「次期学習指導要領を読む」第11回です。授業がうまくいくかどうかは、結局、学級の雰囲気しだい。担任をしていると、そう感じる場面が多いですよね。
審議まとめは、学級経営が目指すものを「一人一人の子供と学級全体のウェルビーイングの実現」として広く捉える方向を示しています。そして、学級活動を、学びに向かう学習コミュニティの形成や心理的安全性の確保を通じて、学校の教育活動全体を下支えする「学級経営の要」として明確にする、としています。
学級経営は、これまで学習指導要領の中で、どちらかといえば「大事だけれど、書かれ方がはっきりしないもの」でした。今回の審議まとめでは、学級経営が、柔軟になる教育課程を支える土台として、正面から位置付けられようとしています。学級担任として、とても励まされる内容でした。
なぜ今、学級経営なのか
教育課程が柔軟になるほど、学級が大切になる
審議まとめは、学級経営の重要性が高まっている理由を、今回の改訂の方向性と結びつけて説明しています。
第10回で書いた調整授業時数制度のように、教育課程はより柔軟になります。第15回で書く「個に応じた学習過程」も充実していきます。子どもたちの学び方は、これからますます多様になっていくでしょう。
そのときに大切なのは、その多様さが「学びの孤立化や不安定化」をもたらすのではなく、互いの学びの深まりや成長につながっていくことだ、と審議まとめは書いています。一人一人が違うことをしていても、「この学級の一員だ」と感じられる安心感がある。だからこそ、多様な学び方が成り立つ。学級経営は、安定した教育活動を行ううえで不可欠だ、という整理です。
教科担任制やチームで行う授業が広がる中で
もう一つの理由として、小学校での教科担任制の推進や、道徳での「チームで行う道徳授業」の提案なども挙げられています。担任以外の先生が授業をする時間が増えるほど、それらが全体としてうまく機能するために、学級経営の重要性はさらに高まる、というのです。
専科の先生から「今日、このクラスは落ち着いていましたよ」と言われると、ほっとしますよね。これは実感としてもよく分かります。専科の先生の授業で子どもが落ち着いて学べるかどうかは、普段の学級の雰囲気に大きく左右されます。
学級活動は「学級経営の要」

標準授業時数の中にある、唯一の「生活づくり」の時間
特別活動は、学級活動、児童会活動、クラブ活動、学校行事で構成されています。そのうち、標準授業時数に含まれているのは学級活動だけです。
審議まとめは、この点に注目しています。標準授業時数の内数として確かな時間数が配当され、子どもにとって最も基礎的な生活コミュニティである学級での「生活づくり」を内容とする学級活動。それを、次のようなことを通して学校の教育活動全体を下支えする「学級経営の要」として明確にする、としています。
- 学びに向かう学習コミュニティの形成
- 心理的安全性の確保
- 民主的な社会の形成者として必要な資質・能力の育成
学級活動の時間が、気づけば行事の準備や連絡で終わっていた。そんな週、ありますよね。私もそうしてしまうことがあります。でも、この位置付けを読むと、学級活動の1時間は、学級経営のど真ん中にある時間なのだと改めて思わされます。
教職課程でも「特別活動の指導法(学級経営を含む)」
注記には、令和8年6月の教職課程に関する二次まとめで、教職課程に含めることが必要な事項として「特別活動の指導法(学級経営を含む)」が示され、特別活動と学級経営の関係が明示されている、とも書かれています。これから教員になる人たちは、学級経営を特別活動と結びつけて学ぶことになりそうです。
「学級全体のウェルビーイング」とは

ウェルビーイング=身体的・精神的・社会的に良い状態
ウェルビーイングという言葉は、最近よく聞くようになりました。でも、学級の中で具体的に何を指すのかと聞かれると、少し困ってしまいますよね。審議まとめは、教育振興基本計画(令和5年6月閣議決定)にならい、「身体的・精神的・社会的に良い状態にあること」と説明しています。
主観的幸福感は「友達関係」と「教師のサポート」に関係する
審議まとめは、子どもの主観的幸福感にとって、友達との関係や教師のサポートが重要だという分析結果があることを紹介しています。
これは、多くの担任が経験的に感じてきたことだと思います。子どもが学校を「楽しい」と感じるかどうかは、授業の中身以上に、友達とうまくいっているか、先生が自分を見てくれていると感じられるか、に大きく左右されます。そのことが、学習指導要領の議論の中で、はっきり言葉にされたことには意味があると思います。
特別活動の三つの視点とのつながり
特別活動には、「人間関係形成」「社会創造」「自己実現」という三つの視点があります。審議まとめは、このうち「社会創造」を「社会のウェルビーイング」、「自己実現」を「個人のウェルビーイング」の実現に関わるものとして整理できる、としています。
そのうえで、学級経営が目指すものを「一人一人の子供と学級全体のウェルビーイングの実現」として広く捉えることが示されています。
教師のウェルビーイングも含まれている
私がいちばん心を動かされたのは、注記の一文です。
「一人一人の子供と学級全体のウェルビーイング」には学級経営の担い手である教師のウェルビーイングも含まれている
学級全体のウェルビーイングの中に、担任自身も入っている。担任が疲れ切って、余裕をなくしていては、学級のウェルビーイングは実現できない。当たり前のことですが、それがこうして書かれていることに、少し救われた気持ちになりました。
特別活動の三つの側面
審議まとめは、特別活動の特質を、次の三つの側面が行き来するものとして捉えています。学級経営を考えるうえでも、とても参考になる整理です。
1. すべての子どもの安心を支える「包摂性」
多様な他者とよい人間関係をつくり、安心して意見を言ったり、失敗したりできる関係を育てる。それによって、学級経営、生徒指導、特別支援教育の「要」として、また各教科の深い学びを支える基盤としての役割を果たす、とされています。
2. 学級や学校をよりよいものへつくりかえる「創造性」
多様な意見や価値観を認め合い、対立や葛藤と向き合いながら、安易な多数決や予定調和に流されず、「対話と合意」を通じて納得解や暫定解をつくる。協働して実践し、振り返り、見直しながら、生活をよりよいものに更新していく。これは特別活動に固有の役割だ、と書かれています。この点は次回、詳しく書きます。
3. 子どもが社会の創り手としての自己をつくっていく「当事者性」
「好きや得意」を含めた自分自身と向き合い、他者や社会と関わり、責任を持って役割を担ったり行動を選んだりする中で、自分の価値観を更新していく。身近な社会をつくる「当事者」としての自分を形成していく、という側面です。
「規律か自由か」を超えて
日本の学校の強みと課題
審議まとめは、日本の学校教育の特色である協調性の育成や規律の確保について、社会の分断に向き合うための強みになりうる一方で、集団性の過度な強調に陥り、同調圧力や意義の不明確なルールの温存につながってきた面も否定できない、と書いています。
そのうえで、「規律」か「自由」か、「集団」か「個人」かといった二項対立を超えて、「多様性を個人と社会の力に変える」集団性へと、特別活動の意義を更新する必要がある、としています。
「集団」という言葉も見直される
注目したいのは、言葉の見直しにも踏み込んでいることです。学習指導要領の本文で「集団」という語句が多用されていることについて、過度な集団性の強調が同調圧力への偏りにつながっているという指摘があり、用語を整理する方向が示されています。
「学級集団づくり」という言葉を当たり前に使ってきた私たちにとって、少しどきっとする指摘ですよね。でも、まとまりを大切にしながらも、一人一人の違いが生きる学級をつくる。そのバランスを、改めて考えるきっかけになると思います。
私が今から試してみたいこと
1. 学級活動の時間を「学級の時間」として守る
学級活動の時間を、連絡や行事の準備だけで終わらせず、子どもたちが自分たちの生活について話し合う時間として、できるだけ守る。月に1回でも、子どもが議題を出して話し合う学級会の時間をとる。それが「学級経営の要」を実際に機能させる第一歩だと思います。
2. 「友達関係」と「教師のサポート」を意識して見る
最近、ゆっくり話しかけていない子の顔が、一人か二人、浮かんできませんか。私は浮かびました。子どもの主観的幸福感が友達関係と教師のサポートに関係するなら、学級経営の手応えを測るものさしも、そこに置いてみる。休み時間に一人でいる子はいないか。最近、話しかけていない子はいないか。一人一人に「見ているよ」というサインを送れているか。そんな問いを、週に一度でも振り返ってみたいと思います。
3. 自分のウェルビーイングも大事にする
そして、担任自身のウェルビーイングも、学級経営の一部です。無理をしすぎていないか。一人で抱え込んでいないか。審議まとめは、学級担任だけでなく、チーム学年経営のように組織的に学級運営に関わることも効果的だと書いています。困ったときに学年の先生に相談することも、立派な学級経営だと思います。
学級の「ウェルビーイング」を、どう確かめるか
ウェルビーイングは大事だと言われても、目に見えるものではありません。学級の状態をどう確かめればよいのか。審議まとめに具体的な方法が書かれているわけではありませんが、私なりに考えてみました。
子どもに直接聞いてみる
いちばんシンプルなのは、子どもに聞いてみることです。1人1台端末のアンケート機能を使えば、月に一度、数問の簡単な質問を、負担なく続けられます。
- 学校に来るのは楽しいですか
- 困ったときに相談できる友達はいますか
- 先生は、あなたの話を聞いてくれると思いますか
- このクラスで、自分の意見を言いやすいですか
審議まとめが紹介していた「主観的幸福感は友達関係と教師のサポートに関係する」という分析を踏まえると、二つ目と三つ目の質問は特に大事だと思います。数字の変化を追うことで、学級の小さな変化に早く気づけるかもしれません。
答えにくい子への配慮
ただし、アンケートには限界もあります。本当に困っている子ほど、正直に答えられないことがあります。数字だけを見て安心せず、普段の様子や、日記、休み時間の過ごし方など、いろいろな手がかりを合わせて見ていきたいと思っています。
結果を子どもと共有する
もう一つ大事なのは、アンケートの結果を、学級の子どもたちと共有して話し合うことだと思います。「意見を言いやすいと答えた人が少し減ったけれど、どうしたら言いやすくなるかな」。そうやって、学級のウェルビーイングを、担任だけでなく子どもたち自身が考えるテーマにする。それはまさに、特別活動の「創造性」と「当事者性」を育てることにつながります。
おわりに 学級は、学びの「土台」であり「場」でもある
審議まとめを読んで、学級経営が「授業の前提を整えるもの」から、「それ自体が子どもを育てる場」へと位置付け直されようとしていると感じました。
安心して失敗できる学級があるから、子どもは新しいことに挑戦できる。意見がぶつかっても大丈夫な学級があるから、本当の対話が生まれる。学級は、学びの土台であり、民主的な社会を学ぶ場でもある。そう考えると、毎日の学級経営の一つ一つが、少し違って見えてきます。
次回は、特別活動の「創造性」の中心にある「納得解」「暫定解」と、安易な多数決をやめてみる、という話を書きます。
参考にした資料
中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)


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