「怒るのではなく、叱りなさい」。教員になってから、何度も聞いた言葉です。言われるたびに「そうだよな」と思うのですが、実際に教室で子どもがよくないことをしたとき、自分がしているのが「叱る」なのか「怒る」なのか、正直よく分からなくなることがあります。
声が大きくなったら怒っている? 冷静に話していれば叱っている? そう単純でもなさそうです。
この記事では、「叱る」「怒る」「注意する」の三つの言葉の定義を整理し、教室で子どもに届く言い方を考えます。あわせて、「諭す」「懲戒」という言葉も見ておきます。
三つの言葉の定義
「怒る」とは
怒るは、腹を立てて、その気持ちを表に出すことです。
ポイントは、怒るの中心にあるのが自分の感情だという点です。「腹が立った」「許せない」「がっかりした」。そうした気持ちが、言葉や表情や声の大きさになって外に出る。それが怒るです。
怒るときの主語は「私」です。「(私は)腹が立った」「(私は)がまんできない」。相手に何かを分からせることよりも、自分の気持ちを外に出すことが先に立っています。
「叱る」とは
叱るは、相手のよくない言動を、よくなるように、強い言葉で正すことです。
叱るの中心にあるのは、相手です。相手がしたことのどこがよくないのか、なぜよくないのか、次はどうすればいいのか。それを伝えて、相手が変わることを目指します。
叱るときの主語は「あなた」、もっと正確には「あなたがしたこと」です。「(あなたがした)今のことは、人を傷つける」「(あなたは)次はこうしよう」。目的は、相手の成長です。
叱ることには、ある程度の強さがあります。注意するよりもはっきりと、「それはよくない」と伝えます。ただし、強さは声の大きさではなく、伝える内容のはっきりさのことです。静かな声でも、真剣に、はっきりと伝えれば、叱ることになります。
「注意する」とは
注意するは、相手に気をつけるよう言うこと、よくないことや危ないことに気づかせることです。
「廊下は歩こうね」「名前を書き忘れているよ」「そこ、すべるから気をつけて」。こうした言葉が注意です。
注意は、叱るよりも軽く、日常的なものです。相手がまだ気づいていない、またはうっかりしていることに、気づかせるのが目的です。悪いことをしたとはっきり言うよりも、「気をつけようね」という合図に近い言葉です。
「諭す」とは
もう一つ、学校で使われる言葉に「諭す」があります。
諭すは、相手が納得できるように、道理をていねいに言い聞かせることです。
叱るが強く正すのに対して、諭すは、静かに、相手に分かってもらうことを大事にします。なぜそれがよくないのか、相手の立場に立って考えるとどうなるか。時間をかけて話し、相手が自分で気づくのを待つ。それが諭すです。
「懲戒」とは
学校の言葉として、「懲戒」も知っておきたい言葉です。
懲戒は、学校教育法第11条にもとづいて、校長や教員が、教育上必要があると認めるときに、児童生徒に加えることができる戒めのことです。同じ条文で、体罰は禁止されています。叱る、注意するといった日常の指導も、広い意味では懲戒の一つとして考えられますが、体罰はどんな理由があっても認められません。
並べてみると
| 言葉 | ひと言でいうと | 中心にあるもの | 強さ | 目的 |
|---|---|---|---|---|
| 怒る | 腹を立て、気持ちを表に出す | 自分の感情 | 強い(感情による) | 気持ちを出す |
| 叱る | よくない言動を、強く正す | 相手の行動 | はっきり | 相手がよくなること |
| 注意する | 気をつけるよう言う | 相手の行動 | 軽い | 気づかせること |
| 諭す | 道理をていねいに言い聞かせる | 相手の理解 | 静か | 納得してもらうこと |
表にすると、怒ると叱るの違いは、中心にあるのが自分の感情か、相手の行動かだということが分かります。声の大きさや言葉の強さは、本当の違いではありません。
怒っているのか、叱っているのか、見分ける問い
では、教室で、自分が怒っているのか叱っているのかを、どう見分ければいいでしょうか。私は、次の三つの問いを自分に向けるようにしています。
1. 何がよくなかったのか、一言で言えるか
叱っているときは、相手のどの行動がよくなかったのかがはっきりしています。「友達のノートを勝手に見たこと」「順番を抜かしたこと」。
怒っているときは、これがぼんやりします。「なんでそういうことするの」「いつもそうだよね」「ちゃんとしなさい」。行動ではなく、相手そのものや、自分の不満が言葉になっています。
2. 次にどうすればいいかを伝えているか
叱るときは、最後に「次はこうしよう」があります。よくなかったことを伝えるだけでなく、どうすればよかったのか、次からどうするのかまで伝えます。
怒っているときは、「よくない」で終わります。言われた子どもは、何がいけないのかは何となく分かっても、次にどうすればいいのかが分からないまま終わります。
3. 話し終わったあと、自分がすっきりしているか
これは少し耳の痛い問いですが、大事だと思っています。
話し終わったあと、自分がすっきりしていたら、それは怒っていたのかもしれません。自分の感情を外に出したから、すっきりしたのです。
叱ったあとは、すっきりするよりも、「あの子、伝わったかな」「次はどうなるかな」と、相手のことが気になります。目的が相手の成長だからです。
子どもに届く伝え方
行動と人を分ける
叱るときにいちばん大事なのは、行動を叱り、人を否定しないことです。
「あなたは意地悪だ」ではなく、「今、友達の消しゴムを隠したことは、友達を困らせる行動だった」。「だめな子だね」ではなく、「今の言い方は、相手を傷つける言い方だった」。
行動を叱られた子どもは、「その行動を変えればいい」と考えることができます。人を否定された子どもは、「自分はだめなんだ」と思い、変わろうとする気持ちをなくしてしまいます。
短く、はっきり、その場で
叱るときは、短く、はっきり、できるだけその場で伝えます。
長く話すと、子どもは途中から聞いていません。「何が」「なぜ」「次はどうする」の三つを、短い言葉で伝えます。時間がたってからだと、子ども自身が何をしたのかを覚えていないことがあるので、できるだけその場で伝えるのが効果的です。
ただし、みんなの前で叱るのがよくない場合もあります。プライドが傷つきやすい高学年の子や、注目されることを求めている子には、あとで個別に話すほうが届くこともあります。
理由を伝える
叱るときは、「なぜよくないのか」の理由を伝えます。
「廊下を走らない!」だけでは、子どもは先生がいないところでは走ります。「廊下を走ると、角から出てきた人とぶつかって、けがをするかもしれないよ」と理由を伝えると、子どもは自分で考えて判断できるようになります。
最後は、関係を戻す
叱ったあとは、関係を戻す言葉をかけます。「分かってくれてありがとう」「次はできると思っているよ」。
叱られたあとの子どもは、先生に嫌われたのではないかと不安になっています。叱ったのは行動であって、あなたのことは大事に思っている。それを最後に伝えることで、叱ったことが子どもの中で前向きなものとして残ります。
場面ごとの言い方の例
定義だけでは分かりにくいので、教室でよくある場面で、怒る・叱る・注意するの言い方を並べてみます。
授業中に、となりの子とおしゃべりが止まらない
- 怒る:「いいかげんにしなさい!何回言ったら分かるの!」
- 叱る:「今は友達が発表している時間です。話していると、友達の声が聞こえなくなります。話したいことは、あとで聞くね」
- 注意する:(近くに行って、目を合わせて)「今は聞く時間だよ」
多くの場合は、注意で十分です。何度注意しても続くなら、叱る言い方に切りかえます。
友達に「きもい」と言った
- 怒る:「なんでそんなこと言うの!最低だよ!」
- 叱る:「今の『きもい』という言葉は、言われた人を深く傷つける言葉です。言われたほうは、ずっと覚えています。どんな気持ちで言ったのか、教えてくれる?」
- 注意する:この場面は、注意で終わらせないほうがよい場面です
人を傷つける言葉は、軽く流すと、学級全体が「言ってもいい言葉」だと受け取ってしまいます。はっきり叱る場面です。
提出物を忘れた
- 怒る:「また忘れたの?だらしないね」
- 叱る:「3回続けて忘れているね。忘れないために、何ができそうかな。一緒に考えよう」
- 注意する:「明日、持ってきてね。連絡帳に書いておこう」
忘れ物は、叱るよりも、忘れないための仕組みを一緒に考えるほうが効果があります。
危ないことをした(ベランダの手すりに乗った、など)
- 叱る:「すぐ降りなさい」(まず止める)→「そこから落ちたら、大けがをする。命に関わることです。二度としないと約束してください」
命や安全に関わる場面は、迷わず強く止めて、はっきり叱ります。このとき大きな声が出るのは当然です。止めたあとで、なぜ危ないのかを落ち着いて伝えます。
学級全体を叱るとき
一人ではなく、学級全体を叱らなければいけない場面もあります。たとえば、移動教室にみんなが遅れた、教室がひどく散らかっている、といった場面です。
学級全体を叱るときに気をつけたいのは、ちゃんとしていた子もいる、ということです。全員に向けて「みんな、だめだね」と言うと、きちんとしていた子まで叱られた気持ちになります。
「時間を守れた人もいました。ありがとう。でも、学級として、5分遅れて始まったことは事実です。次はどうしたら全員が間に合うか、みんなで考えよう」。このように、できていた子を認めたうえで、学級としての課題を伝え、次にどうするかを一緒に考える形にすると、学級全体に前向きに届きます。
怒ってしまったときは
それでも、怒ってしまうことはあります。先生も人間です。疲れているとき、同じことが何度も続いたとき、思わず感情が言葉に出てしまう。誰にでもあることです。
怒ってしまったときに大事なのは、そのあとです。
まず、少し時間をおいて、自分の気持ちを落ち着けます。そして、子どもに「さっきは、先生も感情的になってしまった。ごめん」と伝えます。そのうえで、「でも、さっきの行動がよくなかったことは変わらない。次はこうしよう」と、改めて叱る内容を伝えます。
先生が自分の感情を認めて謝る姿は、子どもにとって大事な学びになります。人は感情的になることがある。でも、それに気づいたら、謝って、言い直すことができる。子どもは先生に似ると言われますが、こうした姿こそ、子どもに見せたいものだと思っています。
叱る前に、ふだんの「認める」を増やす
叱る言葉が子どもに届くかどうかは、叱る場面だけでは決まりません。ふだん、その子とどんな関係を築いているかで、大きく変わります。
ふだんから「今の言い方、やさしかったね」「最後までやりきったね」と、よい行動を認める言葉をかけてもらっている子は、叱られたときにも「先生は自分のことを見てくれている」と受け取ることができます。反対に、叱られるときにしか声をかけられない子は、先生の言葉そのものを避けるようになります。
叱る回数を減らそうとするより、認める回数を増やすほうが、結果として叱る言葉が届くようになる。そう考えると、叱ることも、毎日の関係づくりの一部だということが分かります。学級のきまりやルールをどう決めるかについては、「『きまり』『ルール』『約束』はどう違う?」にも書いています。
注意で終わらせる、という選択
叱るべきか迷ったときは、注意で終わらせる、という選択もあります。
子どもの行動の多くは、悪意からではなく、うっかりや、気づいていないことから起きています。そうした行動に対しては、強く叱るよりも、「今の、気をつけようね」と軽く注意するほうが、子どもは素直に受け取ります。
いつも強く叱っていると、子どもは叱られることに慣れてしまいます。本当に叱らなければいけない場面、たとえば人を傷つけたときや、危険なことをしたときに、叱る言葉が届かなくなります。
日常の多くは注意で、本当に大事な場面だけ叱る。この使い分けを意識しておくと、叱る言葉に重みが出ます。
よくある質問
大きな声を出すのは、怒っていることになりますか?
声の大きさだけでは決まりません。危険な場面で、子どもを止めるために大きな声を出すのは必要なことです。ただ、大きな声を出すと、子どもは内容よりも声の大きさに反応してしまい、怖さだけが残ることがあります。危険な場面以外では、大きな声よりも、近くに行って、目を見て、静かにはっきり伝えるほうが届くことが多いと思います。
叱っても変わらない子には、どうすればいいですか?
叱って変わらないときは、叱り方よりも、その行動の背景を考える必要があるかもしれません。注目されたい、困っていることがある、やり方が分からない。行動の理由が分かると、叱る以外の関わり方が見えてきます。一人で抱えこまず、学年の先生や養護教諭、特別支援教育コーディネーターなどに相談することも大事です。
保護者の前で子どもを叱ってもいいですか?
基本的には避けたほうがよいと思います。保護者の前で叱られると、子どもは恥ずかしさが先に立ち、内容が届きにくくなります。保護者には、あとで事実と、学校でどう指導したかを伝えるほうが、保護者も子どもも受け止めやすくなります。
まとめ
怒るは、腹を立て、自分の感情を表に出すこと。
叱るは、相手のよくない言動を、よくなるように、はっきり正すこと。
注意するは、相手に気をつけるよう言い、気づかせること。
諭すは、道理をていねいに言い聞かせ、納得してもらうこと。
怒ると叱るの違いは、声の大きさではなく、中心にあるのが自分の感情か、相手の行動かにあります。何がよくなかったのかを一言で言えるか、次にどうすればいいかを伝えているか。この二つを確かめるだけで、叱る言葉は子どもに届きやすくなります。
そして、怒ってしまったときは、謝って、言い直せばいい。完璧な先生である必要はありません。言い直せる先生であれば十分だと、私は思っています。


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