#33 外国につながる子どもと日本語指導 「できないこと」より「強み」から

教育の動き・学習指導要領

「次期学習指導要領を読む」第33回です。「来週から、日本語がほとんど話せない子が転入してきます」。そう告げられたとき、うれしさと同じくらい不安を感じるのは、私だけではないですよね。

審議まとめは、外国人の子どもや外国につながる子どもへの教育について、次のような基本的な考え方を、学習指導要領の総則にも書いていく必要があるとしています。

単に日本語能力の補充として捉えるのではなく、教育課程全体を通じ、日々の学習や、多様な人々との個性を生かした協働に必要な資質・能力を育成する

そのうえで、主に次のような方向が示されています。

  • 子どもの語彙・文法・文字などの「できないこと」だけに目を向けず、資質・能力の育成までを視野に入れる
  • 子どもが持っている多言語・多文化の経験や、母語による学習経験を、指導に効果的に生かす
  • 日本語指導を、日本語指導担当の教員など一部の人だけが担うものにせず、担任や教科担当、支援員がそれぞれ実践できる方法を示す
  • AIやオンラインの活用、学習言語への配慮、母語の活用などを含めたガイドラインを、令和8年度中に策定する

日本語がまだ十分でない子が学級にやってきたとき、私たち担任は何を大切にすればいいのか。審議まとめを手がかりに考えてみます。


日本語指導が必要な子どもは増えている

審議まとめによると、文部科学省は、日本語指導が必要な子どもが急増する実態を踏まえて「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」を設置し、令和8年6月に報告書をまとめています。審議まとめの総則の項目では、その議論が紹介されています。

学級に日本語指導が必要な子がいる。そうした状況は、特定の地域だけのことではなくなりつつあると思います。


今の日本語指導の課題

有識者会議の議論では、今の日本語指導について、次のような課題が整理されています。

基本的な考え方に関する課題

  • 子どもの語彙・文法・文字などの「できないこと」に指導者の意識が集中し、それらの指導に偏ってしまう実態もある中、資質・能力の育成までを視野に入れた教育の重要性が十分に伝わっていない
  • 子どもが持っている多言語・多文化の経験や、母語による学習経験を、指導で効果的に生かす視点が十分に浸透していない

指導・支援の具体に関する課題

  • 初期段階の指導・支援の具体や、教科の内容の概念的な理解を図りながら資質・能力を育む指導方法・内容が、分かりやすく示されていない
  • 子どもの言語発達と日本語の習得状況をアセスメントする「ことばの力のものさし」の活用が道半ばで、アセスメントを踏まえた指導の工夫が明確でない
  • 在籍学級の教育課程と特別の教育課程それぞれの役割分担や連携の方策が不明確
  • 日本語指導担当の教員など一部の人が担うものと認識されがちで、担任や教科担当、支援員がそれぞれ実践できる日本語指導の方法が十分に示されていない
  • 受入れ経験の少ない教員が担当する場合でも実施できる指導方法・内容が十分に示されていない
  • 生成AIやオンラインを含むICTの効果的な活用、母語も活用した指導・支援、教科の学習に必要な語彙や表現(いわゆる学習言語)に配慮した指導の方法が明確でない

「受入れ経験の少ない教員」という言葉を読んで、自分のことだと思いました。同じように感じた方もいるのではないでしょうか。初めて日本語指導が必要な子を担任したとき、何から始めればいいのか分からず、ひらがなのプリントを用意することしか思いつかなかった。その子が母国でどんな学びをしてきたのか、どんなことが得意なのか、聞いてみようともしていなかったように思います。


「日本語の補充」ではなく「資質・能力の育成」

教育課程全体を通じて

審議まとめは、こうした課題の解消に向けて、外国人の子どもなどの強みを生かしながら、教育課程全体を通じ、社会に参画するための資質・能力を育てるという基本的な考え方を明示する、としています。

日本語の力が気になって、まずはひらがなから、と考えてしまいますよね。日本語ができるようになることは、もちろん大切です。でも、それはゴールではなく、学びや協働のための手段です。日本語がまだ十分でなくても、算数の考え方は理解できるかもしれない。絵や図で表現する力は豊かかもしれない。友達と協力する力は十分にあるかもしれない。日本語の習得と並行して、教科の学びや、人と関わる力を育てていく。それが「資質・能力の育成」という考え方だと思います。

「1階」と「2階」の往還

第21回で書いた「1階」「2階」の考え方は、日本語指導にも当てはまります。日本語指導が必要な子どもに対する特別の教育課程(日本語指導特例)は、すでにある「2階」の仕組みの一つです。

図1:柔軟な教育課程編成の促進(小・中学校の全体イメージ)
図1:柔軟な教育課程編成の促進(小・中学校の全体イメージ)。上の「2階」に「日本語指導が必要な児童生徒」の特例が位置付けられています(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.453[資料1-4-1])

審議まとめは、「2階」の特例が必要な子どもを、特別の教育課程によって通常の学級とは別の場に「任せておけばよい」と考えることは適切ではない、と書いています。特別の教育課程による支援があるからこそ、それ以外の時間は「1階」で他の子どもとともに学びやすくなる。日本語指導の教室と在籍学級が、互いに行き来する関係であることが大切だということです。


「強み」を生かす

多言語・多文化の経験

審議まとめで繰り返し出てくるのが、外国につながる子どもが持っている多言語・多文化の経験や、母語による学習経験を「強み」として生かす、という視点です。

「強み」と言われても、具体的にはどういうことなのでしょうか。たとえば、母国で学んだ算数のやり方が、日本のやり方と違うことがあります。それを「間違い」として直すのではなく、「こんな方法もあるんだ」と学級で共有する。母国の行事や食べ物、言葉を紹介してもらう。その子の経験が、学級全体にとって新しい視点をもたらす学びの資源になります。

外国語の授業でも

第24回で書いたように、外国語の項目でも、帰国した子どもや外国人の子ども、外国につながる子どもの「外国語の能力などの特性を、本人の各教科等の学習に生かすことができるよう配慮することが大切である」という考え方を、外国語の解説にも示すべきだとされています。外国語の授業で、その子が母語や英語の知識を生かして活躍する場面があるかもしれません。

幼児教育でも

幼児教育の項目では、外国人の乳幼児などについて、母語での声掛けや母文化の遊びを取り入れるなど、安心して自己を発揮できる環境の下で、一人一人の日本語の習得状況や生活習慣などの実態に応じた指導の工夫を組織的・計画的に行い、小学校への引継ぎを図ることが必要だとされています。

また、外国人の乳幼児などとの日常的な関わりや言葉掛けで「日本語の力を育む視点」をもつことについて、こうした工夫は、他の乳幼児にとっても言葉を豊かに育むことにつながる、とも書かれています。

この視点は、小学校の学級にもそのまま当てはまると思います。日本語が十分でない子に伝わるように、ゆっくり話す、短い文で話す、絵や実物を見せる。そうした工夫は、実はほかの子にとっても分かりやすい工夫です。第31回で書いた「全員にとって分かりやすい授業」の考え方とも重なります。


担任も、日本語指導の担い手

図2:個々の児童生徒に係る教育課程の編成・実施のための「2階シート(仮称)」(イメージ)
図2:個々の児童生徒に係る教育課程の編成・実施のための「2階シート(仮称)」(イメージ)。日本語指導の「個別の指導計画」も、他の支援計画と一つのシートにまとめていくイメージです(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.1030[資料2-3 不登校⑤])

「一部の人が担う」から「みんなで担う」へ

審議まとめが挙げた課題の一つに、日本語指導が、日本語指導担当の教員など一部の人が担うものと認識されがちだ、というものがありました。担任や教科担当、支援員がそれぞれ実践できる日本語指導の方法を示していく、という方向です。

日本語指導の教室で過ごす時間は、学校生活全体から見ればほんの一部です。大部分の時間を過ごすのは、在籍学級です。その中で、担任が日本語の力を育む視点を持っているかどうかで、子どもの日本語の伸びも、学びへの参加の度合いも、大きく変わるのだと思います。

「学習言語」への配慮

特に意識したいのが、「学習言語」です。日常会話は比較的早く身に付いても、教科の学習に必要な語彙や表現(たとえば「比べる」「理由」「まとめる」「〜によって」など)は、なかなか身に付きにくいと言われます。

友達とは楽しそうに話しているのに、授業になると黙ってしまう子。教室で見かけたことがありますよね。それは、日常会話と学習言語の間に段差があるからかもしれません。教科の学習で使う言葉を、絵や動作、実物と結びつけて丁寧に確認していく。そうした配慮が、担任にもできる日本語指導の一つだと思います。


AIやオンラインの活用

審議まとめは、生成AIやオンラインを含むICTの効果的な活用方法が明確でないことも課題として挙げ、AIやオンラインの効果的な活用方法を含めた指導内容・方法に関するガイドラインを、令和8年度中に策定予定としています。

翻訳アプリを使えば、母語と日本語を行き来しながら学ぶことができます。母語で考えを書き、翻訳して友達と共有する。保護者との連絡にも使えます。一方で、翻訳に頼りすぎると日本語を使う機会が減ってしまうかもしれません。どの場面で、どう使うか。ガイドラインで具体的な方法が示されることを期待しています。


私が今から試してみたいこと

1. 最初に「できること」「好きなこと」を聞く

新しく外国につながる子が来たら、日本語ができるかどうかだけでなく、母国でどんな学びをしてきたか、何が得意で何が好きかを、保護者や本人から聞いてみる。通訳や翻訳アプリの力を借りてもかまいません。その子の「強み」を知ることが、指導の出発点になるのだと思います。

2. 授業に「見て分かる」工夫を一つ

指示を板書する、絵カードを使う、手順を写真で示す、実物を見せる。日本語が十分でない子にとっての手がかりは、ほかの子にとっても分かりやすい手がかりです。まずは一つ、授業の中に取り入れてみたいと思っています。

3. 日本語指導の担当者と話す時間をつくる

日本語指導の教室で何を学んでいるか、在籍学級ではどんな様子か。担当者と短い時間でも情報を共有する。審議まとめが課題として挙げた「在籍学級の教育課程と特別の教育課程の連携」は、こうした日常の小さな共有から始まるのだと思います。

4. 学級に「違い」を楽しむ雰囲気を

母国の言葉であいさつを教えてもらう、母国の遊びを学級で一緒にやってみる。その子が「自分の文化を大切にしてもらえている」と感じられることが、安心して学ぶための土台になります。


気になるところもあります

一方で、日本語指導の体制は、地域によって大きく違います。日本語指導の担当教員や支援員が配置されている学校もあれば、担任一人で対応しなければならない学校もあります。審議まとめは「受入れ経験の少ない教員が担当する場合でも実施可能な指導方法」の必要性を書いていますが、方法だけでなく、人の配置や通訳の確保といった条件整備も欠かせないと思います。

また、子どもだけでなく、保護者とのコミュニケーションにも難しさがあります。学校の仕組みや行事、持ち物の連絡。保護者が安心して子どもを学校に送り出せるような支援も、あわせて考えていく必要がありそうです。


おわりに 「日本語ができない子」ではなく

「日本語ができない子」。そう呼んでしまうと、その子の姿は「できないこと」でしか見えなくなります。でも、その子は、もう一つの言葉と文化を持っている子であり、新しい環境で一生懸命学ぼうとしている子です。

審議まとめが「できないこと」ではなく「強み」に目を向けることを強調しているのは、そのためなのだと思います。言葉の壁を越えて、その子のよさが学級の中で輝く。そして、学級のみんなが、違いの中から新しいことを学ぶ。外国につながる子どもがいる学級は、多様性の中で共に学ぶことを、子どもたちが実感できる学級でもあるのだと思います。

次回は、いよいよ最終回です。特定の分野に特異な才能のある子への特別の教育課程について書きます。


参考にした資料

中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)

文部科学省「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」報告書(令和8年6月)※審議まとめでの言及による

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