連載「教材で読む次期学習指導要領」、今回が最終回です。最後は、家庭科の「ご飯とみそ汁」。
5年生の家庭科で、米を洗って、水加減をして、鍋で炊く。煮干しでだしをとって、みそ汁を作る。調理実習の中でも、子どもたちが一番真剣になる単元じゃないでしょうか。鍋のふたを開けて、ご飯がふっくら炊けていたときの「おおー!」。あれは、何度見てもいいものです。
審議まとめが書いている家庭科の課題
審議まとめは、家庭科について、現行の学習指導要領で、計画・実践・評価・改善という問題解決的な学習の過程を重視してきた、としつつ、こんな課題を挙げています。
特に小・中学校の問題解決的な学習においては、教師主体の課題設定がされているなどの現状があり、問題発見・解決能力の育成に向け、より一層充実を図っていく必要がある。
「教師主体の課題設定」。調理実習でいえば、「今日は、ご飯とみそ汁を作ります。手順はこうです」。先生が課題を決めて、子どもはその通りに作る。…正直、そうなりがちですよね。安全のこともあるし、時間も限られているし。
生活文化の継承
もう一つ、審議まとめは、家庭や地域に受け継がれてきた生活の知恵や工夫が、現代の生活の利便性につながっていることを再認識し、その価値を実感するために、生活文化の継承と創造を図る内容の充実も念頭に置く、としています。食生活については、日本の伝統的な食文化の継承に向けた内容の充実が図られてきたが、食をめぐる生活環境は引き続き変化しており、生活文化の継承の観点をより重視する学習を中学校や高校で扱う、とあります。
小学校の「ご飯とみそ汁」は、その一番の入り口です。米を炊く、だしをとる。和食の基本です。
子どもが課題を立てる「ご飯とみそ汁」
では、どうすれば「教師主体の課題設定」から抜け出せるか。私なら、自分の家の一杯から始めます。
①家のみそ汁を調べてくる
単元の最初に、「おうちのみそ汁は、どんなみそ汁?」と聞きます。具は何か。みそは何色か。だしは何でとっているか(だしの素か、煮干しか、かつお節か)。
【配慮:家庭でみそ汁を作らない家もある。「給食のみそ汁」「お店で食べたみそ汁」でもいい、と伝える】
子どもが持ってきた答えは、本当にばらばらです。「豆腐とわかめ」「じゃがいもと玉ねぎ」「なすと油あげ」。みその色も、白っぽいの、赤っぽいの。地域や家庭によって、みそ汁は違う。これがもう、生活文化です。
②「だしって、いるの?」
次に、子どもから出てきそうな問いを拾います。「だしって、本当にいるの?」「だしの素じゃだめなの?」。
ここで、だしをとったお湯と、ただのお湯にみそをといたものを、少しだけ味見して比べます。【配慮:アレルギーの確認、衛生管理は学校のルールで】
「全然ちがう!」。子どもは驚きます。だしの意味を、舌で知る。そして、「だしの素」と「煮干しでとっただし」も比べてみると、「どっちもおいしい」「煮干しの方が、においが強い」。どちらが正解ではなく、それぞれのよさに気づく。
③自分のみそ汁の「めあて」を立てる
ここまで来ると、子どもは自分で課題を立てられます。
- 「家のみそ汁みたいに、じゃがいもを入れて作りたい。じゃがいもは、いつ入れればいい?」
- 「煮干しのだしで、においが気にならないようにしたい」
- 「具を3種類にして、彩りをよくしたい」
基本の作り方(だしをとる、火の通りにくいものから入れる、みそは最後に入れて煮立てない)は、全員で押さえます。その上で、具の選び方や組み合わせは、班ごとに決める。これなら、安全と時間の範囲で、子どもが課題を立てられます。
④家でもう一度作る
最後に、学校で作ったみそ汁を、家でもう一度作ってみる(できる家庭は)。家の人に感想を聞く。家の人から、「うちはこうしてるよ」という知恵を教わってくる子もいます。
家から学校へ、学校から家へ。審議まとめのいう「生活文化の継承」は、こういう行き来の中で起きるものだと思っています。
ご飯も同じように
米の炊飯も、同じ考え方でできます。「家では炊飯器で炊いているけど、鍋で炊くと何が違う?」。鍋で炊くと、米が水を吸って、ふくらんで、やわらかくなる様子が、ふたのすき間から見える。炊飯器の中で何が起きているかが分かる。
便利な道具の中で、昔からの知恵が生きている。審議まとめの「生活の知恵や工夫が、現代の生活の利便性に繋がっていることを再認識し」は、まさにこれです。
題材の計画のイメージ
「ご飯とみそ汁」を、自分の家の一杯から始めて、子どもが課題を立てる題材にした計画です。教科書によって時数や扱いがちがうので、ここでは10時間ほどの目安で書いています。
| 段階 | 時 | 主な学習 | 中心の問い |
|---|---|---|---|
| 気づく | 1 | 家のみそ汁を調べてきたことを発表し合う | みそ汁は、家によってどうちがう? |
| 知る | 2 | ご飯とみそ汁が、日本の食事の中心だったことを知る | どうして、ご飯とみそ汁なんだろう? |
| 調べる | 3 | 米の炊き方を調べ、鍋での炊飯の手順を知る | 米は、どうやってご飯になる? |
| 実習 | 4〜5 | 鍋でご飯を炊く | 鍋の中で、米はどう変わっていく? |
| 比べる | 6 | だしの有無で味を比べる | だしって、本当にいるの? |
| 計画する | 7 | 班ごとにみそ汁の具とめあてを決め、計画を立てる | 自分たちのみそ汁の、めあては何? |
| 実習 | 8〜9 | みそ汁を作る | めあては、達成できた? |
| 生活へ | 10 | ふり返り、家庭での実践の計画を立てる | 家で作るとしたら、どんなみそ汁にする? |
第1時の「家のみそ汁」と、第10時の「家で作るとしたら」が、題材の入口と出口でつながっています。家から始まって、学校で学び、また家に戻る。本文で書いた「家から学校へ、学校から家へ」の流れを、計画の形にしたものです。
第1時の「家のみそ汁」の調べ方
第1時の前に、家のみそ汁について、簡単な調べ学習をしてきてもらいます。調べることは、三つにしぼります。
- 具は何?
- みその色は?(白っぽい・赤っぽい・その間)
- だしは、何でとっている?(分からなくてもいい)
【配慮:家庭でみそ汁を作らない家、ご飯を食べない家もある。「給食のみそ汁」「お店で食べたみそ汁」「好きなみそ汁」を調べてもよいことにする。家庭の食事を評価したり、比べたりしない】
第1時では、調べてきたことを、黒板の大きな表にまとめます。具の欄、みその色の欄、だしの欄。学級全員分が並ぶと、こんなにちがうのかと、子どもは驚きます。
予想される子どもの声はこんな感じです。
- 「豆腐とわかめが一番多い」
- 「じゃがいもを入れる家もあるんだ」
- 「うちは、赤っぽいみそ。〇〇さんの家は白いみそ」
- 「だしは、分からなかった。お母さんに聞いたら、だしの素って言ってた」
最後に、「どうして、家によってちがうんだろう?」と聞きます。「好みがちがう」「住んでいた場所がちがう」「おばあちゃんから教わった」。生活文化の話が、子どもの言葉の中から出てきます。
第4〜5時の鍋での炊飯
鍋でご飯を炊く実習は、教科書の手順にそって進めます。ここでは、手順の中で子どもに観察させたいことを書いておきます。
- 米を洗う:水の色が変わる様子を見る
- 水に浸す:浸す前と後で、米の色や大きさがどう変わるか比べる(30分ほど浸すと、白っぽくなる)
- 火にかける:ふたのすき間や、耐熱ガラスの鍋の中を見る。泡が出てくる、米が動く
- 沸騰したら火を弱める:音の変化を聞く。ぐつぐつ、ぷつぷつ
- 火を止めて蒸らす:においの変化をかぐ
- ふたを開ける:ご飯の様子を見る、さわる、食べる
透明な耐熱ガラスの鍋が学校にあれば、ぜひ使ってください。鍋の中で、米が水を吸い、ふくらみ、ご飯になっていく様子が見えると、子どもは夢中になります。炊飯器の中で起きていることが、目で見て分かる瞬間です。
【配慮:火を扱うので、やけどに注意する。ガスコンロの扱い方、鍋の持ち方を事前に確かめる。調理実習は、学校の衛生管理のきまりに従う】
第6時の「だし」の比べ方
だしを比べる時間は、本文で書いた流れをもう少し細かくしておきます。
- ただのお湯にみそをといたものを、少し味見する
- 煮干しでとっただしにみそをといたものを、少し味見する
- だしの素で作っただしにみそをといたものを、少し味見する
- 三つのちがいを、言葉で表す
味のちがいを言葉で表すのは、案外難しいです。手がかりとして、こんな言葉を示しておきます。
- 味:「しょっぱい」「うすい」「こい」「深い」「さっぱり」
- におい:「魚っぽい」「いいにおい」「においが強い」
- 感じ:「ほっとする」「もの足りない」「家の味に近い」
子どもからは、こんな声が出てくると思います。
- 「お湯だけだと、みその味しかしない」
- 「煮干しの方が、においが強いけど、味が深い」
- 「だしの素は、家の味に近い」
本文で書いた通り、どれが正解というわけではありません。「それぞれのよさがある」ことに気づければ十分です。そして、「自分たちのみそ汁には、どのだしを使いたい?」と聞くと、班のめあてを立てる手がかりになります。
【配慮:アレルギーの確認、味見の量、衛生管理は、学校のきまりに従う】
第7時の計画シート
班のみそ汁の計画では、こんな計画シートを使います。
- 班のめあて:(例)家のみそ汁みたいに、じゃがいもを入れて作る
- だし:煮干し・かつお節・だしの素(どれを使う?なぜ?)
- 具:二〜三種類(火の通りやすさを考えて、入れる順番も書く)
- みそ:何色のみそを使う?
- 手順:だしをとる→火の通りにくい具から入れる→みそをとく→煮立てない
- 役割分担:誰が、何をする?
「具を入れる順番」を考える欄が、大事なところです。じゃがいもや大根は火が通りにくいので、先に入れる。わかめや豆腐は火が通りやすいので、あとで入れる。理由を考えて順番を決めると、調理の手順が「覚えるもの」から「考えて決めるもの」に変わります。
先生は、計画シートを事前に確認して、材料の準備や安全面で無理がないかを見ておきます。子どもが立てた課題を大事にしながら、実習の時間内にできるかどうかを、一緒に確かめておくことも必要です。
板書のイメージ
第1時の板書は、黒板全体を使って、学級全員のみそ汁の表を作ります。そして、表の右に「どうしてちがう?」と書き、子どもの考えを書いていきます。
第6時の板書は、黒板を三つに分けて、お湯、煮干しのだし、だしの素のそれぞれの感想を書きます。子どもの言葉を、味・におい・感じの三つに分けて書くと、ちがいが整理されて見えます。
つまずきやすいところと手立て
- 家のみそ汁を調べてこられなかった子:給食のみそ汁を観察する時間をとります。給食の献立表を見て、具やだしを確かめることもできます。
- めあてが立てられない班:第1時の学級のみそ汁の表を見せて、「どの家のみそ汁を、まねしてみたい?」と聞きます。友達の家のみそ汁から、めあてが生まれることもあります。
- 包丁を使うのが不安な子:具の切り方を、ちぎる(わかめ)、手で崩す(豆腐を手のひらで切る場合は安全に注意する)など、包丁を使わない方法でもできるものから始めます。
- 調理の手順が覚えられない子:手順を写真つきのカードにして、調理台に置いておきます。
評価の目安
この題材の「思考・判断・表現」は、第7時の計画と、第10時のふり返りで見ると、ねらいに合っています。
- 十分にできている:だしや具の選び方、入れる順番に理由をもって計画を立てている。実習のあと、計画と結果を比べて、次に生かしたいことを具体的に考えている
- おおむねできている:計画は立てられているが、選んだ理由はまだ十分に説明できない
- もう一歩:班のめあてにそって計画を立てることが、まだ難しい
家庭での実践は、できる家庭とできない家庭があるので、評価に入れないようにしています。実践できた子には、家の人の感想を聞いてきてもらい、学級で紹介すると、家から学校へ、学校から家へのつながりが、学級全体に広がっていきます。
よくある質問
Q. 子どもに課題を立てさせると、実習の準備が大変になりませんか?
具の種類を、先生があらかじめ五〜六種類に決めておき、その中から選ぶ形にすると、材料の準備がしやすくなります。だしも、煮干しとかつお節の二種類くらいにしぼります。選べる範囲を決めておけば、子どもが課題を立てることと、準備の負担のバランスがとれます。
Q. 調理実習の時間が足りません。
みそ汁の実習は、ご飯の実習と分けて行うと、それぞれに時間をかけられます。ご飯とみそ汁を同時に作る実習は、両方を一度経験したあとの、まとめの実習として位置づけるのもいいと思います。
Q. 和食以外の家庭のことは、どう扱いますか?
家庭の食事は、和食だけではありません。外国にルーツのある家庭では、ちがう料理が日常の食事になっていることもあります。「家のスープは、どんなスープ?」と、みそ汁に限らない形で聞くと、どの子も自分の家のことを話しやすくなります。いろいろな家庭の食事を知ること自体が、生活文化を学ぶことにつながります。
Q. 家庭科の時数が少なく、題材の最後の家庭実践まで手が回りません。
家庭実践は、夏休みや冬休みの課題にする方法もあります。休みの間に、家でご飯を炊くか、みそ汁を作るか、どちらか一つを選んでやってみる。休み明けに、家の人の感想を一言聞いてくるだけでも、学校と家庭がつながります。
連載を終えて
31回にわたって、審議まとめの中身を、実際の教材に当てはめてきました。
書いていて思ったのは、審議まとめが言っていることの多くは、今の教科書でもできるということです。読む単元と書く単元をつなげる。つまずきを早めに拾う。一つの教材を2時間かけて深める。子どもが課題を立てる。どれも、来年の4月を待たずに、明日の授業で少しずつ始められます。
次の学習指導要領は、「新しいことを始めなさい」というより、「今あるものを、もう一度見直して、つなげて使って」と言っているように、私には読めました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
まとめ
- 審議まとめは、家庭科の問題解決的な学習で「教師主体の課題設定」になっている現状を課題とし、生活文化の継承と創造を図る内容の充実を示している
- 「ご飯とみそ汁」は、自分の家の一杯から始め、だしの有無を味で比べ、具の選び方を班で決めると、子どもが課題を立てる単元になる
- 家から学校へ、学校から家へ。その行き来が生活文化の継承になる
参考
- 中央教育審議会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)第2部第2章「家庭」p.222、p.225、p.230 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/gaiyou/1292164_00001.htm
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」家庭 第5学年及び第6学年 B衣食住の生活(2)・(3)
- 関連記事:連載「次期学習指導要領を読む」#1〜#34


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