「次期学習指導要領を読む」第29回です。「次、体育?やったー!」と喜ぶ子のすぐ横で、小さくため息をついている子がいる。体育の時間の前には、そんな光景がありますよね。
審議まとめは、体育の授業を「全ての児童生徒が運動やスポーツの多様な楽しみ方を味わう機会を保障する」学びの場だと改めて位置付けています。そして、「授業において皆で楽しめるルールを考えること等の活動を通して、共生社会の創り手を育成することに大きく貢献する」と書いています。小学校の体育に関わる主な方向性は、次のとおりです。
- 1〜4年生は、幼児教育との接続を踏まえて、「遊び」の要素を取り入れた学習として整理し直す
- 5年生〜中学2年生は、ルールなどを簡易にした「運動」を通した学びを基本にする
- 公正、協力、責任などの「態度」は、「運動との関わり方」として「知識・技能」を中心に整理し直す
- 4年生までは、具体的な運動のやり方を示すことを改め、どんな「動き」を身に付けるかを軸に示す
- 体育の学習は2年間のまとまりで計画的に学ぶことを基本にする
- 水泳授業の意義を整理し、地域のプールの活用や管理の委託なども含めて持続可能な形を考える
体育が苦手な子も、得意な子も、一緒に楽しめる授業へ。審議まとめが目指す方向を、小学校の担任の目線で見ていきます。
体育の今
体育の授業を楽しみにしている子は多い
審議まとめは、体育の授業を楽しみにしている子どもは多く、体を動かす時間は、子どもが心身の調整を図ったり、生活への活力を得たりする面でも重要な役割を果たしている、と書いています。
でも「二極化」と男女差
一方で、学校を卒業した後も運動やスポーツを続けたいと考える子どもの「二極化」や、運動やスポーツをすることに肯定的な回答の男女差が見られる、とされています。体力調査のスコアも、全体としてコロナ禍前の水準には戻っていません。
また、公正、協力、責任などの態度に関しては多くの子どもができている一方で、運動を行う目的や、課題の解決の仕方を工夫することに関わる思考力・判断力には課題がある、とも指摘されています。
これは、多くの先生が実感していることではないでしょうか。運動が好きな子はますます好きになり、苦手な子はますます離れていく。体育の授業で、私も何度もその姿を見てきました。逆上がりができない子が、鉄棒の時間になると表情を曇らせる。ボール運動で、ボールに触れないまま試合が終わってしまう子がいる。
指導内容が高度になりすぎていないか
審議まとめは、運動に苦手意識を持つ子どもを含めた多様性の包摂の観点から、指導内容が過度に高度になっていないか、評価が適切かについて、整理し直す必要がある、としています。
体育を学ぶ意味
そもそも、体育は何のために学ぶのでしょうか。審議まとめは、体育を学ぶ本質的な意義を、改めて次のように整理しています。
- 全ての子どもが運動やスポーツの多様な楽しみ方を味わう機会を保障するとともに、人と関わりながら自分らしく健康で生き生きとした人生を送る基盤づくりに貢献する
- 身体を媒介に協働的に学ぶ特徴があり、認知的な能力だけでなく、身体面や社会面、情意面の資質・能力の育成にも強みがある
- AIの活用が進む中で、自分の身体を通して学び、人とともに楽しさや喜びを味わうことは、自己理解を深め、人間ならではの力を育むうえでも大きな意味を持つ
- 皆で楽しめるルールを考えることなどを通して、共生社会の創り手を育てる
体育は、体力の向上を直接の目的とするものではない、という注記もあります。「速く走れるようにする」「技ができるようにする」ことだけが目的ではない。運動を通して、楽しさを味わい、人と関わり、自分を知る。それが体育の学びだということです。
「する」だけじゃない、多様な楽しみ方
運動やスポーツには、「する」以外にも「みる」「支える」「知る」などの要素があり、令和7年に改正されたスポーツ基本法では「集う」「つながる」といった要素も示されています。こうした要素で楽しさを味わうことまで含めて、運動やスポーツの「多様な楽しみ方」と整理する方向です。
チームの作戦を考える子、友達を応援する子、審判や記録をする子。「する」ことが苦手でも、体育の授業の中で自分なりの関わり方を見つけられる。そういう視点が、目標の中に位置付けられようとしています。
1〜4年生は「遊び」を通して

「運動遊び」とは
1〜4年生は、神経系の発達が完成に近づいていく時期として、「各種の運動の基礎を培う時期」とされています。この時期について、幼児教育との接続を踏まえ、子どもが夢中になって試行錯誤したり、ほかの子と関わったりしながら体を動かす機会を一層確保し、「遊び」の要素を取り入れた学習として整理し直す方向です。
審議まとめは、「運動遊び」について、次のように説明しています。
いわゆるやらされではなく、児童の自己決定や自身の可能性の実現・能力の向上に向けて、教師による指導の意図性を有しつつ「遊び」の要素を取り入れた活動を計画し、児童が内発的に動機づけられて運動に取り組む活動を想定する。
「遊び」と聞くと、少し不安になりますよね。ポイントは、「遊ばせておけばいい」ではなく、「教師による指導の意図性を有しつつ」というところだと思います。子どもは夢中で遊んでいるけれど、その中で、ねらいとする動きが自然に身に付いていく。そうした活動を、教師が意図的に計画する、ということです。
「やり方」ではなく「動き」を示す
あわせて、4年生までは、具体的な運動のやり方などを示すことを改め、どんな「動き」の習得を意図しているのかを軸に、身に付ける資質・能力を分かりやすく示す方向です。
これにより、学習指導要領で示す具体的な運動を欠かさず実施することが、子どもと教師双方の課題になってしまう状況が解消されることが期待される、とされています。「この運動を全部やらなければ」から、「この動きを身に付けるために、子どもに合った活動を選ぶ」へ。教師の工夫の余地が広がりそうです。
一方で、解説や指導参考資料で発達の段階に応じた指導内容を分かりやすく示し、現場で指導イメージがわきにくくなったり、学習内容が不十分になったりしないよう十分留意が必要だ、とも書かれています。
5年生からは「簡易なルール」の運動で
5年生から中学2年生は、「多くの領域の運動を経験しスポーツの基礎に触れる時期」とされています。この時期は、それまでの動きや運動の経験を踏まえ、全ての子どもが安心して運動に取り組めるよう、ルールなどを簡易なものにした「運動」を通した学びを基本に整理する方向です。
審議まとめは、これは単に技能の水準を下げるということではない、と強調しています。「好き」「楽しい」を丁寧に育みながら、運動の楽しみ方を少しずつ広げたり、スポーツの文化や理論に少し触れたりする中で、生涯にわたって豊かに働く資質・能力の育成へつなげていく、という趣旨です。
学校段階が変わったときに、求める技能の水準が急に高くなることがないよう、なめらかな系統性にする、とも書かれています。
「態度」から「運動との関わり方」へ
態度の評価の難しさ
体育ではこれまで、公正、協力、責任、参画、共生、健康・安全といった「態度」を、「学びに向かう力」として指導し、評価してきました。
「協力しようとしているか」を評価するのは、正直なところ難しいですよね。審議まとめも、これらは体育で育てる資質・能力として重要だとしつつ、指導と評価に課題があると指摘しています。「公正に取り組もうとしている」といった意思的な部分の指導と評価が、行動の意義について子どもの十分な理解を伴わない形式的なものになってしまう可能性がある。また、体育独自の扱いと、ほかの教科と共通の「粘り強さ」「自己調整」の2側面が混在していて、教師にとって分かりにくい、というのです。
「なぜそうするのか」を学ぶ
そこで、これらの要素を「運動との関わり方」として整理し、「なぜそうするのか」に関わる知識や、実際の行い方に関わる技能に着目して、「知識・技能」を中心に整理し直す方向です。
たとえば、「ルールを守る」という態度を、「守ろうとしているか」で評価するのではなく、「なぜルールを守ることが大切なのか」「みんなが楽しめるためにはどうすればいいのか」を理解し、実際にそう行動できるかを指導し、評価する。そういうイメージだと思います。評価については、「態度主義的な評価とならないように留意」する、とも書かれています。
「愛好的な態度」は、「運動やスポーツの多様な楽しみ方を目指す態度(仮称)」として、「学びに向かう力」に引き続き位置付けられます。
「みんなで楽しむためのルール」をつくる
共生の視点と親和的な体育
多様性の包摂について、審議まとめは、運動に関する学習は、たとえば皆で楽しめるルールを工夫するなど、共生の視点を踏まえた活動と親和的であり、こうした取組を一層充実させることが期待される、としています。
全ての子どもを対象にした「1次的支援」(分かりやすい授業、多様なニーズに応じた指導、子どもの主体的な活動・選択など)を基本として基礎的環境整備に取り組むこと、個別の支援(2次的支援)は、その土台があるからこそ円滑に行えることも示されています。
授業でのアイデア
たとえば、ボール運動なら、こんな問いかけが考えられそうです。
- 「全員がボールに触れるには、どんなルールにしたらいい?」
- 「得点が入りにくいチームが楽しめるルールは?」
- 「今日のゲーム、みんなが楽しめた?どこを変えたらもっと楽しくなる?」
ルールを自分たちでつくり、試し、見直す。それは、第12回で書いた学級会での合意形成とも重なります。体育の授業が、「みんなで楽しむためにはどうすればいいか」を考える場になれば、運動が得意な子も苦手な子も、それぞれの立場で参加できるはずです。
2年間のまとまりで計画する
体育の学習は2年間のまとまりごとに計画的に学ぶことを基本とし、2年間で学ぶ内容を分かりやすく示す方向です。毎年同じ時期に位置付けがちな運動についても、一層意図的・計画的に指導することを促し、生まれた余白を活用して学びの質を高める活動を豊かに行えるようにする、とされています。
学年で年間計画を考えるとき、「去年と同じ」になりがちな体育の単元配列を、2年間の見通しで組み直すきっかけになりそうです。
水泳授業はどうなる?
小学校にとって、やはり気になるのが水泳授業ですよね。審議まとめは、水泳授業の教育的意義を次のように整理しています。

- 水に親しむ楽しさや喜びを味わうことができる
- 身体的負荷が軽減されることも含め、陸上とは異なる特殊な環境で多様な動きに取り組むことができる
- 水難事故から身を守るための力を身に付けることにつながる
そのうえで、引き続き全ての子どもに適切な学習機会が確保されることが必要だ、としています。指導内容については、安全確保につながる運動や心得は水に触れる機会を通して学ぶことが重要であること、必ずしも泳法の学習に限らない幅広い活動の可能性を整理することも期待される、と書かれています。
持続可能な水泳授業に向けては、学校のプールだけでなく、社会体育施設と集約化・複合化して整備する地域のプールの活用、民間事業者と連携した指導、プール管理の指定管理者制度の活用や民間委託なども考えられる、とされています。
プールの水質管理や清掃、天候による中止。水泳の時期は、担任にとって負担も大きい時期です。安全を守りながら、持続可能な形を地域全体で考えていく方向が示されたことは、現場にとって大きな意味があると思います。
暑さへの対応
昨今の暑さについても、暑熱順化を取り入れた実効的かつ現実的な安全管理、指導計画(内容・場所・時期)の工夫、体育館などの計画的な空調整備を基本として対応を進める必要がある、とされています。
保健は「概念」と「原則」で
保健についても簡単に触れておきます。小学校は「身近な生活を中心とした健康・安全に関する基礎的な内容」を実践的に学ぶ段階と整理されています。未知の健康課題にも対応できるよう、健康や安全に関する「概念」(どんな要素が関連してその事象が起きているか)と「それに関わる原則」(どう働きかければ望ましい結果になるか)を分かりやすく示す方向です。
「生命(いのち)の安全教育」については、国の教材と学習指導要領との関連を分かりやすく示し、活用や指導の充実を図る、とされています。
私が今から試してみたいこと
1. 低学年の体育に「遊び」の工夫を
鬼遊びや、いろいろな動きを組み合わせたサーキット。子どもが夢中になって体を動かしながら、走る、跳ぶ、転がる、バランスをとるといった動きが自然に身に付くような活動を、意図的に計画してみたいと思っています。
2. ルールづくりを子どもに委ねてみる
ゲームの最初は簡単なルールで始め、「もっと楽しくするには?」と子どもに問いかける。ルールの工夫を、単元の学習活動の一つに位置付けてみたいと思います。
3. 「する」以外の関わり方も認める
応援する、記録する、作戦を考える、友達にアドバイスする。「する」以外の関わり方も、体育の学びとして価値付ける声かけを意識していきたいです。
気になるところもあります
とはいえ、「遊び」の要素を取り入れた学習は、教師の力量によって大きく差が出そうです。ただ遊んで終わる授業と、遊びの中で確かな動きが身に付く授業。その違いを生むのは、教師がねらいをどれだけ明確に持てるかだと思います。審議まとめも、解説や指導参考資料で分かりやすく示すことに留意するとしていますが、研修の機会も必要になりそうです。
水泳授業についても、地域のプールを使うには移動の時間や手段の確保が必要です。民間委託の場合も、学校の授業としてのねらいをどう共有するかが課題になります。地域の実情に応じた、丁寧な議論が求められると思います。
おわりに 「体育、好き」と言える子を一人でも多く
学年が上がるにつれて、「体育、嫌い」と言う子が増えていく。その一因が、できる・できないがはっきり見えてしまう授業にあったのだとしたら、私たち教師にできることはまだあるはずです。
みんなで楽しめるルールを考える。自分なりの楽しみ方を見つける。夢中になって体を動かす。そんな体育の時間を通して、運動が得意な子も苦手な子も、「体育、好き」と言える。審議まとめが描く体育は、そんな姿なのだと思います。
次回は、音楽・図工、芸術の学びはどう変わるか、について書きます。
参考にした資料
中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)


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