算数で「一番教えにくい単元は?」と聞かれたら、私は迷わず5年生の「割合」と答えます。
「もとにする量」「比べられる量」「割合」。3つの言葉が出てきて、公式は「比べられる量÷もとにする量=割合」。言葉の上では分かる。計算もできる。でも、文章題になると、どっちがもとにする量か分からない。だから、とりあえず大きい数を小さい数でわってしまう。
この単元、審議まとめにも名指しで出てきます。
審議まとめが書いていること
審議まとめは、小学校算数の課題として、こう書いています。
割合・比・分数など、特定の単元については、概念を理解することが困難であることなどから、習得・定着が十分でない児童が相当数存在する。
そして、改善の方向として、
割合・比・分数など、課題が見られる内容については、確実な習得・定着を図るため、学習内容やその配列の改善を検討する。
「配列の改善」。つまり、何年生のどこで何を教えるか、という順番そのものを見直すかもしれない、ということです。これは、かなり踏み込んだ書き方だと思います。
あわせて、「みはじ」「くもわ」のような指導について、意味理解を伴わない形で使われることへの懸念にも触れています(このあたりは、以前の連載「『みはじ』『くもわ』をどうするか」で書きました)。
なぜ、割合は難しいのか
私なりに、割合が難しい理由を考えてみます。
理由1:「もとにする量」が、問題によって変わる
「定員40人のバスに、30人乗っています」。このときのもとにする量は40人。でも、「30人乗っているのは、定員の何倍?」ではなく、「定員は、乗っている人数の何倍?」と聞かれたら、もとにする量は30人。
同じ数でも、何を「1」と見るかで、役割が変わる。これが割合の本質であり、一番難しいところです。
理由2:「倍」の学習が、つながっていない
実は、割合の考え方は、2年生のかけ算の「〇倍」から始まっています。3年生、4年生でも「何倍」を学ぶ。4年生では「簡単な割合」も入っています。
でも、子どもの中では、それが5年生の「割合」とつながっていません。「倍」は「倍」、「割合」は「割合」。審議まとめのいう「レディネス」、つまり、ある単元を理解するための既習事項の習得状況が、十分に確かめられないまま新しい単元に入っている。
理由3:「百分率」「歩合」が一気に来る
割合を小数で表すことに慣れる前に、百分率(%)、歩合(割・分・厘)が一気にやってくる。表し方が3つもある。ここで、多くの子が混乱します。
今の教科書でできること
「配列の改善」は、次の学習指導要領と教科書の話です。でも、今の教科書でもできることはあります。
①単元の前に「倍」の確認をする
割合の単元に入る前に、「何倍」の問題を数問やってみます。4年生の内容です。
「赤いテープは12m、白いテープは4m。赤は白の何倍?」。これが解けない子は、割合の単元に入る前に、ここに戻る必要がある。審議まとめのいう「レディネスのアセスメント」です。難しく考えず、単元の最初の1時間を、確認の時間にするだけです。
②「1」にするのはどっち?を言葉で言わせる
文章題を解くとき、式を立てる前に、「この問題で、1と見ているのはどっち?」を言わせます。
「定員40人を1と見て、乗っている30人はどれだけにあたるか」。この一文が言えれば、式は自然に立ちます。言えない子は、まだ式に進まない。
③図をかく。でも、図の種類は一つにしぼる
テープ図、数直線、関係図。教科書にはいろいろな図が出てきますが、全部を使わせると子どもは混乱します。
学年で、あるいは学校で、割合はこの図、と一つ決めておく。私は、二本の数直線(上に量、下に割合)を使うことが多いです。教科書によって中心にしている図は違うので、お使いの教科書に合わせて決めるのがいいと思います。
④「みはじ」「くもわ」に頼らない
公式を覚える道具としての「くもわ」は、手っ取り早いです。でも、何がもとにする量かが分かっていない子が使うと、ただの「数を当てはめるパズル」になります。
審議まとめも、意味理解を伴わない形で使われることを懸念しています。使うにしても、②の「1と見るのはどっち?」が言えるようになってから。順番を逆にしない。
審議まとめの「認知心理学」の話
審議まとめの算数のページには、ちょっと面白い記述があります。基本的な概念や原理を理解し、知識や技能を確実に習得するには、分散学習・検索練習など、認知心理学や学習科学の知見も踏まえた指導が有効、とあります。
割合でいえば、単元の中で集中して練習して終わり、ではなく、単元が終わった後も、時々思い出させる。朝の5分で割合の問題を1問。宿題に1問混ぜる。忘れかけた頃にもう一度。これが分散学習と検索練習です。
割合は、6年生の「比」や「速さ」、中学校の「1次関数」や「確率」にもつながっていきます。5年生で終わらせない方がいい単元なのです。
「分からない」と言える教室で
もう一つ、審議まとめの算数のページには、「間違っても良い」「分からないと言える」といった心理的安全性を確保した上で、子どもが疑問をもち、考えの理由を説明させるような授業が有効だ、とも書いてあります。
割合の授業で、「どっちがもとにする量か分からない」と言える子は、実はすごいんです。分からないところが分かっている。そう言える空気を、先生がつくれるかどうか。割合の単元は、そこが試される単元でもあると思っています。
まとめ
- 審議まとめは、割合・比・分数を名指しで課題とし、「学習内容やその配列の改善」まで検討するとしている
- 割合が難しいのは、何を「1」と見るかが問題によって変わり、「倍」の既習とつながっていないから
- 単元前の「倍」の確認、「1と見るのはどっち?」を言葉で、図を一つにしぼる、単元後も時々思い出させる
正直、割合で全員が分かる授業は、私もできたことがありません。でも、「1と見るのはどっち?」が言えた子は、確実に増えました。
次回は、6年生の「データの調べ方」で、新しい分野「データと確からしさ」「社会を読み解く数学」を考えます。
参考
- 中央教育審議会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)第2部第2章「算数、数学」p.164〜166、p.170、p.173 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/gaiyou/1292164_00001.htm
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」算数 第5学年 C変化と関係(3)、第4学年 C変化と関係(2)(簡単な割合)
- 関連記事:「みはじ」「くもわ」をどうするか 意味理解と練習量、算数の課題から考える(連載「次期学習指導要領を読む」)


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