採用試験の模擬授業は「全部やらない」 短い時間で何を見せるか

採用試験の模擬授業は「全部やらない」 短い時間で何を見せるか 先生という仕事

教員採用試験の模擬授業。面接官の前で、子どもがいるつもりで授業をする試験です。

ふだんの授業なら45分や50分あるのに、模擬授業は短い時間で終わることがほとんどです。しかも、目の前にいるのは子どもではなく、面接官。何を見せればいいのか分からない、という声をよく聞きます。

先に結論を書きます。模擬授業は、授業の全部をやろうとしないことです。短い時間の中で、「この人の授業を受けてみたい」と思ってもらえるところを、一つだけしっかり見せる。それで十分だと思っています。

今回は、現場で毎日授業をしている教員の目線で、模擬授業の組み立て方を書いてみます。

模擬授業で見られていること

授業の「うまさ」より、子どもへの向き方

模擬授業というと、授業がうまいかどうかを見られていると思いがちです。もちろん、それも見られています。

でも、受験する段階で、完成された授業をできる人はほとんどいません。現場の教員だって、何年たっても授業は思いどおりにいきません。正直、私もそうです。

だから、模擬授業で見られているのは、授業の完成度より、子どもにどう向き合っているかだと思っています。子どもに問いかけているか。子どもの反応を待てているか。子どもの答えを受け止めているか。そういう授業者としての姿勢です。

形式は自治体によってかなり違う

模擬授業の形式も、自治体によってかなり違います。

時間の長さ。課題が事前に示されるのか、当日に示されるのか。構想を練る時間があるのか。面接官が子ども役をするのか、誰もいない前で授業をするのか。板書を使えるのか。終わったあとに質問があるのか。

なので、志望先の自治体の実施要項と、公開されている過去の実施状況は必ず確認してください。そのうえで、どんな形式でも使える考え方を、ここから書いていきます。

「全部やらない」と決める

45分を短くするのではなく、一場面を切り取る

模擬授業でよくある失敗が、45分の授業をぎゅっと縮めて、導入から展開、まとめまで、全部をやろうとすることです。

全部をやろうとすると、一つひとつが駆け足になります。発問しても、子どもの反応を待つ時間がない。板書も、急いで書くので雑になる。結局、何を見せたかったのか分からないまま、時間が来てしまう。

私なら、授業の一場面を切り取ると決めます。たとえば、「導入から、最初の発問で子どもが考え始めるところまで」。あるいは、「展開の中心の発問から、子どもの考えを比べるところまで」。どこを見せるかを一つに決めて、その場面だけをていねいにやります。

どこを切り取るか

どこを切り取るかは、課題や時間によって変わりますが、多くの場合は導入から最初の発問までがやりやすいと思います。

導入は、子どもの興味を引き出す場面です。授業者の工夫が見えやすく、子どもへの問いかけも自然に入れられます。そして、最初の発問で子どもが「考えてみたい」と思うところまで行ければ、その授業のねらいも伝わります。

授業の導入の型については、「授業の『導入』7つの型」の記事でくわしく書いています。模擬授業でも、その中から一つを選んで使ってみてください。

最初に「どこをやるか」を伝える

もし、模擬授業の始めに一言説明できるなら、「今日は、〇〇の単元の第〇時の、導入から最初の発問までを行います」と伝えておくと親切です。

面接官は、その授業がどこから始まって、どこに向かうのかを知ったうえで見ることができます。説明できない形式なら、授業の中で「今日は〇〇について考えます」とめあてを示すことで、同じ役割を果たせます。

発問は一つに絞る

中心の発問を一つだけ決める

切り取る場面が決まったら、次は中心となる発問を一つだけ決めることです。

模擬授業で発問をいくつも用意すると、どれも中途半端になります。それより、「この問いで子どもに考えてほしい」という発問を一つだけ決めて、その発問にたどり着くまでの流れをつくります。

たとえば国語なら、「この場面で、主人公はどんな気持ちだったでしょう」ではなく、「主人公が〇〇と言ったのは、なぜでしょう」のように、子どもが本文に戻って考えたくなる問いにする。算数なら、「どうやって計算しますか」より、「AさんとBさんの考え方、どこが同じでどこが違うでしょう」のように、比べたくなる問いにする。

発問の型については、「『展開』で使える発問14の型」の記事も参考にしてみてください。

発問したら、待つ

発問したら、待つことです。これが、模擬授業ではいちばん難しい。

誰もいない前で授業をする形式だと、つい次々と話してしまいます。でも、本当の授業なら、発問したあと、子どもは考えます。その時間を、模擬授業でも示してください。

「では、少し考えてみましょう。」と言って、教室を見渡すように間をとる。「〇〇さん、何か書けたかな。」と、机の間を歩くように声をかける。そうやって、子どもが考えている時間を演じることで、「この人は子どもの考える時間を大事にしている」と伝わります。

子どもの反応を、想定して返す

子どもの答えを「受け止めて、返す」

子ども役の面接官がいる形式なら、面接官の答えに、ていねいに返します。誰もいない形式なら、子どもの答えを想定して、「〇〇さんは、〜と考えたんだね」と返すように話します。

ここで大切なのは、子どもの答えをそのまま受け止めて、ほかの子に広げることです。

「〇〇さんは、〜と考えたんだね。なるほど。同じように考えた人はいるかな。……違う考えの人はいる?」

一人の答えで終わらせず、ほかの子の考えとつなぐ。それが、授業の中で子ども同士が学び合う場面をつくります。模擬授業でも、この「つなぐ」場面が見えると、授業者としての力が伝わります。

まちがった答えにも、価値を見つける

子ども役の面接官は、わざとまちがった答えを言うことがあります。

そんなときに、「違います」とすぐに否定しないことです。「〇〇さんは、そう考えたんだね。どうしてそう思ったのか、教えてくれる?」と理由を聞く。そして、「〇〇さんの考えのおかげで、大事なことに気づけそうだね」と、まちがいを授業の材料にする。

まちがいを受け止めて生かせる授業者は、子どもにとって安心できる先生です。場面指導の「受け止める」と同じですね。

誰もいない前でやるときは、子どもを「名前」で呼ぶ

子ども役がいない形式は、正直いちばんやりにくいと思います。目の前には面接官しかいないのに、子どもがいるように授業をしなければいけない。

そんなときは、想像上の子どもに名前をつけて呼んでみてください。「Aさん、どう考えた?」「Bさんは、Aさんと違う考えだね」。名前で呼ぶだけで、授業の中に子どもがいる感じがぐっと出ます。教室のどのあたりにその子が座っているかまで決めておいて、そちらに体を向けて話すと、なおいいです。

板書は「最後の形」から考える

板書計画は、最後の黒板から逆算する

板書を使える形式なら、板書も見られています。

模擬授業の板書は、全部を書こうとすると時間が足りなくなります。私なら、授業の最後に黒板がどうなっていたらいいかを先に決めて、そこから逆算します。

めあて、中心の発問、子どもの考え(二つか三つ)、そしてまとめにつながる一言。模擬授業で書くのは、そのくらいで十分です。

字の大きさと、書きながら話すこと

板書でよく言われるのは、字の大きさと、書く速さです。

教室のいちばん後ろの席からでも読めるくらいの大きさで書く。そして、黒板に向かって長く書き続けない。書きながらも、ときどき振り返って、子どもの方を見る。「書いている間も、子どもを見ている」ということが伝わると、授業者としての安心感が出ます。

板書の考え方については、別の記事「板書の基本パターンとコツ」でもまとめています。

声と立ち位置

声は「教室のいちばん後ろ」に届ける

模擬授業では、面接官との距離が近いことが多いです。でも、声はいつもより少し大きめに、教室のいちばん後ろの子に届けるつもりで出してください。

声の大きさだけでなく、強弱や間も大事です。大事なところでは、少しゆっくり話す。発問のあとは、間をとる。メリハリがあると、聞いている面接官も、授業に引き込まれます。

立ち位置を動かす

授業中、黒板の前に立ちっぱなしにならないことも意識してみてください。

発問したら、少し前に出る。子どもが考えている間は、机の間を歩くように動く。子どもの考えを聞くときは、その子の方に体を向ける。立ち位置が動くと、目の前に子どもたちがいるような授業になります。

教科ごとの「切り取り方」の例

どこを切り取るかのイメージがわくように、教科ごとに例を書いておきます。あくまで一例です。

国語(物語文) 前の時間までに読んだ場面をさっと振り返り、今日の場面の音読に入る。そこで、登場人物の行動が大きく変わる一文に目を向けさせて、「〇〇は、なぜこうしたのだろう」と中心の発問を出す。子どもが本文に線を引き始めるところまでを見せます。

算数 身近な場面の問題を一つ出し、「今までの学習と、どこが違うかな」と問いかける。子どもが「今までの方法では解けない」と気づき、めあてが生まれるところまで。そのあと、一人の子の考えを取り上げて、「この考え、どういうことか分かるかな」と、ほかの子に説明させる場面を少しだけ入れられると、学び合いも見せられます。

理科 実物や写真を見せて、「どうしてこうなるんだろう」という疑問を引き出す。子どもに予想を立てさせ、その理由を一人か二人に話してもらう。実験そのものは模擬授業ではできないので、「では、この予想を確かめる方法を考えよう」と、次の活動に向かうところで区切ります。

社会 資料(グラフや写真)を一つ示して、「気づいたことは何かな」と問いかける。子どもの気づきを板書に分けて書き、そこから「どうして〇〇なのだろう」という学習問題をつくるところまで。資料を一つに絞るのがポイントです。

どの教科でも共通しているのは、子どもが「考えたい」と思う瞬間をつくるところまでを見せる、ということです。答えにたどり着くところまで行かなくても、まったく問題ありません。

構想時間があるときの使い方

課題が当日示されて、少し構想を練る時間がある形式もあります。その短い時間に、全部を考えようとすると、かえって頭がまとまりません。

私なら、構想時間には次の4つだけを決めます。どこを切り取るか。中心の発問は何か。板書の最後の形はどうなるか。最初の一言は何か。

特に、最初の一言は大事です。始まった瞬間にどう話し出すかが決まっていると、緊張していても授業に入っていけます。「みなさん、これを見てください」でも、「今日は、ちょっと不思議な問題を持ってきました」でも構いません。最初の一言さえ出れば、あとは流れが助けてくれます。

終わったあとの質問への答え方

「うまくいかなかったところ」を聞かれたら

模擬授業のあとに、面接官から質問されることがあります。「今の授業のねらいは何ですか」「うまくいかなかったところはどこですか」「子どもがこう答えたら、どうしますか」。

「うまくいかなかったところ」を聞かれたら、正直に答えてください。「発問のあと、もう少し待つ時間をとりたかったです」「板書が予定より少なくなってしまいました」。そのうえで、「本番の授業では、〜したいと思います」と、次にどうするかを添えます。

自分の授業を振り返って、改善を考えられる。それは、教員になってからずっと必要な力です。

ねらいは、一言で言えるように

「この授業のねらいは何ですか」と聞かれたときに、一言で答えられるようにしておくことも大切です。

「〇〇の気持ちの変化を、本文の言葉を根拠にして考えられるようにすることです」のように、子どもが何をできるようになるのかを言えるといいです。ねらいがはっきりしていれば、授業の中の発問や板書も、自然とそこに向かっていきます。

練習のしかた

時間を計って、何度もやる

模擬授業の練習は、必ず時間を計ってやってください。思っていたより、時間は早く過ぎます。何度かやってみると、自分がどこで時間を使いすぎるのかが分かってきます。

誰かに子ども役をしてもらう

できれば、友達や家族に子ども役をしてもらって練習するのがおすすめです。予想していない答えが返ってきたときに、どう返すかの練習になります。

教育実習でお世話になった先生や、大学の先生にも、遠慮せず見てもらってください。現場の教員から見ると、ちょっとした一言で授業がぐっとよくなることがあります。

おわりに

模擬授業は、短い時間の中で授業をする、ちょっと特殊な試験です。でも、そこで見せるものは、ふだんの授業と変わりません。

全部をやろうとしない。一場面を切り取って、発問を一つに絞る。発問したら待って、子どもの答えを受け止めて、ほかの子につなぐ。それだけで、「この人の授業を受けてみたい」と思ってもらえるはずです。

そして、模擬授業の準備で考えたことは、教員になってからの授業づくりにも、そのまま生きてきます。そう、模擬授業の練習は、授業づくりの練習そのものなのです。

面接・場面指導の全体については「教員採用試験の面接・場面指導、現場の先生ならこう答えたい」もあわせてどうぞ。

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