「隣のクラスの先生は、あんなに落ち着いて授業をしているのに」
「同期はちゃんと回せているみたいなのに、どうして自分だけ」
教育実習中の学生さんや、1年目の先生から、こういう言葉をよく聞きます。そして私自身、1年目にまったく同じことを毎日思っていました。
先に結論を書きます。実習生や初任者が困ることは、だいたい5つに決まっています。 授業、子どもとの関わり、何をどこまでやればいいか分からない仕事、聞きにくさ、そして時間と体力です。困っているのはあなただけではありませんし、あなたの力が足りないからでもありません。多くの人が同じところでつまずいている、というだけのことです。
この記事は、「先生1年目のこと 困った、を一人で抱えない」というシリーズの第1回です。まずは全体の見取り図として、データと5つのつまずきを整理してみます。
数字で見る、1年目のしんどさ
1年で正式採用にならなかった人は897人、3年続けて増えている
公立学校の先生は、採用されてから1年間は「条件付採用期間」です。この1年を終えて正式に採用される、という仕組みになっています。
文部科学省の「令和6年度公立学校教職員の人事行政状況調査」によると、令和6年度に採用された先生のうち、正式採用にならなかった人は897人でした。採用された人全体の2.56%です。
この数字は、令和4年度が637人(1.94%)、令和5年度が791人(2.29%)で、3年続けて増えています。
897人のうち、ほとんど(885人)は自分から辞める「依願退職」です。そして、そのうち病気が理由の人が358人、さらにそのうち精神疾患が理由の人が321人いました。
だいたい40人に1人の新任の先生が、1年目を終える前に教壇を離れている。しかも、心の不調が理由の人がかなりの割合を占めている。この数字を見たとき、私は他人事とは思えませんでした。
理由の多くは「指導そのもの」「人間関係」「事務仕事」
同じ調査では、先生が精神疾患で休職するに至った要因についても、教育委員会に聞いています。多かったのは次の3つでした。
- 児童生徒に対する指導そのものに関すること
- 職場の対人関係(上司、同僚など)
- 校務分掌や調査対応など、事務的な業務に関すること
これは1年目の先生に限った数字ではありません。でも、実習生や初任者から聞く悩みと、ぴったり重なっています。授業や子どもへの対応、職場の人との関わり、そして「よく分からない仕事」。新しく現場に入った人ほど、この3つに一度にぶつかります。
「みんなはできている」は本当か
見えているのは、ほかの先生の「完成した部分」だけ
1年目の私は、とにかく周りと自分を比べていました。隣のクラスは朝から落ち着いている。学年の先生はさっと学級通信を出している。同期は研修で堂々と発表している。それに比べて自分は……と。
でも、今なら分かります。あのとき見えていたのは、ほかの先生の「うまくいっている部分」だけでした。
ベテランの先生にも、うまくいかない授業の日はあります。同期だって、家に帰って泣いていたかもしれません。職員室では、みんな「困っている顔」をあまり見せません。だから、自分だけができていないように見えてしまうのです。
比べる相手は、先月の自分
比べるなとは言いません。比べてしまうのは自然なことです。ただ、比べる相手を少しだけ変えてみてください。
比べる相手は、先月の自分です。
先月は朝の会で何を話せばいいか分からなかったけれど、今は少し決まった流れができてきた。先月は子どもの名前と顔が一致しなかったけれど、今は全員言える。そういう小さな変化を、自分で拾ってあげてください。
隣のクラスの先生は、10年かけて今の教室をつくっています。それを1年目の自分と比べるのは、ちょっとフェアではありません。
つまずき① 授業が思ったように進まない
実習生の不安を調べた研究では、不安の中身は大きく「授業ができるか」と「子どもとうまく関われるか」の2つに分かれるとされています。授業の悩みは、誰もが最初にぶつかる壁です。
指導案どおりにいかないのは当たり前
一生懸命に指導案を書いても、授業はそのとおりには進みません。予想していなかった答えが返ってくる。思ったより時間がかかる。逆に、10分も余ってしまう。
実習生の体験記を読むと、「指導案を練り直すうちに、最初とまったく別のものになった」「直すのに大量の時間がかかった」という声がよく出てきます。授業は、子どもと一緒につくるものです。紙の上の計画とずれるのは、むしろ自然なことです。
「1時間で1つだけ」に絞ると立て直せる
うまくいかないときほど、あれもこれも入れたくなります。でも、1時間の授業でできることは、思っているよりずっと少ないです。
おすすめは、「この1時間で、子どもにこれだけはできるようになってほしい」を1つだけ決めることです。それさえ達成できれば、その授業は合格。ほかの活動は、時間が余ったらやる、くらいの気持ちで大丈夫です。
授業づくりの具体的な進め方は、このシリーズの#6「教材研究のやり方」と#7「板書」で詳しく書いています。
つまずき② 子どもとの距離がつかめない
仲良くなることと、信頼されることは別
実習生や若い先生は、子どもとすぐに仲良くなれます。休み時間に一緒に遊べば、子どもたちはどんどん寄ってきてくれます。それ自体はとても素敵なことです。
ただ、「仲良し」と「信頼」は少し違います。授業中に注意をしたら、「えー、さっきは遊んでくれたのに」という空気になる。これは多くの人が一度は経験することです。私もそうでした。
子どもが先生を信頼するのは、「この先生は、だめなことはだめと言ってくれる」「困ったときに必ず話を聞いてくれる」と感じたときです。楽しい時間と、けじめの時間。その両方があって、はじめて安心できる関係になります。
気になる子に時間を取られて、ほかの子が見えなくなるとき
初任者へのアンケートでは、「配慮が必要な子への対応で、ほかの子を指導する時間がなくなる」「教室を出ていく子への対応に困っている」という声がよく挙がります。
目の前で困っている子がいれば、先生はそこに行きます。それは当然です。でも、そのあいだに、ほかの子たちは「待つ時間」を過ごしています。そして待つ時間が長いと、教室は少しずつ落ち着かなくなっていきます。
これは一人で何とかしようとしないことが大切です。学年の先生、特別支援教育コーディネーター、管理職に、早めに「この時間がしんどい」と伝えてください。教室の外の力を借りることは、逃げではなく、子どもたち全員を守るための手段です。
教室の落ち着かなさについては、#3「学級崩壊の足音に気づく」と#4「やめたいNG指導」でくわしく扱います。
つまずき③ 何をどこまでやればいいか分からない仕事
実習ノート・分掌・行事の「正解」は学校ごとに違う
授業や子どものこと以上に、新しく現場に入った人を困らせるのが「よく分からない仕事」です。
実習生なら実習ノートの書き方。初任者なら、校務分掌(学校の中の係の仕事)、行事の準備、手紙の配布、提出書類、会計……。初任者の悩みとしても、「校務分掌や行事で何をすればよいか分からない」という声はよく聞かれます。
こうした仕事は、大学ではほとんど教わりません。しかも、やり方は学校ごとに違います。前の学校の「正解」が、今の学校では通用しないこともあります。分からないのは、当たり前なのです。
締め切りと「誰に出すか」だけ先に聞く
全部を理解してから動こうとすると、時間がいくらあっても足りません。私がおすすめしているのは、新しい仕事を頼まれたら、まず「いつまでに」「誰に出すか」の2つだけを聞くことです。
中身が分からなくても、締め切りと出す相手が分かっていれば、あとはその人に「去年のものを見せてもらえますか」と聞けば何とかなります。去年の資料は、だいたいどこかに残っています。
ちなみに私は1年目、時間割もろくに立てられず、提出物の期限も守れませんでした。専科の先生の授業をすっぽかしてしまったこともあります。手紙を配り忘れて、翌日あわてて連絡したこともあります。こうした「うっかり」の減らし方は、次回の#2でまるごと1本の記事にします。
つまずき④ 聞きたいのに、聞けない
先輩との関係づくりのほうが難しい、という調査も
新任の先生にとっては、子どもとの関係づくりよりも、先輩の先生との関係づくりのほうが難しく感じられることがあります。
これは、とてもよく分かります。職員室の先生たちはいつも忙しそうです。「こんなことを聞いたら、できない人だと思われるかな」「今は話しかけないほうがいいかな」と迷っているうちに、一日が終わってしまう。
でも、聞かずに進めて失敗するほうが、結果的にずっと周りに手間をかけます。先輩の先生たちも、そのことをよく知っています。
聞きやすくなる一言
聞くときのハードルを下げるために、私が若い先生に伝えている言い方があります。
- 「5分だけいいですか」(時間を先に区切ると、相手も応じやすい)
- 「〇〇のことで迷っています」(何について聞きたいかを最初に言う)
- 「自分ではこう考えたんですが、合っていますか」(考えてきたことを添える)
特に3つめは効果があります。答えを丸ごともらうのではなく、自分の考えを確かめてもらう形にすると、相手も答えやすいし、自分の学びにもなります。
聞く相手は、学年の先生だけでなくてもかまいません。年の近い先輩、同期、養護の先生、事務の方。話しやすい人を、校内に一人見つけておくだけで、ずいぶん楽になります。
つまずき⑤ 時間と体力が足りない
睡眠を削る実習を「美談」にしない
実習生の体験記を読むと、指導案と教材研究に追われて、睡眠時間を大きく削ったという声がよく出てきます。
こうした話は、「それだけ頑張った」という美談として語られがちです。でも、私はそうは思いません。眠らずに立つ教室は、子どもにとっても先生にとってもいい場所にはなりません。疲れていると、表情がかたくなり、声がきつくなり、子どもの小さなサインを見逃します。
「終わらせ方」を決めておく
教員の仕事には、終わりがありません。やろうと思えば、教材研究も、掲示物も、いくらでもよくできます。だからこそ、「今日はここまで」の終わらせ方を先に決めておくことが大切です。
- 帰る時刻を決めて、その時刻になったら手を止める
- 明日の授業は「最低限これができればいい」ラインまで準備したら終わり
- 完璧にしたいものは、週に1つだけにする
私も1年目は、土日も学校に行っていました。それでも仕事は終わりませんでした。終わらないのは、私の要領が悪かったからだけではなく、「どこで終わらせるか」を決めていなかったからです。
先生の余裕と教室の関係については、#5「先生の余裕がなくなると、クラスは荒れる」で正面から書きます。
一緒に働く先生方へ
ここまでは、実習生や1年目の先生のことを書いてきました。最後に少しだけ、実習生や新しい先生と一緒に働く先生方へ。
私も今、実習生を受け入れる立場になって、自分が1年目だったころを思い出すことが増えました。そして、若い人が困ったときに「困った」と言えるかどうかは、本人の力よりも、周りの空気で決まると感じています。
- 最初の日に「質問はいつでもしていい」とはっきり伝える
- 締め切りや段取りは、口だけでなく紙やメモで渡す
- 自分の失敗談を一つ話しておく
特に3つめは大事だと思っています。「先生も1年目はこうだった」と聞くだけで、若い人の肩の力はずいぶん抜けます。
心が軽くなるひと言
以前の記事「これから教員になる皆さんへ」で、私は「最初はできなくて当たり前」と書きました。年数を重ねた今でも、その考えは変わっていません。
うまくいかないと感じているのは、子どものことをちゃんと見ている証拠です。何も感じていない人は、そもそも悩みません。
困っているのは、あなただけではありません。そして、困ったときに「困った」と言える人が、いちばん長くこの仕事を続けられると、私は思っています。
次回の#2では、「専科の授業をすっぽかした日、手紙を配り忘れた日」と題して、1年目の「うっかり」を責めずに仕組みで減らす方法を書きます。
シリーズ「先生1年目のこと 困った、を一人で抱えない」
- #1 他の先生はできているのに、自分はできない(この記事)
- #2 専科の授業をすっぽかした日、手紙を配り忘れた日
- #3 子どもたちが落ち着かない 学級崩壊の足音に気づく
- #4 荒れかけたクラスを立て直す やめたいNG指導
- #5 先生の余裕がなくなると、クラスは荒れる
- #6 授業づくりの不安を減らす教材研究のやり方
- #7 授業が変わる板書の極意
- 最終回 これから教員になる皆さんへ
参考にした資料
- 文部科学省「令和6年度公立学校教職員の人事行政状況調査」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinji/1411820_00009.htm
- 3-2 条件付採用 https://www.mext.go.jp/content/20251217-mxt_syoto01-000046407_44.pdf
- 各大学が公開している教育実習の報告・体験記


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