#31 通常の学級での特別支援教育と合理的配慮 「重層的な指導・支援」は、まず教室から

教育の動き・学習指導要領

「次期学習指導要領を読む」第31回です。一斉指導をしながら、気になるあの子の手元に何度も目が行く。そんな毎日を過ごしている担任の先生は、きっと少なくないですよね。

審議まとめは、障害のある子どもたちへの指導・支援について、「重層的な指導・支援」という考え方を示しています。その出発点は、通常の学級です。

  • まず通常の学級で、配慮が必要な子どもが在籍していることを前提に、全ての子どもに対する、多様性・包摂性を尊重した授業づくり、学級・集団づくり、教室・学習環境の整備を進める
  • そのうえで、個別的な支援が必要な子どもに、指導内容・指導方法の工夫に取り組む
  • さらに、通常の学級だけでは指導・支援が難しい場合に、通級による指導を行い、必要な場合に特別支援学級を学びの場とする

あわせて、合理的配慮の提供を、各学校段階の学習指導要領の総則に位置付ける方向も示されています。本人・保護者からの意思の表明を踏まえ、建設的対話による合意形成を通じて、過重な負担のない範囲で合理的配慮を提供する、という考え方です。

特別支援教育は、特別支援学級や通級の先生だけの仕事ではない。通常の学級の担任である私たちが、その起点にいる。審議まとめを読んで、改めてそう感じました。


特別支援教育の今

特別支援教育を受ける子どもは増え続けている

審議まとめによると、少子化で子どもの数が減る中、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校のいずれでも、特別支援教育を受ける子どもの数は増え続けています。

審議まとめはこのことを、それぞれの学びの場が、障害のある子どもたちにとって、安全・安心な居場所やセーフティーネットとしての役割を果たしていることの表れだと評価しています。

「通常の学級で学べる子は通常の学級で」が共有されていない

一方で、障害のある子どもたちも、通常の学級で学ぶことが可能な子どもは通常の学級で学ぶ、という前提が十分に理解・共有されていないことから生じている側面もある、とも書かれています。

通常の学級を学びの場とすることが適切と思われる場合でも特別支援学級を学びの場とする子どもや、小・中学校を学びの場とすることが適切と思われる場合でも特別支援学校を学びの場とする子どもが増え続けている、という指摘もあります。

通常の学級にも、支援が必要な子がいる

さらに、通常の学級に在籍し、学習面または行動面で著しい困難を示すとされた子どもの割合も増えています。そのため、全ての通常の学級に、特別な教育的支援を必要とする子どもが在籍している可能性があることを前提として、特別支援教育の取組を進めることが求められている、とされています。

通常の学級の取組が十分でない

ただ、多様な子どもがいることを前提とした授業づくりや学級づくり、通常の学級に在籍する障害のある子どもへの個別的な支援が十分でないこと、特別支援教育に関わる教師の専門性が十分でないことも、課題として挙げられています。一方で、さまざまな要望・期待に対して学校や教師の負担が増大している状況も書かれています。

30人を超える学級で、一人一人に合った支援をすることの難しさは、私も毎日感じています。支援が必要な子に寄り添っていると、ほかの子への目が届かなくなる。全体を進めようとすると、ついていけない子が出てくる。その間で、いつも揺れています。


「重層的な指導・支援」とは

三つの層

では、「重層的」とは具体的にどういうことなのでしょうか。審議まとめが示す「重層的な指導・支援」は、次のような段階的な考え方です。

図1:小・中学校に在籍する障害のある子供たちの学習活動の充実に向けた方策(重層的な指導・支援の考え方のイメージ)
図1:小・中学校に在籍する障害のある子供たちの学習活動の充実に向けた方策(重層的な指導・支援の考え方のイメージ)。いちばん下の土台が「学級全体での指導方法の工夫」です。通常の学級の工夫から積み上げていく考え方が描かれています(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.502[資料2-1 特支⑥])
  1. 通常の学級で、全ての子どもに:配慮が必要な子どもが在籍していることを前提に、多様性・包摂性を尊重した学習者主体の授業づくり、学級・集団づくり、教室・学習環境の整備を進める。その際、デジタル学習基盤が大きな役割を果たす
  2. 通常の学級で、個別的な支援が必要な子どもに:障害の状態などを踏まえ、指導内容・指導方法を工夫する。特別支援学校のセンター的機能を活用しつつ、校内委員会による組織的な対応を行う
  3. 通常の学級だけでは難しい子どもに:通級による指導を行い、さらに、通常の学級では指導・支援が困難な子どもについては、特別支援学級で指導する

それぞれの場で、本人・保護者の意向を踏まえ、必要がある場合には、建設的対話による合意形成を通じて合理的配慮を提供する、とされています。

第1部の「包摂の土台」とつながる

この考え方は、第21回で書いた「1階」「2階」の話ともつながっています。第1部では、日々の学級経営や学習指導で、多様な子どもたちが学びやすく、心理的安全性が確保された学習環境を整えることが、教育課程の柔軟化の「土台」だとされています。そのための取組として、次のようなことが挙げられています。

  • 外してはいけない「資質・能力の軸」が明確だからこそ、子どもの実態に応じた多様なアプローチを可能にすること
  • デジタル学習基盤も活用し、全ての子どもの学びやすさにつながる授業設計や環境整備を行うとともに、必要な場合、社会的障壁を取り除くための合理的配慮を行うこと
  • 特別活動を要とした学級経営を通じて、「学級全体のウェルビーイング」の実現を図ること
  • 学習の自己調整の機会や学習方略の指導、形成的評価の充実を通じて、個に応じた学習過程の充実を図ること
  • これらを学校や教師が決める際に、当事者である子どもの意見に耳を傾けるよう努めること

「全ての子どもにとって学びやすい教室」をつくることが、支援が必要な子どもにとっての土台にもなる。そういう考え方です。


合理的配慮を総則に位置付ける

図2:学校における合理的配慮の提供について
図2:学校における合理的配慮の提供について。障害者差別解消法で求められていることと、「合理的配慮」と「基礎的環境整備」の関係が整理されています(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.503[資料2-1 特支⑦])

今は「指導上の工夫」としての記載

「合理的配慮」という言葉はよく聞くけれど、学習指導要領との関係となると、少し曖昧ですよね。今の学習指導要領にも、障害のある子どもに対する指導内容や指導方法の工夫は書かれています。でも、それはあくまで教師による指導上の工夫としての記載で、子どもが合理的配慮を求める場合との関係は、必ずしも明らかになっていない、と審議まとめは指摘しています。そのため、合理的配慮の提供に関する理解が十分に進んでいない、というのです。

障害者差別解消法の改正で合理的配慮の提供が義務化されたことを受けて、学校の対応も進んできているものの、積極的に取り組んでいる小・中学校の割合は一部にとどまり、地域間の差も大きいとされています。

総則に明記し、解説で考え方を示す

そこで、各学校段階の学習指導要領の総則に、本人・保護者からの意思の表明を踏まえ、建設的対話による合意形成を通じて、過重な負担のない範囲での合理的配慮の提供を行う旨を位置付ける方向です。

設置者・学校と本人・保護者の意見の違いが大きい場合があることも踏まえ、解説などで、次のようなことを分かりやすく示すとされています。

  • 合理的配慮として考えられる観点(学習内容の変更・調整、情報保障や教材の配慮など)
  • 「過重な負担」の基本的な考え方(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約、費用・負担の程度、学校の種類や規模、自治体の財政規模など)
  • デジタル学習基盤を含む基礎的環境整備との関係

合理的配慮は「自己決定」の力にも

審議まとめには、合理的配慮について、私がはっとした一文があります。

障害のある子供たちにとって、合理的配慮の提供を求めることは、社会的障壁を取り除くために必要なものであるだけでなく、自己の学習を主体的に調整するためにも必要なものであり、障害のある子供たちの自己選択・自己決定に資する資質・能力の育成という観点からも重要なものである。

合理的配慮は、学校が「してあげる」ものではなく、子ども自身が「こうすれば学びやすい」と気付き、それを求められるようになるためのもの。第5回で書いた「学びの主体的な調整」の力と、深くつながっているのだと思います。

「特別扱い」にしないために

さらに、合理的配慮を受ける子どもが「特別扱い」されていると捉えられ、学校や学級の中で孤立しないよう、学校全体で組織的に取り組むこと、多様性を尊重した授業づくりや心理的安全性を確保する学級・集団づくりが必要であることを示す、とされています。

図3:デジタル学習基盤の活用などによる基礎的環境整備の充実と合理的配慮の関係(イメージ)
図3:デジタル学習基盤の活用などによる基礎的環境整備の充実と合理的配慮の関係(イメージ)。これまで個別の合理的配慮だった支援の一部が、1人1台端末などの活用で学級全体の環境整備として行えるようになるイメージです(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.454[資料1-4-2])

「どうしてあの子だけタブレットを使っていいの?」。そんな声が出たとき、どう応えるか迷いますよね。「みんな、学びやすい方法は違うよね」ということが、自然に受け止められる学級をつくっておくこと。それが、合理的配慮を支える担任の大切な仕事なのだと思います。第13回で書いた心理的安全性の話は、ここにもつながっています。

個別の教育支援計画に記載し、引き継ぐ

合理的配慮の内容は、個別の教育支援計画の中に確実に記載し、学校間で確実に引き継ぐことの重要性を明示すべきだ、とされています。


デジタル学習基盤は「基礎的環境整備」

アクセシビリティ機能が活用しきれていない

審議まとめは、1人1台端末などのデジタル学習基盤が整備されたことで、ICTの活用は合理的配慮の基盤となる「基礎的環境整備」として位置付けられるものになった、としています。

一方で、特別な支援を要する子どもへのICT活用が進んでいない学校や、端末に装備されたアクセシビリティ機能などを十分に活用しきれていない学校もある、と指摘しています。そして、そのことが、個々の教育的ニーズへの対応を合理的配慮の個別対応だけで考えるがゆえの、業務への負担感・不安感につながっている、とも書いています。

「みんなが使える」から始める

文字を大きくする、読み上げ機能を使う、音声で入力する、写真で板書を記録する。こうした機能を、支援が必要な子だけが使うのではなく、学級の誰もが必要に応じて使えるようにしておく。そうすれば、個別の対応を一つ一つ考える負担も減り、使う子が「特別」に見えることもなくなります。

審議まとめも、障害の状態などに応じて、アクセシビリティ機能や入出力支援装置を適切に活用すること、個別の学習ツールなどを学習活動に柔軟に取り入れることを示す必要がある、としています。


「困難さの状態」の奥にある「要因」を見る

審議まとめには、各教科等の指導について、次のような指摘もあります。

教師から見える表出した「困難さの状態」への対応にとどまり、その背景にある「困難さが生じる要因」に十分に目が向けられない状況があることも踏まえ、困難さが生じる要因に目を向けた上で、それに基づく手立てを実施する考え方や事例等を示していくことも必要である。

これは、日々の教室でよくあることですよね。たとえば、「板書を写すのが遅い」という困難さの状態。その要因は、文字を書くことそのものに難しさがあるのかもしれないし、黒板と手元を見比べることに難しさがあるのかもしれないし、どこを写せばいいのか分からないのかもしれない。要因によって、手立ては変わります。

見えている姿だけで判断せず、「どうしてだろう?」と考える。その視点を持てるかどうかが、通常の学級での支援の質を左右するのだと思います。


通級による指導も変わる

通級による指導についても、いくつかの方向が示されています。

  • 通級による指導は、通常の学級での教育活動における配慮や手立てを実効的なものにするために実施するものであることを明らかにする
  • 自立活動を取り入れることや、自立活動の指導と通常の学級での各教科等の指導をより密接に関連させることが重要であることを示す
  • 特例的な取扱いとして、一定の条件のもとで、各教科の指導を行ったり、各教科等の目標・内容の一部を障害の状態などを考慮したものに替えたりすることを可能とする
  • 小・中学校の通級による指導の授業時数について下限を定めず、1年間の中でも教育的ニーズの変化を踏まえた弾力的な運用を促す

一方で、通常の学級での対応や支援策に十分に取り組むことなく、障害の状態などを踏まえた対応を通級による指導に任せてしまう傾向が一部に生じている、という指摘もあります。通級は、通常の学級から「切り離す」場ではなく、通常の学級での学びを支える場。ここでも、「重層的」という考え方が貫かれています。


個別の指導計画は「真に必要な記載に精選」

担任として気になるのが、書類の負担ですよね。これについても、触れられています。個別の指導計画のうち、各教科等の指導に関わるものについては、ほかの計画との記載の重複を排除し、指導上の配慮事項や手立てに関する内容など、真に必要な記載に精選することが必要で、作成の負担の軽減につながる、とされています。


私が今から試してみたいこと

1. 「全員にとって分かりやすい」授業の工夫を一つ

授業の流れを最初に示す、指示は一度に一つにする、大事なことは目で見える形でも示す。支援が必要な子のための工夫は、ほかの子にとっても分かりやすい工夫であることが多いものです。まずは一つ、学級全体の授業の工夫から始めてみたいと思っています。

2. 「どうしてだろう?」を記録する

気になる子の姿があったときに、「どんな場面で」「何が難しそうだったか」「どうすると少しうまくいったか」をメモしておく。困難さの要因を考える材料になりますし、校内委員会や特別支援教育コーディネーターに相談するときにも役立ちます。

3. 一人で抱え込まない

校内委員会、特別支援教育コーディネーター、通級の先生、特別支援学級の先生。学校の中には、相談できる人がいます。審議まとめも、校内委員会による組織的な対応の重要性を繰り返し書いています。担任一人で全部を抱えないことが、結果的に子どもにとってもよい支援につながるのだと思います。


気になるところもあります

とはいえ、「まずは通常の学級で」という方向性は理念としては正しいと思う一方で、現場の体制が追いついていないことも事実です。学級の人数、支援員の配置、教師の専門性を高める研修の時間。審議まとめも、学校現場の持続可能なあり方を追求し、実現可能性を確保した方策とすることが重要だとしていますが、それを支える条件整備が欠かせません。

また、合理的配慮について本人・保護者と建設的対話を重ねるには、時間と、担任だけでなく学校としての判断が必要です。解説で考え方やプロセスが分かりやすく示されることを期待しています。


おわりに 「この教室なら、大丈夫」と思えるように

特別支援教育は、特別な場所で、特別な先生が行うもの。そう考えていた時期が、私にもありました。でも、審議まとめが示す「重層的な指導・支援」は、その起点が通常の学級にあることを、はっきりと示しています。

全ての子どもが、「この教室なら、大丈夫」と思える。困ったときに「こうしたら学びやすい」と言える。違いが「特別」ではなく、当たり前のこととして受け止められる。そんな学級をつくることが、支援が必要な子どもにとっても、全ての子どもにとっても、学びの土台になるのだと思います。

次回は、幼児教育から小学校へ、学びをつなぐ、という話を書きます。


参考にした資料

中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)

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