【先生1年目のこと #5】先生の余裕がなくなると、クラスは荒れる 自分を守ることも学級経営のうち

先生という仕事

「子どもは教員に似るよ」

1年目の私に、尊敬する先生がかけてくれた言葉です。

その年、私の教室は荒れていました。時間割はうまく立てられない、提出物は間に合わない、土日も学校に行く。そんな毎日の中で、子どもたちは少しずつ落ち着かなくなっていきました。7月には、退職願を書きました。出しはしませんでしたが、本気でした。

今振り返ると、教室が荒れた理由ははっきりしています。先生である私に、余裕がなかったからです。余裕がないから、子ども一人ひとりとしっかり向き合えていなかった。そして余裕がなかったのは、力の抜き方が分かっていなかったからです。

先に結論を書きます。先生が自分の心と体を守ることは、わがままではありません。学級経営の一部です。 先生の余裕は、そのまま教室の空気になります。

この記事では、余裕がなくなると教室で何が起きるのか、そして、どうすれば一人で抱え込まずにいられるのかを書いてみます。

余裕がなくなると、教室で何が起きるか

声が大きくなる、表情がかたくなる

余裕がないとき、先生の様子は少しずつ変わります。自分では気づかないうちに、です。

  • 声が大きくなる、きつくなる
  • 笑顔が減り、表情がかたくなる
  • 子どもの話を最後まで聞けなくなる
  • 「早くして」「ちゃんとして」が口ぐせになる
  • 小さなことで叱るようになる

1年目の私は、まさにこの状態でした。授業の準備が終わっていない、連絡帳の返事も書けていない、明日の行事の段取りも分からない。そんな気持ちのまま教室に立つと、子どもの小さな行動が、すべて「自分の邪魔をするもの」に見えてしまうのです。

子どもの小さなサインを見逃す

余裕がないと、子どもの小さなサインにも気づけなくなります。

いつもより元気がない子。友だちの輪から少し外れている子。ノートの字が急に乱れてきた子。余裕があるときなら「あれ?」と気づけることが、目に入らなくなります。

シリーズの#3で書いたように、学級崩壊はある日突然起きるわけではありません。小さなサインが積み重なった先に起きます。そのサインに気づけるかどうかは、先生の目の余裕にかかっています。

子どもの落ち着かなさが、また先生の余裕を奪う

いちばんつらいのは、ここから悪循環が始まることです。

先生に余裕がない → 子どもが落ち着かなくなる → 対応に追われて、さらに余裕がなくなる → 子どもがもっと落ち着かなくなる……。

この輪の中にいるとき、人は「もっと頑張らなければ」と考えがちです。もっと早く学校に来て、もっと遅くまで残って、もっと厳しく指導して。私もそうでした。でも、それでは輪はさらに速く回るだけでした。

この輪を止めるには、どこかで先生が余裕を取り戻すしかありません。そして、そのためには「頑張る」とは逆の方向、つまり「力を抜く」「人に頼る」ことが必要なのです。

データで見る、先生のこころ

20代で精神疾患により休職した先生は1,310人

文部科学省の「令和6年度公立学校教職員の人事行政状況調査」によると、令和6年度に精神疾患で休職した公立学校の先生は7,087人でした。全国の教育職員の0.77%にあたります。

そのうち、20代の先生は1,310人です。教員になって数年の、まだ若い先生たちが、これだけの人数、心の不調で教壇を離れています。

また、シリーズの#1でも紹介しましたが、令和6年度に採用された先生のうち、1年目を終えて正式採用にならなかった人は897人。そのうち321人は、精神疾患が理由の退職でした。

休職の要因は「指導そのもの」「人間関係」「事務仕事」

同じ調査では、精神疾患による休職の要因として多かったものが挙げられています。

  1. 児童生徒に対する指導そのものに関すること
  2. 職場の対人関係(上司、同僚など)
  3. 校務分掌や調査対応など、事務的な業務に関すること

いちばん多いのが「子どもへの指導そのもの」だというのは、とても重い事実です。子どもが好きで教員になった人ほど、教室がうまくいかないことに深く傷つきます。そして、それを自分の力不足だと思い込んでしまいます。

でも、ここまで読んでくださった方なら分かると思います。教室がうまくいかないのは、先生の力不足だけが原因ではありません。余裕を失うほどの仕事量や、相談しにくい環境も、大きく関わっています。

しんどさのサインに気づく

自分の体と心が出しているサイン

心の不調は、ある日突然やってくるわけではありません。多くの場合、その前に体や心がサインを出しています。

  • 夜、なかなか眠れない。または、朝早くに目が覚めてしまう
  • 休みの日も、学校のことが頭から離れない
  • 日曜日の夜になると、気持ちが重くなる
  • 朝、学校に向かう足が重い。玄関でしばらく動けない
  • 好きだったことが楽しめなくなった
  • 食欲がない、または食べすぎてしまう
  • 涙もろくなった、ちょっとしたことでいらいらする

1年目の私は、日曜日の夜がとにかくつらかったです。テレビを見ていても、明日の授業のことが頭から離れない。眠ろうとしても、教室の場面が浮かんでくる。今思えば、あれは明らかに「休んだほうがいい」というサインでした。

こうしたサインがいくつも続くときは、我慢を続けないでください。早めに誰かに話すこと、必要なら医療機関に相談することが大切です。

自分で気づきにくいときは、周りに聞いてみる

しんどいときほど、自分の状態には気づきにくいものです。「まだ大丈夫」「みんな頑張っているから」と思ってしまうからです。

そんなときは、信頼できる人に「最近の私、どう見える?」と聞いてみてください。家族、友だち、同期、学年の先生。周りの人のほうが、あなたの変化に先に気づいていることがあります。

毎日できる小さなセルフケア

大きなことをする必要はありません。毎日の中でできる、小さなことから始めてみてください。

「今日はここまで」の終わりの時刻を決める

まずは、帰る時刻を決めることです。その時刻になったら、仕事が途中でも手を止めます。

最初は不安になるかもしれません。でも、教員の仕事は、やろうと思えば終わりがありません。「全部終わったら帰る」では、いつまでたっても帰れないのです。

明日の授業は、「これだけできれば大丈夫」というラインまで準備したら終わりにします。完璧な準備より、よく眠って笑顔で教室に立つことのほうが、子どもたちにとってはずっと大切です。

できたことを3つ書いてから帰る

うまくいかない日が続くと、頭の中は「できなかったこと」でいっぱいになります。だからこそ、意識して「できたこと」を3つ書いてから帰るようにしてみてください。

  • 朝、全員の顔を見てあいさつできた
  • 〇〇さんが音読で手を挙げてくれた
  • 手紙を配り忘れなかった

こんな小さなことで十分です。書き出してみると、思っていたよりも「できていること」があることに気づきます。

休みの日に、学校から離れる時間をつくる

休みの日に、学校の連絡やメールを見ない時間をつくりましょう。一日中が難しければ、半日だけでもかまいません。

私自身、今は休みの日に音楽や運動など、学校とはまったく関係のないことをする時間を大切にしています。教室のことを考えない時間があるからこそ、月曜日にまた子どもたちの前に立てるのだと思います。

体を整えることを、後回しにしない

眠ること、食べること、少し体を動かすこと。当たり前のことですが、忙しいときほど真っ先に削られます。

特に睡眠は、削っていいものではありません。眠らずにつくった授業より、しっかり眠ってから教室に立つ授業のほうが、子どもにはよく届きます。

一人で抱えないための相談先

学校の中で頼れる人

まずは、学校の中に「話せる人」を一人見つけてください。

  • 学年の先生:同じ子どもたちを知っているので、具体的な相談がしやすい
  • 同期・年の近い先輩:同じ悩みを持っていることが多く、気持ちを分かってもらいやすい
  • 養護教諭:子どものことだけでなく、先生の体調の相談にものってくれることがある
  • 管理職:仕事の量や役割の調整は、管理職にしか決められないことも多い

管理職に相談するのは、少し勇気がいるかもしれません。でも、管理職の大切な仕事の一つは、先生たちが働き続けられるようにすることです。「しんどいです」と伝えることは、決して迷惑ではありません。

学校の外の相談窓口

学校の中では話しにくいこともあります。そんなときは、学校の外の窓口も使えます。

  • 公立学校共済組合の相談窓口:公立学校の先生が加入している共済組合では、支部ごとに電話やWebでの心の相談窓口を設けています。お住まいの都道府県の支部のページや、職場で配られている案内を確認してみてください。
  • 各自治体の教育委員会の相談窓口:教職員向けのメンタルヘルス相談を設けている教育委員会もあります。
  • 厚生労働省「こころの耳」:働く人のためのメンタルヘルスのサイトです。電話・SNS・メールで相談できる窓口が案内されています。https://kokoro.mhlw.go.jp/

眠れない日が続く、食事がとれない、気持ちの落ち込みが長く続くといったときは、迷わず医療機関も頼ってください。早めに相談することは、弱さではなく、自分と子どもたちを守るための判断です。

余裕を取り戻すと、クラスはどう変わるか

1年目の私が少しずつ立ち直れたのは、周りの先生と、子どもたちのおかげでした。

学年の先生に「全部やらなくていいよ」と言われて、やることを減らしました。帰る時刻を決めて、土日に学校へ行くのをやめました。すると、少しずつ、子どもの話を最後まで聞けるようになりました。子どもの小さな変化に、また気づけるようになりました。

不思議なことに、私が少し落ち着くと、教室も少し落ち着いていきました。「子どもは教員に似るよ」という言葉の意味が、そのとき初めて分かった気がします。

先生の余裕は、子どもたちにちゃんと伝わります。先生が笑っている教室では、子どもたちも安心して笑えます。だからこそ、先生が自分を大切にすることは、子どもたちを大切にすることと同じなのです。

心が軽くなるひと言

もし今、あなたが「もう無理かもしれない」と感じているなら、それはあなたが弱いからではありません。それだけ一生懸命に、子どもたちと向き合ってきたからです。

がんばりすぎている人ほど、「休む」ことに罪悪感を持ちます。でも、休むことも、頼ることも、先生の大切な仕事の一つです。

あなたが元気でいることが、教室にとっていちばんの支えになります。どうか、自分のことも、子どもたちと同じくらい大切にしてあげてください。

次回の#6では、授業づくりの不安を減らすための教材研究のやり方を紹介します。

シリーズ「先生1年目のこと 困った、を一人で抱えない」

参考にした資料

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