年末年始。ふるさとに帰ったり、親戚が集まったりする時期です。久しぶりに祖父母の家に行くと、言葉の調子や言い回しが、ふだんと違うことに気づく子どももいるでしょう。「おばあちゃんの言葉、ちょっとちがう」。
その「ちがい」が、方言です。
ところで、方言の反対の言葉は何でしょうか。「標準語」と答える人が多いと思います。でも、国語の教科書や学習指導要領では、「標準語」ではなく「共通語」という言葉が使われています。この二つは、同じ意味なのでしょうか。
この記事では、「方言」「共通語」「標準語」の定義を整理し、教科書が「共通語」という言葉を使う理由と、方言を授業でどう扱うかを考えます。
それぞれの言葉の定義
「方言」とは
方言は、ある地域で使われている、その地域ならではの言葉のことです。
方言の違いは、単語だけではありません。
- 語彙(言葉そのもの):「捨てる」を「ほかす」(関西など)、「投げる」(北海道・東北など)と言う
- 発音やアクセント:同じ「はし」でも、どこを高く言うかが地域によって違う
- 文法(言い方):「行かない」を「行かへん」「行かん」「行かねえ」と言う
- あいさつや言い回し:「ありがとう」を「おおきに」と言う
方言は、その地域で長い時間をかけて育まれてきた言葉です。地域の暮らしや文化、人と人とのつながりが、方言の中にこめられています。
ここで一つ大事なのは、方言は「なまった言葉」や「まちがった言葉」ではないということです。方言は、それぞれの地域で、きちんとした決まりをもって使われている言葉です。東京の言葉も、東京の方言の一つです。
「共通語」とは
共通語は、地域の違いをこえて、全国どこでも通じる言葉のことです。
テレビのニュースや、新聞、教科書で使われている言葉が、共通語の代表です。北海道の人と沖縄の人が話すとき、それぞれの方言では通じにくいことがあっても、共通語なら通じ合うことができます。
共通語は、東京の言葉をもとにしていると言われますが、東京の方言そのものではありません。全国の人が使い、通じ合う中で形づくられてきた、地域をこえた言葉です。
「標準語」とは
標準語は、国の中で、正しい言葉、手本となる言葉として定められたものという考え方にもとづく言葉です。
明治時代、日本が近代国家として歩み始めたとき、全国の人が同じ言葉で話し、書けるようにするために、「標準語」を定めて広めようという動きがありました。学校教育でも、標準語を教えることが重視されました。
その中で、方言は「直すべきもの」とされることもありました。地域によっては、学校で方言を話した子どもに、罰として「方言札」という札を首から下げさせることもあったと言われています。
なぜ「共通語」と言うのか
戦後になって、言葉に対する考え方が変わっていきました。
「標準語」という言葉には、「これが正しい言葉で、それ以外は正しくない」という意味合いが含まれます。そうすると、方言は「正しくない言葉」ということになってしまいます。
そこで、「標準」ではなく、「みんなが通じ合うために共通して使う言葉」という意味で、「共通語」という言葉が使われるようになりました。共通語は、方言を否定するものではありません。方言は方言として大事にし、地域をこえて話すときには共通語を使う。二つを場面に応じて使い分ける、という考え方です。
学習指導要領や教科書が「共通語」という言葉を使っているのは、このような考え方にもとづいています。
並べてみると
| 言葉 | ひと言でいうと | 方言との関係 | 使われる場面 |
|---|---|---|---|
| 方言 | 地域ならではの言葉 | ― | 家族や地域の人との会話 |
| 共通語 | 全国どこでも通じる言葉 | 使い分ける | ニュース、新聞、教科書、改まった場、地域をこえた会話 |
| 標準語 | 正しい手本として定められた言葉という考え方 | 方言を直すべきものとする考え方につながりやすい | (歴史的な言葉として) |
共通語と標準語は、言葉の中身としては重なるところが多いのですが、方言をどう見るかという点で、考え方が大きく違います。
学習指導要領ではどう扱われているか
小学校の学習指導要領(平成29年告示)の国語では、第5学年及び第6学年の「我が国の言語文化に関する事項」に、次のように示されています。
「語句の由来などに関心をもつとともに、時間の経過による言葉の変化や世代による言葉の違いに気付き、共通語と方言との違いを理解すること」
ここで大事なのは、「違いを理解すること」とされている点です。方言を共通語に直すことでも、方言だけを大事にすることでもなく、二つの違いを理解し、場面に応じて使い分けられるようになることが求められています。
また、この事項は、「時間の経過による言葉の変化」「世代による言葉の違い」と一緒に示されています。言葉は、地域によっても、時代によっても、世代によっても違う。方言の学習は、言葉の多様さに気づく学習の一部として位置づけられているわけです。
方言にしかない言葉
方言の中には、共通語にぴったり言いかえられない言葉もあります。
たとえば、北海道などで使われる「しばれる」。きびしく冷えこむ様子を表す言葉ですが、共通語の「寒い」とは少し違います。肌をさすような、こおりつくような寒さ。その感じは、「しばれる」という一言でこそ伝わります。
中部地方や近畿地方の一部では、「えらい」が「疲れた、しんどい」という意味で使われます。北海道や東北の一部では、「こわい」が同じように「疲れた」という意味で使われることがあります。同じ音の言葉でも、地域によって意味がまったく違うのは、方言のおもしろいところです。
こうした言葉には、その土地の気候や暮らしが表れています。冬のきびしい地域には、寒さや雪を表す言葉が豊かにあり、海の近くの地域には、魚や波、風を表す言葉が豊かにある。方言を調べることは、その土地の暮らしを知ることにつながります。
授業で「共通語に言いかえにくい方言はないかな」と問うと、子どもは、自分たちの言葉の中にある、その地域ならではの感じ方に気づきます。そして、方言は「共通語の言いかえ」ではなく、それ自体に意味のある言葉なのだということが、実感として分かってきます。
文学の中の方言
文学作品の中にも、方言は大事な役割を果たしています。
宮沢賢治の詩「永訣の朝」には、病気の妹が「あめゆじゆとてちてけんじや」と頼む言葉が、くり返し出てきます。岩手の言葉で、「雨雪をとってきてください」という意味です。この言葉が共通語で書かれていたら、詩の印象はまったく違うものになるでしょう。妹の声が、方言だからこそ、読み手の耳に直接ひびいてきます。
物語の会話文が方言で書かれていると、登場人物がどこで暮らしているのか、どんな人なのかが、ありありと伝わります。高学年で、方言が使われている作品を読むときは、「なぜ作者は、ここを方言で書いたのだろう」と問うと、方言の表現の力に気づくことができます。
授業でどう扱うか
自分たちの地域の方言を集める
方言の学習で、いちばんおすすめしたいのは、自分たちの地域の方言を集める活動です。
家の人や、地域のお年寄りに、「昔から使っている言葉で、ほかの地域では通じないかもしれない言葉」を聞いてきます。子どもたちは、自分がふだん何気なく使っている言葉が、実は方言だったことに気づいて、おどろきます。
集めた方言は、共通語ではどう言うかと一緒に、一覧にまとめます。「方言カルタ」や「方言辞典」をつくるのも楽しい活動です。
ほかの地域の方言と比べる
次に、ほかの地域の方言と比べます。
同じ意味の言葉が、地域によってどう違うかを調べると、言葉の多様さに気づきます。「ありがとう」「とても」「捨てる」など、身近な言葉を取り上げて、全国の言い方を地図に表すと、方言の分布が見えてきます。
ほかの地域の学校と、オンラインで交流できる場合は、方言を紹介し合うのもよいと思います。相手の方言を聞いて、意味を当てるクイズをすると、子どもはおおいに盛り上がります。
場面による使い分けを考える
方言と共通語の違いが分かったら、どんな場面で、どちらを使うかを考えます。
家族や友達と話すとき、地域のお祭りで話すとき、全校の前で発表するとき、ほかの地域の人に電話をするとき、手紙を書くとき。それぞれの場面で、方言と共通語のどちらがふさわしいかを話し合います。
すると、子どもは、方言にも共通語にも、それぞれのよさがあることに気づきます。方言は、親しみやあたたかさを伝えることができる。共通語は、誰にでも正確に伝えることができる。使い分けることで、相手や場面に合ったコミュニケーションができるのです。
単元の流れの例
方言と共通語の学習を、4時間ほどの短い単元にした例を示します。
- 1時間目:教科書の方言の例を読み、方言と共通語の違いを知る。家の人や地域の人に、方言を聞いてくる計画を立てる
- 2時間目:聞いてきた方言を出し合い、共通語ではどう言うかと一緒に一覧にまとめる。共通語に言いかえにくい言葉にも注目する
- 3時間目:ほかの地域の方言と比べる。同じ意味の言葉の、地域ごとの言い方を調べて、地図や表にまとめる
- 4時間目:方言と共通語を、どんな場面で使い分けるかを話し合う。学習を振り返り、方言と共通語のそれぞれのよさを文章にまとめる
1時間目の聞き取りの計画は、家庭の協力が必要になるので、学級通信などで事前に伝えておくと、家の人も協力しやすくなります。家の人と方言について話すこと自体が、子どもにとって、家族のふるさとや歴史を知るきっかけにもなります。
方言を、大切にするということ
方言の学習で、先生として気をつけたいことがあります。それは、方言を笑いの対象にしないことです。
ほかの地域の方言を聞くと、子どもは、聞きなれない響きをおもしろがって笑うことがあります。おもしろいと感じること自体は自然なことですが、笑いものにすることとは違います。
転校してきた子や、家族がほかの地域の出身の子にとって、方言は、自分や家族のふるさとの言葉です。その言葉を笑われると、深く傷つくことがあります。
方言の学習の始めに、「方言は、その地域の人たちが大事にしてきた言葉です」と伝え、方言にこめられた暮らしや思いに目を向けさせることが大事です。方言を知ることは、その地域の人や文化を知ることでもあります。
言葉は、いろいろでいい
方言と共通語の学習は、言葉には「正しい一つの形」があるわけではない、ということに気づく学習でもあります。
地域によって言葉が違う。時代によって言葉が変わる。世代によっても、使う言葉が違う。その中で、相手や場面に合わせて、言葉を選んで使う。それが、言葉を使うということです。
子どもたちは、これからさまざまな地域の人、さまざまな世代の人、さまざまな言葉を話す人と出会っていきます。言葉の違いを、おもしろさとして受け止め、相手の言葉を大事にしながら、通じ合う言葉を選ぶ。方言の学習は、そうした力の土台になると思っています。
よくある質問
方言で書かれた作文は、直したほうがいいですか?
作文の目的によります。日記や、家族のことを書いた作文なら、家族の会話を方言のまま書くと、その場の雰囲気がいきいきと伝わります。一方、ほかの地域の人に読んでもらう文章や、報告文、説明文のように正確に伝えたい文章なら、共通語で書いたほうが伝わりやすくなります。方言を「直す」のではなく、「この文章は、誰に読んでもらうものかな」と考えさせると、子どもは自分で使い分けを判断できるようになります。
共通語を話す地域の子どもにも、方言の学習は必要ですか?
必要です。共通語に近い言葉を話している地域でも、その地域ならではの言い方や、お年寄りが使う言葉があることが多いです。また、ほかの地域の方言を知ることは、言葉の多様さを知り、ほかの地域の人を理解することにつながります。
若者言葉は、方言と同じように扱えますか?
学習指導要領では、「世代による言葉の違い」として、方言と並べて示されています。若者言葉も、ある世代の中で通じ合う言葉という点で、方言と似たところがあります。ただ、若者言葉は、流行によって変わりやすいという特徴もあります。地域による違い(方言)と、世代による違い(若者言葉など)を比べてみると、言葉の変化について、子どもなりに考えを深めることができます。
先生自身が、その地域の方言を知らない場合はどうすればいいですか?
むしろ、子どもと一緒に学ぶよい機会です。「先生は、この地域の出身ではないから、みんなに教えてほしい」と伝えると、子どもは張り切って方言を集めてきます。地域のお年寄りをゲストティーチャーとして招くのもおすすめです。先生が知らないことを、子どもや地域の人から学ぶ姿は、それ自体が、言葉の多様さを大事にする姿勢を子どもに見せることになります。
まとめ
方言は、ある地域で使われている、その地域ならではの言葉。なまった言葉やまちがった言葉ではない。
共通語は、地域の違いをこえて、全国どこでも通じる言葉。
標準語は、正しい手本として定められた言葉という考え方にもとづく言葉。方言を直すべきものとする考え方と結びついてきた歴史がある。
教科書が「共通語」と言うのは、方言を否定せず、方言と共通語を場面に応じて使い分ける、という考え方に立っているからです。
年末年始、ふるさとの言葉にふれた子どもがいたら、3学期の最初に、ぜひ聞いてみてください。「おじいちゃん、おばあちゃんの家で、どんな言葉を聞いた?」。そこから、言葉の多様さを知る学習が始まります。敬語の使い分けについては、「『尊敬語』『謙譲語』『丁寧語』はどう違う?」にまとめています。


コメント