授業を見に行くとき、手に持っていくものといえば、ノートとペン。そして、ほとんどの人が、何かしらメモをとります。
でも、何をメモすればいいのか。
教員になったばかりのころ、私はここで本当に迷いました。先生の言ったことを書けばいいのか。板書を写せばいいのか。子どもの発言を全部書くのか。迷っているうちに、授業はどんどん進んでいきます。
なんとかメモはとりました。なのに、あとで見返しても、何をどう生かせばいいのかが分からない。書いたことは確かに「あったこと」なのに、それが自分にとって何なのかが、メモのどこにも書いていなかったんです。
今回は、授業を見ながら何をメモするかです。前回の「どこを見るか」と合わせて、あとで自分の教室に持ち帰れるメモの取り方を書いてみます。
メモは「自分のクラスに持ち帰るため」にとる
先に、メモの目的をはっきりさせておきます。
授業を見るときのメモは、記録のためではなく、自分のクラスに持ち帰るためにとるものだと思っています。
研究授業などで「記録係」を頼まれたときは別です(記録係のメモの取り方は第4回で書きます)。でも、ふだん授業を見に行くときに、授業の全部を正確に残す必要はありません。それは、授業者の先生が自分でやることです。
見に行く側のメモは、あとで「あの授業で、自分は何を持ち帰ったんだっけ」と思い出せればいい。そのためには、何があったかだけでなく、自分がそれをどう見たかと、自分のクラスならどうするかが書いてあることが大事です。
新任のころの私のメモに足りなかったのは、まさにこの2つでした。
メモ用紙は「3つの列」に分ける
ということで、私がおすすめするのは、ノートを3つの列に分けてメモをとる方法です。
ノートを縦に3つに区切ります。左から、
- 見たこと(事実)
- 思ったこと(解釈・疑問)
- 自分のクラスなら
の3つです。左の列が一番広く、真ん中と右は少し狭くてかまいません。いちいち線を引くのが面倒なら、A4の紙に3列の枠を印刷したものを何枚か用意しておくと楽です。
左の列:見たこと
左の列には、見たまま、聞いたままを書きます。
時刻、先生の発問や指示、子どもの発言、子どもの動き。ここには自分の考えは入れません。「〇〇さんの発言がよかった」ではなく、「〇〇さん『だって、3場面で〜って書いてあるから』」と、発言そのものを書きます。
事実だけを書く理由は、あとで振り返るときに、事実が残っていないと何も考えられないからです。「よかった」と書いてあっても、何がよかったのかは、1週間もたてば忘れてしまいます。
真ん中の列:思ったこと
真ん中の列には、左の列で書いたことについて、自分が思ったことを書きます。
「なんでここで、この子を当てたんだろう」。「ここで空気が変わった」。「この発問は、子どもには少しむずかしそう」。疑問、気づき、感想。なんでもかまいません。
ポイントは、左の列の事実と横に並べて書くことです。そうすると、「何を見て、そう思ったのか」があとで分かります。協議会で話すときも、「〇〇の場面で、△△さんが〜と言っていて、ここで考えが変わったように見えました」と、事実と解釈をセットで話せるようになります。
右の列:自分のクラスなら
そして、一番大事なのが右の列です。
ここには、見たことを、自分のクラスに置きかえて書きます。
「うちのクラスでやるなら、ペアの前に一人で書く時間をもう少し長くとる」。「うちのクラスは、まだまちがいを言える空気がないから、まずは先生がまちがえてみせるところから」。「この発問、うちの〇〇さんなら、たぶんこう返してくる」。
前回書いたように、授業は、その教室の子どもと先生の積み重ねでできています。だから、見た授業をそのまま自分のクラスで再現することはできません。右の列は、そのまま再現するのではなく、自分のクラスに合った形を探すための列です。
右の列は、授業中に全部埋めなくてかまいません。むしろ、授業のあと5分で埋めるくらいのつもりでいてください。授業中は、気になったところに「→」だけ書いておいて、あとで右の列を書き足す。それくらいで十分です。
3列メモの例
イメージしやすいように、例を書いてみます。4年生の算数「面積」で、L字型の図形の面積の求め方を考える授業を見た、という想定のメモです(例としてつくったもので、実際の授業の記録ではありません)。
| 見たこと | 思ったこと | 自分のクラスなら |
|---|---|---|
| 10:05 ◎発「この形の面積、どうやって求める?」 | 答えではなく「どうやって」を聞いている | うちでも「方法」を聞く形にしてみる |
| …8秒 挙3 | 長く待つ。急がせない | うちだと3秒で当ててしまう。待てるか? |
| 10:13 C1「2つに切る」C2「でっぱりを足して大きい長方形にして、引く」 | C1の後にC2。切る→引くの順で、ちがいが出やすい | 指名の順番を、机間指導のときに決めておく |
| Cs「え、引くの?」 | ここで空気が変わった | ★「引く」が出なかったら、自分ならどうする? |
| 10:20 T「C1とC2、似てるところは?」 | 比べる発問。どちらも「長方形にする」に気づかせたい | 型2(共通点)。うちの単元でも使える |
| 板書:C1・C2の図を名前つきで左右に並べる | 子どもの考えがそのまま残る | うちは先生の言葉で書きすぎている |
こうして並べてみると、左の列だけ読んでも「何があったか」は分かりますが、自分のクラスに持ち帰れるのは右の列だということがよく分かると思います。
逆に言うと、右の列が書けない場面は、無理に書かなくていいです。自分のクラスとつながる場面が、45分の中に2つか3つあれば十分です。
左の列に何を書くか
3つの列の中で、一番迷うのが左の列だと思います。全部は書けません。何を優先するか。
時刻
まず、時刻です。数分おきに、左端に「10:05」のように書いておきます。
時刻があると、あとで「導入に何分かかったか」「一人で考える時間は何分だったか」が分かります。授業者の先生が振り返るときにも、協議会で話すときにも、意外と役に立つ情報です。
発問と指示
次に、先生の発問と指示です。全部でなくていいので、中心になる発問だけは、一言一句書きとめるようにしています。
発問は、言い方が少し違うだけで、子どもの反応が大きく変わります。「この時のごんの気持ちは?」と「ごんは、どうしてくりを持っていったんだろう?」では、子どもが考えることがまったく違う。言い方まで残しておくと、あとで自分の授業で使うときに参考になります。
子どもの発言とつぶやき
子どもの発言は、できるだけ子どもの言葉のまま書きます。全員分は無理なので、中心発問の後の発言を優先します。
それから、つぶやきも拾います。指名されていない子が「え?」「あー、分かった」とつぶやく瞬間は、授業の中で子どもの考えが動いた瞬間であることが多いです。
子どもの動き
発言以外の動きも書きます。何人が手を挙げたか。ペアの話し合いがすぐ始まったか。ノートに何を書いていたか。前回おすすめした「1人を追う」見方をしているなら、その子の動きを中心に書きます。
メモを速くとるための略記号
授業は待ってくれません。速く書くために、略記号を決めておくと便利です。私がよく使うのは、こんな感じです。
- T:先生(Teacher)の言葉
- C:子ども(Child)の言葉。だれか分かるときは座席番号や「C1」「C2」
- Cs:何人かの子どもが同時に言った言葉
- 発:発問。中心発問は「◎発」
- 挙7:手を挙げた人数(7人)
- …5秒:沈黙の長さ
- ★:あとで右の列に書き足したいところ
「T」「C」は授業記録でよく使われる書き方なので、ほかの先生のメモや記録を読むときにも役に立ちます。それ以外は、自分が分かればなんでもかまいません。
座席表メモ
もう一つ、ぜひ試してほしいのが座席表メモです。
指導案に座席表がついていれば、それをコピーして使います。なければ、授業の最初に教室の机の配置をざっと書いておきます。そして、発言した子の席に、発言の要点を書きこんでいきます。
座席表メモのいいところは、教室のどこで、だれが、どんな考えを持っていたかが一目で分かることです。発言が教室の前半分に偏っていた、とか。同じ考えの子が近くにかたまっていた、とか。発言が、Aさんの考えに対してBさんが反論し、それにCさんがつけたす、という流れなら、席と席を矢印でつないでおくと、話し合いの流れも見えてきます。
ただし、座席表には子どもの名前が書いてあることが多いです。扱いには十分に気をつけて、参観が終わったら授業者の先生に返すか、決まった方法で処分してください。
授業が始まる前に、メモの一番上に書いておくこと
メモの一番上には、授業が始まる前に次のことを書いておきます。
- 日付、学年・教科、単元名
- 本時のめあて(指導案があれば、本時の目標)
- 自分の問い(前回書いた、見に行く前に持っていく問い)
特に大事なのが、最後の「自分の問い」です。「話し合いがどうつながっているか」を見に来たのか、「一人で考える時間に手が止まる子への手立て」を見に来たのか。これがメモの一番上に書いてあるだけで、左の列に何を書くかが、ずいぶん選びやすくなります。
それから、何か月かたってメモを見返したときにも、「このときは、これが知りたくて見に行ったんだな」と思い出せます。メモは、その時の自分の困りごとの記録でもあるんです。
写真は撮ってよいか
最近は、タブレットで板書やノートを撮りたくなる場面も多いと思います。
ここは、必ず授業者の先生に許可をもらってからにしてください。学校によっては、写真撮影そのものに決まりがあることもあります。
撮るとしても、板書だけ、子どもの顔や名前が写らないように、というのが基本です。ノートを撮るときも、名前の部分が写らないようにします。撮った写真は自分の端末に置きっぱなしにせず、学校のルールに沿って保存・処分します。
それから、写真に頼りすぎないことも大事です。写真は「何が書かれていたか」は残しますが、「それを見て自分がどう思ったか」は残しません。写真を撮ったら、真ん中の列と右の列は、やっぱり自分の手で書いておきます。
迷ったら、「なぜ」を1つだけ書く
ここまで書いておいて何ですが、3列のメモも、略記号も、座席表も、最初から全部やるのは大変です。
迷ったら、まずはこれだけで十分です。
「なぜ、この先生はここでこうしたのか」を1つだけ書く。
授業を見ていると、「あれ?」と思う瞬間が必ずあります。なんでここで黙って待ったんだろう。なんでこの子を最初に当てたんだろう。なんで板書をここで消したんだろう。
その「あれ?」を1つだけ書いて、授業のあとで授業者の先生に聞いてみる。「〇〇の場面で、△△したのはなぜですか?」。
この質問の答えには、だいたい、その先生とその子どもたちの関係が詰まっています。「あの子は、最初に当てると安心して、その後もしゃべれるようになるんです」とか。「あそこで待つのは、4月からずっと続けていることで」とか。
その答えこそが、自分のクラスに持ち帰れるものです。やり方そのものではなく、そうした理由。理由が分かれば、自分のクラスでは別のやり方で同じことをねらえるかもしれません。
授業のあと5分で、メモを整理する
最後に、メモはとったあとが大事です。
授業が終わったら、できればその日のうちに、5分だけ時間をとってメモを見返します。やることは3つです。
- 右の列を埋める。授業中に★や→をつけたところに、「自分のクラスなら」を書き足します。
- 持ち帰ることを1つ決める。メモの中から、明日から自分のクラスで試してみたいことを1つだけ選んで、丸で囲みます。2つも3つも選ばない。1つです。
- 協議会がある場合は、話したいことを1つ決める。事実と解釈をセットで話せる場面を1つ選んでおきます。
この5分をやるかどうかで、メモの価値はまったく変わります。新任のころの私は、この5分をやっていませんでした。だから、ノート何ページ分のメモが、ただの「書いたもの」で終わっていたのだと思います。
見たことをどう自分の授業に生かすかは、連載の最終回でもう一度くわしく書きます。
やりがちなこと
全部書こうとする。書くことに必死で、子どもを見る時間がなくなります。顔を上げている時間のほうが長いくらいでちょうどいいです。
板書を写す。板書は最後にまとめて写真か、スケッチで十分です。写している間に、子どもの大事な一言を聞き逃します。
「よかった」「すごい」だけ書く。何がよかったのかを、事実で残しておかないと、あとで何も思い出せません。
右の列が空っぽのまま。これが一番もったいない。「自分のクラスなら」が書いてあるかどうかで、そのメモを次の日に見返すかどうかが決まります。
おわりに
授業を見ながら何をメモするか。まとめると、こうなります。
メモは、自分のクラスに持ち帰るためにとる。ノートを「見たこと」「思ったこと」「自分のクラスなら」の3列に分ける。左の列には、時刻、発問、子どもの発言とつぶやき、子どもの動きを、見たまま書く。迷ったら、「なぜこの先生はここでこうしたのか」を1つだけ書いて、あとで聞いてみる。そして、授業のあと5分で、持ち帰ることを1つに決める。
何をメモすればいいのか迷うのは、何のためにメモをとるのかが決まっていないからだと思います。新任のころの私がそうでした。目的が「自分のクラスに持ち帰ること」だと決まれば、書くことは自然としぼられてきます。
次回は、授業を見る前に、学習指導案のどこを読むかです。研究授業などで指導案が配られたとき、参観前の5分でどこをどう読めばいいかを書きます。
連載「授業を見る・振り返る」
- #1 授業を見るとき、どこを見るか
-
2 授業を見ながら、何をメモするか(この記事)
- #3 授業を見る前に、学習指導案のどこを読むか
- #4 自分の授業を記録する
- #5 授業の振り返りのしかた
- #6 授業を評価する
- #7 協議会で何を話すか
- #8 見た授業を自分の授業に生かす


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