「次期学習指導要領を読む」第23回です。指導書を読みながら「この単元のねらい、学習指導要領ではどう書いてあったかな」と思っても、分厚い解説を探す気力が残っていない。夜の職員室で、そんな経験をしたことがある方は多いですよね。
審議まとめは、学習指導要領を紙の冊子やPDFで配るだけでなく、ウェブサイトで使える「デジタル学習指導要領」として提供する方向を示しています。そこには、次のような機能が想定されています。
- 教科書の指導書などから、該当する学習指導要領・解説・評価の参考資料へ、リンクですぐに飛べる
- キーワード検索やレイアウトの切り替えで、教科内・教科間・学校種間のつながりがつかみやすい
- 指導案づくりや進度管理に使えるよう、いろいろなファイル形式で出力できる
- 生成AIが読みやすい形式でデータが提供され、AIを使って指導案・評価計画案・教材などを練りやすくなる
教材研究のやり方そのものが変わりうる話です。一方で審議まとめは、子どもの学びの場面については、生成AIに思考・判断・表現の過程を代替させないことにも強く注意を促しています。教師が使うAIと、子どもが使うAI。その両方について、今回の審議まとめから読み取れることを整理してみます。
なぜ「デジタル」にするのか
学習指導要領は、正直あまり開かれていない
まず、審議まとめが率直に書いている現状から紹介します。
構造化・表形式化して学習指導要領を分かりやすくしても、教師の授業づくりの中で日常的に参照・活用されなければ、改善の趣旨は実現から遠ざかる。今の学習指導要領は紙の冊子とPDF版で提供されていて、使いにくさがある、というのです。挙げられている課題は、たとえば次のようなものです。
- 検索性が低く、見たい情報にたどり着くまでに時間がかかる(PDF版でも、改行で切れた単語は検索できない)
- 指導案をつくるときに、学習指導要領や解説を参照・引用するのに手間がかかる
- AIなどに読み込ませて活用するのに適したデータ形式になっていない
- レイアウトが固定されていて、教科内の系統性や教科間・学校種間の関連が確認しにくい
- 解説、教科書・指導書、外部の教材サイトとの対応関係が分かりにくい
学習指導要領の解説をじっくり開くのは、研究授業の指導案を書くときぐらい。そういう方も多いのではないでしょうか。私もそうです。ふだんの授業準備では、教科書と指導書を見て、明日の1時間をどうするかを考えるのが精一杯。解説のどこに何が書いてあったか、探すだけで時間がかかってしまいます。
「本時主義」につながってしまう
審議まとめは、こうした使いにくさが、次のような授業づくりの課題につながっていると書いています。
- 限られた準備時間の中で、育てたい資質・能力を確認する負担が大きい(働き方改革の視点からも課題)
- 前後の学年や他の学校種、他教科で何を教えているかが把握しづらく、系統性を踏まえた指導や教科等横断的な学習につながりにくい
- 身に付けるべき資質・能力を意識しづらく、教科書「を」教える授業、「本時主義」につながりやすい
「本時主義」という言葉、耳が痛いですよね。今日の1時間をどう乗り切るかに精一杯で、この単元で、この1年で、どんな力を育てたいのかを見失ってしまう。学習指導要領が「開きやすくなる」ことは、そうした授業づくりから抜け出すための、地味だけれど大事な条件なのだと思います。
デジタル学習指導要領で何ができるようになるのか

指導書から、ワンクリックで学習指導要領へ
審議まとめが示す機能のうち、私が特に期待しているのは、日々使っている教科書の指導書などから、該当する学習指導要領・解説・評価の参考資料を、リンクなどで一体的・即時的に確認できる、という機能です。
今は、指導書を読んで「この単元の目標は何だったかな」と思ったら、別の冊子を開いて、該当ページを探す必要があります。それがワンクリックでできるなら、ふだんの授業準備の中で、学習指導要領に立ち返る回数はきっと増えます。
前後の学年とのつながりが見える
キーワード検索やレイアウトの切り替えで、教科内・教科間・学校種間の系統性や関連性をつかみやすくなる、という機能も示されています。

たとえば5年生の「割合」を教えるときに、4年生で何を学んできたのか、6年生の「比」や中学校でどうつながっていくのかを、一つの画面で見比べられる。第20回で書いたように、算数はつまずきが「雪だるま式」に増えていく教科です。前後のつながりがすぐに見えることは、既習事項の確認や、つまずきへの手立てを考えるうえでも役立つはずです。
学習指導要領コードで教材を探す
学習指導要領コードを使いやすい形で実装し、コードを介して、対応する教材や全国学力・学習状況調査の問題などを探せるようにする、という機能も挙げられています。「この内容に対応する教材や問題はどこにあるか」が探しやすくなれば、教材研究の時間を、探すことから考えることへ移していけるかもしれません。

保護者や地域の人も見られる
さらに審議まとめは、保護者や地域住民を含め、誰もが学習指導要領に容易にアクセスできる環境を整えることで、子ども自身が身に付けるべき力を自覚するきっかけになったり、保護者や地域、民間事業者と連携しやすくなったりする、とも書いています。「社会に開かれた教育課程」を、データの面からも後押ししようという考え方です。
生成AIで「指導案を練る」
AIが読みやすい形式で提供される
「指導案をAIでつくっていいの?」。職員室でも、ときどき話題になりますよね。今回、特に新しいと感じたのが、「生成AIが読みやすい形式で学習指導要領データが提供されており、AIを活用して指導案・評価計画案・教材等を練ることが容易にできる」という一文です。
学習指導要領そのものを、AIに読み込ませることを前提にしたデータとして提供する。国の文書でここまで明確に書かれたことに、時代の変化を感じました。
「つくらせる」のではなく「練る」
ただ、私が大事だと思ったのは、「つくる」ではなく「練る」という言葉が使われていることです。AIに指導案を丸ごとつくってもらうのではなく、自分が考えた単元の構想を、AIとの対話で練り上げていく。そういう使い方を想定しているのだと読みました。
たとえば、こんな使い方が考えられます。
- 自分が考えた単元の流れをAIに示して、「学習指導要領のこの内容に照らして、抜けている視点はないか」と聞いてみる
- 「この単元で、子どもがつまずきそうなところはどこか」をAIに挙げてもらい、自分の学級の子どもの姿と照らし合わせる
- 評価の場面で、子どもの姿をどう見取るか、ルーブリックの案をいくつか出してもらい、自分で選び直す
どれも、最後に判断するのは教師自身です。目の前の子どもを知っているのは、AIではなく私たちだからです。
「参考イメージ」と経験の浅い先生
審議まとめは、デジタル学習指導要領と並んで、構造化した学習指導要領を単元・授業づくりの中でどう生かすかについて、教科等ごとに「参考イメージ」を示す方向も打ち出しています。特に経験の浅い教師にとって、「統合的な理解・総合的な発揮」を実現する単元を具体的に構想するのは、適切なサポートなしにはかなり難しい、という認識からです。
ただし、教師が参考イメージを常につくることは想定していない、とも書かれています。参考イメージは、多様で豊かな単元・授業づくりの足掛かりの一つにすぎず、現場の実践を過度に縛る趣旨ではない、とも念を押しています。デジタル学習指導要領や生成AIも、同じように「足掛かり」として使っていくものなのだと思います。
子どもが使うAIについては、慎重に
AIの要約をそのままコピー
教師がAIを使うことと、子どもがAIを使うことは、やはり分けて考えたくなりますよね。ここからは、子どもの学びの場面での生成AIの話です。審議まとめは、デジタル学習基盤について、次のような実態にも触れています。
例えば現在でも、検索結果の最上部にAIによる要約が表示され、その内容を単純にコピー&ペーストしている児童生徒に対して適切な指導がなされていない実態もみられる。
調べ学習で、検索結果の一番上に出てくるAIの要約を、そのまま書き写す。小学校でも、高学年を中心に見かける光景ではないでしょうか。
思考の過程をAIに代替させない
国語の項目では、生成AIを含むICTは、発達の段階を踏まえつつ、教育活動のねらいに合う場合に活用することを原則とし、生成された出力も比較・吟味の対象であること、自分で考え判断し表現した内容を自分の言葉で説明し責任を持つことを基本にする、としています。
そのうえで、文章の全体像を理解するための要約、初発の思考の文章化、文章の構成の検討や情報の選択などに指導の重点を置く場面では、AIを不用意に使うことに慎重になるべきで、子ども自身が行うべき思考・判断・表現の過程がAIに代替されないよう「特段の留意」が必要だ、と書いています。
図画工作や音楽などの芸術系の教科でも、表現する過程などを安易に生成AIに委ねることは適切ではなく、人間ならではの感性や身体性を基盤とした創造的な表現を重視し、ツールとして適切に用いることが重要だとされています。
評価の工夫が「喫緊の課題」
さらに、最終的な評価の段階で、AIに頼って自分の思考を経ていない成果物が通用しないような評価の工夫が「喫緊の課題」だ、とも書かれています。例として、口頭試問の要素を取り入れる、端末でのテストのときにブラウザを使えないようにするソフトウェアを活用して、自分の考えを根拠をもって記述させる、といった方法が挙げられています。
小学校でいえば、まとめた内容について「どうしてそう考えたの?」と短く聞いてみる。それだけでも、自分の言葉で説明できるかどうかは見えてきます。
ガイドラインは別に示される
なお、情報技術の進展に伴う扱いは、必要に応じてガイドラインや指導資料として別に示すことを、学習指導要領や解説にあらかじめ書いておくべきだ、とされています。「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」については、学習指導要領の改訂を待たずに令和8年度中に改定する方向も示されています。技術の変化が速いからこそ、学習指導要領本体ではなく、更新しやすい形で示していく、ということだと思います。
私が今から試してみたいこと
1. 単元の前に、前後の学年の学習指導要領を見ておく
デジタル学習指導要領を待たなくても、今の学習指導要領や解説を、単元の前に少しだけ見ておくことはできます。特に、前の学年で何を学んできたか、次の学年で何につながるか。その二つだけでも、単元の見え方が変わります。
2. AIを「壁打ち相手」として使ってみる
授業準備で生成AIを使うなら、答えをもらうのではなく、自分の考えをぶつける「壁打ち相手」として使ってみる。「この発問で、子どもは何を考えるだろう」「この単元の目標と、この活動はつながっているか」。自分の構想を言葉にすること自体が、教材研究になると思います。なお、子どもの名前や個人情報は入力しないなど、勤務先のルールに沿って使うことは大前提です。
3. 子どもには「AIの答えを疑う」経験を
子どもが生成AIを使う場面では、AIの答えをそのまま使うのではなく、「本当かな」「教科書や本ではどう書いてある?」と確かめる活動をセットにする。審議まとめが言う「生成された出力も比較・吟味の対象」という考え方を、小さな体験として積み重ねていけたらと思っています。
気になるところもあります
一方で、読みながら気になったこともあります。
一つは、デジタル学習指導要領がどれだけ使いやすくなるかは、まだ分からないということです。審議まとめも、機能例を土台としつつ、学校現場の教師の声を丁寧に拾いながら、具体的な機能を文部科学省で詳しく検討する必要がある、としています。現場の声がきちんと届く形でつくられてほしいと思います。
もう一つは、生成AIの使い方の差です。AIを使いこなす先生と、そうでない先生の間で、教材研究の質に差が生まれるかもしれません。学校として、どう使えばよいかを共有し合う機会も必要になりそうです。
そして何より、AIで指導案が「それらしく」整ってしまうことの危うさです。整った指導案と、子どもが深く学ぶ授業は、同じではありません。目の前の子どもの姿から出発する、という教材研究の原点は、ツールが変わっても変わらないのだと思います。
おわりに 「探す時間」を「考える時間」に
学習指導要領を開くのが面倒で、つい教科書と指導書だけで授業をつくってしまう。そんな私にとって、デジタル学習指導要領は、うれしい方向性です。
ツールが便利になることで、学習指導要領や解説を「探す時間」が減り、子どもの姿を思い浮かべながら「考える時間」が増える。生成AIも、そのための相棒として使っていけたらと思います。そして、子どもたちには、AIの答えを鵜呑みにせず、自分の頭で考え、自分の言葉で説明する力を育てていきたい。教師も子どもも、AIと「どう付き合うか」を学んでいく時代に入ったのだと感じています。
次回は、外国語は「自分の意見」と「身近な地域」を発信する活動へ、という話を書きます。
参考にした資料
中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)


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