#20 「みはじ」「くもわ」をどうするか 意味理解と練習量、算数の課題から考える

教育の動き・学習指導要領

「次期学習指導要領を読む」第20回です。5年生の「速さ」や「割合」の単元になると、どこからともなく「みはじ」や「くもわ」の図が教室に広がってくる。算数を教えたことがある方なら、見覚えのある光景ですよね。

審議まとめの算数・数学の項目には、速さや割合の単元でよく使われる「みはじ」「くもわ」について、次のような一文があります。

学習指導要領等に定めのあるものではないが、速さや割合の単元で「みはじ」「くもわ」といった指導が行われるケースがある。こうした場合でも、単に暗記させる(できるようにする)だけではかえって知識の習得を妨げかねず、最終的に意味理解を伴うようにすることが不可欠である。

「じゃあ、みはじは使っちゃだめなの?」と思いますよね。でも、「みはじ」を禁止する、という話ではありません。審議まとめが言っているのは、「できる」ことと「意味が分かる」ことの両方が大事であり、暗記で終わらせず、最後は意味の理解に届かせること。そして、そのためには練習量も、学び方の工夫も必要だ、ということです。

「みはじ」の図を描けば答えは出せるのに、「なぜ速さ×時間で道のりになるの?」と聞くと黙ってしまう子。多くの教室で見かける姿ではないでしょうか。私の教室にもいました。


算数で何が起きているのか

学年が進むほど「算数が好き」が減る

審議まとめは、算数・数学の現状について、日本の子どもの数学的リテラシーは国際的にトップクラスを維持していることを成果として挙げつつ、次のような課題を指摘しています。

  • 学校段階・学年が進むにつれ、算数・数学を楽しいと好意的に捉える子どもが減る傾向がある
  • 日常生活や社会の事象について、既習事項を基に数学的に分析したり考えたりしようとする子どもが少ない
  • 今学習している内容と、既習内容や今後学習する内容とのつながりを意識して学習できていない
  • 算数・数学に関する自信や、科学分野への志向に男女間で差が生じている

割合・比・分数でつまずく子が多い

小学校の算数については、割合・比・分数など特定の単元で、概念の理解が難しいことなどから、習得・定着が十分でない子が相当数いる、と書かれています。「みはじ」「くもわ」が使われるのは、まさにこうした単元です。

また、令和7年度の全国学力・学習状況調査では、算数・数学で基本的概念の理解・定着が不十分な子が見られたほか、授業の内容が「よく分かる」と答えた子の割合が減っているとされています。家庭の社会経済的背景が低いほど平均正答率が低い傾向も出ている、とも書かれています。

つまずきは「雪だるま式」に増える

さらに、算数は学習内容の系統性・連続性がきわめて強いので、一つの単元での習得・定着の不徹底が、その後の学習に大きな支障をもたらし、進級・進学に伴って学習困難な事項が雪だるま式に増えていく傾向がある、と指摘されています。カッコ書きで「このことは、学校に通うこと自体の辛さにもつながりうる」と添えられているのが印象的でした。


「できる」と「分かる」の両方が必要

図1:算数・数学「変化と関係」の統合的な理解・総合的な発揮
図1:算数・数学「変化と関係」の統合的な理解・総合的な発揮。小学校の「割合と比」から中学校・高校の「関数」へ、何がつながっていくのかが表で示されています(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.586[資料2-2 算⑤-3])

基礎的・基本的な知識・技能は欠かせない

審議まとめは、基礎的・基本的な知識及び技能は、文字どおりほかの知識・技能を学ぶうえでの基盤であり、「深い学び」を実現するうえで不可欠だ、とはっきり書いています。効果的・効率的な指導に留意しながら、すべての子どもに確実な習得・定着を保障する必要がある、というのです。

でも、「できる」だけでは足りない

そのうえで、注意書きとして、「知・技を用いることができること」(例:計算処理)と「意味理解」(例:計算の仕組みの理解)の両方が重要であることに留意が必要だ、としています。そして、冒頭に紹介した「みはじ」「くもわ」の話が続きます。

単に暗記させるだけでは「かえって知識の習得を妨げかねない」。ちょっとドキッとする言葉ですよね。「みはじ」で答えが出せるようになると、子どもも教師も「できた」と安心してしまいます。でも、意味が分からないまま公式に当てはめる習慣がつくと、少し問題の形が変わっただけで手が止まってしまう。6年生の比や、中学校の関数でつまずく原因にもなりかねません。

第2回で書いた「確かな知識」との関係

これは、第2回で書いた「確かな知識」の考え方そのものです。審議まとめは、AIの発展で価値が下がったのは知識そのものではなく、「意味理解を伴わない丸暗記や、定型的な知識の当てはめ」のほうだ、と書いていました。「みはじ」は、まさに「定型的な知識の当てはめ」の代表例と言えるかもしれません。


練習量の問題

練習が足りない授業もある

一方で、審議まとめは、逆方向の課題も指摘しています。

例えば1コマで扱う問題数が極めて少ないなど、練習量が足りず、定着が十分図れないような指導計画や、既習事項の習得状況をまとめて確認したり、再学習をさせたりする機会が十分でない例なども見られる。こうした傾向は、単元指導後に単元テストを行うだけの場合が多い小学校で特に顕著との指摘もある。

意味理解を大切にしようとして、一つの問題についてじっくり話し合う。研究授業などでよく見かける、すてきな授業ですよね。でも、その結果、練習の時間がほとんどなくなってしまうと、定着が図れない。意味理解と練習量は、どちらか一方ではなく、両方が必要だということです。

子どもに委ねる実践にも教師の関与を

また、近年は子どもに学びを委ねる実践も広がっているが、そうした場合にも教師の適切な関与は必要だ、とも書かれています。逆に、全員にまったく同じ問題をさせることで、得意な子の意欲低下や苦手な子の不定着を招いている例も挙げられています(第14回で触れました)。


認知心理学の知見を生かす

図2:認知心理学の知見に基づく効果的な学習方略の例
図2:認知心理学の知見に基づく効果的な学習方略の例。分散学習、検索練習、交互配置など、練習の「やり方」を工夫するための六つの方略がイラスト付きで紹介されています(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.451[資料1-3-19])

審議まとめが挙げる学び方

審議まとめは、こうした課題の改善に向けて、認知心理学や学習科学の知見の活用が不十分だという指摘を紹介し、知見の例として、分散学習、自己説明、検索学習、デュアルコーディング、精緻化などを挙げています。指導の改善の項目では、分散学習・検索練習・精緻化方略・具体化・教訓帰納方略なども挙げられています。

カタカナや漢字が並ぶと少し難しそうに見えますが、中身は意外と身近なものばかりです。「みはじ」の単元に当てはめてみると、たとえばこんな工夫が考えられます。

  • 自己説明:「なぜ道のり÷時間で速さになるのか」を、自分の言葉で説明させる
  • 具体化:数直線や線分図、実際に歩いた距離と時間など、具体的な場面と結びつける
  • デュアルコーディング:式と図(数直線図など)をセットで表す
  • 分散学習・検索練習:単元が終わったあとも、数週間おきに速さの問題を短く出して、思い出す機会をつくる
  • 教訓帰納:問題を解いたあとに「この問題から学んだことは?」を一言で書く

「みはじ」から「意味」へ橋をかける

では、結局「みはじ」とどう付き合えばいいのでしょうか。私もまだ答えを探している途中ですが、今のところ、「みはじ」を使うかどうかより、「みはじ」と意味の間に橋をかけることが大切なのではないかと考えています。

たとえば、最初は数直線図や「1時間あたり何km進むか」という考え方で、速さの意味をじっくり理解する。その後、たくさんの問題を解く中で、子ども自身が「いつも同じ形になるね」と気づいたときに、その関係を整理する道具として「みはじ」の図を紹介する。そして、問題を解くときも、ときどき「この式の意味は?」と問い返す。そうすれば、「みはじ」は意味の理解を助ける道具になりうると思います。


「心理的安全性」と「つながり」も

算数の項目では、指導上の工夫として、次のような点も挙げられています。

  • 具体的な事象から問題を発見・解決させる帰納的な指導方法と、まず教師が原理・法則を教える演繹的な指導方法を、子どもの実態に応じてバランスよく使い分ける
  • 「間違っても良い」「分からないと言える」といった心理的安全性を確保したうえで、子どもが学習内容に疑問を持ち、考えの理由を説明させるような授業をする
  • 習得した知識を普段の生活や現実の事象と関連付けられるような授業をする

また、担当の教師が変わるときに学びの段差が生じないよう、学習内容を着実に定着させてから進級・進学させる、進級後に既習事項の定着状況を確認する、といった学年・学校段階間の円滑な接続が一層重要になる、とも書かれています。ある単元を学ぶための既習事項の習得状況(レディネス)のアセスメントが十分でない、という指摘もあります。


教科書の扱いも「グラデーション」に

算数については、教科書の個別の内容について、「統合的な理解・総合的な発揮」を育てるうえで必ず扱うべき内容なのか、必要に応じて扱うべき内容(習熟や理解の深化に必要な内容など)なのかが分かるよう、教師用指導書で工夫することを文部科学省から教科書会社に求めることも検討すべきだ、とされています。

背景には、小学校では算数の指導経験が浅い教師や、指導が苦手な教師を中心に、教科書を網羅的に指導する傾向がある、という指摘があります。どの問題に時間をかけるべきかが分かれば、意味理解と練習量のバランスもとりやすくなるはずです。


私が今から試してみたいこと

1. 単元の前に「既習の確認」を

速さの単元に入る前に、単位量あたりの大きさや、わり算の意味が身に付いているかを、短い問題で確かめる。つまずきがあれば、そこから戻って学び直す。調整授業時数制度の学習枠には「下学年の未習得事項を効果的に学び直すプログラム」も例示されていて、将来はこうした時間をとりやすくなるかもしれません。

2. 「説明できる」をゴールの一つに

単元の最後に、「速さとは何か」「なぜその式になるのか」を、友達や家の人に説明できることをゴールの一つにする。答えが出せることと、説明できることの両方を見取る。

3. 単元が終わっても「思い出す」機会をつくる

朝学習や授業の最初の3分に、前の単元の問題を1〜2問出す。分散学習と検索練習を、日常の中に組み込む小さな工夫です。


おわりに 「できる」から「分かる」へ、そして「好き」へ

「みはじ」は、算数が苦手な子にとって、救いの道具に見えることがあります。答えが出せる。それは、子どもにとってうれしい経験です。でも、その先に「なるほど、だからこうなるのか」という手応えがあれば、算数はもっとおもしろくなるはずです。

審議まとめは、授業で「できる」「わかる」と感じられる機会を多くつくることは、学習意欲や心理的安全性を高めるうえでも大変重要だ、と書いています。「できる」から「分かる」へ、そして「好き」へ。学年が進むほど算数が好きになる。そんな算数の授業を、私も模索していきたいと思います。

次回からは追加編です。第21回は、不登校の子の学びを「2階」で支える特別の教育課程について書きます。


参考にした資料

中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)

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