教室で算数の授業をしていたら、ドアが開いて、専科の先生が顔を出しました。
「あの、今、音楽の時間なんですけど……」
子どもたちが一斉にこちらを見ます。頭が真っ白になりました。時間割を見間違えて、専科の授業をすっぽかしてしまったのです。
これは、私の1年目の話です。ほかにも、配るはずの手紙を配り忘れて、翌日に保護者から問い合わせが来たことがあります。提出物の期限を過ぎて、学年の先生に頭を下げたことも一度や二度ではありません。
先に結論を書きます。1年目の「うっかり」は、性格や能力の問題ではありません。仕組みがないだけです。 そして仕組みは、今日からつくれます。
この記事では、私がやらかした「うっかり」と、そのあとに少しずつつくってきた仕組みを紹介します。
1年目に「うっかり」が増える理由
覚えることが多すぎて、頭のメモ帳があふれている
1年目の先生の一日は、覚えることだらけです。
時間割、専科の時間、特別教室の割り当て、朝の打ち合わせの連絡、配る手紙、集める書類、学年で決めたこと、子どもの体調、保護者からの連絡帳……。これを全部、頭の中だけで管理しようとすると、どこかで必ず抜けます。
ベテランの先生が抜けないのは、記憶力がいいからではありません。何度も同じ一年を回すうちに、「この時期はこれがある」という見通しが体に入っているからです。そして、多くの先生は自分なりの「忘れないための仕組み」を持っています。
1年目は、その見通しも仕組みもまだありません。だから抜けるのは当然です。
いつもと違う日に起きやすい
私の「うっかり」を振り返ると、多くは「いつもと違う日」に起きていました。
- 行事の練習で時間割が入れ替わった日
- 専科の時間が、その週だけ別の曜日に移った日
- 朝の打ち合わせで「今日配ってください」と急に手紙を渡された日
- 出張や研修で、午後が自習になった日
いつもどおりの日は、体が覚えている流れで何とかなります。でも、少しでも流れが変わると、頭のメモ帳が追いつかなくなります。逆に言えば、「いつもと違う日」だけ特に気をつけるだけでも、うっかりはかなり減ります。
専科・時間割の抜けを防ぐ
朝いちばんに「今日の時間割」を声に出して確かめる
専科をすっぽかしてから、私が毎朝必ずやるようになったことがあります。朝の会で、今日の時間割を子どもと一緒に声に出して確かめることです。
「今日は1時間目が国語、2時間目が算数、3時間目は音楽室で音楽です」
たったこれだけです。でも、声に出すと、自分の頭にもう一度入ります。そして、子どもたちも聞いています。「先生、今日は図工室だよ」と子どもが教えてくれることもあります。
黒板の端に、その日の時間割を書いておくのもおすすめです。専科や特別教室の時間には、印をつけておきます。
週案・時間割表に専科と特別教室を色で入れる
週案(1週間の授業の計画)や時間割表には、専科の時間と特別教室を使う時間に色をつけています。
- 専科の時間:オレンジ
- 体育館・校庭:緑
- 特別教室(理科室・図工室・家庭科室など):青
色がついていると、ぱっと見ただけで「この時間は自分が教室にいない」「移動がある」と分かります。時間割が入れ替わった週は、変わったところを赤で囲んでおきます。
デジタルで管理している場合も同じです。カレンダーアプリの色分けや、通知機能を使うと、うっかりはさらに減ります。
子どもに「次は何?」の係をまかせる
学級の係の一つに、「時間割係」をつくるのもおすすめです。休み時間の終わりに、「次は音楽室です!」と声をかけてもらうだけの係です。
子どもたちは、こういう仕事を喜んでやってくれます。そして、先生一人で抱えていたことを、学級みんなで支える形になります。うっかりを防ぐだけでなく、子どもたちが自分で見通しを持って動けるようになる、というよさもあります。
専科の先生とは「ずれたときの連絡」を決めておく
専科の先生とは、年度の初めに一言だけ話しておくと安心です。
「もし時間になっても来なかったら、遠慮なく呼びに来てください」
すっぽかしてしまったとき、専科の先生も「呼びに行っていいのかな」と迷っていることがあります。先に一言伝えておくだけで、ずれたときの立て直しが早くなります。
手紙・配布物の抜けを防ぐ
配布物は「置く場所」を一つに決める
手紙の配り忘れは、多くの場合、手紙がどこかに紛れてしまうことで起きます。打ち合わせでもらった手紙を机に置いたら、上に別の書類が重なって、そのまま見えなくなる。私はこれを何度もやりました。
そこで、配布物は置く場所を一つに決めました。教室の教卓の横に、「配る手紙」専用のかごを置いています。職員室でもらった手紙は、教室に戻ったらまずそのかごに入れる。それ以外の場所には置かない。これだけです。
かごに何か入っていれば、「配っていないものがある」と一目で分かります。帰りの会の前にかごが空になっていれば、今日の配布はおしまいです。
帰りの会の流れに「手紙」を固定で入れる
帰りの会の流れの中に、「手紙を配る」を必ず入れるようにしています。配るものがない日も、「今日の手紙はありません」と言います。
毎日同じ流れにしておくと、手紙のある日を忘れにくくなります。子どもたちも「手紙は?」と声をかけてくれるようになります。
配る手紙が多い日は、黒板に「今日の手紙 3まい」と書いておくと、子どもが自分で数えて確かめられます。
配り忘れたときの連絡のしかた
それでも、配り忘れてしまうことはあります。そのときは、気づいた時点ですぐに動くのがいちばんです。
- 締め切りのある手紙なら、まず学年の先生か、手紙を出した担当の先生に伝える
- 翌日の朝に配り、必要なら連絡帳や学校の連絡アプリで一言添える
- 締め切りに影響がある場合は、担当の先生に締め切りの延長ができるか相談する
小さなことでも、黙っておかないことが大切です。あとから分かるより、自分から先に言ったほうが、周りの先生もずっと動きやすくなります。
提出物・締め切りの抜けを防ぐ
もらったその場で「締め切り」を書く
1年目の私が提出物の期限を守れなかった理由は、はっきりしています。依頼をもらったとき、「あとで確認しよう」と思って、そのままにしていたからです。
職員室では、毎日いろいろな依頼が届きます。会議の資料、調査の回答、学年会計の書類、研修の報告……。一つひとつは小さくても、積み重なると頭の中で混ざってしまいます。
そこで、依頼をもらったらその場で締め切りを書くようにしました。紙の手帳でも、付箋でも、スマートフォンのカレンダーでもかまいません。大事なのは、「あとで」にしないことです。
書くときは、締め切りの日だけでなく、「出す相手」と「何を出すか」も一緒に書いておきます。「11/8 〇〇先生 研修の振り返りシート」のように書いておけば、あとで見返したときに迷いません。
締め切りの「前日」にもう一度見る
締め切りを書いても、当日に気づいたのでは間に合わないことがあります。そこで、カレンダーの通知や付箋は、締め切りの前日に目に入るようにしておきます。
前日に気づけば、たいていのことは何とかなります。どうしても間に合わないと分かったら、その時点で担当の先生に「明日までに出せそうにありません。〇日まで待っていただけますか」と相談します。締め切りを過ぎてから謝るより、前日に相談するほうが、相手もずっと助かります。
「やることリスト」は一つにまとめる
メモがあちこちに散らばると、それ自体がうっかりの原因になります。手帳にも書いた、付箋にも書いた、スマートフォンにも入れた。でも、どれを見ればいいのか分からない。私も一時期、そんな状態でした。
やることリストは一か所にまとめるのがおすすめです。紙でもデジタルでも、自分が毎日必ず見る場所に一つだけ。朝いちばんと、帰る前の2回、そのリストを見る習慣をつけると、抜けはぐっと減ります。
教育実習でも、うっかりは起きる
ここまでは主に初任者の先生に向けて書いてきましたが、教育実習でも「うっかり」は起きます。
- 指導案の提出日を勘違いしていた
- 実習ノートを出し忘れた
- 授業の前に、指導教官の先生に確認してもらうのを忘れた
- 子どもへの連絡を伝え忘れた
実習は期間が短いぶん、一つのうっかりが大きく感じられます。でも、指導する側の先生も、実習生がすべてを完璧にこなせるとは思っていません。
実習生におすすめしたいのは、初日に「提出物と締め切りの一覧」を指導教官の先生と一緒につくることです。指導案はいつまでに、誰に出すのか。実習ノートは毎日いつ出すのか。授業の前の確認はいつするのか。最初に一覧にしておけば、あとはそれを毎朝見るだけです。
そして、もし忘れてしまったら、気づいた時点ですぐに先生に伝えてください。黙っているのがいちばんよくありません。正直に伝えてくれる実習生は、指導する側から見ても信頼できる実習生です。
やってしまったときのリカバリー
まず謝る相手と順番
私が専科をすっぽかしたとき、いちばん困ったのは「誰に、どう謝ればいいのか」でした。今なら、こう動きます。
- その場で専科の先生に謝る。 子どもたちをすぐに移動させる。
- 子どもたちにも一言謝る。「先生が時間割を間違えました。ごめんなさい」
- 授業のあとに、専科の先生にもう一度きちんと謝る。 遅れた分をどうするか相談する。
- 学年の先生に報告する。 大きなことでなくても、同じ学年の先生には共有しておく。
子どもたちに謝るのは、少し勇気がいるかもしれません。でも、先生が自分の失敗を素直に認める姿は、子どもたちにとっても大切な学びになります。「間違えたら、謝って、次に気をつければいい」ということを、先生自身が見せることになるからです。
同じ失敗を繰り返さないための一工夫を一つだけ
謝ったら、次は仕組みを一つだけ足します。一つだけです。
専科をすっぽかしたなら、朝の時間割確認を始める。手紙を配り忘れたなら、配布物のかごを置く。提出物の期限を過ぎたなら、締め切りを付箋に書いてパソコンの横に貼る。
失敗するたびに反省の言葉を並べても、うっかりは減りません。減らしてくれるのは、仕組みです。そして仕組みは、一度に全部つくろうとすると続きません。失敗を一つするたびに、仕組みを一つ足す。それくらいでちょうどいいと思っています。
私が今も使っている「うっかり防止」の仕組み
最後に、私が今も使っている仕組みをまとめておきます。全部をまねする必要はありません。自分に合いそうなものを一つ選んでみてください。
| 場面 | 仕組み |
|---|---|
| 時間割・専科 | 朝の会で時間割を声に出して確認/黒板の端に時間割と専科の印/時間割係 |
| 週案・予定 | 専科・特別教室・体育館を色分け/変更のあった週は赤で囲む |
| 手紙・配布物 | 教卓の横に「配る手紙」専用のかご/帰りの会に「手紙」を固定で入れる |
| 提出物・締め切り | もらったらすぐに締め切りを付箋かアプリに書く/締め切りの前日にもう一度見る |
| 打ち合わせの連絡 | 朝の打ち合わせで聞いたことは、その場でメモ帳の同じページに書く |
心が軽くなるひと言
専科の先生に呼ばれたあの日、私は職員室に戻ってから、しばらく顔を上げられませんでした。「こんなこともできないなんて」と、自分を責め続けました。
でも、今振り返ると、あのとき必要だったのは反省ではなく、仕組みでした。自分を責めても、次の日の時間割は覚えられません。朝に時間割を声に出す、という小さな仕組みが、私を助けてくれました。
うっかりをしてしまったとき、どうか自分を責めすぎないでください。それは、あなたがだめな先生だという証拠ではなく、仕組みを一つ足すタイミングが来たというサインです。
次回の#3では、「子どもたちが落ち着かない」と感じたときに気づいておきたい、学級崩壊の小さなサインについて書きます。
シリーズ「先生1年目のこと 困った、を一人で抱えない」
- #1 他の先生はできているのに、自分はできない
- #2 専科の授業をすっぽかした日、手紙を配り忘れた日(この記事)
- #3 子どもたちが落ち着かない 学級崩壊の足音に気づく
- #4 荒れかけたクラスを立て直す やめたいNG指導
- #5 先生の余裕がなくなると、クラスは荒れる
- #6 授業づくりの不安を減らす教材研究のやり方
- #7 授業が変わる板書の極意
- 最終回 これから教員になる皆さんへ


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