「次期学習指導要領を読む」第28回です。3年生で目を輝かせて虫を探していた子が、6年生になると「理科は覚えることが多い」と言うようになる。そんな変化を見てきた方も多いのではないでしょうか。
小学校の理科と生活科について、審議まとめが示す主な方向性は、次のとおりです。
理科 – 見方・考え方の対象を「自然の事物・現象」から「自然や社会の事象・言説」へ広げ、客観的、論理的、批判的に考察することを重視する – 学習内容を小・中・高共通で「物理・化学・生物・地学」の4分野で整理する(ただし小学校の内容を難しくするものではないと明記) – 分野を横断する課題について学ぶ「理科と日常生活」を、小学校に新しく設ける
生活科 – 生活科の本質的意義を「身体性」「対象と自分との関わり」「他者と自分との関わり」「自己認識」の四つで整理する – 目標の「具体的な活動や体験」を「身体性を伴う体験と多様な表現活動」と改める – 動物飼育は学校での飼育を基本としつつ、借用(ホスティング)や近隣施設での継続的な触れ合いも「同等の扱い」と明確にする
AIやデジタル技術が身近になるほど、自分の目で見て、手で触れて、確かめる学びの価値は高まる。理科と生活科の審議まとめからは、そんなメッセージが読み取れました。
理科の課題 「好き」が減っていく
世界トップクラスなのに
審議まとめは、日本の子どもの科学的な力は国際的な調査で世界トップクラスを維持している、と成果を書いています。一方で、次のような課題が挙げられています。
- 学校段階・学年が進むにつれ、理科を楽しいと好意的に捉える子どもが減る傾向がある
- 科学的な力の高さに比べて、理科への興味・関心や有用感が低い
- 身の回りの現象や日常生活の事象について、既習事項を基に科学的に分析したり考えたりしようとする子どもが少ない
- 令和7年度の全国学力・学習状況調査で、基本的概念の理解・定着が不十分な子どもが見られ、授業の内容が「よく分かる」と答えた子どもの割合が減っている
- 理科のスコアに男女差はほとんどないのに、理科への自信や科学分野を志向する割合に男女差がある
どこかで聞いた話ですよね。第20回で書いた算数とよく似た課題です。「できる」けれど「好き」ではない。学年が上がるほど、理科が「覚えること」になっていくのかもしれません。
器具やセンサーの整備
学習環境についても、観察・実験で使う器具や機器の整備が十分でない学校があり、地域間・学校間の格差が懸念されること、1人1台端末とつながるセンサーなどのデジタル化があまり進んでいないことが指摘されています。
小学校では主に学級担任が理科を教えていて、中学校・高校の専科教員との間で、カリキュラムの接続や指導方法の違いについての相互理解に課題がある、という指摘もあります。
私自身、理科は得意な教科ではありません。実験の準備に追われ、うまく結果が出なかったときの説明に困り、教科書の「まとめ」を板書して終わってしまったこともあります。
理科の新しい「見方・考え方」
「自然や社会の事象・言説」へ
理科の見方・考え方は、今の「自然の事物・現象を、科学的な視点で捉え、科学的に探究する方法を用いて考える」という基本を維持しつつ、小・中・高で文言を統一する方向です。
そのうえで、見方・考え方を働かせる対象を、今の「(身近な)自然の事物・現象」から、より社会との接続を意識して「自然や社会の事象・言説」とする方向が示されています。新たな見方・考え方として、次のような規定が考えられる、とされています。
自然や社会の事象・言説を、自然科学的な視点から捉え、観察、実験の結果や科学的知見などに基づいて、客観的、論理的、批判的に考察すること
背景には、生成AIの発展とも相まって、非科学的なデマやフェイクニュースがSNSなどを通じて急速に広がる、という現代の状況があります。第27回で書いた社会科でも「社会的事象や言説」が対象になっていました。教科は違っても、「言われていること」を鵜呑みにせず、根拠に基づいて考える力を育てる、という方向は共通しています。
「自然を愛する心情」は中高へも
「学びに向かう力」の情意・感性については、「生命を尊重する心情や人と自然環境の調和に寄与しようとする心情」と規定する方向です。今は小学校理科だけに規定されている「自然に親しむ」「自然を愛する心情」を、中学校・高校にも通じる形で展開するものだ、と説明されています。小学校では引き続き、生活科との接続や発達の段階を踏まえて、自然と関わる体験を通じて学習を進めることが考えられる、とも書かれています。
理科の内容はどう変わる?
4分野で整理、でも「難しくしない」
学習内容は、小・中・高共通で「物理・化学・生物・地学」の4分野に分けて整理する方向です。今の小学校理科は「エネルギー」「粒子」「生命」「地球」の4領域で考えられていますが、そこで育てようとしていた中核的な概念は、「統合的な理解・総合的な発揮」の中で表現するとされています。

「物理」「化学」と聞くと、小学校の内容まで難しくなるのかと心配になりますよね。ここで大事なのは、注記の一文です。
特に小学校の学習内容の難化を招くものでないことについて、国による丁寧な周知が必要。
区分を統一することは、学校種や学年による指導方法の違いを否定するものではない、とも書かれています。名前が「物理」「化学」になっても、小学校で子どもが実際に触れて、試して、考える理科の姿は変わらない、ということだと受け取りました。
新しく「理科と日常生活」
小学校に新しく設けられるのが、「理科と日常生活」という学習内容です。エネルギー問題や環境問題など、特定の分野や領域に限定できない、科学的な知見を必要とする社会課題が増えている。それなのに、今の小学校理科には分野横断的な学習内容が規定されていない、という課題からです。
個別の分野で学んだことをもとに、分野横断的な課題について学ぶことは、「統合的な理解・総合的な発揮」を身に付けるうえでも重要だ、とされています。
一方で、小学校ではこれまでも日常生活や社会とのつながりを重視した指導がされてきたので、社会や職業との関係に特化した独立の学習内容は設けない、とも書かれています。
たとえば、電気の学習、ものの燃え方、生き物と環境の学習を終えたあとに、「私たちの暮らしとエネルギー」を考えてみる。そんな学習のイメージでしょうか。具体的な内容は今後の検討を待つ必要があります。
内容は精選し、時間に「余白」を
内容の精選についても、理科らしい理由が書かれています。
理科は、観察、実験の進行状況により、あるいは再現性を確認するために再実験が必要になるなど、単元内の授業時間を臨機応変に組み替えることが必要となる教科である。このため、授業時間に余白を生み出すことは、理科における豊かな学びの実現の上で必要不可欠である。
実験がうまくいかなかったとき、もう一度やり直す時間がある。それだけで、理科の授業はずいぶん変わりますよね。「統合的な理解・総合的な発揮」に必要不可欠な内容を中心に配列し、学年間・学校種間で重複が大きい部分は整理する方向です。
小学校では、理科の指導経験が浅い先生や指導が苦手な先生を中心に、教科書を網羅的に指導する傾向がある、という指摘もあります。そこで、教科書の内容について、必ず扱うべきものか、必要に応じて扱うものかが分かるよう、教師用指導書での工夫を教科書会社に要請することも考えられる、とされています。
理科の授業づくり
観察・実験は「不可欠」
審議まとめは、基本的な概念や原理・法則を理解し、基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付けるためには、座学だけでなく、観察・実験などの探究的な学びや、実感を伴う実体験を通した授業が不可欠だ、としています。帰納的な指導と演繹的な指導を、子どもの実態に応じてバランスよく使い分けることも大切だ、とされています。
一方で、毎単元・毎時間に探究的な指導を求めるものではない、という注記もあります。
センサーやICTの活用
実験計測用センサーなどは、データ取得を効率化することで、分析・考察に十分な時間を割けるようになるとして、整備の充実が強く期待されています。ICTの効果的な活用例として、記録やデータの蓄積から観察・考察を深める、シミュレーションやプログラミングで理解を深める、クラウド上で対話する、生成AIを適切かつ効果的に利用する、ポートフォリオを形成的評価に活用する、などが挙げられています。
小学校の専科と担任
研修についても、小学校では専科教師が指導する場合と学級担任が指導する場合があることに留意が必要だ、と書かれています。教師を補助する理科の支援人材の配置を推進することも示されています。
生活科の本質的意義 「身体で身近な生活を捉える」
四つの本質的意義
ここからは生活科です。生活科は、一見すると「楽しい活動の時間」に見られがちですよね。審議まとめは、AIで代替できない「実感を伴う知」を育み、「深い学び」を実装する人間的な学び方を体得する教科として、生活科の本質的意義を次の四つで整理しています。

- 身体性:見る、聞く、触れる、嗅ぐなどの諸感覚を通して対象を捉え、直接的な関わりによって実感的な認識を得る
- 対象と自分との関わり:「自分が動くと対象となる身近な物事が変わる」という経験が、好奇心や探究心を生む
- 他者と自分との関わり:互いの力を出し合う経験の中で、相手の思いに気付き、受け止め、尊重する態度を育む
- 自己認識:「やってみたい」という気持ちから主体性や自立性を育み、自分のよさや可能性に気付く
「AIを含む仮想空間における情報の受容ではない、『身体で身近な生活を捉える』体験や活動を、自分の外に広がる世界との確かな接点をもつ出発点とする」。この一文に、生活科の意義が凝縮されているように感じました。
直接体験が減っている
背景には、学校内外で直接体験の機会が減っているという現状があります。安全面への配慮や時間的な制約から地域に出かける活動が減り、子どもの思いや願いに基づく必然性のある学習活動を展開しにくい状況も見られる、とされています。
生活科の目標と内容
「身体性を伴う体験と多様な表現活動」
目標の柱書では、今の「具体的な活動や体験」を「身体性を伴う体験と多様な表現活動」と改める方向です。体験を通した「内化」と、言葉などの多様な表現活動による「外化」とが行き来することを明確にする、とされています。
審議まとめには、こんな例が載っています。
子供は、植物に水をやりながらも、水をやると植物は成長するという関係には気付いていないこともある。しかし、植物を育てていることを言葉や絵などで表現することで、「植物の成長には水が必要である」ことを自覚する。
言われてみると、確かにそうですよね。体験しただけでは、気付きは自覚されない。言葉や絵で表すことで、気付きが自分のものになる。生活科で「書く」「話す」「描く」活動を大切にする理由が、分かりやすく示されています。
9項目の内容は「固定的・均等に」扱わない
内容については、今の9項目を三つの階層で表す整理は引き続き妥当だとされています。そのうえで、内容(1)〜(9)を固定的・均等に扱うのではなく、子どもや地域、学校の実態に応じて、各学校が創意工夫を生かした教育課程を編成することが重要だ、としています。複数の内容を組み合わせた単元構想、単元と単元のつながりを意識したストーリー性、2年間を見通した学習活動などの工夫が考えられる、とも書かれています。
年間を通じた合科的・関連的な指導
合科的・関連的な指導が入学当初の時期に限定され、年間を通じた取組になっていない場合が多い、という課題も挙げられています。生活科を結節点として、各教科等との関連をスタートカリキュラムや年間指導計画に明確に位置付け、1年間を見通した合科的・関連的な指導を計画的に行うよう促す方向です。
審議まとめには、生活科の活動と各教科とのつながりのイメージも載っています。たとえば「見つける」活動では、国語は「言葉に着目する」、算数は「数・量で捉える」、図工は「形や色で捉える」。活動や対象だけでなく、資質・能力のつながりで捉えることが重要だ、とされています。
幼児教育との接続(スタートカリキュラム)については、第32回で詳しく書きます。
動物飼育はどうなる?
小学校の先生にとって、気になる話題の一つが動物飼育ですよね。
審議まとめは、学校で動物を飼育することは、生き物への親しみと生命の尊さを実感的に理解するための重要な学習活動であり、特にAI時代においては、身体性を伴う体験として引き続き重要だ、としています。
一方で、休日を含む管理体制、獣医師などの専門家との連携、病気やけがのときの対応や予算、繁殖制限や災害時の対応、教職員に過度な負担が生じない配慮など、さまざまな観点からの配慮が必要だとも書かれています。
そこで、学校で動物飼育を行うことを基本としつつ、動物飼育の意義を達成できると見込まれる次のような場合は、学校での飼育と「同等の扱い」であることを明確にする方向です。
- ほかの所有者から借用して飼育を行うこと(ホスティング)
- 適切な飼育環境の確保が難しい場合に、近隣の動物関連施設や民間団体などが保有する動物に、子どもが継続的に触れ合う機会を設けること
あわせて、飼育する動物は、魚や昆虫など、哺乳類や鳥類に限らないことも明確にするとされています。
長期休業中のウサギの世話をどうするか。多くの学校が悩んできた問題に、現実的な選択肢が示されたと感じました。
ICTは「直接体験を代替しない」
生活科でのICT活用については、身体性を伴う体験をより豊かにするものであり、直接体験を代替するものではないことを前提とする、とされています。そのうえで、撮影・記録を繰り返して体験の質を高める、画像や動画で対象を比べたり捉え直したりして認識の質を高める、音声や画像で表現の質を高める、といった活用が示されています。

アサガオの成長を毎日タブレットで撮影し、並べて見返してみる。自分の変化に気付き、言葉にしてみる。体験があってこそのICT活用です。
私が今から試してみたいこと
1. 理科で「本当かな?」を問う
「〜すると〇〇になるらしいよ」という話を、実験で確かめてみる。理科の見方・考え方の対象に「言説」が加わる方向を踏まえて、身近な「うわさ」や「常識」を検証する場面を、単元の中に一つつくってみるのも面白いと思います。
2. 生活科で「表す」時間を大切にする
活動のあとに、言葉や絵、動作で表す時間をしっかりとる。友達と見せ合い、「どうしてそう思ったの?」と問い返す。体験と表現の往還を、毎回の活動で意識してみたいと思っています。
3. 地域の人とのつながりを「繰り返し」に
生活科で地域の人や施設と関わるときは、一度きりで終わらせず、年間の中で再訪・再交流の機会をつくる。審議まとめも、外部人材との連携を単発ではなく、繰り返し関わる関係として構築することを促しています。
気になるところもあります
一方で、理科の4分野への整理について、注記で「小学校の内容を難しくしない」と明記されているものの、教科書が中学校の用語や考え方に引っ張られないか、少し心配です。小学校の理科のよさは、自然に触れて「不思議だな」と感じる体験にあります。その原点が守られてほしいと思います。
生活科では、体験の時間をどう確保するかが課題です。地域に出かけるには、引率の人手も、事前の打合せの時間も必要です。審議まとめも、打合せの標準化や校内での役割分担などの工夫を示していますが、学校全体での支えがないと、なかなか実現しにくいのが現実だと思います。
おわりに 触れて、確かめて、言葉にする
画面の中で何でも見られる時代だからこそ、本物に触れる体験が大切になる。生活科で虫を捕まえ、理科で実験を繰り返し、自分の目で確かめたことを言葉にしていく。そうした学びの積み重ねが、デマや根拠のない情報に流されない力の土台になっていくのだと思います。
「自分が動くと、対象が変わる」。生活科の本質的意義にあるこの言葉を、理科の実験でも、ほかの教科でも大切にしていきたいと思います。
次回は、体育は「みんなで楽しむための工夫」へ、という話を書きます。
参考にした資料
中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)


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