#14 「好き」を育み「得意」を伸ばす 一律の宿題から、自分で決める家庭学習へ

教育の動き・学習指導要領

「次期学習指導要領を読む」第14回です。翌朝、宿題を集めてみると、ていねいにやってきた子と、何も手がつかなかった子がいる。宿題の出し方に、ずっともやもやを抱えている方も多いのではないでしょうか。

審議まとめは、「『好き』(興味・関心)を育み、『得意』を伸ばす」ことを、教育課程全体で重視する方向を示しています。そして、その具体策の一つとして、次のような一文を書いています。

学校での学習の自己調整や学習方略の指導を経ることで、一律の宿題から脱却し、家庭学習の内容を児童生徒が自律的に決定できるような段階的な指導を行い、学びを広げ深めていく視点を重視すること

「一律の宿題から脱却」。学習指導要領の議論の中に、ここまで具体的な言葉が出てくるとは思っていませんでした。ただし、「宿題をなくす」という話ではありません。「学校で学び方を教えたうえで、段階的に、子どもが自分で家庭学習の内容を決められるようにしていく」という話です。


なぜ「好き」と「得意」なのか

図1:「主体的・対話的で深い学び」の実現を通じた自らの人生を舵取りする力と民主的で持続可能な社会の創り手の育成
図1:「主体的・対話的で深い学び」の実現を通じた自らの人生を舵取りする力と民主的で持続可能な社会の創り手の育成。「『好き』を育み、『得意』を伸ばす」が、この改訂全体の目指す姿の一つとして左上に置かれています(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.404[資料1-2-2])

審議まとめが挙げる理由

「好きなことを伸ばす」と聞くと、すてきだけれど、それで基礎学力は大丈夫なのかな、と少し心配になりますよね。審議まとめは、「好き」と「得意」を重視する理由を、いくつか挙げています。

一つ目は、AIなどデジタル技術の発展で定型的な仕事の代替が進む中、皆と同じことができることにも一定の意義はあるけれど(すべての基盤になる基礎学力や規範意識など)、それ以上に、独自の発想や視点に価値創造の源泉が移りつつある、ということです。

二つ目は、不登校の子どもの多くが、自分が好きなことや知りたいことを突き詰める学びを学校に求めている、という点です。

三つ目は、少子化に伴って入試による動機づけが弱まり、家庭での学習時間も減っている中で、学びの動機づけをアップデートする必要がある、という点です。

こうした中、「自らの人生を舵取りする力」を育てるためにも、「好き」を育み「得意」を伸ばす中で、それらを原動力として学び全体への動機を高めていくことの重要性が増している、と書かれています。

「好き」だけでなく「苦手」にも目を向ける

とはいえ、審議まとめは「好きなことだけやればいい」とは言っていません。

  • 好き・得意なことだけでなく、苦手や不得意なことにも、学習の自己調整などが効果的であること
  • 「好き」や「得意」を伸ばしながら、それを原動力として学び全体への動機づけを図る視点が重要であること
  • 家庭や地域の社会経済的背景によって、使える学習環境や学習資源に差があること

に留意する必要がある、と明記されています。特に三つ目は、家庭学習の話をするときに、決して忘れてはいけない視点だと思います。


「好き」と「得意」を育てる具体策

審議まとめが示す改善の方向

審議まとめは、「好き」を育み「得意」を伸ばす方向に向けて、次のような改善の方向性を示しています。

  • 学習の自己調整や、そのときに必要な学習方略の指導などを重視すること
  • 単元ベースでの授業設計によって、自分のペースで学べる割合を増やすこと
  • デジタル学習基盤の活用によって、興味・関心が広がる教材や学習方法の選択を進めること
  • 一律の宿題から脱却し、家庭学習の内容を子どもが自律的に決められるような段階的な指導を行うこと

「好き」を発表する場も

ほかにも、特別活動の文化的行事を、総合や各教科で育んだ「好き」や「得意」を発表する機会として位置付けることが可能だと明確にする方向や、クラブ活動の意義として「好き(興味・関心)の追求による個性の伸長」を重視する方向も示されています。総合的な探究の時間では、個人の興味から課題を立てる「マイ探究」も打ち出されています(第19回で書きます)。

図2:学校行事を通じた「好きや得意」の発表の機会の明確化について(イメージ)
図2:学校行事を通じた「好きや得意」の発表の機会の明確化について(イメージ)。各教科での出会いから、クラブや総合で育て、学校行事で花開かせる流れが図になっています(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.973[資料2-2 総㊹])

宿題を、もう一度考えてみる

全員に同じ問題を出すことの課題

算数・数学の項目には、宿題について、もう少し踏み込んだ記述があります。

個々の児童生徒の理解度や進度は様々であるにも関わらず、一回ごとの授業や宿題において、全員に全く同じ問題を行わせる例もあり、得意な児童生徒にとっては学習意欲の低下、苦手な児童生徒にとっては苦手意識や不定着を招いているとの指摘がある。

ドキッとした先生も多いのではないでしょうか。私もその一人です。漢字ドリル1ページ、計算プリント1枚。全員に同じものを出すのは、公平で分かりやすく、丸つけもしやすい。でも、すでにできている子にとっては退屈な作業で、つまずいている子にとっては、分からないまま一人で向き合う苦しい時間になっているかもしれません。

練習量そのものは大切

一方で、同じ算数の項目では、練習量が足りず定着が図れない指導計画があることも課題として挙げられています。審議まとめは、基礎的・基本的な知識及び技能について、効果的・効率的な指導に留意しながら、全ての子どもに確実な習得・定着を保障する必要がある、とも書いています。

つまり、「練習しなくていい」のではなく、「一人一人に合った練習を、自分で選んでできるようにしていく」ことが目指されているのだと思います。

「段階的」がキーワード

ここまで読むと、「宿題を自由にしたら、何もしない子が出てくるのでは」と不安になりますよね。だからこそ、審議まとめの文章にある「段階的な指導」という言葉が効いてきます。いきなり「今日から宿題は自由です」としても、多くの子は何をしていいか分かりません。家庭の状況によっては、自由にした結果、何もできない子も出てくるでしょう。

だからこそ、まず学校で、学習の自己調整や学習方略を教える。自分の苦手を見つける方法、効果的な練習の仕方、計画の立て方、振り返り方。そうした「学び方」を身に付けた先に、家庭学習を自分で決める段階がある、という順番です。


「学習方略」を教える

認知心理学や学習科学の知見

審議まとめは、学習の自己調整や、それを支える学習方略について、どのような指導をすればよいのか、学校現場の実践の蓄積が十分とは言えないことを認めています。そのうえで、科学的知見を踏まえて解説の記載を工夫し、具体的で分かりやすい指導資料などを提供するなど、学校現場の実践を積極的に支援すべきだ、としています。

算数の項目では、認知心理学や学習科学の知見の例として、次のようなものが挙げられています。

  • 分散学習:一度にまとめてではなく、間をあけて繰り返し学ぶ
  • 自己説明:なぜそうなるのかを自分に説明しながら学ぶ
  • 検索学習:見直すだけでなく、思い出す練習(小テストなど)をする
  • デュアルコーディング:言葉と図や絵を組み合わせて学ぶ
  • 精緻化:すでに知っていることと結びつけ、詳しく理解する

どれも、言われてみれば「たしかにそうだ」と思うものばかりですよね。しかも、子どもにも教えられる「学び方」です。「ノートを見直すより、ノートを閉じて思い出してみるほうが覚えられるんだよ」。そんな一言が、子どもの家庭学習を変えるかもしれません。

外国語の項目でも

外国語の項目でも、英語力を高める学習方法が分からない高校3年生が6割という調査結果を紹介し、子どもが家庭学習を含めて自己調整学習の考え方に基づいて学習方略を活用できるよう、科学的知見を踏まえた動画や資料を提供する方向が示されています。また、家庭学習の課題について、単純な英作文などAI翻訳を提出すれば済むような出し方をしないよう留意すべきだ、とも書かれています。


私が今から試してみたいこと

ステップ1:選べる宿題から始める

いきなり自由にするのは、子どもも保護者も戸惑いますよね。私はまず、「選べる宿題」から始めてみたいと思っています。たとえば、計算プリントを「基本」「練習」「チャレンジ」の3種類用意して、自分で選ぶ。漢字の練習方法を、書いて覚える、テスト形式で思い出す、熟語を調べる、の中から選ぶ。

ステップ2:学び方を授業で教える

授業の中で、分散学習や検索学習などの学び方を、子どもに分かる言葉で紹介する。そして、「今週は、思い出す練習をやってみよう」と試してみる。うまくいった学び方を、学級で共有する。

ステップ3:自分で決めて、振り返る

慣れてきたら、週に1日、「自分で決める家庭学習の日」をつくる。何をするか計画して、やってみて、振り返る。「何をやったか」だけでなく、「その学び方はどうだったか」を振り返ることが、自己調整の力を育てます。

家庭の状況への配慮を忘れずに

審議まとめも指摘しているように、家庭によって学習環境には差があります。家で学習しにくい子もいます。算数の項目では、家庭学習がしづらい状況の子どものために、校内に学習ブースをつくったり、自学自習できるAIドリルを配布したりする自治体・学校の例も紹介されています。家庭学習を「自分で決める」ことが、子どもの間の差を広げることにならないよう、学校の中で学べる場や時間を確保することも、あわせて考えたいところです。


「自分で決める家庭学習」の計画表を考えてみる

ステップ3の「自分で決める家庭学習」を、もう少し具体的にイメージしてみます。たとえば、週の初めに子どもが書く、こんな簡単な計画表です。

項目子どもが書くこと
今週のめあて例:わり算の筆算をまちがえずにできるようにする
やること例:教科書の練習問題を1日3問、思い出す練習で漢字を10個
学び方例:答えを見る前に、もう一度自分で確かめる
ふり返り(週末)例:3問はできた。2けたでわる問題がまだ不安

大事なのは、「やること」だけでなく「学び方」の欄があることです。何をやったかと同じくらい、どうやって学んだかを意識できるようにしたいと思います。

「好き」の欄をつくってもいい

さらに、「今週、もっと知りたいと思ったこと」や「好きなことで調べてみたいこと」の欄をつくるのも一つの方法です。家庭学習を、苦手の練習だけでなく、「好き」を広げる時間にもする。審議まとめが言う「『好き』を原動力として学び全体への動機を高めていく」ことに、家庭学習から近づけるかもしれません。

保護者への伝え方

計画表を始めるときには、保護者にもその意図を伝えておきたいところです。「宿題を減らした」のではなく、「自分で学ぶ力を育てるために、学び方を選ぶ練習をしている」こと。家庭では、量や正解を確かめるより、「今日はどんな学び方をしたの?」と聞いてもらえるとうれしい、と伝えると、家庭も子どもの自己調整を支える側に回ってもらえると思います。


うまくいかないこともあります

とはいえ、宿題の形を変えることは、担任一人では難しい面がありますよね。学年でそろえている場合も多いですし、保護者の中には「宿題が少ないと不安」という方もいます。逆に、子どもに選ばせると、楽なものばかり選ぶ子も出てくるかもしれません。

だからこそ、「段階的」なのだと思います。学年の先生と相談しながら、小さく試してみる。保護者には、宿題の量ではなく、「自分で学ぶ力を育てるための取組」であることを丁寧に伝える。そして、楽なものを選ぶ子には、責めるのではなく、「次はどれに挑戦してみる?」と声をかける。そうやって少しずつ、子どもが自分の学びの舵を握れるようにしていきたいと思います。


おわりに 「好き」は、学びのエンジン

「好き」なことに夢中になっているとき、子どもは誰に言われなくても学びます。調べ、試し、失敗し、また試す。その姿は、まさに審議まとめが描く「学びに向かう力」そのものです。

学校の役割は、その「好き」を見つけるきっかけをつくり、「好き」を「得意」に育て、そこで生まれた学びのエンジンを、ほかの学びにもつなげていくことなのだと思います。一律の宿題から、自分で決める家庭学習へ。それは、子どもが自分の学びの持ち主になっていく道のりなのかもしれません。

次回は、「個別最適な学び」と「主体的・対話的で深い学び」の関係が整理された、という話を書きます。


参考にした資料

中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)

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