大造じいさんとがん 教材研究①

授業づくり

今回から4回にわたり5年の国語教材「大造じいさんとがん」の教材研究をしていきたいと思います。「大造じいさんとがん」で大事になってくるのは、「情景」を読み取るという事です。「情景」とは何だろうか。という疑問がムクムクと持ち上がってくかとは思いますが、とりあえずそれは置いておいて、一つずつ丁寧に読み解いていきたいと思います。

このシリーズで考えたいこと

最初に、この全4回のシリーズで何を考えていきたいのかをお伝えしておきます。結論から言うと、「大造じいさんとがん」は、情景描写を手がかりにして中心人物の心の動きを読む力を育てるのに、とても適した教材だということです。その力を、子どもたちが自分で使えるようにするための手順を、回を分けて整理していきます。

予定している4回の内容は、次のとおりです。

  • 第1回(今回):登場人物と中心人物、時と場の設定、物語全体の構成をつかむ
  • 第2回:「情景」とは何か。情景描写から心情を読む
  • 第3回:大造じいさんの作戦と、心情の変化をたどる
  • 第4回:クライマックスと主題、そして授業づくり(単元の流れ・発問・板書・評価)

今回は、いわば「地図をつくる回」です。物語の細かい表現に入る前に、誰が出てきて、誰の心が変わるのか、物語がどんな順番で進むのかを、まずは大きくつかんでおきます。地図がないまま細部に入ると、子どもたちはどこを読んでいるのか分からなくなってしまうからです。

学習指導要領とのつながり

この教材を扱うときに、根拠として押さえておきたいのは、小学校学習指導要領(平成29年告示)国語の第5学年及び第6学年の「C 読むこと」です。

  • (1)イ「登場人物の相互関係や心情などについて、描写を基に捉えること。」
  • (1)エ「人物像や物語などの全体像を具体的に想像したり、表現の効果を考えたりすること。」

あわせて、〔知識及び技能〕(1)ク「比喩や反復などの表現の工夫に気付くこと。」も関わってきます。今回扱う登場人物や中心人物、物語の構成の確認は、(1)イの「登場人物の相互関係や心情」を描写を基に捉えるための土台であり、(1)エの「物語などの全体像」を想像するための準備にあたります。

教科書での位置づけと、先行研究

山際博さんの資料によると、この作品は椋鳩十が雑誌『少年倶楽部』の昭和16年11月号に発表し、その後何度か書き直されてきたものだそうです。

長く5年生の国語教科書に載ってきた作品で、たとえば光村図書の5年の教科書(『国語 五 銀河』)では「大造じいさんとガン」として、3月の単元に置かれています。同社の公式サイトの教材別資料一覧には、学習のめあてとして「登場人物の心情の変化に着目して読み、物語のみりょくを伝え合おう」が示されています。教科書会社によって表記(「がん」「ガン」)や時期は異なるので、お使いの教科書に合わせて読み替えてください。東京書籍の『新しい国語 五』にも「大造じいさんとがん」として載っています(中野、2023で使われている教科書です)。

長く読まれてきた教材なので、授業研究もたくさん積み重ねられています。このシリーズでは、そうした研究のうち、私が実際に目を通して確かめられたものを、各回の内容に合わせて紹介していきます。たとえば第2回では、情景描写を「誰の目が見た景色か」という問いで読んだ中野圭さんの実践研究(2023)を、第3回では、大造じいさんの見方が変わる場面を戦いの描写から読み直した山際博さんの論考を取り上げる予定です。また、教科書の文章と、もとになった作品(出典)とを比べる授業づくりの研究(木原、2016)や、定番の教材研究書として大西忠治編『「大造じいさんとがん」の読み方指導』(1993)もあります。

大造じいさんとがん

登場人物は誰だ!

最初に確認したいのは「登場人物」です。物語では、基本的に「登場人物」の中の「中心人物」が色々な人との関わりで変化するという構造であることが多いです。

「登場人物」や「中心人物」が分からない場合は「教材研究」→「国語」の中に詳しく書いてありますのでご覧ください。

登場人物とは

上のように私は子どもたちに教えています。算数などには公式がありますが、国語にはない不思議です。きっと国語も論理的に読めるはずなのです。

「公式」というと少し大げさに聞こえるかもしれませんが、ねらいは、子どもたちが感覚だけに頼らず、根拠をもって読めるようにすることです。「なんとなくそう思う」ではなく、「こういう条件に当てはまるから、こう言える」と説明できる。その経験を積み重ねることで、国語の読みは、だんだんと他の人と話し合える読みに変わっていきます。

ということで登場人物は大造じいさんだけだと思います。

ガンは?という疑問もあるでしょうが、上の登場人物の公式には当てはまりません。なので、ガンは登場人物ではないと言えるでしょう。

もちろん、ここは子どもたちの意見が分かれやすいところです。「残雪にも気持ちがあるように見える」「残雪がいないとお話が成り立たない」という考えが出てくるのは、むしろ自然なことだと思います。

大切なのは、意見が分かれたときに「公式」に戻って確かめることです。どちらが正しいかを教員が決めてしまうのではなく、「公式に当てはめてみると、どうなるかな」と問い返す。そうすることで、子どもたちは自分の読みを、根拠をもって説明する練習をすることになります。話し合いの結果、残雪の存在の大きさに気づくこと自体にも、大きな意味があります。

残雪はどんな存在か

では、残雪はこの物語の中でどんな存在なのでしょうか。私は、残雪を「大造じいさんの心を動かす存在」として捉えるとよいと考えています。

大造じいさんは、残雪のせいで獲物がとれなくなり、なんとかして残雪をしとめようとします。物語の前半では、残雪は大造じいさんにとって「やっかいな相手」です。ところが、物語が進むにつれて、大造じいさんの残雪に対する見方は変わっていきます。その変化こそが、この物語の中心です。

つまり、残雪は登場人物かどうかにかかわらず、大造じいさんの心情の変化を引き起こす、なくてはならない存在です。子どもたちにも、「大造じいさんの気持ちは、何によって変わったのか」と問いかけ、残雪の行動に目を向けさせていきたいところです。

中心人物は誰だ

中心人物を探すと言っても、登場人物の中で心情の変化があるのが大造じいさんだけだけなので。自動的に中心人物は大造じいさんになります。

中心人物が決まると、物語を読むときの視点がはっきりします。「この場面で、大造じいさんはどんな気持ちなのか」「前の場面と比べて、何が変わったのか」と、いつも大造じいさんの心に戻って読むことができるようになります。

物語を一文でまとめてみる

中心人物が分かったところで、ぜひやってみたいのが、物語を一文でまとめる活動です。たとえば、「(中心人物)が、(きっかけ)によって、(どのように)変わる話」という型を示し、子どもたちに当てはめさせてみます。

この型に入れようとすると、子どもたちは「最初の大造じいさんはどうだったか」「最後はどうなったか」「何がきっかけだったか」を考えなければなりません。最初の段階では、細かい言葉は人によって違っていて構いません。単元の終わりにもう一度同じ型でまとめ直すと、読みが深まったことを子どもたち自身が実感できます。単元の最初と最後で比べられるように、ノートに残しておくとよいと思います。

時と場の設定を確かめる

登場人物と中心人物を確かめたら、次は「いつ」「どこで」の設定です。物語の設定は、あとで情景を読むときの大切な手がかりになります。

どこで:沼地という舞台

物語の舞台は、山のふもとにある沼地です。ガンの群れが毎年やってくる場所であり、大造じいさんが狩りをする場所でもあります。この沼地は、大造じいさんと残雪が知恵をくらべ合う「たたかいの場」と言ってよいでしょう。

舞台が一つの場所にほぼ限られていることは、この物語の特徴の一つです。同じ沼地が、場面によって違った表情で描かれます。その違いに目を向けることが、第2回で扱う情景描写の読みにつながっていきます。

いつ:季節と時間帯

物語は、ガンがやってくる季節を中心に、いくつかの年をまたいで進みます。また、多くの場面が、夜明け前から朝にかけての時間帯に置かれています。ガンが飛び立ったり、餌を求めておりてきたりするのが、その時間帯だからです。

朝の光や空の色は、物語の中で何度もくり返し描かれます。子どもたちには、「それぞれの場面は、いつのことか」「そのときの空や光はどう描かれているか」を表にまとめさせておくと、第2回以降の学習がぐっと進めやすくなります。

「狩人」という設定を確かめる

設定を確かめる時間に、もう一つ押さえておきたいのが、大造じいさんが狩人であるということです。中野(2023)は、上月康弘さんの論考(2022)を引きながら、今の子どもたちにとっては「生活としての狩猟」の重みが実感しにくく、その違いが読みを揺らがせる原因になりうると紹介しています。

たしかに、ガンをとることが大造じいさんにとって暮らしにかかわる仕事だと分かっていないと、残雪に獲物を奪われ続けることの悔しさも、作戦にかける思いの強さも、うまく想像できません。そこで、単元の最初に「大造じいさんにとって、ガンをとることはどんな意味があったのだろう」と問いかけ、本文から狩人としての暮らしぶりが分かる言葉を探させておくとよいと思います。

この確認をしておくと、場面3で大造じいさんがとる行動の重みも、ぐっと伝わりやすくなります。狩人が、ねらった獲物を前にして何を感じたのか。その問いは、第3回でじっくり考えていきます。

物語全体の構成をつかむ

最後に、物語全体の構成を確かめておきます。この物語は、大きく四つの場面に分かれています(教科書によっては、本文に「1」〜「4」の番号がふられています)。

四つの場面の概要

  • 場面1:大造じいさんが、残雪の群れをねらって一つ目の作戦を試みる
  • 場面2:翌年、大造じいさんが別の作戦で残雪の群れに挑む
  • 場面3:大造じいさんが三つ目の作戦を準備し、そこで思いがけない出来事が起こる
  • 場面4:その後の大造じいさんと残雪の姿が描かれる

場面1から場面3までは、大造じいさんが作戦を立て、残雪がそれにどう応じるかという形がくり返されます。このくり返しがあるからこそ、場面3で起こる出来事と、そのときの大造じいさんの心の動きが際立ちます。四つの場面は、いわゆる起承転結の形に近い構成になっていると言えるでしょう。

構成をつかむための発問

構成をつかむ時間では、次のような発問が考えられます。

  • 「大造じいさんは、全部でいくつの作戦を立てたでしょう」
  • 「それぞれの作戦は、うまくいったでしょうか」
  • 「場面1〜3と場面4では、何が違うでしょう」

一つ目と二つ目の発問は、本文を読めば答えが見つかる確認の問いです。三つ目の発問は、物語の構成そのものに目を向けさせる問いです。この問いを通して、場面4が「作戦の場面」ではないことに気づかせておくと、第4回で扱うクライマックスと結末の読みにつながっていきます。

板書のイメージ

この時間の板書は、黒板を四つに区切り、場面1〜4を左から順に並べるとよいと思います。それぞれの場面の下に「いつ」「作戦」「結果」を書き入れていくと、物語の流れが一目で分かる地図になります。

場面ごとの大造じいさんの気持ちは、この段階では空欄にしておきます。「この空欄を、これから埋めていこう」と伝えることで、単元を通した学習の見通しを、子どもたちと共有することができます。

この時間で見取りたいこと

第1回の内容を扱う時間では、子どもたちが次のようなことができているかを見取りたいと思います。

  • 登場人物や中心人物を、「公式」に当てはめて根拠をもって説明できているか
  • 場面ごとの「いつ」「どこで」「何をしたか」を、本文から見つけて整理できているか
  • 物語を一文でまとめる型に、自分なりの言葉で当てはめようとしているか

この段階では、正確さよりも「本文に戻って確かめようとしているか」を大切にしたいところです。地図づくりの時間に本文へ戻る習慣がついていると、細かい表現を読む次の時間からの学習が、ぐっと確かなものになります。

次回に向けて

今回は、登場人物と中心人物、時と場の設定、物語全体の構成を確かめました。いわば、物語を読むための地図ができあがった状態です。

次回は、いよいよこの物語の大きな特徴である「情景」について考えていきます。「情景」とはそもそも何なのか、そして情景を描いた表現から、どうやって大造じいさんの心情を読み取るのか。今回つくった地図を片手に、一つずつ確かめていきたいと思います。

情景描写は、この物語の大きな魅力でありながら、子どもたちにとっては少し難しく感じられるところでもあります。だからこそ、丁寧に手順を踏んで読んでいきたいと思います。

参考文献

このシリーズ全体を通して、次の資料や研究を参考にしています。各回で関わるものは、その回でも改めて紹介します。

  • 文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)』国語 第5学年及び第6学年(国立教育政策研究所 学習指導要領データベース)https://erid.nier.go.jp/files/COFS/h29e/chap2-1.htm
  • 光村図書「教材別資料一覧・関連リンク 5年」(国語 五 銀河)https://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasho/s-kokugo/material5nen
  • 中野圭(2023)「『大造じいさんとがん』における情景描写から読みを深める学習デザイン-『なぜじゅうを下ろしたか』に代わる〈問い〉の効果-」『教育実践研究』第33集、pp.1-6、上越教育大学 http://www.educ.juen.ac.jp/topics/files/elfinder/2023_01.pdf
  • 山際博「中学校で再読:『大造じいさんとガン』―『戦い描写』の読みから主題に迫る―」池田市立秦野小学校(しぶたに学園)公開資料 https://ikeda.schoolweb.ne.jp/2710028/download/document/1740751
  • 木原宏子(2016)「教科書教材と出典作品との比較による授業実践化への試み―『大造じいさんとガン(がん)』の場合―」『国語科教育研究:大会研究発表要旨集』131、pp.401-404、全国大学国語教育学会 https://doi.org/10.20555/jtsjs.131.0_401
  • 大西忠治編(1993)『教材研究の定説化 9「大造じいさんとがん」の読み方指導』明治図書

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