「次期学習指導要領を読む」第26回です。学年末、子どもたちのキャリア・パスポートをそろえてファイルにとじながら、「これ、子どもたちはまた開くのかな」と思ったことはないでしょうか。
審議まとめは、「キャリア・パスポート」について、次のように見直す方向を示しています。
- 国が事務連絡で示してきた「例示資料」を廃止し、「見通し・振り返り」に役立つ、現場の実態に合った多様な取組へと進化させる
- 総合や各教科の成果などをデジタル学習基盤にためておき、特別活動でキャリア教育の観点から俯瞰的に振り返るような取組を、解説などで整理する
- ためたものはクラウド上などで個人が管理することを基本とし、学校による引継ぎは求めない
つまり、「決められた様式のワークシートを書かせて、ファイルにとじて、次の学年や学校に引き継ぐ」ことから、「子どもが学びを見通し、振り返る」という本来のねらいに立ち返る、ということです。学年末にキャリア・パスポートの整理に追われてきた先生にとっては、大きな転換になりそうです。
キャリア・パスポートで何が起きていたのか

「手段が目的化」しているという指摘
審議まとめは、キャリア・パスポートの現状について、率直に書いています。
国が示す例示資料は、キャリア・パスポートの認知や普及に役立った。その一方で、例示資料に基づくワークシートの作成や、決められた方式での教材の蓄積だけに主眼が置かれている面があり、何のためにつくっているのか、活用の目的についての理解が広がっていない。手段が目的化し、形骸化につながっているとの指摘もある、というのです。
キャリア教育全体についても、「キャリア・パスポート」が形骸化や負担感につながっている側面がある、と課題として挙げられています。
学年末のあの時間、覚えがありますよね
私の教室でも、キャリア・パスポートはいつの間にか「書かせるもの」になっていました。学期の初めに目標を書き、学期の終わりに振り返りを書く。でも、その間に開くことはほとんどない。学年末には、1年分のシートをそろえてファイルにとじ、次の担任に引き継ぐ。その作業に追われて、子どもと一緒に1年を振り返る時間は、ほとんどとれませんでした。
子どもにとっても、「また書くの?」という作業になっていたのではないかと思います。
なぜ今、見直すのか
「特定の手段」に頼る必然性が薄れた
それにしても、なぜこのタイミングなのでしょうか。審議まとめは、見直しの背景として、次の二つの状況を挙げています。
一つは、デジタル学習基盤の整備です。各教科等を含めたさまざまな活動の記録や振り返りを、多様な形式で保存したり活用したりできるようになった今、キャリア・パスポートという特定の手段に頼る必然性が薄まってきている、というのです。
もう一つは、各教科等で「社会やキャリアとのつながり」を意識した指導を一層重視する方向になったことです。第3回で書いた「統合的な理解・総合的な発揮」では、学ぶことの意義や、それを社会で「いつ、どのような文脈で活用できるのか」を重視するとされています。キャリア・パスポートだけがキャリア教育を担うのではなく、各教科の学びそのものが、将来とのつながりを意識したものになっていく。そうした中で、キャリア・パスポートのあり方も見直す、ということだと思います。
何が変わるのか

1. 例示資料の廃止
まず、今の事務連絡に基づく「例示資料」を廃止し、「見通し・振り返り」に役立つ、現場の実態に合った多様な取組へと進化させる方向です。各学校での創意工夫を促す方向を明確にしたうえで、学校が取組を考えるときの参考になる、一定の簡素化された取組例などを、指導資料で示すことを検討する、とされています。
様式が決められていないということは、学校や学級で、子どもに合った形を考えられるということですよね。紙のワークシートでなくてもいい。写真や動画、音声で振り返ってもいい。そうした自由が生まれることになります。
2. 各教科の成果も含めて俯瞰的に振り返る
次に、総合や各教科のパフォーマンス課題の成果などを、デジタル学習基盤に蓄積し、特別活動でキャリア教育の観点から俯瞰的に振り返るような発展的な取組を、解説などで整理する方向です。
たとえば、1年間の総合で取り組んだ探究のスライド、国語で書いた意見文、図工の作品の写真、学級会での提案。そうしたものを端末の中にためておき、学期の終わりに学級活動の時間で見返しながら、「自分はどんなことが好きで、どんなことが得意になったか」「次はどんなことに挑戦したいか」を考える。キャリア・パスポートのためだけに書くのではなく、日々の学びの記録そのものを振り返りの材料にする、というイメージです。
3. 個人管理を基本に、学校の引継ぎは求めない
そして、蓄積については、クラウド上などでの個人管理を基本とし、学校の事務負担なども踏まえて、蓄積物の学校による引継ぎは求めない、とされています。子どもが個人で必要な資料を管理したうえで、学校種を越えた見通し・振り返りの活動につなぐ、という考え方です。
「引継ぎを求めない」と聞くと、少し不安になりますよね。ただ、注記では「学校種を越えて見通し、振り返る活動自体は重要」とも書かれています。振り返りをやめるのではなく、学校が書類として引き継ぐのでもなく、子ども自身が自分の記録を持って次の段階に進む。主語が「学校」から「子ども」に変わる、と言えるかもしれません。
キャリア教育全体の整理
特別活動が「要」、各教科は「実践の場」
キャリア・パスポートの見直しとあわせて、審議まとめはキャリア教育全体の役割分担も整理しています。

- 特別活動:各教科等の学習の見通しを立て、学んだことを振り返りながら、新たな学習への意欲につなげたり、将来の生き方を考えたりする、キャリア教育の「要」の役割
- 各教科等:探究的な要素を持つ学びや、社会や職業とのつながりを意識した学び、「学びに向かう力」の育成などを通じた、キャリア教育の実践の場としての役割(「好きや得意」の「芽」を育てることを含む)
各教科等の中でも、特に総合は自分の興味・関心に基づく課題の探究を通じて、家庭科はライフキャリアに関わる教育を通じて、社会科は主権者教育を通じて、キャリア教育を実践する、という例が挙げられています。
「キャリア教育は総合でやっている」という受け止めが学校現場にあることも踏まえての整理だ、とされています。特別活動が「見通し・振り返り」の要となり、各教科の学びをつなぐ。その道具の一つとして、キャリア・パスポートを位置付け直す、ということだと思います。
「基礎的・汎用的能力」もシンプルに
キャリア教育で育てる力とされてきた「基礎的・汎用的能力」についても、資質・能力の三つの柱との関係が整理されておらず、各教科等の指導に落とし込みにくい、という指摘があります。そこで、第5回で書いた「学びに向かう力」の整理と照らし合わせて、キャリア教育で育む力の要素を、次のように例示する方向が示されています。
- 自己の役割を踏まえた多様な他者との対話・協働
- 社会との関わりでの「好き」や「得意」の発見・伸長
- 社会や職業とのつながりを意識した学びの主体的な調整
- 豊かな人生やよりよい社会に向けたキャリアの主体的な形成
「基礎的・汎用的能力」そのもののあり方は、今後検討するとされています。
小学校のキャリア教育で大切にしたいこと
「将来の夢」だけがキャリア教育ではない
小学校でキャリア教育というと、まず「将来の夢」を書く活動や職業調べが思い浮かびますよね。もちろん、それも大切です。
でも、審議まとめが示すキャリア教育で育む力の要素を見ると、「好き」や「得意」の発見、学びの主体的な調整、他者との対話・協働といった、日々の学校生活の中で育つ力が中心になっています。小学校のキャリア教育は、遠い将来の職業を決めることではなく、「自分はどんなことが好きで、何が得意で、どうなりたいのか」を、日々の学びの中で少しずつ見つけていくことなのだと思います。
振り返りは「成長の実感」のために
振り返りをするときに大切にしたいのは、子どもが自分の成長を実感できることです。4月の自分と、今の自分を比べてみる。できるようになったこと、好きになったこと、挑戦してみたこと。それを、友達や先生に認めてもらう。そうした経験が、「次はこれをやってみたい」という意欲につながっていきます。
第6回で書いたように、「学びに向かう力」の評価は個人内評価を基本にする方向が示されています。キャリア教育の見通し・振り返りも、ほかの子と比べるのではなく、その子自身の成長に目を向けるものでありたいと思います。
私が今から試してみたいこと
1. 「何のために書くのか」を子どもと共有する
今のキャリア・パスポートを使う場合でも、書く前に「これは、自分の成長を確かめるためのものだよ」と、目的を子どもと共有する。それだけで、作業ではなく、自分のための振り返りに変わっていくと思います。
2. 端末に「学びのポートフォリオ」をつくってみる
総合のスライド、作文、作品の写真などを、端末の中の一つのフォルダにためていく。学期末に、そのフォルダを見返しながら振り返る。審議まとめが示す方向を、今の環境で小さく試せるのではないかと思っています。
3. 学期の途中にも「見通し」を見返す
学期初めに立てた目標を、学期の途中でも一度見返す時間をとる。「今、どのくらい近づいている?」「やり方を変えてみる?」。見通しと振り返りを、学期の始めと終わりだけでなく、途中でも往復させることが、学びの主体的な調整につながると思います。
気になるところもあります
とはいえ、読みながら気になったこともあります。
一つは、自由になることで、かえって迷う学校も出てくるかもしれないということです。例示資料があったからこそ、何をすればよいかが分かっていた面もあります。審議まとめも、簡素化された取組例を指導資料などで示すことを検討するとしていますが、学校の中で「何のために、どう振り返るか」を話し合う時間が必要になると思います。
もう一つは、個人管理になったとき、記録を管理するのが難しい子どもへの配慮です。端末の扱いに慣れていない子や、家庭の環境によって記録が途切れてしまう子もいるかもしれません。小学校の段階では、担任がある程度サポートする必要がありそうです。
おわりに ファイルの厚さより、振り返りの深さを
学年末に、子どもたちのキャリア・パスポートのファイルが厚くなっていく。それを見て、なんとなく安心していた自分がいました。でも、大切なのはファイルの厚さではなく、子どもが自分の成長をどれだけ実感できたか、だったのだと思います。
例示資料という「型」から自由になることは、私たち教師に、キャリア教育のそもそもの目的を問い直す機会を与えてくれます。子どもが自分の学びを見通し、振り返り、次の一歩を自分で決めていく。そのための道具として、キャリア・パスポートを、もう一度考え直してみたいと思います。
次回は、社会科は「多面的・多角的」へ、という話を書きます。
参考にした資料
中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)


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