研究授業のあと、会議室や図書室に集まって、協議会が始まります。司会の先生が言います。
「では、授業を見ての感想やご意見を、どなたからでも」
……しーん。
だれも手を挙げない。しばらくして、ベテランの先生が口を開き、いくつか意見を言う。それに続いて、何人かの先生が話す。経験の浅い先生は、最後まで一言も話さずに終わる。協議会のあと、「何か言えばよかったかな」と思いながら、自分の教室に戻る。
協議会で何を話せばいいか分からない。これも、授業を見に行く意味を感じにくくなる理由の一つだと思います。せっかく見たのに、それを言葉にしないまま終わってしまうからです。
今回は、協議会で何を話すかです。見た授業を、授業者にも、自分にも役立つ形で言葉にして返す方法を考えてみます。
協議会は「授業者のため」で「自分のため」
まず、協議会が何のためにあるのかを整理しておきます。
一つは、授業者のためです。授業者は、授業をしている45分の間、子ども全員を見ることはできません。参観者が見ていた子どもの姿を伝えることで、授業者は自分の授業を振り返る材料を得ます。第5回で書いた、自分の評価とほかの先生の評価をつきあわせることが、協議会ではまとめてできるわけです。
もう一つは、参観した自分のためです。見たことを言葉にすると、自分が何を見て、何を考えたかがはっきりします。言葉にしないままだと、「なんとなくよかった」で終わってしまう。協議会で話すことは、見た授業を自分の授業に持ち帰るための、最後の整理でもあります。
それから、協議会では、ほかの先生の意見も聞けます。同じ授業を見ていたのに、自分とはまったく違うところを見ていた先生がいる。それを聞くだけでも、授業の見方が広がります。
感想ではなく「事実+解釈+提案」で話す
では、何をどう話すか。私がおすすめしたいのは、事実+解釈+提案の形です。
- 事実:どの場面で、だれが、何をしたか(見たこと)
- 解釈:それを見て、自分はどう考えたか(思ったこと)
- 提案:だとしたら、こうしてみてはどうか(次の手)
たとえば、こんな感じです。
「中心発問のあと、廊下側の後ろのグループを見ていました。最初の2分くらい、だれも話し出さなかったんですが、一人の子が『ここに〜って書いてある』と教科書を指さしたところから、急に話が動き出しました(事実)。教科書の言葉という手がかりがあると、話し合いが始めやすいのかなと思いました(解釈)。もしかすると、話し合いの前に『教科書のどこから考えたか、線を引いておこう』と一言あると、ほかのグループも話し出しやすいかもしれません(提案)。」
「よかったです」「勉強になりました」という感想は、授業者にとってうれしいものではありますが、それだけでは次の授業につながりません。事実があると、授業者は「あの場面か」と思い出せます。解釈があると、その場面の意味を一緒に考えられます。提案があると、次の手が見えてきます。
第2回で書いた3列メモの「見たこと」「思ったこと」「自分のクラスなら」は、実はこの形にそのまま対応しています。右の列の「自分のクラスなら」を、授業者のクラスに向けて言いかえたものが「提案」です。メモをこの形でとっておくと、協議会で話すことに困らなくなります。
提案は「代案」として、控えめに
提案について、もう少し書いておきます。
提案は、あくまで代案の一つとして出します。「こうするべきだった」ではなく、「こうしてみる手もあるかもしれません」くらいの言い方で。
理由は、この連載でずっと書いてきたことにあります。授業は、子どもと先生がそれまでに積み重ねてきた関係でできている。参観者は、その積み重ねを45分しか見ていません。授業者は、4月からずっと、この子どもたちと過ごしてきています。参観者が「こうすればいい」と思ったことが、このクラスには合わないかもしれない。授業者は、それをとっくに試して、うまくいかなかったのかもしれない。
だから、提案は控えめに。そして、提案するときは、自分のクラスの話をするのもいい方法です。「うちのクラスでは、こういうときにこうしたら、少し話が動きました。このクラスに合うかは分かりませんが」。それなら、授業者は自分のクラスに合うかどうかを、自分で判断できます。
話す前に、1つだけ決めておく
協議会で話せない理由の一つは、何を話すか決まっていないことです。たくさん見たけど、どれを話せばいいか分からない。考えているうちに、話すタイミングを逃す。
第2回で、授業のあと5分で「協議会で話したいことを1つ決める」と書きました。これが、協議会で話せるようになる一番の近道です。
1つだけ。それも、事実+解釈+提案がそろうものを選びます。できれば、授業者が見ていなかったであろう場面がいい。1人を追う見方をしていたなら、その子のことを話すのが一番です。授業者にとって、自分が見られなかった子どもの姿を知ることは、何よりの材料になります。
話すことが1つ決まっていれば、司会の先生が「どなたからでも」と言ったとき、すぐに手を挙げられます。最初に話してしまえば、あとは気が楽です。
それから、話す内容は、メモを見ながらでかまいません。協議会は発表会ではないので、メモを読み上げるような話し方でも十分伝わります。むしろ、メモに書いた事実(時刻や子どもの言葉)をそのまま読むほうが、聞いている先生たちにも場面が正確に伝わります。
研究の視点に沿って話す
校内研究の協議会では、研究の視点が決まっていることが多いです。第3回で書いた、指導案のはじめのほうにある「研究主題」や「本時で検証する手立て」です。
協議会では、まずこの視点について話すことが期待されています。「ペアでの対話を取り入れることで、考えが深まったか」という視点なら、ペアの対話の場面で何が起きたかを話す。自分が見たいと思って見たことと、研究の視点がずれている場合は、まず研究の視点について一言話してから、自分の見たことにつなげるといいと思います。
「研究の視点のペア対話について、私が見ていたペアでは〜でした。それとは別に、一つ気になったのが〜」
こうすると、協議会の流れに沿いながら、自分の見たことも話せます。
付箋を使った協議会の進め方
協議会の進め方にもいろいろありますが、最近よく見かけるのが、付箋を使ったワークショップ型の協議会です。発言が苦手な先生も参加しやすいので、自分が司会や研究担当になったときのために、進め方を書いておきます。
- 付箋に書く(授業中〜授業直後):参観者は、授業を見ながら付箋に書きます。色を分けておくと便利です。たとえば、青は「よかったところ」、赤は「課題・疑問」、黄は「代案」。1枚に1つのことを、事実+解釈の形で書きます。
- グループで貼る(10分):4〜5人のグループに分かれ、模造紙に付箋を貼っていきます。模造紙には、授業の流れ(導入・展開・まとめ)を横軸に書いておくと、どの場面の意見かが分かりやすくなります。
- グループで話す(15分):貼った付箋を見ながら、似た意見をまとめたり、意見が分かれたところについて話したりします。
- 全体で共有する(10分):グループごとに、一番話題になったことを1つ発表します。
- 授業者が話す(5分):最後に、授業者が感想と、これからやってみたいことを話します。
付箋のいいところは、全員の意見が残ることです。発言しなかった先生の意見も、付箋には書いてある。協議会が終わったら、模造紙ごと授業者に渡します。授業者は、それをあとでゆっくり読み返すことができます。
時間配分は、協議会全体を45〜50分と想定した例です。学校の研究の進め方に合わせて調整してください。
経験の浅い先生が話しやすい問い
自分が司会をするとき、または経験の浅い先生が多い協議会のときは、話しやすい問いを用意しておくといいと思います。
「感想やご意見を、どなたからでも」は、実は答えるのがむずかしい問いです。何を話してもいいと言われると、かえって何を話せばいいか分からなくなる。
代わりに、こんな問いを出してみます。
- 「授業の中で、子どもの考えが一番動いたと思う場面はどこでしたか」
- 「1人の子を追って見ていた方、その子はどうでしたか」
- 「中心発問のあと、子どもたちの様子はどうでしたか」
- 「自分のクラスでやるなら、どこを変えますか」
具体的な場面を聞く問いなら、経験に関係なく答えられます。そして、経験の浅い先生の「見たこと」は、ベテランの先生にとっても新鮮なことが多いです。ベテランの先生が見落としていた子どもの姿を、経験の浅い先生がしっかり見ていた、ということは、よくあります。
最後の「自分のクラスでやるなら、どこを変えますか」は、この連載の軸そのものです。授業をそのまま再現するのではなく、自分のクラスに合った形を考える。この問いを協議会で出すと、参観者一人ひとりが、見た授業を自分の授業に持ち帰る準備ができます。
授業者へのフィードバックの言い方
協議会で話すとき、授業者への言い方にも気をつけたいところです。
研究授業の授業者は、何週間も前から準備をして、多くの先生の前で授業をしています。授業のあとは、緊張から解放されて、ほっとしていると同時に、「うまくいかなかった」と落ちこんでいることも多いです。
そういうときに、厳しい意見ばかりが続くと、授業者は、次から授業を見せることが怖くなってしまいます。それでは、学校の中で授業を見合う文化が育ちません。
私が気をつけているのは、次のようなことです。
まず、具体的な「よかった場面」から話す。「よかったです」だけでなく、どの場面の、どの子の姿が、なぜよかったのかを話します。具体的であるほど、授業者は「ちゃんと見てもらえていた」と感じます。
課題は、授業者ではなく、場面について話す。「先生の発問が分かりにくかった」ではなく、「この発問のあと、子どもが少し止まっていたように見えました」。授業者の力量ではなく、場面と子どもの姿について話します。
課題には、代案をセットにする。課題だけを言われても、授業者はどうすればいいか分かりません。代案があれば、授業者は「それも一つの手だな」と考えられます。
授業者の意図を聞く。「あの場面で、〇〇したのはなぜですか」。第2回で書いた「なぜ」の質問です。参観者には見えていなかった、授業者の考えや、このクラスならではの理由が分かることがあります。
協議会のあとに、5分だけやること
協議会が終わったら、参観した側にも、もう一つだけやってほしいことがあります。
協議会で聞いた意見の中から、自分のクラスに持ち帰ることを1つ決めることです。
協議会では、自分が見ていなかった場面の話や、自分とは違う見方がたくさん出てきます。「あの先生は、まったく別のところを見ていたんだな」「その見方は思いつかなかった」。そういう発見は、協議会が終わって教室に戻るまでの間に、すっと消えてしまいがちです。
だから、協議会のあと5分で、第2回の3列メモの右の列「自分のクラスなら」に、協議会で聞いたことから1つ書き足します。授業を見たときに決めた「持ち帰ること」と同じでもいいし、協議会で聞いて変わったなら、そちらに書きかえてもかまいません。
授業を見て、メモをとり、協議会で話し、聞いて、最後に1つ持ち帰る。ここまでやって、ようやく「授業を見に行った」と言えるのだと思っています。
協議会に出られなかったときは
授業は見られたけど、協議会の時間には別の仕事があって出られなかった。そういうことも、よくあります。
そういうときは、授業者に一言だけ、直接伝えに行くのがおすすめです。協議会のように長く話す必要はありません。「〇〇の場面で、△△さんがこう言っていて、すごくよかったです」。事実を1つと、よかったと思った理由を1つ。
付箋を使った協議会なら、自分の付箋だけでも、だれかに頼んで模造紙に貼ってもらうこともできます。見た授業を言葉にして返すことは、協議会の場でなくてもできます。
授業者の側の聞き方
最後に、自分が授業者になったときのことも少しだけ。
授業者として協議会に出るときの心構えは、研究授業の指導案、何から書く?の最後にも書きました。ここで一つ足すなら、協議会で出た意見を、全部取り入れようとしないことです。
協議会では、たくさんの意見が出ます。中には、正反対の意見もあります。全部を取り入れようとすると、自分の授業がばらばらになってしまう。
意見を聞くときも、この連載の軸が役に立ちます。授業は、自分と子どもたちの関係でできている。参観者の意見は、その関係を45分だけ見た人の意見です。役に立つものも多いけれど、このクラスには合わないものもある。だから、意見はありがたく受け取りつつ、自分のクラスに合うものを1つだけ選んで、次の授業で試してみる。それで十分だと思います。
おわりに
協議会で何を話すか。まとめると、こうなります。
協議会は、授業者のためであり、参観した自分のためでもある。話すときは、感想ではなく「事実+解釈+提案」で。提案は代案の一つとして、控えめに。話すことは、授業のあと5分で1つだけ決めておく。研究の視点がある場合は、まずそれに沿って話す。授業者には、具体的なよかった場面から伝え、課題は場面と子どもの姿について話す。
協議会で話せるようになると、授業を見に行く意味が、ぐっと大きくなります。見たことを言葉にすることで、見たものが自分のものになるからです。
次回は、連載の最終回です。見た授業を、自分の授業にどう生かすか。そのまま再現するのではなく、自分のクラスに合った形を探す方法を書きます。


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