「次期学習指導要領を読む」第22回です。「考え、議論する道徳」と言われ続けて、もう何年もたちます。それでも、自分の道徳の授業が本当に「議論」になっているか、自信を持てない。そんな方も多いのではないでしょうか。私もその一人です。
審議まとめは、道徳について、教科化以降に進めてきた「考え、議論する道徳」を、すべての学校で「実装」する段階に移る、としています。そのための大きな工夫として示されているのが、次の二つです。
- 一つの教材を複数コマで扱う教科書の構成にして、「じっくりと深く学ぶ」道徳を進める
- 学校の実態に応じて、教師が交代で学年・学級を回って授業をする「チームで行う道徳授業」を導入できることを明確にする
一方で、道徳科の評価については、記述式・個人内評価という今の考え方を維持する方向です。「考え、議論する道徳」の骨格は変えずに、それを本当に教室で実現するための条件を整える。今回の道徳の改訂は、そんな位置付けだと受け取りました。
1コマ1教材の難しさ
審議まとめが挙げる課題
道徳の授業は、1コマで1つの読み物教材を扱うことが多いですよね。審議まとめは、その場合に次のような課題が指摘されている、と書いています。
- 心情理解や登場人物の整理に時間がかかってしまう
- 教材の解釈が中心の展開になり、多面的・多角的に自分の生き方についての考えを深めるところまでたどり着かない
- 1コマの中で、読み物と向き合う時間と、考え議論を深める時間の両方を十分に確保することが難しい
- 体験的な学習や問題解決的な学習を取り入れ、自分自身との関わりで深める時間を確保することが難しい
どれも、うなずいてしまう項目ばかりではないでしょうか。私の道徳の授業そのものです。教材を読んで、登場人物の気持ちを確かめて、「あなたならどうする?」と問いかけたところでチャイムが鳴る。子どもが本当に考え始めたところで、授業が終わってしまう。そんな経験を何度もしてきました。
一つの教材を、複数コマで

「連続2コマ」ではなく「翌週も」
そこで審議まとめは、発達の段階を踏まえつつ、1教材を複数コマで扱うことで「じっくりと深く学ぶ」道徳科の学びを一層進めていくべきだ、としています。
注記で大事なことが書かれています。複数コマは、連続した2コマを想定しているのではなく、「翌週の取扱いを念頭」に置いている、というのです。1週間あいだを置くことで、子どもは教材について考える時間を持てます。家で家族と話してみたり、学校生活の中で似た場面に出会ったりするかもしれません。
また、2コマ目には、読み物教材ではない「深める教材」を使うことも想定されています。
内容項目どうしの「葛藤」も扱える
1教材を複数コマで扱うと、内容項目どうしが対立したり葛藤したりする場面も扱いやすくなります。審議まとめは、例として「相互理解、寛容」と「規則の尊重」の葛藤、「友情、信頼」と「公正、公平、社会正義」の葛藤などを挙げています。
友達をかばいたい気持ちと、ルールを守らなければという気持ち。大人でも迷う場面ですよね。どちらも大切な価値だからこそ、子どもは本気で悩みます。そうした葛藤を、時間をかけて、自分自身の問題として多面的・多角的に考える。それが「考え、議論する道徳」の醍醐味なのだと思います。
そのため、同じ内容項目を複数時間で扱う場合(パターン1)と、複数の内容項目を扱う場合(パターン2)の両方がバランスよく含まれた教材にすべきだ、とされています。
低学年では慎重に
一方で、特に低学年では複数時間の運用に慎重であるべきという意見も出されていて、教科書のあり方は発達の段階に応じて段階的に考えていく必要がある、とも書かれています。
内容項目はすべて扱う方針は維持
なお、各学年で、相当する内容項目をすべて取り上げるという今の扱いは、引き続き維持する方向です。年間35単位時間の中で最大22の内容項目を扱うことと、複数コマでじっくり扱うこと。その両立をどう図るかは、教科書の構成の工夫にかかっていそうです。
道徳の「深い学び」の二つの視点
審議まとめは、道徳科の「深い学び」の考え方を分かりやすく伝えるために、今の解説をもとに、次の二つを「深い学び」の視点として示す方向です。

- 多面化・多角化:一面的な見方から、多面的・多角的な見方へと発展すること
- 自我関与:自分自身との関わりで、道徳的価値の理解が深まること
「いろいろな見方ができるようになったか」「自分のこととして考えられたか」。授業の振り返りで、この二つを意識するだけでも、授業の見え方が変わると思います。
チームで行う道徳授業

教師が交代で学級を回る
「自分の道徳の授業、ほかの先生ならどうするんだろう」。そう思ったことがある方もいるのではないでしょうか。もう一つの工夫が、「チームで行う道徳授業」です。教師が交代で学年の全学級を回って道徳の授業を行う、という取組です。
審議まとめは、そのよさとして次のような点を挙げています。
- 教師が得意分野に引きつけて授業を展開できる
- 何度も同じ教材で授業をすることで、指導力の向上につながる
- 担任以外の学級を互いに指導することで、学年全体で子ども理解を深めようとする姿勢につながる(特に小学校)
- 複数の教師の授業に触れることが、子どもにとって視点の広がりにつながる可能性がある
道徳は、教科に比べて授業同士の前提関係が弱いので、教師が交代しても学習が成立しやすい、という指摘もありました。
デメリットや留意点も
一方で、次のようなデメリットや留意点も挙げられています。
- 子どもの道徳性に関わる成長を、適切に見取ることが難しい
- 特に低学年では、同じ教師が信頼関係のもとで指導することで、安心して発言できる面がある
そのうえで、子どもの発達の段階や担任の役割、教師間の連携体制など、導入する場合の留意点を明らかにしたうえで、学校の実態に応じて、交代で授業をする方策の導入が可能であることを明確にすべきだ、とされています。注記では、教師の負担軽減だけが目的にならないよう、あくまで「考え、議論する道徳」のよりよい実装のために行われる必要がある、と念を押しています。
AI時代の道徳
AIをめぐる道徳的な問い
子どもたちが日常的にAIに触れるようになって、道徳で扱うべき問いも変わってきていると感じませんか。今回の審議まとめで、もう一つ新しいのが、AIをめぐる道徳的な課題への言及です。AIが急速に社会に浸透する中で、「人間として生きること」や「人間としての価値判断と責任」が問い直され、道徳教育が一層重要になっている、という指摘があるとされています。
AIをめぐる道徳的な問いの例として、次のようなものが挙げられています。
- 学習課題や作品づくりで、何のために、どこまでAIを使うべきか。そもそも、何のために学ぶのか
- AIの出力から得た情報や、AIによって自分向けに調整された情報を、どう受け止め、判断するべきか
こうしたAIの惹起する道徳的課題を、発達の段階を踏まえて、道徳科の教材でも扱うことが考えられることを解説で示す方向です。
情報モラルのアップデート
情報モラルについても、10年前と比べて、AIによる大量の情報生成で正しい情報と誤情報を見分けることが難しくなっていること、低年齢から情報を発信・拡散する立場になることが多くなっていること、簡単な操作で他者や社会に悪影響を与えたり犯罪に巻き込まれたりするリスクが大きくなっていること(プライバシーの侵害、デジタル・タトゥー、デマの拡散、いじめへの同調、闇バイトへの関与など)が指摘されています。教科書や教材のアップデートを促す方向です。
評価は今の考え方を維持
道徳科の評価については、次のような今の考え方を維持する方向です。
- 数値ではなく記述式
- 個々の内容項目ごとではなく、大くくりのまとまりを踏まえた評価
- ほかの子との比較ではなく、成長を認め励ます個人内評価
- 多面的・多角的な見方へと発展しているか、道徳的価値の理解を自分自身との関わりで深めているかを重視
第6回で書いたように、各教科の「学びに向かう力」も個人内評価を基本にする方向が示されています。道徳で積み重ねてきた個人内評価の考え方が、教育課程全体に広がっていくとも言えそうです。
私が今から試してみたいこと
1. 一つの教材を、翌週にもう一度扱ってみる
今の教科書のままでも、ときどき一つの教材を2週にわたって扱うことはできます。1週目は教材と向き合い、問いを立てる。2週目は、その問いについてじっくり議論する。内容項目の配当との調整は必要ですが、私は年に数回でも試してみたいと思っています。
2. 学年で「チーム道徳」を試してみる
学年の先生と相談して、学期に一度、同じ教材で互いの学級を回って授業をしてみる。同じ教材で何度も授業をすると、発問や展開を磨くことができます。何より、ほかの学級の子どもたちの考えに触れることで、自分の学級の子どもの見え方も変わるはずです。
3. AIや情報の話題を、道徳の問いにしてみる
「宿題をAIに手伝ってもらうのは、ずるいこと?」。子どもたちにとって身近なこの問いは、「誠実」「正直」「努力」「よりよく生きる喜び」など、いろいろな内容項目と関わります。正解のない問いだからこそ、本気で考え、議論できる題材になると思います。
おわりに 「じっくり」が許される道徳へ
道徳の授業で、子どもが本当に考え始めたところでチャイムが鳴る。その悔しさを感じてきた私たちにとって、「一つの教材を複数コマで」という方向は、待ち望んでいたものかもしれません。
時間をかけて考えること。一週間、心の中で問いを温めること。友達や家族と話してみること。そうした「じっくり」の中でこそ、子どもは自分の生き方について考えを深めていくのだと思います。
次回は、「デジタル学習指導要領」と生成AIで、教材研究はどう変わるか、について書きます。
参考にした資料
中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)


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