政治の学習では、子どもがどの意見を支持したか、どの候補者に投票したかは、評価に入れません。大切なのは、どう考えて決めたかの過程です。
よくある質問
Q. 模擬選挙の候補者の公約は、どう作ればいいですか?
公約は、学校生活に関わる、子どもが考えやすい内容にします。どの公約にも、よいところと心配なところがあるように作るのがポイントです。「休み時間を長くする」は、子どもにはうれしいけれど、授業の時間が減るかもしれない。こういうバランスがあると、子どもは公約の中身をよく考えて選ぶようになります。
Q. 選挙管理委員会に、どうやって連絡すればいいですか?
市区町村の選挙管理委員会は、たいてい市役所や区役所の中にあります。ホームページに、学校向けの出前授業や投票箱の貸し出しの案内が載っていることも多いです。模擬選挙をしたい時期の2〜3か月前には連絡しておくと、準備がしやすくなります。
Q. 憲法の学習が、暗記になってしまいます。
日本国憲法の三つの原則を、学校や自分たちの生活と結び付けて考えると、暗記だけで終わりにくくなります。「国民主権」は、自分たちで決めること。学級会で自分たちのことを決めている経験と、つながっています。
まとめ
- 審議まとめは、主権者教育について、実感を伴う実践的な活動と、選挙管理委員会などの外部機関との連携、そして「合意形成や意思決定の過程」を学ぶことを重視している
- 模擬選挙は「選ぶ」体験として価値があるが、それだけだと「選んだ後」が抜ける
- 市の政治の事例を「決めるまでの話し合い」として読み、学級会や児童会の経験とつなげる。外部機関には子どもの問いを
「市議会って、大人の学級会みたいなもの?」。そう言った子がいたら、まぁ、だいたい合っていると答えてあげてください。
次回は、2年生の生活科「町たんけん」です。
参考
- 中央教育審議会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)第2部第2章「社会、地理歴史、公民」p.146〜147 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/gaiyou/1292164_00001.htm
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」社会 第6学年 内容(1)
- 関連記事:安易な多数決をやめてみる 「納得解」「暫定解」をつくる学級会と、校則を話し合う学校(連載「次期学習指導要領を読む」)


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