ここまでの3回は、ほかの先生の授業を「見る側」の話でした。今回からは、少し向きを変えて、自分の授業の話です。
ほかの先生の授業を見に行くと、メモをとります。でも、自分の授業は、案外記録していないものです。毎日5時間、6時間と授業をしていて、その一つひとつを記録する余裕なんてない。それはそうです。
ただ、記録がないと、振り返ることができません。「今日の授業、なんだかうまくいかなかったな」と思っても、何がうまくいかなかったのかは、次の日にはもう忘れています。そして、同じ単元を次の年に教えるとき、また一から考えることになる。
今回は、自分の授業を記録する方法です。毎日続けられる「小さな記録」と、研究授業などで必要になる「授業記録(逐語記録)」の2つに分けて書いてみます。
記録は「完璧」を目指さない
最初に、一番大事なことを書いておきます。
記録は、完璧を目指さないこと。
授業の記録というと、きちんとしたノートに、毎時間の流れと子どもの反応と反省を書く……というイメージがあるかもしれません。でも、それを毎日続けられる先生は、ほとんどいないと思います。1週間がんばって、そのあと続かなくなる。これが一番もったいないパターンです。
毎日100%は無理、というより、無茶です。記録は、続けられる量でやる。1日1行でも、続けば1年で200行近くになります。きちんとした記録を1週間だけ書くより、ずっと役に立ちます。
それから、記録を全部の教科でやろうとしないことも大事です。まずは、自分が一番力を入れたい教科を1つだけ決めて、その教科だけ記録する。国語なら国語だけ。それに慣れてきたら、少しずつ広げていけばいいと思います。
毎日の記録① 板書の写真+1行メモ
一番手軽で、一番続けやすいのが、板書の写真です。
授業が終わったら、黒板を消す前に、タブレットで1枚撮る。それだけです。子どもが写らないように、黒板だけを撮ります。撮った写真は、学校のルールに沿った場所に、教科・単元ごとのフォルダに分けて保存しておきます。
板書の写真には、その授業の流れが、ある程度残っています。めあて、子どもの考え、まとめ。授業の「結果」がそこにある。次の年に同じ単元を教えるときに見返すと、「去年はこういう流れだったな」とすぐに思い出せます。
そして、写真に1行だけメモを添えます。写真アプリのメモ欄でも、付箋でも、ノートでもかまいません。書くのは、こんなことです。
- 「導入で時間をとりすぎた。展開が15分しかなかった」
- 「中心発問、子どもに伝わらず。言い方を変えたら手が挙がった」
- 「〇〇の考え(2つに切る)が出て、そこから話がつながった」
1行で十分です。大事なのは、その日一番引っかかったことを書くこと。うまくいったことでも、うまくいかなかったことでもかまいません。
毎日の記録② 指導書・教科書への書き込み
もう一つ、続けやすいのが、指導書や教科書に直接書き込む方法です。
授業が終わったら、その時間のページに、赤ペンで一言書いておきます。「この発問は、こう言いかえたほうが伝わる」「このページの問題、3番でつまずく子が多い」「ここは2時間かかった」。
指導書に書き込んでおくと、次の年に同じ単元を教えるとき、そのページを開くだけで、去年の自分のメモが目に入ります。別のノートに記録しておくより、ずっと見返しやすい。
指導書が学年で共有のものなら、付箋に書いて貼っておく方法もあります。次にその学年を担当する先生にとっても、役に立つ記録になるかもしれません。
毎日の記録③ 子どものノートと振り返り
実は、自分で書かなくても、毎日たまっていく記録があります。子どものノートと、振り返りの記述です。
子どものノートには、その時間に子どもが何を考えたかが、そのまま残っています。授業の最後に書かせる振り返りには、子どもが何を分かり、何が分からなかったかが書いてある。
これは、先生が書く記録よりも、ある意味で正確な記録です。先生は「今日はうまくいった」と思っていても、振り返りを読むと、半分くらいの子が「よく分からなかった」と書いている。そういうことは、案外よくあります。
全員分を毎日じっくり読むのは大変なので、私なら、気になる子3〜4人分だけを読むことにします。そして、その中で印象に残った一文を、板書の写真の1行メモに書き足しておく。それだけで、記録の厚みがずいぶん変わります。
振り返りの書かせ方については、「まとめ」と「振り返り」は別ものにまとめています。
ときどきの記録 録音・録画で自分の授業を聞いてみる
毎日でなくていいので、ときどき自分の授業を録音・録画してみるのもおすすめです。学期に1回、いや、年に1回でもかまいません。
録音した自分の授業を聞いてみると、たいていの人は、ちょっとショックを受けると思います。
思っていたより、自分がしゃべっている。子どもが考えている時間に、先生が補足を足している。一人の子の発言を、先生がもう一度言い直している(いわゆる「オウム返し」)。「えー」「じゃあ」「はい」という口ぐせが、思った以上に多い。
それから、待ち時間の短さにも気づきます。発問してから指名するまでが、自分では10秒くらい待っているつもりなのに、録音を聞くと3秒だったりする。
録音・録画をするときは、必ず学校のルールを確認してください。子どもの声や姿が記録されるので、管理職の許可が必要な学校もあります。録画するなら、子どもが映らないように先生だけを撮る、録音だけにする、など、学校の決まりに沿って工夫します。そして、聞き終わったらすぐに消去するなど、扱いには十分に気をつけます。
記録の保管は「単元ファイル1冊方式」
記録をとっても、どこに置いたか分からなくなっては意味がありません。保管の方法も決めておきます。
私のおすすめは、単元ごとに1つのファイルにまとめる方法です。紙なら、単元ごとのクリアファイルに。データなら、単元ごとのフォルダに。
入れるものは、こんな感じです。
- 教材研究のメモ(はじめての教材研究で書いた「1単元1枚」)
- 単元計画(はじめての単元計画づくりの表)
- 毎時間の板書の写真と1行メモ
- ワークシートやテストの原本
- 単元の終わりの振り返り(次回、くわしく書きます)
単元が終わったら、そのファイルを閉じて棚にしまう。次の年に同じ単元を教えるときは、そのファイルを開けば、去年の自分の授業がまるごと手元に戻ってきます。
学年の先生と同じ単元を教えている場合は、このファイルを学年で共有するのもいいと思います。お互いの板書の写真を見比べるだけでも、ずいぶん勉強になります。
記録を見返すタイミングを決めておく
記録は、とるだけでは役に立ちません。見返すタイミングを、あらかじめ決めておきます。
私なら、見返すのは3回です。
1つ目は、次の日の授業の前。前の日の1行メモを見て、「昨日は導入で時間をとりすぎたから、今日は5分で切り上げる」と、今日の授業に一つだけ反映させます。
2つ目は、単元の終わり。単元ファイルに入っている板書の写真と1行メモを、最初から最後まで並べて眺めます。どこで子どもが止まったか、どこで話がつながったか。単元全体の流れが見えてきます。これが、次回書く「単元の振り返り」の材料になります。
3つ目は、次の年に同じ単元を教える前。単元ファイルを開いて、去年の自分のメモを読みます。ただし、去年と同じようにやるためではありません。去年の子どもたちと、今年の子どもたちは違います。去年のメモは、「去年のクラスではこうだった」という一つの参考として読み、今年のクラスに合わせて変えていきます。
タブレットやクラウドを使う場合
最近は、記録をタブレットやクラウドの共有フォルダで管理している学校も多いと思います。写真もメモも一か所にまとまるので、とても便利です。
ただ、便利なぶん、気をつけたいこともあります。子どものノートや振り返りを撮影した写真には、名前や字の癖など、個人が分かる情報が含まれます。保存してよい場所、共有してよい範囲、いつまで保存するかは、必ず学校のルールを確認してください。個人の端末や、個人のクラウドアカウントに保存するのは避けます。
それから、データで記録していると、記録がたまっても「量」が目に見えません。ときどきフォルダを開いて、1か月分の板書の写真を一覧で眺めてみる。それだけでも、自分の授業の変化に気づけることがあります。
研究授業の「授業記録」をとる
ここからは、少し別の話です。研究授業などで、授業記録(記録係)を頼まれたときのことを書きます。
研究授業の授業記録は、ふだんのメモとは目的が違います。第2回で書いた参観のメモは「自分のクラスに持ち帰るため」のものでした。授業記録は、授業者と協議会のための記録です。協議会で「あの場面で、子どもはなんと言っていたか」を確かめたり、授業者があとで自分の授業を振り返ったりするための材料です。
だから、授業記録には、自分の解釈を入れません。見たこと、聞いたことを、できるだけそのまま残します。
授業記録の基本の形
授業記録は、ふつう、こんな形で書きます。
| 時刻 | 発言者 | 発言・動き |
|---|---|---|
| 10:05 | T | 今日は、この形の面積を求めます。どうやって求める? |
| 10:06 | C | (ノートに図をかき始める。約3分) |
| 10:09 | T | 考えが書けた人? |
| 10:09 | C1 | 2つに切って、足します。 |
| 10:10 | C2 | ぼくは、大きい長方形から、ない部分を引きました。 |
| 10:10 | Cs | え、引くの? |
(例としてつくったものです。)
左から、時刻、発言者(T=先生、C=子ども、Cs=複数の子ども)、発言や動き。子どもを区別する必要があるときは、座席表の番号や「C1」「C2」で書きます。記録の中に子どもの本名は書かないのが基本です。
全部は書けない。だから分担する
45分の授業を、一人で一言一句書き残すのは、まず無理です。
研究授業の記録は、何人かで分担するのがおすすめです。たとえば、2人で前半・後半を分ける。あるいは、1人は先生の発言、もう1人は子どもの発言を書く。グループ活動がある授業なら、グループごとに記録係をつけることもあります。
分担がむずかしい場合は、録音を併用します(学校の許可をとったうえで)。その場ではキーワードだけを書きとめ、あとで録音を聞いて書き起こす。書き起こしにはかなり時間がかかるので、中心発問の前後の10分だけを書き起こす、というふうに範囲を決めておくといいと思います。
中心発問の前後は、逐語で
全部が無理でも、中心発問の前後だけは、できるだけ逐語(一言一句そのまま)で残します。
協議会で一番話題になるのは、たいていこの場面です。先生がどう問いかけ、子どもがどう答え、先生がそれをどう受けたか。この部分が正確に残っていると、協議会の話がぐっと具体的になります。
逆に、それ以外の場面は、「(ペアで話し合い。約5分)」「(教科書p.〇を音読)」くらいの書き方で十分です。
子どもの動きも書く
発言だけでなく、子どもの動きも書きます。何人が手を挙げたか。ペアの話し合いがすぐに始まったか。ノートに書くのに何分かかったか。沈黙が何秒あったか。
こうした動きは、発言の記録だけでは分からない、授業の「空気」を残してくれます。第1回で書いた、子どもの聞き方や、先生が待つ時間も、ここに表れます。
記録は早めに整理して、授業者に渡す
授業記録は、とったその日のうちに整理して、授業者に渡すのが理想です。協議会が授業のすぐあとなら、走り書きのままでもかまいません。
渡すときは、「〇〇の場面の子どもの発言は、ここに残っています」と、一言添えてあげてください。授業者は、自分の授業の間、子どもの発言を全部は聞けていません。記録の中に、授業者が気づいていなかった子どものつぶやきが残っていることもあります。それは、授業者にとって何よりの宝物です。
記録を「自分のクラスの記録」として読む
最後に、この連載の軸に戻ります。
授業は、子どもと先生がそれまでに積み重ねてきた関係でできている。だとすると、自分の授業の記録は、自分のクラスの積み重ねの記録でもあります。
4月の板書の写真と、2月の板書の写真を並べてみてください。4月は先生の言葉ばかりだった黒板に、2月には子どもの名前と言葉が並んでいるかもしれません。4月の1行メモには「発言が出ない」と書いてあったのに、2月には「〇〇の考えに、△△がつけたした」と書いてあるかもしれません。
記録を続けていると、こうした変化が見えてきます。授業の上手い下手ではなく、このクラスがどう育ってきたかが見える。それは、自分のクラスに合った授業の形を探していくための、一番確かな手がかりになると思っています。
おわりに
自分の授業を記録する方法を、まとめておきます。
記録は完璧を目指さず、続けられる量でやる。毎日の記録は、板書の写真と1行メモ、指導書への書き込み、子どものノートと振り返り。ときどき、録音・録画で自分の話し方を聞いてみる。記録は単元ごとに1つのファイルにまとめる。研究授業の授業記録は、解釈を入れず、時刻・発言者・発言と動きを残し、中心発問の前後は逐語で。
記録は、それ自体が目的ではありません。記録があるから、振り返ることができる。次回は、その振り返りのしかたです。「うまくいった」「いかなかった」で終わらせない振り返りを書いてみます。


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