3年生の社会科、「市の様子のうつりかわり」。昔の道具を調べる学習が入っている単元です。せんたく板、かまど、火のし、黒電話。子どもたちは、「これ、何に使うの?」と目を丸くします。
この学習、教科書の写真だけで進めることもできます。でも、正直、実物を見るのとでは全然違う。今回は、審議まとめの社会科の言葉から、「実物」と「地域の人」の話を考えます。
審議まとめが書いている課題
審議まとめは、社会科の課題として、学校外の施設や人材との連携について、かなり具体的に書いています。
- 博物館や郷土資料館の活用など、地域の素材や人材を活用した授業の実施状況が、特に中・高では約20〜30%にとどまる
- 外部人材の活用が、指導の目的や教育的効果を十分に踏まえず、形式的な連携にとどまっている場合も見受けられる
- 学校の学習に協力する地域人材の情報不足や、人事異動で人材が引き継がれない状況もある
- 時間割編成や引率教員の人数の制約で、学校外施設の活用が難しい
- 博物館や資料館などと端末でつないだデジタルコンテンツの活用も、十分とは言えない
そして改善の方向として、身近な題材を扱うことで実感を持った学習を進めるため、体験的な学習を含む地域を題材とした学習活動の充実を図る、としています。
人事異動で引き継がれない。耳が痛いです。去年までお世話になっていた地域の方の連絡先が、担当の先生の異動で分からなくなる。よくある話ですよね。
「昔の道具」は、地域の学習のど真ん中
3年生の「市の様子のうつりかわり」は、社会科の中でも一番「地域」の色が濃い単元です。教科書には、どこかのモデルの市が載っていますが、実際に学ぶのは自分たちの市です。
昔の道具の学習は、その入り口にぴったりです。
- 道具には実物がある(郷土資料館、学校の資料室、家庭)
- 使っていた人がいる(地域のお年寄り、子どもの祖父母)
- 道具の変化から、くらしの変化、市の変化へと広げられる
郷土資料館に行くなら
「見学」で終わらせない
郷土資料館に行くと、子どもは楽しそうに見て回ります。でも、学校に帰ってきて「何が分かった?」と聞くと、「いろんな道具があった」で終わることがある。
行く前に、一人一つ「調べたい道具」を決めておくことをおすすめします。教科書の写真から選んでもいいし、資料館のホームページで事前に見て選んでもいい。そして、資料館では、その道具について、
- どうやって使うのか
- いつごろ使われていたのか
- 今は、何に変わったのか
の3つを調べる。目的があると、見方が変わります。
学芸員さんに「問い」を持っていく
資料館の学芸員さんや職員さんに話を聞けるなら、子どもの問いを事前に送っておくと、話が深まります。「どうしてこの道具は使われなくなったんですか?」。これは、教科書には書いていない問いです。
審議まとめは、外部人材の活用が「形式的な連携にとどまっている」ことを課題にしています。お話を聞いて「ありがとうございました」で終わるのではなく、子どもの問いに答えてもらう形にすると、連携の中身が変わります。
行けないときは
時間割の都合や、引率の人数、距離の問題で、資料館に行けないこともあります。審議まとめも、それを課題として書いています。
そんなときは、
- 学校の資料室:古い学校には、昔の道具が残っていることがあります
- 家庭への声かけ:「家に昔の道具があったら、写真を撮ってきてください」。持ってこさせるのは、壊れたりなくなったりすると困るので、写真が安全です
- お年寄りに来てもらう:地域の方や、子どもの祖父母に、学校で話をしてもらう
- オンライン:資料館によっては、オンラインでの解説や、デジタル資料を公開しているところもあります
お住まいの地域の資料館にデジタル資料があるかどうか、ホームページで確かめてみてください。
引き継げる形で残す
人事異動で人材が引き継がれない、という課題。これは、私たち自身で少し減らせると思っています。
単元が終わったら、お世話になった施設や人の情報を、学年の共有フォルダに残す。施設名、連絡先、担当の方の名前、どんな話をしてもらったか、子どもの反応。次の年の3年生の担任が、それを見て連絡できるように。
個人情報の扱いは、学校のルールに合わせてください。
これだけで、翌年の先生はずいぶん楽になります。「地域との連携」と聞くと大げさに聞こえますが、まぁ、こういう小さな引き継ぎの積み重ねなんですよね。
教科書「を」から、教科書「で」へ
審議まとめは、社会科について、教科書「を」教えるから、教科書「で」教える学習への転換を促す、と書いています。
3年生の社会科は、その代表です。教科書のモデルの市を覚えるのではなく、教科書の学び方を使って、自分たちの市を調べる。教科書は「調べ方のお手本」です。
単元計画のイメージ
昔の道具の学習から、市の様子の移り変わりへと広げる単元計画です。教科書によって時数や構成がちがうので、ここでは16時間ほどの目安で書いています。
| 段階 | 時 | 主な学習 | 中心の問い |
|---|---|---|---|
| 出会う | 1 | 昔の道具の写真を見て、何に使うかを予想する | これは、何に使う道具だろう? |
| 問いをもつ | 2 | 昔と今のくらしを比べ、調べたいことを決める | 昔の人は、どんなくらしをしていた? |
| 準備 | 3 | 一人一つ、調べたい道具を決め、調べる計画を立てる | どの道具の、何を調べる? |
| 調べる | 4〜5 | 郷土資料館の見学、または地域の方のお話を聞く | 道具は、どうやって使っていた? |
| まとめる | 6〜7 | 調べた道具について、カードにまとめる | 道具は、何に変わった? |
| 比べる | 8 | 道具の移り変わりを、年表に整理する | 道具が変わると、くらしはどう変わった? |
| 広げる | 9〜12 | 市の交通・土地の使われ方・人口・公共施設の移り変わりを調べる | 市の様子は、どう変わってきた? |
| 考える | 13〜14 | 移り変わりの理由を考える | どうして、市の様子は変わってきたの? |
| 未来へ | 15 | これからの市について考える | これから、市はどうなっていくといい? |
| ふり返り | 16 | 単元をふり返る | 市のことで、一番心に残ったのは? |
第8時の「道具の年表」が、昔の道具の学習と、市の移り変わりの学習をつなぐ橋になります。道具の変化を年表に並べたら、同じ年表の上に、市の交通や人口の変化も並べていく。「洗濯機が広まったころ、市には何があった?」と、道具とくらしと市の変化が、一本の時間の線の上でつながります。
第1時の流れ 「これは、何に使う道具だろう?」
導入(5分):昔の道具の写真を一枚、大きく映します。せんたく板や火のしなど、今の子どもが見たことのない道具を選びます。「これは、何に使う道具だと思う?」
個人で予想する(10分):写真を見て、何に使う道具か予想し、理由も書きます。予想される子どもの声はこんな感じです。
- 「でこぼこしているから、何かをこする道具」
- 「板だから、何かをのせる道具」
- 「お風呂で使いそう」
グループで話す(10分):予想を伝え合い、班で一つの予想にまとめます。
答え合わせ(10分):正解を伝え、実際に使っている様子の写真や動画を見せます。「せんたく板は、洗濯機がなかったころ、手で服を洗うために使っていた」。
まとめ(10分):「今は、何を使って洗濯している?」と聞き、昔と今の道具を比べます。「洗濯機は、ボタンを押すだけ」「せんたく板は、手が冷たそう」。そして、「ほかの道具も、調べてみたい?」と、次の時間につなげます。
調べる道具と調べ方の例
第3時で一人一つ道具を決めるとき、選びやすいように、くらしの場面ごとに道具を分けて示しておきます。
- せんたく:せんたく板、たらい、手回し脱水機つきの洗濯機
- ごはんづくり:かまど、羽釜、七輪、おひつ
- 明かり・暖房:ランプ、火鉢、こたつ(炭を使うもの)
- アイロン:火のし、炭火アイロン
- 連絡:黒電話、ダイヤル式の電話
道具を調べるときのカードには、次の欄をつくっておきます。
- 道具の名前
- 絵または写真
- どうやって使っていた?
- いつごろ使われていた?
- 今は、何に変わった?
- 調べて思ったこと
- どこで調べた?(資料館・本・お話を聞いた人)
最後の「どこで調べた?」は、国語の調べ学習と同じく、情報のもとを書く習慣をつけるための欄です。お話を聞いた人の名前を書くときは、学校のルールに合わせて、「地域の方」「おじいさん」などの書き方にしておきます。
地域の方のお話を聞くときの準備
資料館に行けないとき、地域の方に学校に来てもらってお話を聞くこともあると思います。そのときの準備を、いくつか書いておきます。
- 事前に、子どもの質問を送っておく:「どうしてこの道具を使わなくなったんですか?」「子どものころ、どんなお手伝いをしましたか?」。質問が分かっていると、話す側も準備ができます
- 道具を実際にさわれるか、相談しておく:さわってもいい道具があれば、子どもにさわらせてもらいます。せんたく板で、実際に布をこすってみるだけで、昔の洗濯の大変さが体で分かります
- お話の時間は、短めに:3年生の集中力を考えると、お話は15〜20分ほどにして、残りは質問の時間にします
- お礼の手紙を書く:単元の最後に、お礼の手紙を書きます。手紙に、学んだことを一つ書き添えると、次の年もまた協力していただけるきっかけになります
年表の作り方
第8時の年表は、教室の壁に貼れる大きな紙で作ると、単元の最後まで使えます。
- 横に長い紙に、時間の線を引く。左が昔、右が今
- 線の上に、「おじいさん・おばあさんが子どものころ」「お父さん・お母さんが子どものころ」「今」のように、子どもにとって分かりやすい時代の目印を書く
- 調べた道具のカードを、使われていた時代のところに貼る
- 同じ用途の道具を、矢印でつなぐ(せんたく板→洗濯機)
「〇〇年」と数字で書くより、家族の世代で時代を分ける方が、3年生には分かりやすいです。そして、第9〜12時で市の交通や人口を調べたら、同じ年表に書き足していきます。「電車が通ったのは、お父さん・お母さんが子どものころ」。道具と市の変化が、一つの年表の上で見えてきます。
【配慮:家族の世代で時代を分けるとき、家族の形はいろいろであることに気をつける。「祖父母」「父母」に限らず、「近所のお年寄り」「大人の人」などの言い方も使う】
引き継ぎの記録の例
本文で書いた「引き継げる形で残す」の記録には、次のような項目を入れておくと、次の年の担任が使いやすくなります。
- 施設名・場所・連絡の窓口(電話番号やメールアドレスは学校の決まりに従って)
- 申し込みの時期と方法(何か月前に連絡したか)
- 当日の流れと所要時間(移動時間も含めて)
- 子どもが特に興味をもった展示や道具
- 気をつけること(さわってはいけない展示、トイレの場所、雨の日の対応など)
- 次の年に向けて、変えるとよいこと
最後の「変えるとよいこと」が、案外いちばん役に立ちます。「見学の時間が足りなかった。次は1時間半とると良い」「事前に質問を送っておくと、学芸員さんが答えを準備してくれた」。こういう一言が、次の年の学習を一段よくしてくれます。
つまずきやすいところと手立て
- 昔の道具と今の道具が結びつかない子:今の道具の写真を、昔の道具の隣に並べて見せます。「せんたく板と洗濯機は、どっちも何をする道具?」と、同じ用途であることを確かめます。
- 「昔は不便だった」だけで終わる子:「昔の道具の、いいところはある?」と聞きます。「電気を使わない」「こわれても直せる」。昔の道具にもよさがあることに気づくと、くらしの変化を多面的に見られるようになります。
- 年表の時間の感覚がつかめない子:自分の年齢、家族の年齢から考えます。「おばあさんが3年生のころは、今から何年くらい前?」。身近な人の年齢を手がかりにすると、時間の長さが少し実感できます。
- 調べたことをカードにまとめられない子:カードの欄を、全部埋めなくてもいいことにします。「どうやって使っていた?」と「今は、何に変わった?」の二つが書けていれば、十分です。
評価の目安
この単元の「思考・判断・表現」は、第8時の年表づくりと、第13〜14時の「移り変わりの理由を考える」で見ると、ねらいに合っています。
- 十分にできている:道具の変化とくらしの変化を結び付け、さらに市の様子の変化とも関連付けて考えている
- おおむねできている:道具の変化とくらしの変化は結び付けられているが、市の様子とのつながりはまだ見えていない
- もう一歩:道具の使い方は分かっているが、くらしの変化と結び付けることがまだ難しい
調べた道具の数や、カードの見た目は評価に入れません。一つの道具をじっくり調べて、くらしの変化まで考えられた子のよさを、しっかり見てあげたいところです。
よくある質問
Q. 郷土資料館に行く時間が、どうしてもとれません。
本文でも書きましたが、学校の資料室や、家庭への声かけ、地域の方に来てもらう方法があります。資料館の職員さんに、学校に出前授業に来てもらえないか相談するのもいいと思います。道具を何点か持ってきてもらえれば、教室で実物にふれることができます。
Q. 家庭に昔の道具の写真をお願いすると、負担になりませんか?
「もしあれば」と書いて、任意にしておきます。集まった写真は、学級全体で共有して使います。一つの家庭から写真が届くだけでも、子どもにとっては「友達の家にある本物の道具」として、教科書の写真よりずっと身近に感じられます。
Q. 昔の道具を、どこまでさわらせていいですか?
資料館の展示品は、基本的にさわってはいけないものが多いです。さわってもいい体験用の道具を用意している資料館もあるので、事前に確かめておきます。学校の資料室の道具も、壊れやすいものがあるので、さわる前に「やさしく持つ」「落とさない」などのルールを確かめます。
まとめ
- 審議まとめは、郷土資料館など地域の素材・人材の活用が低調なこと、形式的な連携にとどまること、人材が引き継がれないことを社会科の課題として挙げている
- 3年「市の様子のうつりかわり」の昔の道具は、実物と使っていた人がいる、地域学習のど真ん中
- 資料館では「一人一つの道具」を決めて調べ、学芸員さんには子どもの問いを。行けなければ写真や地域の方。お世話になった情報は学年で引き継ぐ
「おばあちゃんちに、これあった!」。そう言って次の日に写真を持ってくる子がいたら、その単元はもう成功です。
次回は、5年生の「情報化した社会と産業」で、情報の真偽と意図を考えます。
参考
- 中央教育審議会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)第2部第2章「社会、地理歴史、公民」p.145〜146 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/gaiyou/1292164_00001.htm
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」社会 第3学年 内容(4)
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