どうも。「せいたか先生」です。
「大造じいさんとがん」教材研究の第2回です。前回は、登場人物と中心人物、時と場の設定、物語全体の構成を確かめ、物語を読むための「地図」をつくりました。今回は、いよいよこの物語の大きな特徴である「情景」について考えていきます。
先に結論をお伝えすると、情景描写は「景色の説明」ではなく、「その景色を見ている人の心が映った鏡」として読むと、ぐっと分かりやすくなります。そして、その景色を「誰が見ているのか」を考えることが、情景描写から心情を読むためのいちばんの近道です。今回は、その読み方の手順と、授業での問いかけ方を整理していきます。
「情景」とは何か
第1回の冒頭で、「情景」とは何だろうかという疑問はいったん置いておきました。今回はまず、その疑問から考えてみます。
景色と心情が重なったもの
「情景」という言葉は、「情」と「景」という二つの漢字でできています。「景」は景色、「情」は気持ちです。つまり情景とは、ただの景色ではなく、人物の気持ちが重なって見えている景色のことだと言えます。
たとえば、同じ夕焼けでも、楽しい一日を過ごした帰り道に見るのと、悲しいことがあった日に見るのとでは、まったく違って見えるはずです。物語の中の景色も同じです。書き手は、景色の描き方を通して、人物の気持ちをそっと読み手に伝えています。
子どもたちには、「情景描写は、気持ちを直接『うれしい』『くやしい』と書かずに、景色に語らせている文だよ」と説明すると、イメージしやすくなると思います。
学習指導要領とのつながり
情景描写を読む学習は、小学校学習指導要領(平成29年告示)国語の第5学年及び第6学年「C 読むこと」の(1)イ「登場人物の相互関係や心情などについて、描写を基に捉えること。」に直接つながります。「描写を基に」とあるように、心情は描写という根拠から捉えるものです。
また、(1)エ「人物像や物語などの全体像を具体的に想像したり、表現の効果を考えたりすること。」も関わります。情景描写がその場面でどんな働きをしているのかを考えることは、まさに「表現の効果を考える」学習です。さらに、〔知識及び技能〕(1)ク「比喩や反復などの表現の工夫に気付くこと。」とも重なります。このあと見ていく情景描写には、比喩を使ったものも含まれているからです。
この物語の四つの情景描写
「大造じいさんとがん」には、印象的な情景描写がいくつもあります。中野圭さんの実践研究(中野、2023)では、そのうち四つを取り上げています(表記は中野の論文で使われている東京書籍版によります。教科書によって表記が少し異なることがあります)。
- 情景1:「秋の日が美しくかがやいていました」
- 情景2:「あかつきの光」が小屋の中に「すがすがしく流れ込んで」くる場面
- 情景3:「東の空が真っ赤に燃えて、朝が来ました」
- 情景4:「らんまんとさいたすももの花」が、残雪の羽にふれて散る場面
それぞれが物語のどの位置にあるのかを、前回つくった地図に重ねてみましょう。情景1は場面1、情景2は場面2、情景3は場面3、情景4は場面4にあたります。つまり、この物語では、四つの場面それぞれに、その場面を象徴するような情景描写が一つずつ置かれているのです。この「一場面に一つ」という配置に気づくだけでも、子どもたちの物語の見え方は変わってきます。
情景1:場面1の「秋の日」
場面1は、大造じいさんが一つ目の作戦を試みる場面です。作戦の準備をして出かけていく大造じいさんの前に、美しくかがやく秋の日がある。この景色が「美しく」見えているのは、作戦に期待をかけている大造じいさんの気持ちが重なっているからだと読むことができます。
情景2:場面2の「あかつきの光」
場面2は、大造じいさんが夏のうちから準備した二つ目の作戦にのぞむ場面です。夜明けの光が小屋の中に「すがすがしく」流れ込んでくる。前後には、大造じいさんの自信が表れた言葉も描かれています。「今度こそうまくいく」という晴れやかな気持ちが、すがすがしい光として描かれていると読めるでしょう。
情景3:場面3の「真っ赤に燃えて」
場面3は、三つ目の作戦の場面です。東の空が「真っ赤に燃えて」朝が来る。この直前には、大造じいさんが「戦闘開始」を心に決める言葉があります。真っ赤に燃える空は、いよいよ残雪との勝負に挑む大造じいさんの、高ぶる気持ちを映していると読むことができます。
情景4:場面4の「すももの花」
場面4は、春になって、大造じいさんが残雪を空へ放つ場面です。咲きほこるすももの花が、飛び立つ残雪の羽にふれて、雪のように清らかに散っていきます。ここには「雪のように」という比喩が使われています。冒頭の三つの情景が「作戦にのぞむ大造じいさん」の気持ちを映していたのに対して、この情景には、残雪を見送る大造じいさんの、晴れやかで澄んだ気持ちが重なっているように感じられます。
四つ以外の情景描写にも目を向ける
もちろん、この物語の情景描写は四つだけではありません。たとえば場面3には、情景3のほかにも、大造じいさんが「青くすんだ空」を見上げる様子が描かれています(中野、2023の授業でも、子どもたちがこの表現と「真っ赤」との対比に着目したことが報告されています)。青と赤、二つの空の色を見比べると、大造じいさんの気持ちの動きがより立体的に見えてきます。こうした対比に子どもたちが気づいたら、ぜひ全体で取り上げたいところです。
また、場面3の残雪とハヤブサの戦いの中には、飛び散る羽を「白い花弁のように」とたとえた表現があります。山際博さんは、この表現を戦いの場面に置かれた「美しい情景描写」として取り上げています(山際の公開資料による)。この戦いの描写については、次回くわしく扱います。
四つの情景描写を軸にしながら、子どもたちが自分で見つけた情景描写も大切にする。そうすることで、「この物語には景色の描き方に工夫がある」という感覚が、子どもたちの中に育っていくと思います。
情景描写から心情を読む手順
では、子どもたちが自分で情景描写から心情を読めるようになるためには、どんな手順を踏めばよいのでしょうか。私は、次の四つのステップで考えるとよいと思っています。
ステップ1:情景描写を見つける
まずは、本文の中から情景描写を見つけます。「空」「光」「花」「日」など、自然や景色を表す言葉が出てきたら、そこに線を引くよう促します。最初は教員が一つ例を示し、残りを子どもたちに探させるとよいでしょう。
ステップ2:その景色を「誰が見ているか」を考える
次に、その景色を見ているのは誰かを考えます。ここが、情景描写を読むうえでいちばん大切なところです。景色を見ている人が分かれば、その景色に重なっている気持ちが誰のものかが分かるからです。この問いについては、あとで中野(2023)の研究と合わせて、もう少しくわしく考えます。
ステップ3:前後の行動や言葉を手がかりにする
情景描写だけを見つめていても、気持ちは分かりにくいものです。そこで、情景描写の前後に書かれている人物の行動や言葉に目を向けます。情景2の前後にある自信に満ちた表情や、情景3の直前の「戦闘開始」のような言葉は、景色に重なる心情を読む強い手がかりになります。
ステップ4:色・光・言葉の調子から気持ちを言葉にする
最後に、景色の色や光の様子、言葉の調子から、どんな気持ちが表れているかを自分の言葉で表します。「美しく」「すがすがしく」「真っ赤に燃えて」「清らかに」といった言葉が、それぞれどんな気持ちと結びつくのかを考えさせます。ここでは、正解を一つに決めることよりも、根拠をもって説明できることを大切にしたいと思います。
手順を進めるときの手立て
情景描写から気持ちを読むことに苦手意識をもつ子は、少なくないと思います。中野(2023)でも、学級の20名中8名が文学教材の学習に苦手意識をもち、その理由として最も多かったのが「登場人物の気持ちを想像することが難しい」だったと報告されています。
そうした子には、いきなり「どんな気持ち?」と聞くのではなく、選択肢を示すのも一つの方法です。たとえば、「わくわく」「がっかり」「どきどき」「すっきり」などの気持ちを表す言葉カードを用意し、「この景色に合いそうなのはどれ?」と選ばせます。選んだあとに「どうしてそれを選んだの?」と聞けば、本文に戻って根拠を探すきっかけになります。
また、景色の色に着目させるのも効果的です。「美しく」「すがすがしく」「真っ赤」「清らか」といった言葉から、どんな色や明るさを思い浮かべるかを話し合うと、気持ちを言葉にする手がかりが増えていきます。
情景描写の働きは、心情だけではない
ここまで、情景描写を「心の鏡」として読む方法を考えてきました。けれど、中野(2023)の実践で語り手の視点を選んだ子どもたちが気づいたように、情景描写には、物語の展開を予感させたり、場面の雰囲気を盛り上げたりする働きもあります。
たとえば情景3の「真っ赤に燃えて」は、大造じいさんの高ぶる気持ちを映していると同時に、このあとに起こる激しい出来事を予感させる表現としても読むことができます。一つの情景描写が、心情を表す働きと、展開を予感させる働きの両方を持っている。そのことに気づくと、子どもたちは「作者はなぜここにこの景色を書いたのだろう」と、書き手の工夫にまで考えを広げられるようになります。
この「なぜここに書いたのだろう」という問いは、高学年の読みにふさわしい問いです。心情を読む力と、表現の効果を考える力。その両方を、情景描写という一つの手がかりから育てていけるところに、この教材の大きな魅力があると私は感じています。
「誰の目が見た景色か」という問い
ここからは、ステップ2の問いについて、中野(2023)の実践研究を手がかりに考えてみます。
中野(2023)の実践の概要
中野さんは、5年生20名の学級で、四つの情景描写について「それぞれ誰の目が見た景色か考えよう」という問いを示し、3〜4人の小グループで読みを交流させる授業を行いました。単元全体は「椋鳩十の作品の良さや魅力が伝わる帯をつくろう」という全10時間の学習として組まれています。
この問いのねらいは、景色を見ている「視点の主体」を考えることで、多様な読みを引き出し、それを検討し合う中で読みを深めることにありました。中野さんは、情景描写をめぐって読み手それぞれに立ち現れる情景を語り合うことの大切さを述べた松本修さんの論考(2022)なども踏まえて、この問いを考えています。
「大造じいさん」か「語り手」か
この問いを投げかけると、子どもたちの考えは「大造じいさんが見ている景色」と「語り手が見ている景色」に分かれたそうです。中野(2023)によると、大造じいさんの視点で読んだ子は、前後の文に着目することで、景色に重なる心情を根拠をもって読み取るようになっていきました。一方、語り手の視点で読んだ子は、その情景描写がこれからの展開を予感させる「演出」として働いている、という作品の効果に目を向けるようになったと報告されています。
つまり、「誰の目が見た景色か」という問いは、心情を読むことにも、表現の効果を考えることにもつながる、ひらかれた問いだと言えます。学習指導要領の(1)イと(1)エの両方にかかわる問いとして、とても使いやすいと感じました。
問いを生かすための留意点
一方で、中野(2023)は課題も挙げています。グループに読みの深い子がいるかどうかで、交流の深まりに大きな差が出たこと。また、「誰が見た景色か」という問い方だけでは、前後の文から視点が分かる言葉を拾うだけで終わり、心情の理解にまで届かない場合があったことです。中野さんは、それまでの学習での子どもたちの読みの様子をもとにグループを編成したいと述べています。
この課題を踏まえると、授業では「誰の目が見た景色か」に続けて、「その人には、なぜこの景色がこう見えたのだろう」と問いを重ねることが大切だと思います。視点を決めることをゴールにせず、そこから心情や効果へと考えを進めるための入り口として使うのです。
授業での発問と板書の例
最後に、今回の内容を授業で扱うときの発問と板書の例を紹介します。
発問の例
発問は、一度にすべてを投げかけるのではなく、子どもたちの考えの深まりに合わせて順番に重ねていきます。
- 「この物語の中で、景色が描かれている文を探してみよう」
- 「この景色は、誰の目が見た景色だろう」
- 「その人には、なぜこの景色がこう見えたのだろう。前後の文から理由を探そう」
- 「四つの情景を並べてみると、何が変わっていくだろう」
最後の発問は、四つの情景描写を一度に見比べるための問いです。情景1〜3と情景4とでは、景色に重なっている気持ちの種類が違うことに気づかせたいところです。この気づきは、次回扱う大造じいさんの心情の変化につながっていきます。
板書の例
板書は、黒板を横に四つに区切り、それぞれに情景1〜4を書きます。その下に「誰の目か」「前後の手がかり」「重なっている気持ち」の三段を設けて、子どもたちの意見を書き入れていきます。四つの情景を横に並べて見られるようにしておくと、変化が一目で分かり、物語全体を見わたす視点が育ちます。
次回に向けて
今回は、「情景」とは何かを確かめ、四つの情景描写から心情を読む手順と、「誰の目が見た景色か」という問いについて考えました。
次回は、大造じいさんの三つの作戦と、残雪に対する心情の変化をたどります。とくに場面3で、大造じいさんの残雪への見方がどこで、どのように変わるのか。研究者の論考も手がかりにしながら、じっくり読んでいきたいと思います。
参考文献
- 文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)』国語 第5学年及び第6学年(国立教育政策研究所 学習指導要領データベース)https://erid.nier.go.jp/files/COFS/h29e/chap2-1.htm
- 中野圭(2023)「『大造じいさんとがん』における情景描写から読みを深める学習デザイン-『なぜじゅうを下ろしたか』に代わる〈問い〉の効果-」『教育実践研究』第33集、pp.1-6、上越教育大学 http://www.educ.juen.ac.jp/topics/files/elfinder/2023_01.pdf
- 山際博「中学校で再読:『大造じいさんとガン』―『戦い描写』の読みから主題に迫る―」池田市立秦野小学校(しぶたに学園)公開資料 https://ikeda.schoolweb.ne.jp/2710028/download/document/1740751
- 松本修(2022)「情景描写を〈読む〉ことの意味」『国語科学習デザイン』第5巻第2号、pp.1-8(中野、2023より孫引き)


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