教材で読む次期学習指導要領#28 「ブランコ乗りとピエロ」を2時間かけて読む 道徳の「1教材を複数コマで」はどうやるか

授業づくり

高学年の道徳の定番教材、「ブランコ乗りとピエロ」。サーカスのスター、ピエロ。そこに、新しくやってきたブランコ乗りのサム。サムは、決められた時間を守らずに演技を続け、ピエロの出番を奪ってしまう。ピエロは怒る。でも、サムの演技を見て、その努力に気づき、二人は互いを認め合うようになる。(細かいところは、教科書によって少しちがうことがあります)

この教材、1時間の授業で扱うと、だいたいこうなります。あらすじを確認して、ピエロの気持ちの変化を追って、「ピエロはなぜサムを許せたのか」を考えて、最後に自分の経験を書く。…書いているうちにチャイムが鳴る。

審議まとめは、この「1時間では足りない」に、はっきり答えを出しています。

審議まとめの「1教材を複数コマ」

審議まとめは、道徳について、1授業で1つの読み物教材を扱うことが多い授業の課題として、こんなことを挙げています。

  • 心情理解や登場人物の整理で時間がかかってしまう
  • 教材の解釈を中心とした展開になってしまい、多面的・多角的に自己の生き方についての考えを深めるところまで辿り着かない
  • 1コマで読み物と向き合う時間と、考え議論を深める時間の双方を十分に確保することが難しい

そして、1教材を複数コマで取り扱うことで、「じっくりと深く学ぶ」道徳科の学びを一層推進していくべきだとしています。

注として、大事なことが書いてあります。

  • 複数コマは、連続した2コマではなく、翌週の取扱いを念頭に
  • 2コマ目は、読み物教材ではない「深める教材」を用いることも想定
  • これは指導の「型」を示すものではない

さらに、1つの教材を複数時間で扱うことで、たとえば「相互理解,寛容」と「規則の尊重」との葛藤のように、内容項目同士が対立したり葛藤したりする場面を含めて深めることも考えられる、とあります。

「ブランコ乗りとピエロ」は、葛藤の教材

この例、「ブランコ乗りとピエロ」にぴったりなんです。

この教材の内容項目は[相互理解,寛容]です。でも、物語の中には、もう一つの価値が隠れています。サムは、決められた時間を守らなかった。つまり、[規則の尊重]です。

1時間の授業だと、「ピエロはサムを許した。えらいね」で終わりがちです。でも、子どもの中には、モヤっとしている子がいるはずです。「でも、サムはルールを破ったよね?」「許していいの?」。

このモヤモヤこそ、審議まとめのいう「内容項目同士の葛藤」です。1時間では扱いきれないけれど、2時間あれば扱える。

2時間の授業のイメージ

1時間目:物語と向き合う

1時間目は、読み物教材とじっくり向き合います。

  • ピエロは、なぜサムに腹を立てたのか
  • ピエロは、サムの演技を見て、何に気づいたのか
  • ピエロとサムは、なぜ認め合えたのか

ここまでは、これまでの授業と同じです。ただ、急がない。登場人物の気持ちを丁寧に追う時間を、十分にとります。

そして、最後に一つ、問いを残して終わります。

「サムは、ルールを破ったのに、許してよかったのかな?」

この問いには、1時間目では答えを出しません。ノートに、今の自分の考えを一言書いて終わり。

1週間あける

審議まとめは、連続した2コマではなく翌週を念頭に、と書いています。これ、意味があると思っています。

1週間の間に、子どもは、学校生活の中で「ルールと、人を許すこと」がぶつかる場面に出会います。休み時間の遊びのルール、係の仕事、友達とのけんか。問いを持ったまま過ごす1週間は、それ自体が考える時間です。

2時間目:深める

2時間目は、読み物教材から離れます。審議まとめのいう「深める教材」です。

たとえば、こんな場面を用意します。

学級のドッジボールで、ルールでは「顔に当たったらセーフ」。でも、苦手なAさんが、わざと顔を出しているように見える。Bさんは「ずるい」と言う。Aさんは「当たるのがこわいんだ」と言う。

場面は、学級の実態に合わせた身近なものにし、特定の子が連想されないように気をつけてください。

「ブランコ乗りとピエロ」で考えた「相手の思いを理解する」と、「ルールを守る」。どちらも大事。じゃあ、この場面ではどうする?

子どもたちは、物語のときより、ずっと本気で議論します。自分たちの生活の話だからです。そして、1時間目の問い「許してよかったのか」に戻ると、答えが少し変わっている子が出てきます。「許すことと、ルールをなくすことは違う」「ピエロは、サムの努力を認めたけど、時間のことはその後二人で話し合ったんじゃないかな」。

時数はどうするか

道徳は年間35時間で、内容項目を全部扱う必要があります。審議まとめも、各学年で相当する内容項目を全て取り上げるという現行の取扱いは、引き続き維持することが適当、としています。

なので、全部の教材を2時間にはできません。年に数回、「これは」という教材だけを2時間にする。そして、この教材のように、二つの内容項目に関わるものを選べば、2つの内容項目を扱ったことになる。審議まとめも、同一の内容項目を扱うパターンと、複数の内容項目を扱うパターンの両方を示しています。

2時間の授業の流れ(細案)

1時間目と2時間目を、それぞれ45分の流れにしておきます。目安として読んでください。

1時間目:物語と向き合う

時間 学習活動 主な発問
5分 導入:「人を許せなかったこと」「許してもらったこと」を思い出す 「友達に腹が立ったこと、ありますか?」
10分 教材を読む —
10分 ピエロの怒りを考える 「ピエロは、なぜサムに腹を立てたのか」
10分 ピエロの気づきを考える 「ピエロは、サムの演技を見て、何に気づいたのか」
5分 二人が認め合えた理由を考える 「ピエロとサムは、なぜ認め合えたのか」
5分 問いを残す 「サムは、ルールを破ったのに、許してよかったのかな?」

2時間目:深める

時間 学習活動 主な発問
5分 1時間目の問いと、自分の書いた一言を思い出す 「1週間たって、考えは変わった?」
10分 「深める教材」の場面を読む 「AさんとBさん、それぞれの気持ちは?」
15分 グループで話し合う 「この場面では、どうしたらいい?」
10分 1時間目の問いに戻る 「サムを許してよかったのかな?もう一度考えよう」
5分 ふり返り 「2時間を通して、考えたこと」

2時間目の最初の5分で、「1週間たって、考えは変わった?」と聞くのがポイントです。1週間の学校生活の中で、ルールと人を許すことがぶつかる場面に出会っていれば、子どもの方から話してくれることがあります。

1時間目の発問ごとの予想される子どもの声

「ピエロは、なぜサムに腹を立てたのか」

  • 「自分の出番がなくなったから」
  • 「サムが、決められた時間を守らなかったから」
  • 「自分がスターなのに、サムばかりほめられたから」
  • 「サムが、自分勝手に見えたから」

三つ目の「自分がスターなのに」は、ピエロの中にある嫉妬の気持ちです。この気持ちを子どもが言えたら、大事に取り上げたいところです。ピエロの怒りの中には、ルールを守らないことへの怒りと、自分の立場が脅かされることへの怒りが、混ざっています。

「ピエロは、サムの演技を見て、何に気づいたのか」

  • 「サムも、すごく努力しているんだ」
  • 「サムも、お客さんを喜ばせたいんだ」
  • 「自分と同じ気持ちなんだ」

ここで、ピエロの見方が変わります。サムを「自分勝手な人」から、「自分と同じように努力している人」として見るようになる。相手の立場に立って見ることで、怒りが変わっていく。これが、[相互理解,寛容]の中心です。

「ピエロとサムは、なぜ認め合えたのか」

  • 「お互いの努力が分かったから」
  • 「お互いに、サーカスを成功させたいと思っていたから」
  • 「ピエロが、自分の気持ちに気づいたから」

最後の「ピエロが自分の気持ちに気づいた」は、深い読みです。相手を理解するためには、まず自分の気持ちを見つめることも必要です。

「深める教材」のほかの例

2時間目の「深める教材」は、本文で書いたドッジボールの例のほかにも、学級の実態に合わせて選べます。いくつか例を挙げておきます。

  • 係活動の場面:掲示係のCさんは、決められた日に掲示を貼り替えなかった。でも、もっといい掲示を作ろうと、家で準備をしていた。ほかの係の子は、「約束を守ってない」と言っている。
  • 学級の遊びの場面:休み時間の遊びで、「全員参加」というルールがある。でも、Dさんは、一人で本を読みたい日がある。今日も、Dさんは遊びに来なかった。
  • 合唱の練習の場面:合唱の練習で、Eさんは決められたパートではなく、自分が得意な高いパートで歌っている。Eさんの声はきれいだけど、パートのバランスがくずれている。

どの場面も、「ルールを守ること」と「相手の思いを理解すること」が、ぶつかる場面になっています。どちらが正しいかを決めるのではなく、どうすれば両方を大事にできるかを考える。

【配慮:学級で実際に起きたトラブルを、そのまま教材にしない。特定の子が連想される場面は避け、少し形を変えた架空の場面にする】

2時間目の話し合いの進め方

2時間目のグループの話し合いは、次の手順で進めます。

  1. それぞれの立場の気持ちを考える:「ルールを守ってほしい人」と「ルールを守れなかった人」、両方の気持ちをワークシートに書く
  2. どうすればいいかを考える:「両方の気持ちを大事にするには、どうすればいい?」をグループで話し合う
  3. 案を出し合う:グループで出た案を、全体で発表する

子どもからは、こんな案が出てくると思います。

  • 「ルールを変える。苦手な子のためのルールを足す」
  • 「ルールは守る。でも、こわい気持ちは分かってあげる」
  • 「話し合って、みんなが納得するルールにする」
  • 「その子に、どうしたら参加できるか聞いてみる」

三つ目の「話し合ってルールにする」は、特別活動の学級会の考え方とつながります。道徳で考えたことを、学級会で実際に話し合う。道徳と特別活動を行き来させると、子どもの考えが、生活の中で生きた形になります。

板書のイメージ

1時間目の板書は、黒板の左にピエロ、右にサムの絵を貼り、真ん中に二人の気持ちの変化を書きます。最初は二人の間に「怒り」「すれちがい」の言葉、物語が進むにつれて、二人の間の矢印が近づいていく。最後に、黒板の右下に、問い「サムは、ルールを破ったのに、許してよかったのかな?」を書いて、1時間目を終えます。

2時間目の板書は、1時間目の板書の写真を左に貼り、右に「深める教材」の場面と、子どもの考えを書きます。最後に、1時間目の問いをもう一度真ん中に書き、2時間目の考えを書き足していきます。2時間分の考えが、一枚の黒板の上でつながって見えるようにします。

1週間の「あいだ」の過ごし方

本文で、1週間あけることには意味があると書きました。その1週間を、少しだけ意識して過ごすと、2時間目の話し合いがさらに深まります。

  • 教室に問いを掲示しておく:1時間目の最後の問いを、教室の後ろに貼っておく。目に入るたびに、子どもは少し考える
  • 先生が、学校生活の中の場面に気づかせる:休み時間の遊びで、ルールのことでもめている場面があったら、「あれ、道徳の問いと似ているね」と一言声をかける
  • 日記や連絡帳に書く:家で考えたことがあれば、書いてきてもいいことにする

1週間の間に、子どもの中で問いが少しずつ熟していきます。審議まとめが、連続した2コマではなく翌週を念頭に置いている意味は、こういうところにあるのかもしれません。

見取りの観点

道徳は数値による評価ではなく、子どもの成長の様子を文章で記録します。この2時間では、次のような姿を見取りたいところです。

  • ピエロの気持ちの変化を、相手の立場に立って考えようとしている
  • [相互理解,寛容]と[規則の尊重]のどちらも大事にしながら、どうすればいいかを考えている
  • 1時間目と2時間目で、自分の考えがどう変わったかを、自分の言葉でふり返っている

三つ目の「考えの変化」は、2時間で扱う授業ならではの見取りです。1時間目のノートと2時間目のノートを並べて読むと、子どもの考えが深まった跡がはっきり見えます。「最初は、ルールを破ったから許さなくていいと思った。でも、Aさんの気持ちを考えたら、許すこととルールを守ることは、両方できると思った」。こういう変化の記録は、通知表の所見を書くときにも、とても役に立ちます。

よくある質問

Q. 1週間あけると、子どもがお話を忘れてしまいませんか?

2時間目の最初に、1時間目の板書の写真を見せて、あらすじを短く確かめれば、子どもはすぐに思い出します。むしろ、1週間の間に、問いが頭のどこかに残っていて、2時間目に「実は、あれから考えていたんだけど」と話し始める子もいます。

Q. 年間35時間の中で、2時間扱いにする教材は、どう選べばいいですか?

二つ以上の内容項目に関わる教材や、子どもの意見が大きく分かれそうな教材を選ぶのがおすすめです。「ブランコ乗りとピエロ」のほかにも、「手品師」のように、誠実さと思いやりがぶつかる教材は、2時間扱いにすると深まります。学年会で相談して、学年で同じ教材を2時間扱いにすると、指導の工夫を共有しやすくなります。

Q. 2時間目の「深める教材」は、毎回自分で作らないといけませんか?

教科書の別の教材や、学級の生活の中の場面を使えば、毎回一から作る必要はありません。新聞の記事や、絵本を使う方法もあります。大事なのは、1時間目の問いを、ちがう角度から考えられる材料であることです。

2時間かけて一つの教材と向き合う時間は、子どもにとっても、先生にとっても、少しぜいたくな時間です。そのぜいたくを、年に何回か、ぜひ味わってみてください。

まとめ

  • 審議まとめは、道徳で1教材を複数コマ(翌週を念頭に)で扱い、2コマ目には「深める教材」を使うことも想定して、「じっくり深く学ぶ」道徳を推進するとしている
  • 「ブランコ乗りとピエロ」は、[相互理解,寛容]と[規則の尊重]が葛藤する教材。1時間目の最後に問いを残し、1週間あけて、2時間目に身近な場面で深める
  • 全部を2時間にはしない。年に数回、二つの内容項目に関わる教材を選ぶ

チャイムが鳴って「えー、まだ話したい」と言われる道徳。2時間にすると、その「まだ話したい」を、ちゃんと次につなげられます。

次回は、3年生の保健「毎日の生活と健康」です。

参考

  • 中央教育審議会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)第2部第2章「道徳教育」p.307〜308 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/gaiyou/1292164_00001.htm
  • 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」第3章 特別の教科 道徳 第5学年及び第6学年 B[相互理解,寛容]、C[規則の尊重]
  • 関連記事:「考え、議論する道徳」へ 一つの教材を複数コマでじっくり扱う(連載「次期学習指導要領を読む」)/道徳「手品師」をどう授業するか

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