物語の授業で、「このお話の主人公はだれですか」と聞くと、子どもはすぐに答えます。たいていは、題名に名前が入っている人物や、最初に出てくる人物です。
ところが、研究授業の指導案や教科書の指導書を見ると、「主人公」ではなく「中心人物」という言葉が使われていることがよくあります。さらに「対人物」という、ふだんは耳にしない言葉も出てきます。
「主人公」と「中心人物」は、同じ意味ではないのでしょうか。この記事では、物語の人物を表す言葉、「登場人物」「主人公」「中心人物」「対人物」の定義を整理します。言葉を分けて考えると、物語を読むときの問いが変わってきます。
それぞれの言葉の定義
「登場人物」とは
まず、すべての出発点になるのが「登場人物」です。
登場人物は、物語の中に出てきて、行動したり話したりする人物のことです。人間だけでなく、動物や植物、ものであっても、人のように考えたり話したりする存在は、登場人物と考えます。「スイミー」の小さな魚も、「お手紙」のかえるくんも、登場人物です。
低学年の物語の学習では、まず「登場人物はだれか」を確かめることから始めます。登場人物を全部挙げてみると、物語の世界の広さが見えてきます。
「主人公」とは
主人公は、物語の中心になって、話を進めていく人物のことです。
ふだんの言葉としての主人公は、とても広い意味で使われます。映画やドラマ、漫画でも「主人公」と言います。いちばん多く出てくる人物、題名になっている人物、読者が気持ちを重ねて読む人物。そうした人物が、なんとなく「主人公」と呼ばれています。
つまり、主人公は、物語の中で目立っている人物という、ゆるやかな意味の言葉です。
「中心人物」とは
中心人物は、物語の中で、気持ちや考え方、ものの見方が大きく変わる人物のことです。
ここが主人公との大きな違いです。中心人物は、目立っているかどうかではなく、変わるかどうかで決まります。物語の始めと終わりで、心の中が大きく変わった人物。その変化が、物語の中心になっている人物が、中心人物です。
物語の授業では、中心人物の変化を読むことが大きな柱になります。「中心人物は、どのように変わったのか」「何がきっかけで変わったのか」。こうした問いは、中心人物という言葉があるからこそ、はっきり立てることができます。
「対人物」とは
対人物は、中心人物と対になる人物で、中心人物の変化に大きく関わる人物のことです。
中心人物が変わるためには、たいてい、そのきっかけになる人物がいます。中心人物とぶつかったり、助けたり、影響を与えたりする人物。それが対人物です。
対人物は、中心人物の敵である場合もあれば、友達や家族である場合もあります。大事なのは、対人物との関わりの中で、中心人物が変わっていく、という関係です。
「周辺人物」とは
中心人物と対人物以外の登場人物は、「周辺人物」や「脇役」と呼ばれることがあります。物語の流れを支えたり、場面をつくったりする人物です。周辺人物にも、それぞれ物語の中での役割があります。
並べてみると
| 言葉 | ひと言でいうと | 何で決まるか |
|---|---|---|
| 登場人物 | 物語に出てきて行動したり話したりする人物 | 出てくるかどうか |
| 主人公 | 物語の中心で話を進める人物 | 目立っているかどうか(ゆるやか) |
| 中心人物 | 気持ちや考え方が大きく変わる人物 | 変わるかどうか |
| 対人物 | 中心人物と対になり、その変化に関わる人物 | 中心人物との関係 |
| 周辺人物 | それ以外の登場人物 | ― |
いちばん大事な違いは、主人公が「目立っているかどうか」というゆるやかな言葉であるのに対して、中心人物は「変わるかどうか」という、はっきりした基準で決まる言葉だという点です。
主人公と中心人物が、ずれるとき
多くの物語では、主人公と中心人物は同じ人物です。いちばん目立っている人物が、いちばん大きく変わる。それがふつうです。
ところが、ずれることもあります。そこに、物語を読むおもしろさがあります。
「お手紙」の場合
「お手紙」では、がまくんとかえるくんの二人が出てきます。題名の「お手紙」を書いたのはかえるくんで、物語の中で動き回っているのもかえるくんです。だから、子どもに「主人公はだれ?」と聞くと、かえるくんと答える子も多いでしょう。
でも、「物語の始めと終わりで、気持ちが大きく変わったのはだれ?」と聞くと、答えが変わってきます。始めは、手紙が来なくて悲しい気持ちだったがまくんが、終わりには、しあわせな気持ちで手紙を待っています。気持ちが大きく変わったのは、がまくんです。
一方で、かえるくんも変わっていないわけではありません。がまくんのために手紙を書き、がまくんの喜ぶ姿を見て、同じようにしあわせな気持ちになっています。
ですから、「お手紙」の中心人物をどちらと考えるかは、読み方によって分かれます。この「どちらだろう」という問いそのものが、物語を深く読むきっかけになります。「お手紙」の読み方については、「『お手紙』の教材研究」にも書いています。
「大造じいさんとがん」の場合
5年生の「大造じいさんとがん」では、中心人物は大造じいさん、対人物は残雪と考えるのが一般的です。
物語の始め、大造じいさんは残雪を「いまいましい」と思い、何とかしてしとめようとしています。ところが、仲間を救うために傷つきながらも堂々としている残雪の姿を見て、大造じいさんの心は大きく変わります。残雪との関わりの中で、大造じいさんのものの見方が変わっていく。まさに、中心人物と対人物の関係です。
題名には大造じいさんと残雪(がん)の両方が入っていますが、物語は大造じいさんの側から語られ、変わるのも大造じいさんです。残雪は、大造じいさんを変えるきっかけとして描かれています。この物語の読み方については、「『大造じいさんとがん』の教材研究①」から続く記事に書きました。
中心人物を決めると、問いが立つ
中心人物という言葉を使う一番のよさは、物語を読むための問いが、はっきり立つことです。
中心人物が分かると、次のような問いが自然に生まれます。
- 中心人物は、物語の始めでは、どんな気持ち(考え)だったか
- 物語の終わりでは、どんな気持ち(考え)になったか
- 何がきっかけで変わったのか
- 変わったことが、いちばんよく分かる言葉や文はどこか
- 対人物は、中心人物の変化にどう関わったか
この問いの流れは、どの物語にも使えます。低学年では「始めと終わりの気持ち」を、中学年では「きっかけと変化」を、高学年では「対人物との関係や、変化の意味」を考える、というように、学年に合わせて深めていくことができます。
学習指導要領でも、中学年では「登場人物の気持ちの変化や性格、情景について、場面の移り変わりと結び付けて具体的に想像すること」、高学年では「登場人物の相互関係や心情などについて、描写を基に捉えること」が示されています。中心人物と対人物という言葉は、こうした読みを授業にするための道具だと言えます。
授業での扱い方
低学年:まずは「登場人物」と「いちばん変わった人」
低学年では、「中心人物」という言葉を使う必要はありません。
まず、登場人物を全部挙げます。そのあとで、「このお話で、いちばん気持ちが変わったのはだれかな」と問います。始めと終わりの挿絵を並べて、表情を比べるのも効果的です。
中学年:「中心人物」という言葉を使ってみる
中学年では、「中心人物」という言葉を教えてもよいと思います。
「物語には、気持ちが大きく変わる人物がいます。その人物を、中心人物と言います」と説明し、いくつかの物語で、中心人物はだれかを考えさせます。主人公と中心人物が同じ物語、少しずれる物語、どちらとも言える物語を比べると、子どもは言葉の意味を自分でつかんでいきます。
高学年:「対人物」との関係を読む
高学年では、対人物との関係を読むことに進みます。
「中心人物を変えたのは、だれ(何)か」「対人物は、なぜ中心人物を変えることができたのか」。こうした問いを通して、物語の人物の関係を、図に表して整理する活動もおすすめです。中心人物を真ん中に置き、対人物や周辺人物との関係を矢印でつなぐと、物語の構造が見えてきます。
人物関係図をかく
高学年でおすすめしたいのが、人物関係図をかく活動です。
ノートの真ん中に中心人物の名前を書き、まわりに登場人物を配置します。人物と人物の間に矢印を引き、矢印の横に「助ける」「ねらう」「心配する」のように、関係を一言で書きます。
この関係図を、物語の始めと終わりで二枚かくと、関係がどう変わったかが目に見えます。始めは「ねらう」だった矢印が、終わりには「尊敬する」に変わっている。こうした変化を見つけると、子どもは中心人物の変化を、人物の関係の変化としてとらえ直すことができます。
物語を書くときにも使える
中心人物と対人物の考え方は、物語を読むときだけでなく、書くときにも使えます。
物語を書く学習で、子どもが書く物語は、出来事が並ぶだけで終わってしまうことがよくあります。「公園に行きました。ブランコに乗りました。家に帰りました」。出来事は書かれていても、物語としてのおもしろさがありません。
そこで、書く前に「中心人物は、始めにどんな気持ちで、終わりにどんな気持ちになるか」を決めさせます。そして、「その気持ちを変えるのは、だれ(何)か」、つまり対人物を考えさせます。
たとえば、「始めは、自転車に乗るのがこわかった中心人物が、終わりには、一人で坂道を下りられるようになる。変わるきっかけは、毎日いっしょに練習してくれたおじいちゃん」。これだけ決まると、物語の骨組みができます。あとは、その間の出来事を考えるだけです。
読む学習で中心人物の変化を読んだ経験が、書く学習で生きる。読むことと書くことを、中心人物という言葉でつなぐことができます。
子どもが迷うところ
「変わった人」が二人いる
物語によっては、二人の人物がどちらも変わることがあります。そのときは、「どちらのほうが大きく変わったか」「物語は、どちらの側から語られているか」を考えると、整理しやすくなります。
ただ、無理に一人に決める必要はありません。二人とも変わっている、という読みも十分に成り立ちます。大事なのは、変わったことを本文の言葉で説明できるかどうかです。
人間ではないものが中心人物になる
動物やものが中心人物になる物語も、たくさんあります。「スイミー」の中心人物は、小さな魚のスイミーです。仲間を失ってひとりぼっちだったスイミーが、新しい仲間と出会い、知恵を出して、みんなで大きな魚を追い出す。スイミーの心と行動が大きく変わっています。
人のように考え、話し、気持ちが変わる存在であれば、人間でなくても中心人物になります。
よくある質問
「主人公」という言葉は、授業で使わないほうがいいですか?
使ってはいけない、ということはありません。子どもにとってなじみのある言葉なので、低学年では「主人公」で十分です。ただ、物語の中で気持ちが変わる人物について考えさせたいときは、「中心人物」という言葉を使ったほうが、問いがはっきりします。
中心人物が変わらない物語もありますか?
あります。中心人物の気持ちや考え方がほとんど変わらず、まわりの状況が変わっていく物語や、ある出来事を淡々と描く物語もあります。そうした物語では、「なぜ変わらないのか」「変わらないことに、どんな意味があるのか」を考えることもできます。
対人物は、必ず一人ですか?
一人とは限りません。中心人物の変化に関わる人物が複数いる物語もあります。また、人物ではなく、出来事や自然が中心人物を変えるきっかけになることもあります。その場合は、「中心人物を変えたものは何か」と問うと、子どもは人物以外のものにも目を向けるようになります。
中心人物を決めるとき、題名は手がかりになりますか?
手がかりにはなりますが、題名だけで決めるのは危険です。題名に名前が入っている人物が対人物である場合や、題名が人物ではなく出来事やものになっている場合もあります。題名を見たうえで、「この人物は、始めと終わりで変わっているかな」と本文で確かめるようにすると、題名にまどわされずにすみます。物語の語り手と作者の違いについては、「『作者』『筆者』『語り手』はどう違う?」にまとめています。
まとめ
登場人物は、物語に出てきて、行動したり話したりする人物。
主人公は、物語の中心で話を進める、目立っている人物。
中心人物は、物語の中で、気持ちや考え方が大きく変わる人物。
対人物は、中心人物と対になり、その変化に大きく関わる人物。
主人公は「目立っているかどうか」、中心人物は「変わるかどうか」で決まります。物語の授業で「主人公」ではなく「中心人物」という言葉を使うのは、物語の中心にある「変化」を読むための問いを、はっきり立てるためです。
次に物語を読むときは、「いちばん変わったのはだれだろう」と、子どもと一緒に考えてみてください。主人公と中心人物がずれる物語に出会ったら、それは、読みを深めるチャンスです。


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