授業中、先生はずっと何かしゃべっています。録音して聞き直すと、自分でもびっくりするくらいです。でも、その言葉を種類ごとに分けて考えたことは、案外少ないのではないでしょうか。
授業で先生が子どもに向ける言葉は、大きく「発問」「指示」「説明」の3つに分けられます。この3つは、似ているようで役割がまったく違います。役割を分けて使えるようになると、授業の45分がぐっと引きしまります。
この記事では、まず3つの言葉の定義をはっきりさせて、そのあとで混ざりやすい場面と、使い分けのコツを書いていきます。
3つの言葉の定義
「発問」とは
発問は、子どもに考えさせるために、先生が意図をもって投げかける問いのことです。
ふだんの会話の「質問」とは、ここが違います。質問は、聞く人が答えを知らないから聞くものです。「駅はどこですか?」と聞く人は、駅の場所を知りません。
一方で発問は、先生が答えや考えてほしい方向をある程度もったうえで、子どもに考えさせるために問います。「ごんは、なぜくりを届けたのでしょう」と聞く先生は、子どもに教えてほしくて聞いているわけではありません。子どもが本文を読み返し、考え、言葉にする。そのきっかけとして問うのが発問です。
発問の中にも種類があります。答えが一つに決まる「確かめる発問」、いろいろな考えが出る「広げる発問」、考えをしぼったり比べたりする「深める発問」などです。ただ、どれも「子どもに考えさせる」という目的は同じです。
「指示」とは
指示は、子どもに具体的な行動をさせるための言葉です。
「教科書の12ページを開きましょう」「ノートに自分の考えを3行で書きましょう」「となりの人と2分間話しましょう」。こうした言葉が指示です。
指示のポイントは、聞いた子どもが「何をすればいいか」がすぐ分かることです。考えさせる言葉ではなく、動かす言葉。だから、指示はできるだけ短く、一つずつ出すのが基本です。
「説明」とは
説明は、子どもに分かってもらうために、先生が知識ややり方、考え方を伝える言葉です。
「段落というのは、文章の中の内容のまとまりのことです」「このグラフは、横じくが年、たてじくが人数を表しています」。こうした言葉が説明です。
説明は、子どもが自分で考えても分からないこと、知らないと先に進めないことを伝えるときに使います。「子どもに考えさせる授業」がよいと言われる中で、説明はなんとなく悪者にされがちです。でも、知らないことは考えようがありません。必要な説明を、必要な分だけ、分かりやすくする。これも先生の大事な仕事です。
3つを並べてみる
表にすると、違いがはっきりします。
| 発問 | 指示 | 説明 | |
|---|---|---|---|
| 目的 | 考えさせる | 動かす | 分からせる |
| 子どもがすること | 考える・答える | 行動する | 聞いて理解する |
| 言葉の形 | 「〜でしょう」「なぜ〜」 | 「〜しましょう」「〜してください」 | 「〜です」「〜ということです」 |
| よい言葉の条件 | 考える方向が分かる | 何をするかがすぐ分かる | 短く、例があって分かりやすい |
| 多すぎると | 子どもが疲れる・迷う | 子どもが受け身になる | 子どもが聞かなくなる |
こうして並べると、3つの言葉は、そもそも子どもに求めていることが違うのが分かります。発問は頭を、指示は体を、説明は耳を使わせる言葉、と言ってもいいかもしれません。
混ざると何が起きるか
授業がなんとなくうまくいかないとき、この3つが混ざっていることがよくあります。代表的なものを3つあげます。
発問と指示が一つの文に入っている
「主人公の気持ちが変わったところを探して、なぜ変わったのか考えて、ノートに書いて、となりの人と話しましょう」
これは、指示が4つと発問が1つ、まとめて出ている状態です。言っている先生は一続きのつもりですが、聞いている子どもは途中で分からなくなります。ノートを開いた子が「何を書くんだっけ?」と顔を上げる。よく見る光景です。
この場合は、分けて出すだけでかなり変わります。
- 「主人公の気持ちが変わったところに、線を引きましょう」(指示)
- 全員が引けたのを確かめる
- 「なぜ、ここで気持ちが変わったのでしょう」(発問)
- 「考えたことを、ノートに2行で書きましょう」(指示)
一つ出して、子どもが動いたのを見てから次を出す。たったこれだけです。
説明が発問のふりをしている
「段落って、何だと思う?」と聞いておきながら、子どもが答える前に「そう、内容のまとまりのことだよね」と先生が言ってしまう。
これは、形は発問ですが、中身は説明です。子どもは、少し待てば先生が答えを言うことを学んでしまいます。そうなると、本当の発問にも手が挙がらなくなります。
知っていてほしいことは、最初から説明として伝えたほうが誠実です。問うなら、子どもが考えて答えるまで待つ。このどちらかに決めます。
指示が足りないまま発問している
「この物語でいちばん大事な場面はどこでしょう」と聞いたのに、教室がしーんとする。
この場合、発問そのものが悪いのではなく、考えるための指示が抜けていることが多いです。教科書のどこを見ればいいのか、一人で考えるのか友達と話すのか、何分考えるのか。それが分からないから、子どもは動けません。
「教科書の20ページから25ページを見ます。いちばん大事だと思う場面に、付箋を一枚はりましょう。時間は3分です」と、指示を先に出してから発問すると、子どもは考え始めることができます。
使い分けのコツ
授業の前に、言葉を書き出しておく
いちばん効くのは、授業の前に、発問と指示を書き出しておくことです。特に、その時間の中心になる発問は、一字一句まで決めておきます。
学習指導案に「主な発問」を書く欄があるのは、そのためです。研究授業のときだけでなく、ふだんの授業でも、中心の発問だけはノートの端に書いておく。私はそれだけで、授業の芯がぶれにくくなると思っています。
指示は「一度に一つ」「短く」「動きが見える」
指示は、一度に一つ。長くても二つまでにします。
それから、子どもが動いたかどうかが先生から見える指示にすると、次の指示を出すタイミングがつかみやすくなります。「考えましょう」は動きが見えませんが、「考えたら鉛筆を置きましょう」なら見えます。
説明は「短く」「例を一つ」「板書と一緒に」
説明は、長くなるほど伝わらなくなります。まず結論を一言で言い、例を一つ出し、黒板に残す。これが基本の形です。
説明のあとに「では、確かめてみましょう」と短い発問か作業を入れると、子どもが本当に分かったかどうかが見えます。
3つの割合を意識する
1時間の中で、先生の言葉のうち発問・指示・説明がどのくらいずつかを意識してみてください。
説明ばかりの日は、子どもがずっと聞いているだけになります。発問ばかりの日は、子どもがずっと考え続けて疲れてしまいます。指示ばかりの日は、作業は進んでも何を学んだかが残りません。
どれが正解というわけではありませんが、自分の授業を録音して数えてみると、くせが見えてきます。私は、説明が長くなるくせに気づいて、それから黒板の前でしゃべる時間を意識して短くするようにしています。
教科ごとの例で見る3つの言葉
言葉の定義だけだとイメージしにくいので、教科ごとに、1時間の中で3つの言葉がどう出てくるかを並べてみます。
国語(物語文を読む時間)
- 説明:「今日は、登場人物の気持ちが変わったところを読みます。気持ちが変わるところには、たいてい、きっかけになる出来事があります」
- 指示:「3場面を、一人で声に出さずに読みましょう。読み終わったら教科書を閉じます」
- 発問:「3場面の最初と最後で、主人公の気持ちはどう変わりましたか」
- 指示:「変わったと思うところに線を引き、その横に、どんな気持ちかを一言で書きましょう」
- 発問:「気持ちが変わったきっかけは、何でしょう」
説明で読み方の見通しを伝え、指示で全員を本文に向かわせ、発問で考えさせる。この順番で並ぶと、子どもは迷いません。
算数(文章題の時間)
- 発問:「この問題で、分かっていることは何でしょう。聞かれていることは何でしょう」
- 指示:「分かっていることに青で線、聞かれていることに赤で線を引きましょう」
- 発問:「どんな式になりそうですか。なぜその式になるのか、図で説明できますか」
- 説明:「みんなが出してくれた図は、どれも『全体を同じ数ずつに分ける』ことを表しています。これをわり算と言います」
算数では、子どもが考えたあとに、先生が言葉を整理して説明する場面がよくあります。考えたことに名前をつける説明です。
体育(マット運動の時間)
- 指示:「4人で1グループ。マットを2枚並べて、準備ができたらグループで座りましょう」
- 説明:「前転は、手をついて、おへそを見るように頭を入れると、背中から順番にマットにつきます」
- 指示:「一人2回ずつ。見ている人は、頭が入っているかどうかを見ましょう」
- 発問:「きれいに回れた人と、そうでない人は、どこが違いましたか」
体育は、安全のために指示が多くなる教科です。だからこそ、発問を一つ入れると、子どもが「見る」「比べる」時間が生まれます。
自分の授業の言葉を点検する方法
授業の言葉は、自分ではなかなか気づけません。おすすめなのは、次の3つです。
一つ目は、授業を録音して、5分間だけ聞き直すことです。45分全部を聞くのは大変なので、導入の5分だけで十分です。発問・指示・説明に分けてメモすると、「指示を出したあとに、もう一回言い直している」「説明が思ったより長い」など、くせが見えてきます。
二つ目は、子どもの動きを見ることです。指示のあとに「先生、何するの?」と聞く子が多ければ、指示が長いか、二つ以上入っています。発問のあとに手が挙がらなければ、問いがぼんやりしているか、考える材料が足りていません。子どもの動きは、先生の言葉の鏡です。
三つ目は、同僚に一つだけ見てもらうことです。「今日の指示、分かりにくいところがあったら教えて」と、見てほしいところを一つにしぼって頼むと、相手も見やすくなります。
板書やワークシートでも分けておく
先生の言葉は、話すだけでなく、黒板やワークシートにも書かれます。ここでも3つを分けておくと、子どもが見て分かりやすくなります。
たとえば黒板なら、中心の発問は短冊や色チョークで目立たせ、説明したことは「まとめ」として残し、指示は黒板の端に番号つきで書いておく。ワークシートなら、問いの文と作業の文の書き方をそろえる。「〜でしょう」は考える問い、「〜しましょう」はする作業、と決めておくだけでも、子どもは迷いにくくなります。
指示を黒板に書いておくと、話を聞き逃した子も自分で確かめられます。特に、聞くことが苦手な子にとっては、見て分かる指示は大きな助けになります。
よくある質問
「発問」と「質問」は、同じ意味で使ってもいいですか?
日常会話なら気にしなくても大丈夫です。ただ、学習指導案や研究会では「発問」と書くのが一般的です。先生が答えを知っていて、考えさせるために問うものを「発問」と呼び、子どもが分からないことを先生に聞くものを「質問」と呼び分けると、話がかみ合いやすくなります。
「助言」は、どこに入りますか?
助言は、子ども一人一人やグループに向けて、考えを進めるために先生がかける言葉です。「その考えの理由は、本文のどこに書いてある?」のように発問の形をとることもあれば、「最初の段落をもう一度読んでごらん」のように指示の形をとることもあります。全体に向けた3つの言葉とは別に、個別に向けた言葉として整理しておくと分かりやすいと思います。
子どもに「考えなさい」と言うのは、指示ですか、発問ですか?
「考えなさい」だけでは、何を考えるのかが分からないので、発問にも指示にもなっていません。「何を」考えるのかが発問、「どうやって」「どのくらいの時間で」考えるのかが指示です。「考えなさい」と言いそうになったら、この2つに分けてみてください。
学習指導案では、どう書き分けるか
学習指導案の「本時の展開」には、学習活動、先生の働きかけ、留意点などを書く欄があります。ここでも3つの言葉を分けて書くと、読む人に授業の流れが伝わりやすくなります。
よく見かけるのは、先生の働きかけの欄に「〜について考えさせる」「〜を確認する」とだけ書いてある指導案です。これだと、先生が実際に何と言うのかが分かりません。発問なら「 」に入れて実際の言葉で書く、指示なら「何を・どのくらい・どうやって」を書く、説明なら「何を説明するか」を一言で書く。こう決めておくと、指導案を書きながら、自分の授業の言葉を点検することにもなります。
特に中心の発問は、指導案の中で一つだけ目立つように書いておくと、参観する人も「この時間はここが勝負なんだな」と分かります。参観した先生と話すときも、「あの発問のあと、子どもはどう動いたか」という具体的な話ができるようになります。
子どもにも「今のは何か」を伝える
3つの言葉の違いは、先生だけが知っていればいいわけではありません。高学年なら、子どもにも伝えてしまってかまわないと思っています。
「今から言うのは『やること』です」「今から聞くのは『考えること』です。すぐに答えなくていいです」。こう前置きするだけで、子どもは聞き方を切りかえられます。特に「考えること」の前置きは、すぐに答えが言えない子を安心させます。考える時間がもらえると分かれば、慌てずに本文に戻ることができるからです。
説明のときも同じです。「ここは大事なので、先生が説明します。あとで確かめます」と言えば、子どもは聞く構えをつくれます。そう、子どもは、何を求められているかが分かれば動けるのです。
まとめ
発問は、子どもに考えさせるための問い。
指示は、子どもを動かすための言葉。
説明は、子どもに分かってもらうための言葉。
この3つは、目的も、子どもに求めることも違います。授業がもたつくときは、3つが混ざっていないかを疑ってみてください。分けて、一つずつ、短く出す。それだけで、子どもの動きが変わります。
まずは明日の授業の中心の発問を、一文だけ書き出すところから始めてみてはいかがでしょうか。


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