「次期学習指導要領を読む」第32回です。入学式の翌日、教室で落ち着かない1年生を前に、「この子たち、園ではどんなふうに過ごしていたんだろう」と思ったことはないでしょうか。
審議まとめは、幼児教育と小学校教育の接続について、次のような方向を示しています。
- 「架け橋期のカリキュラム」を、幼児教育施設の5歳児のカリキュラムと、小学校の1年生のカリキュラム(スタートカリキュラム)の「総称」として整理する
- スタートカリキュラムを、入学当初の短期的な指導計画にとどめず、年間を見通したものとして作成する方向を示し、国が学校現場でそのまま使える多様なモデルを示す
- スタートカリキュラムの対象とする時期は、学校や子どもの実態に応じて柔軟に設定できることを明確にする
- 幼児教育施設が、遊びの中の「学び」を見取り、小学校関係者と対話するための資料(「対話のための資料」)を作成・活用する
- 合同の会議や研修、保育・授業の相互参観などを通じて、子どもの姿から対話し、互いの教育への共通理解を図る
1年生を担任すると、4月は毎日が手探りですよね。でも、子どもたちはゼロから学校生活を始めるわけではありません。幼稚園や保育所、認定こども園で、たくさんのことを学んできています。その学びを、どう小学校につなぐか。審議まとめを手がかりに考えてみます。
幼児教育と小学校の「段差」
遊びは、乳幼児にとっての学習
審議まとめは、幼児教育の基本的な考え方を、改めて次のように書いています。
自発的な活動としての遊びは乳幼児にとっての学習であり、乳幼児は、園生活の中で多様な遊びを通して様々なことを学んでいると言える。
小学校の教師である私たちは、「遊び」と「学習」をつい分けて考えてしまいますよね。でも、幼児教育では、遊びそのものが学びです。砂場で山をつくる中で、水の量と砂の固まり方の関係に気付く。ごっこ遊びの中で、相手の気持ちを考えて言葉を選ぶ。そうした学びを積み重ねて、子どもたちは小学校にやってきます。
接続はまだ十分ではない
国は、幼児教育と小学校教育の関係者が連携・協働して、架け橋期(5歳児から小学校1年生までの2年間)のカリキュラムの作成・実施・評価・改善などに取り組む「幼保小の架け橋プログラム」を進めてきました。合同研修や接続を意識した実践が取り組まれ、一定の成果を上げている、とされています。
一方で、全国的に見るとまだ十分とは言えない状況だとして、次のような課題が挙げられています。
- 幼児教育施設の課題感:スタートカリキュラムの取組が不十分、一部の小学校から幼児教育が企図しない指導を求められる、接続の取組が子ども同士の交流活動や特別な配慮が必要な子の引継ぎで終わってしまう
- 小学校の課題感:各園の教育の質にばらつきを感じる、幼児教育でどんな資質・能力が育まれているのか分からない、学びのつながりが見えない
- 連携体制の課題:認識の共有や部局間の調整が不十分、複数の園・校の調整が難しい、担当者の異動で取組が途切れがち
生活科の項目でも、約65%の市町村で幼稚園などと小学校との連携・接続の取組が不十分で、幼児教育での学びが小学校での学びに十分に生かされていない状況が見られる、と書かれています。
「一部の小学校から幼児教育が企図しない指導を求められる」という指摘には、どきっとしました。「入学までに、ひらがなを書けるようにしておいてほしい」「椅子に座って話を聞けるようにしておいてほしい」。小学校側のそうした期待が、幼児教育の本来のあり方とずれてしまうことがあるのかもしれません。
「架け橋期のカリキュラム」と「スタートカリキュラム」

二つの関係が分かりにくかった
「架け橋期のカリキュラム」と「スタートカリキュラム」、何が違うのか、すっと説明できる方は多くないのではないでしょうか。今は、スタートカリキュラムは各小学校で作成することが求められている一方で、架け橋期のカリキュラムは全ての学校で作成することは求められていません。そのため、両者の関係が分かりにくくなっている、と審議まとめは指摘しています。
「総称」として整理する
そこで、「架け橋期のカリキュラム」を、幼児教育施設における5歳児のカリキュラムと、小学校における1年生のカリキュラム(スタートカリキュラム)の「総称」として位置付けるなど、概念を整理する方向です。これにより、教育の連続性・一貫性の確保につなげる、とされています。
つまり、5歳児の1年間と、1年生の1年間を、一続きの「架け橋期」として捉える。小学校のスタートカリキュラムは、その後半部分にあたる、ということです。
地域や園・校の実情に応じて
あわせて、架け橋期のカリキュラムは地域や園・校の実情に応じて取り組むものであり、幼児教育施設や小学校に過度な負担を生じさせないよう留意すべきだ、とも書かれています。国は手引きを改定して多様なモデルを示し、自治体は教育委員会や幼児教育センターによる支援、架け橋期のコーディネーターによる助言など、継続的な支援が求められる、とされています。
注記では、多くの園から一つの小学校に進学するなど、全ての園と小学校が相互につながることが難しい場合があること、新年度に入ってからでは1年生の担任も時間がとれず十分な連携が難しいため組織的な対応が必要であることなど、生じうる課題を踏まえた検討が必要だ、とも書かれています。現場の実態をよく分かっている書き方だと感じました。
スタートカリキュラムは「年間を見通したもの」へ

入学当初だけではない
今のスタートカリキュラムは、入学してから数週間、長くても1学期の前半くらいまでの指導計画として作成している学校が多いのではないでしょうか。
審議まとめは、スタートカリキュラムを入学当初の短期的な指導計画にとどめず、年間を見通したものとして作成する方向を示しています。そのうえで、地域の実情に応じた多様な実践ができ、学校現場がそのまま使ったり、たたき台にしたりできる多様なモデルを国として示す、とされています。
対象時期は柔軟に
一方で、生活科の項目では、スタートカリキュラムの対象とする時期は、学校や子どもの実態に応じて柔軟に設定できることを明確にし、さまざまな実施形態を例示する、とも書かれています。「年間を見通す」ことと「時期を柔軟に設定する」ことは、矛盾しません。入学当初に重点を置きつつ、1年間を通して幼児教育からのつながりを意識していく、ということだと思います。
合科的・関連的な指導を年間を通じて
生活科の項目では、合科的・関連的な指導が入学当初の時期に限定され、年間を通じた取組になっていない場合が多い、という課題も挙げられていました(第28回で書きました)。生活科を結節点として、各教科等との関連をスタートカリキュラムや年間指導計画に明確に位置付け、1年間を見通した合科的・関連的な指導を計画的に行うよう促す方向です。
弾力的な時間割の設定などの工夫の事例や、質の高いスタートカリキュラムの授業や生活場面を動画で発信して研修に活用することも示されています。調整授業時数制度の活用によって、子どもの実態や学校の特色を生かしたスタートカリキュラムを編成・充実していくことも考えられる、とされています。
「対話のための資料」
遊びの中の「学び」を見取る
幼児教育施設には、幼児の姿から遊びの中の「学び」を見取り、幼児教育で育まれた資質・能力について、小学校関係者と対話をするための資料(「対話のための資料」)を作成・活用することが求められています。
小学校側も「対話」に参加する
資料と聞くと、また書類が増えるのかと身構えてしまいますよね。ただ、この資料は、幼児教育施設から小学校への一方的な「報告書」ではなく、「対話」のための資料だということが大切だと思います。小学校の教師が、その資料を手がかりに、園の先生と話し、子どもの姿について共通理解を深める。そのための道具です。
小学校側の課題として「幼児教育でどんな資質・能力が育まれているのか分からない」というものがありました。その答えは、資料を読むだけでなく、園の先生と話し、保育を実際に見ることでしか得られないのかもしれません。
「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の位置付けも整理
幼児教育の側でも、「育みたい資質・能力」「5つの領域のねらい及び内容」「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の関係が十分に整理されておらず、小学校の教師にとっても幼児教育で育まれる資質・能力の理解が断片的になりやすい、という課題が指摘されています。そこで、これらの関係を明確にする構造化を行う方向です。「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」は、「5歳児後半において遊びが深まり、資質・能力が総合的に育成・発揮されている姿」と整理される方向が示されています。
小学校の教科でも、幼児教育とのつながり
幼児教育との接続は、生活科だけの話ではありません。審議まとめでは、ほかの教科でも幼児教育とのつながりが意識されています。
- 体育:1〜4年生は、幼児教育との接続を踏まえて「遊び」の要素を取り入れた学習として整理し直す(第29回で書きました)
- 保健:幼児教育段階を含む小学校低学年までのさまざまな活動を通して培われる、健康に関する基礎的な資質・能力を踏まえる
- 生活科:「知識及び技能の基礎」「思考力、判断力、表現力等の基礎」という表記は、幼児教育と同様に引き続き示す
総則の注記でも、各教科等の内容の取扱いでも幼児教育との接続について引き続き記載するなど、生活科だけの取組にならないよう留意する、と書かれています。
特別な配慮が必要な子の引継ぎ
幼児教育の項目では、障害のある乳幼児について、個別の支援計画に「合理的配慮」の内容を記載することで、園内での共通理解と小学校への確実な引継ぎを図ることが必要だとされています。外国人の乳幼児などについても、一人一人の実態に応じた指導の工夫を組織的・計画的に行い、小学校への引継ぎを図ることが必要だとされています。
ただし、先に紹介したように、接続の取組が「特別な配慮を必要とする幼児の引継ぎで終わってしまう」ことは課題として挙げられていました。引継ぎはもちろん大切ですが、それだけではなく、全ての子どもの学びのつながりを考えることが求められています。
私が今から試してみたいこと
1. 園の保育を見に行く
可能であれば、近くの幼稚園や保育所、認定こども園の保育を見に行ってみる。5歳児が遊びの中でどんなことを考え、どんなふうに友達と関わっているか。実際に見ると、1年生の4月の子どもの姿の見え方も変わるのではないかと思っています。審議まとめも、保育・授業の相互参観の機会の充実を挙げています。
2. 4月の子どもを「できないこと」でなく「できること」で見る
入学したばかりの1年生を、「まだ座っていられない」「まだ話を聞けない」と見るのではなく、「友達と相談して遊びを決められる」「困ったときに自分から伝えられる」と、幼児教育で育ってきた力から見てみる。その力を生かした活動を、スタートカリキュラムの中に組み込んでいけたらと思います。
3. スタートカリキュラムを「1学期で終わり」にしない
スタートカリキュラムの考え方を、2学期以降も意識してみる。たとえば、生活科で育てた植物を数える活動を算数とつなげたり、気付いたことを国語で文章にしたり。合科的・関連的な指導を、1年間を通して少しずつ続けていきたいと思っています。
気になるところもあります
とはいえ、幼小連携のいちばんの難しさは、時間の確保にあると思います。1年生の担任が決まるのは、多くの場合、年度末か4月です。それから園と連絡をとり、子どもの様子を聞き、スタートカリキュラムを考える。その時間は、本当に限られています。審議まとめも、新年度に入ってからでは1年生の担任も時間がとれず、組織的な対応が必要だと書いています。担任個人ではなく、学校として、地域として、接続の仕組みをつくっていくことが大切だと思います。
また、一つの小学校に何十もの園から子どもが入学してくる地域もあります。全ての園と対話することは現実的ではありません。地域の実情に応じた多様なモデルが示されることを期待しています。
おわりに 「はじめまして」ではなく「つづき」として
1年生の4月を、子どもたちにとっての「はじめまして」ではなく、園での生活の「つづき」として迎えられたら。そう思うようになったのは、幼児教育の先生と話す機会があってからでした。
子どもたちは、遊びの中でたくさんのことを学び、たくさんの力を身に付けて、小学校にやってきます。その力を受け止め、つなぎ、伸ばしていく。5歳児と1年生を一続きの「架け橋期」として捉える今回の方向性は、そのための大切な一歩だと思います。
次回は、外国につながる子どもと日本語指導について書きます。
参考にした資料
中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)


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