#15 「個別最適な学び」と「主体的・対話的で深い学び」、関係がやっと整理された

教育の動き・学習指導要領

「次期学習指導要領を読む」第15回です。「個別最適な学び」「協働的な学び」「主体的・対話的で深い学び」。研修のたびに新しい言葉が増えて、結局どれを目指せばいいのか、分からなくなったことはありませんか。

審議まとめは、総則にある「個に応じた指導の充実」の項目を発展させて、「個に応じた学習過程の充実」という項目にする方向を示しています。そして、令和3年の答申で示された「個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実」の考え方を、この新しい項目の中で「発展的に整理し直して記載すべき」としています。

さらに、個別最適な学びは、多様な子ども一人一人に「主体的・対話的で深い学び」による資質・能力の育成を図るためのものだ、と明確にする方向です。つまり、「個別最適な学び」は「主体的・対話的で深い学び」と別の新しい目標ではなく、それを一人一人に実現するための考え方だ、という整理です。

「主体的・対話的で深い学び」と「個別最適な学びと協働的な学び」。二つの言葉が並んで、どういう関係なのか分からない。そう感じていた先生は、私だけではなかったと思います。


何が分かりにくかったのか

二つのキーワードが同時期に広がった

今の学習指導要領は平成29年に告示され、「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善を打ち出しました。その後、GIGAスクール構想による1人1台端末の整備や、多様な子どもたちの実態の顕在化を受けて、令和3年の中教審答申(審議まとめでは「令和答申」と呼んでいます)で、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実」という考え方が示されました。

同じ数年の間に、大きなキーワードが二つも届いたわけですから、混乱するのも無理はないですよね。審議まとめは、学習指導要領の実施と令和答申の周知が重なる中で、学校現場から「主体的・対話的で深い学び」と「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」の関係性がつかみにくい、具体的な実践のイメージが湧きにくい、などの声が出てきていた、と率直に書いています。

総則には反映されていなかった

文部科学省は、こうした悩みに応えるために、令和7年にサポートマガジン『みるみる』を刊行し、考え方の整理と実践事例を示してきたそうです。それでも、令和答申以降の考え方や実践の蓄積は学習指導要領の総則に反映されていないので、すべての学校で共通理解が図られているとは言いがたい、とされています。

似た言葉が並んでいる

さらに、「対話的な学び」と「協働的な学び」、「個に応じた」と「個別最適」など、似た用語が並んでいることによる混乱も指摘されています。審議まとめは、こうした混乱が生じないようにしたうえで、新しい項目の中で整理し直すべきだ、としています。


新しい項目「個に応じた学習過程の充実」

図1:「個に応じた学習過程の充実」等に盛り込む要素(案)
図1:「個に応じた学習過程の充実」等に盛り込む要素(案)。総則に新しく盛り込む要素と、解説に記載する要素の案です(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.448[資料1-3-16])

二つの視点をバランスよく

審議まとめは、新しい「個に応じた学習過程の充実」の項目では、デジタル学習基盤の役割を位置付けながら、次の二つの視点をバランスよく踏まえた記載にすることが求められる、としています。

  1. 教師主語の視点:教師が、子ども一人一人に応じて資質・能力を育てられるよう、学習環境の設定や指導方法・指導体制を工夫していく
  2. 学習者主語の視点:子ども自身が学習の見通しを持ったり、方略を工夫したり、振り返ったりしながら、自分の学習を主体的に調整することを促し、資質・能力の育成につなげるとともに、一人一人の多様性に応じていく

「主語」で整理されると、少し見通しがよくなりますよね。これまでの「個に応じた指導」は、どちらかといえば1の「教師主語」の言葉でした。そこに、2の「学習者主語」の視点を加える。子どもが自分で学びを調整していくことを、教師の工夫と同じ重さで位置付ける、ということです。

「指導」から「学習過程」へ

項目名が「個に応じた指導」から「個に応じた学習過程」に変わる、という点にも意味があると思います。教師が何をするかだけでなく、子どもがどう学ぶかに目を向ける。前回書いた「一律の宿題から、自分で決める家庭学習へ」も、まさにこの「学習者主語」の視点から出てきたものです。

図2:「多様な子供たちの深い学び」を支える学習過程
図2:「多様な子供たちの深い学び」を支える学習過程。資質・能力の深まりと、それを支える学習の基盤、個に応じた学習過程の関係を一枚にまとめた図です(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.452[資料1-3-20])

「形態」だけが強調されることへの注意

「個別最適な学び」をしていれば深い学び、ではない

私がいちばん大事だと思ったのは、次の指摘です。

「個別最適な学びと協働的な学び」という学習形態のみが強調され、「主体的・対話的で深い学び」に繋がっていない例があるとの指摘もある

研究授業などで、こんな場面を見たことがある方もいるのではないでしょうか。「個別最適な学び」と称して、子どもが端末でそれぞれ違うドリルに取り組んでいる。「協働的な学び」と称して、グループで話し合っている。形だけ見れば、どちらも令和答申の言葉どおりです。でも、そこで子どもの理解が深まっているか、考えが広がっているかは、また別の話です。

審議まとめは、そうしたことを避ける記載上の工夫が重要だとしたうえで、特に個別最適な学びについて、多様な子ども一人一人に「主体的・対話的で深い学び」による資質・能力の育成を図る趣旨であることを明確にすべきだ、としています。

孤立も、埋没も避ける

また、孤立的な学びに陥ったり、集団の中で個が埋没したりすることのいずれも避けながら、すべての子どもの資質・能力の育成につながるよう、一斉・グループ・個別といった様々な形態を効果的に組み合わせて教育活動を組み立てることの重要性も示すべきだ、とされています。

「一人で黙々と端末に向かっている」だけでも、「みんなで同じことをしている」だけでもない。目的に応じて、形態を組み合わせる。当たり前のようでいて、実際の授業ではつい一つの形に偏ってしまいますよね。私もそうです。


個に応じた学習過程を支えるもの

自己調整と学習方略の指導

前回も触れましたが、審議まとめは、学習の自己調整や、それを支える学習方略の指導を重視しています。ただ、子どもがそれらを身に付けるためにどんな指導をすればよいのか、学校現場の実践の蓄積は十分とは言えないことも認めています。だからこそ、科学的知見を踏まえた解説の工夫や、具体的な指導資料の提供など、国が学校現場の実践を積極的に支援すべきだ、としています。

図3:自己調整学習のサイクルや、それを促進する要素等に関する研究上の知見
図3:自己調整学習のサイクルや、それを促進する要素等に関する研究上の知見。予見・遂行・内省のサイクルと、それを高める方略の指導の例が整理されています(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.449[資料1-3-17])

教師の指導・支援が重要

同時に、審議まとめは、個に応じた学習過程を充実させるにあたっては、教師の指導・支援が重要になることに十分留意して記載を検討する、とも書いています。

算数の項目でも、近年は子どもに学びを委ねる実践が広がっているが、そうした場合にも教師の適切な関与は必要だ、と書かれています。子どもに任せることと、教師が手を離すことは違う。この点は、心に留めておきたいところです。

心理的安全性と集団づくり

そして、前々回書いた心理的安全性です。対話や協働の前提としての集団づくりや心理的安全性の確保の重要性、いわゆるアンコンシャスバイアスに基づく指導を避けるべきことなども示すべきだ、とされています。

単元全体の構想があってこそ

もう一つ、第3回・第4回で書いた「統合的な理解・総合的な発揮」とのつながりも見逃せません。外してはいけない「資質・能力の軸」が明確だからこそ、子どもの実態に応じた柔軟な対応が場当たり的にならず、本質を押さえながら多様なアプローチができる。審議まとめはそう書いています。

単元のゴールがはっきりしていれば、そこへ向かう道は子どもによって違っていい。逆に言えば、ゴールが見えていないまま子どもにそれぞれ学ばせると、ばらばらな活動に終わってしまう。個に応じた学習過程は、単元を構想する力とセットなのだと思います。


4年生の算数で想像してみる

とはいえ、言葉の整理だけでは、授業の姿はなかなか浮かびませんよね。ここまでの整理を、具体的な単元で想像してみます。4年生の算数「面積」を例にした、あくまで私の想像です。

一斉:単元の「問い」と土台をそろえる

単元の最初は一斉で、「形がちがう二つの部屋、どちらが広い?」という問いをみんなで共有します。広さを比べるには、何か基準が必要だ。そこから「1平方センチメートルがいくつ分」という考え方を、全員で確かめます。単元のゴール(統合的な理解)に向かう土台をそろえる時間です。

個別:自分のペースで練習する

長方形や正方形の面積の求め方が分かったら、練習の時間は個別にします。教科書の問題をじっくり解く子、端末のドリルでどんどん進む子、先生と一緒に方眼紙で確かめる子。学び方を選び、自分のペースで練習します。ここで教師は、つまずいている子に重点的に声をかけます。

グループ:考え方を比べる

L字型の図形の面積を求める場面では、グループで考えを比べます。分けて足す、全体から引く、移動して長方形にする。いろいろな考え方が出てきたところで、「どの考え方にも共通していることは?」と問いかけます。どれも「長方形の面積の求め方を使えるように、形をくふうしている」。この気づきが、単元の「統合的な理解」につながります。

個別:最後の課題に一人で取り組む

単元の終わりには、第4回で書いたような「最後の課題」に、一人一人が取り組みます。自分のやり方で求め、その理由を説明する。説明の仕方は、ノートに書く、図で示す、端末で録画する、など選べるようにしてもいいかもしれません。

こうして見ると、一斉・個別・グループは、どれが正解ということではなく、単元の中でそれぞれの役割を持っていることが分かります。


私が今から試してみたいこと

1. 「この形態で、何が深まるのか」を自分に問う

授業で個別学習やグループ学習を取り入れるときに、「この形態で、子どもの何が深まるのか」を一言で言えるかどうか、自分に問いかけてみる。言えないときは、形態ありきになっているサインかもしれません。

2. 子どもに「学び方を選ぶ」場面をつくる

たとえば算数の練習の時間に、「教科書の問題を解く」「友達と問題を出し合う」「端末のドリルで練習する」から選ばせる。選んだ理由を聞き、終わったあとに「その学び方はどうだった?」と振り返る。学習者主語の視点を、小さな場面から取り入れてみます。

3. 一斉・グループ・個別を、単元の中で組み合わせる

単元計画をつくるときに、「ここは一斉で全員の土台をそろえる」「ここは個別で、自分のペースで練習する」「ここはグループで考えを比べる」と、形態の組み合わせを意識して書き込んでみる。第4回で書いた「つながりの地図」に、形態の情報も加えるイメージです。


うまくいかないこともあります

一方で、個に応じた学習過程を実現しようとすると、教師がすべての子どもの学びを把握するのが難しくなります。子どもがそれぞれ違うことをしている教室で、誰がどこでつまずいているかを見取るのは、一斉授業よりずっと大変です。

ここで力になるのが、デジタル学習基盤だと思います。子どもの学習の記録がクラウド上で見られれば、教師は全体を見渡しながら、必要な子に声をかけることができます。審議まとめも、デジタル学習基盤を、多様な子どもの学びやすさの向上や合理的配慮の基盤として位置付けています。道具の力も借りながら、少しずつ取り組んでいきたいところです。


おわりに 言葉を整理することは、授業を整理すること

「主体的・対話的で深い学び」「個別最適な学び」「協働的な学び」「個に応じた指導」。似た言葉がたくさん並んでいると、どうしても言葉の意味を追いかけることに疲れてしまいます。

今回の審議まとめは、それらを「多様な子ども一人一人に、深い学びを」という一つの方向に向けて整理し直そうとしています。言葉が整理されれば、授業で大切にすることもはっきりします。形態に振り回されるのではなく、目の前の子どもの学びが深まっているかどうか。そこに立ち返ることが、何より大切なのだと思います。

次回からは国語がテーマです。第16回は、国語が「話や文章の機能」で再構造化される、という話を書きます。


参考にした資料

中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)

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