「次期学習指導要領を読む」第12回です。学級会が終わったあと、決まったことに納得していない顔の子がいる。担任なら、一度はそんな場面に出会ったことがありますよね。
審議まとめは、特別活動で、多様な意見や価値観を認め合い、対立や葛藤と向き合いながら、「安易な多数決や予定調和に流されることなく」、対話と合意を通じて「納得解」や「暫定解」をつくることを重視する方向を示しています。
さらに、児童会活動について、校則など学校のルールの設定をはじめとする学校運営に、子どもが発達段階に応じて関わる仕組みであることを明示する方向も打ち出しています。
学級会で、時間がなくなって「じゃあ、多数決で決めよう」と言ってしまう。私にもよくあることです。今回の審議まとめは、そんな私たちの学級会の「当たり前」に、静かに問いを投げかけていると感じました。
なぜ「安易な多数決」が問題なのか
多数決そのものが悪いわけではない
「多数決はだめ」と言われたら、じゃあどうやって決めればいいの、と思いますよね。でも、審議まとめは多数決そのものを否定しているわけではありません。問題にしているのは、「安易な」多数決です。
話し合いの途中で時間切れになり、意見が出そろわないまま手を挙げて決める。少数派の意見の中身を確かめないまま、数で決める。そうした多数決では、決まったことに納得していない子が残ります。そして、「どうせ多い方に決まる」という経験は、少数派の子どもにとって、意見を言うこと自体をあきらめるきっかけになりかねません。
少数意見の吟味を学ぶ
審議まとめの第1部には、特別活動について次のような一文があります。
価値の対立や葛藤と向き合いながら納得解や暫定解を創り上げていく活動を通じて、安易な多数決を回避し、少数意見の吟味を重視することを学びつつ……
ここで大切なのは、「少数意見の吟味を重視することを学ぶ」という部分だと思います。少数意見を取り入れることが目的なのではなく、少数意見の中にある大事な視点を、みんなで確かめる。そのプロセスそのものが、民主的な社会をつくる力を育てる、という考え方です。
「同調圧力」からの脱却
背景には、日本の社会と教育の課題として繰り返し出てくる「正解主義」や「同調圧力」への問題意識があります。審議まとめは、こうした偏りから脱却し、民主的かつ公正な社会の基盤として学校を機能させることが重要だ、と書いています。
「納得解」と「暫定解」
納得解:みんなが納得できる答えを「創造」する
審議まとめは、特別活動における「合意形成」を、次のように整理しています。
合意形成:多様な意見・価値観や背景を認め合い、対立や葛藤と向き合いながら、納得解を創造していくこと
「納得解」。響きはいいけれど、具体的にどういうことなのか、少しつかみにくいですよね。私は、誰か一人の意見を選ぶことでも、全員の意見の平均をとることでもなく、話し合いの中で、みんなが納得できる新しい答えをつくり出すことだと受け取りました。A案とB案のどちらかを選ぶのではなく、両方のよさを生かしたC案を見つける。学級会でそういう瞬間に立ち会えたときの、子どもたちの表情は格別です。
暫定解:「とりあえず、これでやってみよう」
もう一つの「暫定解」という言葉も、私には新鮮でした。とはいえ、45分の学級会で、全員が完全に納得できる答えがいつも見つかるわけではないですよね。そのときは、「とりあえず、これでやってみよう。やってみて、だめだったらまた話し合おう」という答えを出す。
審議まとめは、特別活動について、協働して実践し、振り返り、不断に見直しながら、生活をよりよいものへと更新していく、と書いています。一度決めたら終わりではなく、やってみて、振り返って、変えていく。暫定解は、その更新のサイクルを前提にした考え方なのだと思います。
合意形成の4つのプロセス
審議まとめは、合意形成の典型的なプロセスを、次の4つで示しています。

- 課題の設定
- 発散(意見表明・受容)
- 収束(吟味・創造)
- 実践・振り返り
こうして並べると、普段の学級会の流れとそれほど変わらないように見えますよね。ただ、一つ一つの段階の中身を見ると、気づかされることがあります。学級会に当てはめてみると、こんな流れになりそうです。
1. 課題の設定
まず、何について話し合うのかを、子どもたちと一緒にはっきりさせます。「お楽しみ会で何をするか」だけでなく、「どうしたら、みんなが楽しめるお楽しみ会になるか」のように、話し合いの目的が見える課題にすると、その後の吟味がしやすくなります。
2. 発散(意見表明・受容)
次に、意見を出し合います。ここで大切なのは、「意見表明」だけでなく「受容」が並んでいることです。言いっぱなしではなく、出された意見を「そういう考えもあるね」と受け止める。否定から入らない雰囲気をつくることが、発散の段階での担任の大事な役割だと思います。
3. 収束(吟味・創造)
出された意見を比べ、よさや心配な点を確かめ、新しい案をつくっていきます。ここが「安易な多数決」になりやすいところです。少数意見の理由を聞いてみる。「この意見の、いいところはどこかな」と問いかける。いくつかの意見を組み合わせられないか考える。時間がかかっても、この段階を大切にしたいところです。

4. 実践・振り返り
決まったことをやってみて、振り返ります。うまくいったこと、うまくいかなかったことを話し合い、次に生かす。暫定解の場合は、ここで見直すことになります。
審議まとめは、こうした整理は「一定の足場」であって、学校現場の実践を特定の枠に当てはめるものではない、と念を押しています。現場の創意工夫による自由で大胆な取組を実現していくための手がかり、という位置付けです。
合意形成と意思決定は行き来する
あわせて、個人が自分の生き方に関わって選択する「意思決定」についても、「課題の設定、発散(情報収集・相互参照)、収束(自己理解・自己決定)、実践・振り返り」というプロセスが示されています。そして、合意形成に自分の価値観が持ち込まれ、その過程で自分の価値観が更新されるというように、合意形成と意思決定は行き来する関係にある、とされています。
学級会でみんなと話し合うことが、一人一人の「自分はどうしたいか」を考えることにもつながっていく。学級活動の時間の意味が、さらに広がって見えてきます。
校則を、子どもと話し合う学校へ
児童会活動で「学校運営への意見表明」
審議まとめは、児童会・生徒会活動について、教師の適切な指導のもとで、校則など学校のルールの設定をはじめとする学校運営に、発達段階に応じて子どもが関わる仕組みであることを、明示的に示していくべきだ、としています。
具体的には、たとえば「学校のきまりをはじめとする、生活上の課題の解決に向けて児童生徒が提案を行い、教師等との話合いを通して学校運営に関わる」といった、学校運営に対する意見表明に関わる記載を設けることが適当だ、とされています。
関連する取組として、委員会活動からの学校生活改善の提案、学校運営協議会への子どもの参画、学校評価に際して子どもの意見を聞くといった例も挙げられています。
学校行事は「子どもたちが創造する活動」へ
学校行事についても、「子供たちが創造する活動」であることを明確にする方向です。今は児童会の役割として「学校行事への協力」が書かれていますが、これを見直し、子どもが主体的に企画・運営に関わること、学校運営に関わって教師が子どもの声を聴くことを位置付ける、としています。
こども基本法との関係
背景には、こども基本法(令和5年施行)があります。基本理念として「子供の意見表明及び社会参画の機会の確保」「子供の意見の尊重」などが定められている一方で、意見表明や社会参画の機会が、学校教育を通じて必ずしも十分に確保されていない状況がある、と審議まとめは書いています。
意義の分からないルールを見直す
また、子どもにとって意義が不明確な校則や学級ルールの存在が、集団性の過度な強調と相まって「同調圧力」への偏りを生んでいる側面がある、という指摘もあります。
「なぜこのきまりがあるの?」と子どもに聞かれて、うまく答えられなかったこと、ありますよね。これは、学校のきまりだけでなく、学級のルールにも当てはまる話です。私の学級にも、「なぜこのルールがあるのか」を子どもにきちんと説明できないものがあるかもしれません。
話し合いを支える、小さな工夫
理屈は分かっても、実際の学級会でどうすればいいのかは、また別の悩みですよね。ここからは、合意形成のプロセスを学級会で実際に回していくための、小さな工夫を考えてみます。審議まとめに書かれていることではなく、私なりのアイデアです。
発散の段階:全員の意見を「見える」ようにする
手を挙げて発言する子だけで意見が出そろってしまうと、言えなかった子の考えは埋もれてしまいます。付箋や端末の共有ボードを使って、まず全員が自分の意見を書く時間をとる。そうすると、声の大きさに関係なく、すべての意見が並びます。
収束の段階:「よさ」と「心配」を分けて考える
意見を比べるときに、「どれがいいか」をいきなり聞くのではなく、それぞれの意見の「よさ」と「心配なこと」を分けて出し合う。そうすると、少数意見のよさにも目が向きやすくなり、「この意見のよさと、あの意見のよさを合わせられないかな」という発想が生まれます。
「公平」と「公正」を考える
審議まとめは、合意形成に関わる重要な概念の例として、「公平と公正の違い」を挙げています。全員に同じものを配るのが「公平」だとしても、一人一人の事情に合わせて配り方を変えたほうが「公正」な場合もある。学級会で「みんな同じにしよう」という意見が出たときに、この違いを子どもと考えてみるのも、よい学びになると思います。
決めたことを「見える場所」に残す
暫定解を出したときは、決めたことと「いつ見直すか」を教室に掲示しておく。見直しの日が来たら、「やってみてどうだった?」と話し合う。暫定解を本当に「暫定」として扱うための、小さな仕組みです。
私が今から試してみたいこと
1. 学級会で「少数意見の理由」を聞く時間をとる
多数決をとる前に、「少ない方の意見の人、理由を聞かせてくれる?」と一言はさむ。それだけで、話し合いの質は変わります。少数意見の理由を聞いて、多数派の子が考えを変えることもあります。
2. 「暫定解」という言葉を子どもに教える
「今日はここまでで、とりあえずこれでやってみよう。1週間やってみて、また話し合おう」。暫定解という考え方を子どもと共有すると、完璧な答えを出さなければというプレッシャーが減り、話し合いがしやすくなります。
3. 学級のルールを、子どもと一緒に点検する
学期の初めや終わりに、学級のルールを一つずつ見直す時間をとる。「このルールは、何のためにあるんだろう」「今の私たちに必要かな」。ルールを守ることだけでなく、ルールをつくり直すことも学級の大事な活動だと、子どもたちに伝えたいと思います。
うまくいかないこともあります
納得解を目指す話し合いは、どうしても時間がかかります。学級会の45分で結論が出ないこともあります。そして、子どもに任せた結果、教師から見ると「それでいいのかな」と思う結論になることもあります。
審議まとめも、自治的な活動における子どもと教師の対話の必要性、教師の指導性の発揮の必要性を書いています。子どもに丸投げするのでも、教師が答えを決めるのでもない。安全や他者の権利に関わることは教師がきちんと伝え、そのうえで子どもたちが考える余地を残す。そのさじ加減は、担任の腕の見せどころだと思います。
おわりに 「決め方」を学ぶことは、社会のつくり方を学ぶこと
学級会で何を決めたかは、時間がたてば忘れてしまうかもしれません。でも、どうやって決めたか、自分の意見がどう扱われたかという経験は、子どもの中に長く残ると思います。
少数意見にも耳を傾けてもらえた。みんなで考えて、新しい案が生まれた。うまくいかなかったけれど、また話し合ってやり直せた。そういう経験を積み重ねた子どもたちが、やがて社会をつくっていく。審議まとめが特別活動を「確かな民主主義の担い手を育み、共生社会を実現する基盤」と位置付けた意味が、そこにあるのだと思います。
次回は、こうした話し合いの土台となる「心理的安全性」について、「分からない」と言える教室をつくる、という視点で書きます。
参考にした資料
中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)


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