3年生から始まる保健。最初の単元は「毎日の生活と健康」です。健康な生活には、1日の生活の仕方(運動・食事・休養と睡眠)、体の清潔、身の回りの環境(明るさの調節、換気など)が関わっている。4時間ほどの短い単元です。
正直、この単元、ちょっと扱いが軽くなりがちじゃないですか?体育の時間の雨の日に、教室で保健をやる。教科書を読んで、ワークシートを埋めて、「早寝早起き朝ごはんが大事だね」で終わる。
審議まとめは、保健について、「知っている」と「行動できる」の間にある溝を、はっきり課題にしています。
審議まとめが書いている保健の課題
審議まとめは、学習指導要領実施状況調査の結果として、保健について、こう書いています。
保健では、身近な生活における健康・安全に関する基礎的な内容の理解のスコアは高い一方で、日常生活において認識しにくい内容(小学校における例:保健所の取組等)に関する理解や、健康の概念やそれに関する原則と具体的な行動等を結び付けることには課題がある。
つまり、「早寝早起きが大事」は知っている。でも、なぜ大事なのか、そして自分の生活でどうするかに結びついていない。
「概念」と「原則」
そこで審議まとめは、保健を学ぶ意義について、単に知識を集めることではなく、健康などに関する概念やそれに関わる原則を習得することで、生涯にわたる健康・安全に関わる課題について適切に意思決定や行動選択する力を育み、未知の健康課題にも対応できる柔軟で持続的な資質・能力を身に付けることが期待される、としています。
そして、「概念」と「原則」を、こう整理しています。
- 概念:ある事柄について、どのような要素が関連して当該事象が発生等しているのかを表すもの
- それに関わる原則:ある事柄について、どのような働きかけ等を行うことで望ましい結果を導くことができるのかを表すもの
ちょっと難しいですね。3年生の「毎日の生活と健康」に当てはめると、私はこう読んでいます。
- 概念:健康は、「運動」「食事」「休養・睡眠」「清潔」「環境」などのいろいろな要素が組み合わさって決まっている
- 原則:だから、そのバランスを整えるように自分で生活を調整すれば、健康な状態に近づける
「早寝早起き朝ごはん」は、この原則の一つの「例」にすぎません。大事なのは、例を覚えることではなく、要素の組み合わせで考えること、そして自分で調整することです。
授業で足したいこと
①「なぜ?」をつなげる
「睡眠が足りないと、どうなる?」「朝、眠い」「朝ごはんが食べられない」「授業中に集中できない」「休み時間に遊ぶ元気がない」。
一つの要素が崩れると、ほかの要素にも影響する。黒板に矢印でつないでいくと、子どもは「全部つながってる!」と気づきます。これが「概念」、つまり要素の関連です。
②自分の1日を見直す
自分の1日の生活を、簡単な表にします。起きた時間、朝ごはん、運動、寝た時間。
ここで大事なのは、よい・悪いを判定しないことです。家庭の事情で、朝ごはんを食べられない子もいます。寝る時間が遅くなる事情がある子もいる。表を見て先生が「これはだめ」と言うのではなく、子どもが自分で「ここを一つ変えるなら?」を考える。
③一つだけ「やってみる」を決める
最後に、一つだけ「やってみる」ことを決めます。「寝る前のゲームを10分短くする」「朝、カーテンを開ける」「休み時間に外に出る」。
そして、1週間後に、どうだったかをふり返る。これが「原則」、つまり自分で調整してよい結果を導く経験です。審議まとめのいう「具体的な行動等を結び付ける」は、こういうことだと思っています。
体育と保健をつなぐ
審議まとめは、体育科・保健体育科の目標を、体育・保健で分けず、教科として一つで示すとしています。そして、「心と体を一体として捉え体育・保健の関連を図りながら指導することが重要」としています。
「毎日の生活と健康」は、体育の時間とつなげやすい単元です。体育の後、「体を動かした後、どんな感じ?」「よく眠れそう?」と一言聞くだけで、保健で学んだ「運動と休養のつながり」が、体の感覚として分かります。
体ほぐしの運動(以前の記事で書きました)も、心と体のつながりに気づく活動です。保健の知識と、体育の体験を、行ったり来たりさせる。
環境の話も忘れずに
この単元には、明るさの調節や換気など、「身の回りの環境」も入っています。ここも「覚える」になりがちですが、教室で実際にやってみると変わります。
「今日、窓を開けてみよう。休み時間の前と後で、教室の空気はどう違う?」。換気の大切さを、体で感じる。審議まとめの「日常生活において認識しにくい内容」の課題は、こういう体で確かめる経験で少しずつ埋められると思っています。
単元計画のイメージ
3年生の保健「毎日の生活と健康」は、4時間ほどの短い単元です。「概念」と「原則」を意識した4時間の流れを、目安として書いておきます。
| 時 | 主な学習 | 中心の問い |
|---|---|---|
| 1 | 「健康な状態」とはどんな状態かを考え、健康に関わる要素を出し合う | 元気なときと、元気がないときは、何がちがう? |
| 2 | 1日の生活の仕方(運動・食事・休養と睡眠)と健康のつながりを考える | 一つが崩れると、ほかはどうなる? |
| 3 | 体の清潔と、身の回りの環境(明るさ・換気)を考える | 体のまわりのことも、健康に関係ある? |
| 4 | 自分の1日を見直し、「やってみる」を一つ決める | 自分の生活で、一つ変えるなら? |
第1時と第2時で「概念」(健康は、いろいろな要素の組み合わせで決まる)をつかみ、第4時で「原則」(自分で調整すれば、健康に近づける)を経験する、という流れです。そして、単元が終わってから1週間後に、「やってみる」のふり返りの時間を、学級活動などで10分ほどとります。
第1時の流れ 「元気なときと、元気がないときは、何がちがう?」
導入(5分):「今日、元気な人?」と聞いて、手を挙げてもらいます。そして、「どうして元気なの?」と聞きます。「よく寝たから」「朝ごはんを食べたから」「今日は体育があるから」。いろいろな理由が出てきます。
個人で考える(10分):「元気なとき」と「元気がないとき」の自分の様子を、ワークシートの左右に書きます。
- 元気なとき:「体が軽い」「友達と遊びたくなる」「勉強に集中できる」
- 元気がないとき:「体がだるい」「眠い」「おなかが痛い」「いらいらする」
グループで話す(15分):「元気がないのは、どんなことが原因?」を出し合います。予想される子どもの声はこんな感じです。
- 「夜ふかしした次の日」
- 「朝ごはんを食べなかった日」
- 「ずっとゲームをしていた日」
- 「かぜをひいたとき」
- 「友達とけんかしたとき」
最後の「友達とけんかしたとき」は、心の健康の話です。3年生の段階でも、心と体のつながりに気づく子はいます。審議まとめが「心と体を一体として捉え」と書いていることにつながる、大事な気づきです。
全体で整理する(10分):出てきた原因を、黒板で仲間分けします。「ねること」「食べること」「動くこと」「体をきれいにすること」「まわりのこと」「心のこと」。この仲間分けが、健康に関わる「要素」になります。
まとめ(5分):「健康は、いろいろなことが組み合わさって決まっている」とまとめて、ノートに一言書いて終わります。
第2時の「つながりの図」
第2時は、本文の「なぜ?をつなげる」の時間です。黒板の真ん中に「睡眠が足りない」と書き、そこから子どもの考えを矢印でつないでいきます。
- 睡眠が足りない → 朝、眠い → 朝ごはんが食べられない → 午前中に元気が出ない
- 睡眠が足りない → 授業中に集中できない → 勉強が分からなくなる → いらいらする
- 睡眠が足りない → 休み時間に遊ぶ元気がない → 運動が足りない → 夜、眠れない
三つ目の矢印は、ぐるっと回って、最初の「睡眠が足りない」に戻ってきます。この「ぐるっと回る」に気づくと、子どもは「つながってる!」と驚きます。一つの要素が崩れると、ほかの要素にも影響して、また最初に戻ってくる。これが、健康の「概念」を目で見える形にしたものです。
同じように、「朝ごはんを食べない」「運動しない」から始まる矢印も、グループで作ってみます。どこから始めても、いろいろな要素につながっていくことが分かります。
第3時の換気の体験
身の回りの環境の学習は、教室で実際に体験すると、ぐっと分かりやすくなります。
明るさの体験:教室のカーテンを閉め、電気を消して、教科書の文字を読んでみます。「読みにくい」「目が疲れる」。次に、カーテンを開け、電気をつけて読みます。明るさが、目や体に関係していることが、体で分かります。
換気の体験:休み時間の前に、教室の窓を閉めておきます。休み時間のあと、教室に入ったときの空気の感じを確かめます。「なんか、もわっとする」。窓を開けて5分ほど換気したあと、もう一度確かめます。「すっきりした」。
学校に二酸化炭素の濃度を測る機器があれば、換気の前と後で数値を比べると、さらに分かりやすくなります。目に見えない空気の変化が、数字として見えると、子どもは換気の大切さを実感します。
自分の1日を見直すワークシート
第4時の「自分の1日を見直す」では、こんなワークシートを使います。
- 起きた時間
- 朝ごはん(食べた・少し食べた・食べなかった)
- 体を動かしたこと(休み時間、体育、放課後など)
- 寝た時間
- 今日の体の調子(元気・ふつう・元気がない)
ワークシートは、前の日の1日について書かせます。そして、「この中で、一つだけ変えるとしたら、どこを変える?」を考えます。
本文で書いた通り、よい・悪いを判定しないことが大事です。ワークシートは、先生が集めて点数をつけるものではありません。子どもが、自分の生活を見つめるための道具です。
【配慮:朝ごはんや睡眠時間は、家庭の事情に大きく左右される。ワークシートは本人と先生だけが見るものにし、友達と比べたり、発表させたりしない。家庭の状況で、子どもが自分では変えられないこともあることを、先生が理解しておく】
「やってみる」のふり返り
1週間後のふり返りは、短い時間で十分です。こんな問いを使います。
- 「やってみる」と決めたことは、できた?
- やってみて、体や気持ちはどうだった?
- 続けてみたい?それとも、別のことにする?
予想される子どもの声はこんな感じです。
- 「寝る前のゲームを10分短くしたら、朝起きるのが少し楽だった」
- 「朝、カーテンを開けたら、目がすっきりした」
- 「休み時間に外に出たら、夜すぐ眠れた」
- 「できなかった。でも、また来週やってみる」
最後の「できなかった」も、大事なふり返りです。できなかった理由を考えることも、自分の生活を調整する力につながります。「できなかったのは、どうしてだと思う?」「次は、どうしたらできそう?」と聞いて、次の一歩を一緒に考えます。
板書のイメージ
第1時の板書は、黒板の真ん中に「健康」と大きく書き、その周りに、子どもが仲間分けした要素を花びらのように並べます。「ねること」「食べること」「動くこと」「体をきれいにすること」「まわりのこと」「心のこと」。
この「健康の花」は、単元を通して黒板の端に貼っておきます。第2時の「つながりの図」も、花びらどうしを矢印でつなぐ形にすると、健康の要素が互いにつながっていることが、一つの図の中で見えるようになります。
評価の目安
保健の評価は、単元テストの点数だけでなく、第4時のふり返りで見ると、「概念」と「原則」が身についているかが分かります。
- 十分にできている:健康に関わる要素のつながりを説明でき、自分の生活の中で一つの要素を調整する方法を、理由をもって考えている
- おおむねできている:健康に関わる要素は分かっているが、それらのつながりや、自分の生活への生かし方はまだ説明できない
- もう一歩:健康に関わる要素を挙げることが、まだ難しい
「やってみる」ができたかどうかは、評価に入れないようにしています。家庭の事情でできないこともあります。大切なのは、自分の生活を見つめて、変えられるところを考えようとしたことです。
よくある質問
Q. 4時間しかない単元で、ここまでできますか?
全部を4時間に入れるのは、たしかに大変です。第3時の換気の体験は、ほかの時間の休み時間の前後に、5分だけで行ってもかまいません。1週間後のふり返りは、学級活動や朝の会の時間を使います。保健の時間だけで完結させず、ほかの時間ともつなげて考えると、無理なく進められます。
Q. 睡眠や食事の話は、家庭の事情にふれるので心配です。
本文でも書きましたが、ワークシートは本人と先生だけが見るものにして、発表はさせないようにします。また、「こうしなければいけない」という言い方を避けて、「こうすると、体が楽になるかもしれないね」と、選べる形で伝えるようにしています。
Q. 体育の授業と、どうつなげればいいですか?
体育の授業のはじめや終わりに、「今日の体の調子はどう?」と一言聞くだけでも、保健で学んだことが体の感覚とつながります。運動のあとに、「よく眠れそう?」と聞くのもおすすめです。
Q. 3年生に「概念」や「原則」という言葉を使ってもいいですか?
3年生には、言葉そのものは使わなくてかまいません。「健康は、いろいろなことのつながりで決まる」「自分で少し変えると、体が楽になる」と、分かりやすい言葉で伝えれば十分です。先生が、概念と原則を意識して授業を組み立てておくことが大事です。
まとめ
- 審議まとめは、保健で「基礎的な内容の理解は高いが、健康の概念や原則と具体的な行動を結び付けることに課題」があるとし、「概念」と「それに関わる原則」を整理して示す方向
- 3年「毎日の生活と健康」でいえば、概念は「健康はいろいろな要素の組み合わせ」、原則は「自分で調整すれば健康に近づける」
- 「なぜ?」をつなげる、自分の1日を見直す(判定しない)、一つだけやってみる。体育の体験ともつなげる
「早寝早起きが大事」を100回聞くより、自分で一つ変えてみて「あれ、朝が楽だった」と感じる1回。保健の授業は、たぶんそっちを目指しているんだと思います。
次回は、音楽。6年生の歌唱共通教材「ふるさと」です。
参考
- 中央教育審議会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)第2部第2章「体育、保健体育」p.263、p.265〜266 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/gaiyou/1292164_00001.htm
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」体育 第3学年及び第4学年 G保健(1)
- 関連記事:体育は「みんなで楽しむための工夫」へ(連載「次期学習指導要領を読む」)/体つくり運動・体ほぐしの運動 準備運動を「遊び」に変える


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