#13 「分からない」と言える教室をつくる 心理的安全性はすべての活動の土台

教育の動き・学習指導要領

「次期学習指導要領を読む」第13回です。「分かる人?」と聞くと手が挙がるのに、「分からない人?」と聞くと、教室がしんと静まり返る。多くの教室で見られる光景ですよね。

審議まとめには、「心理的安全性」という言葉が、総則、特別活動、算数など、さまざまな場所に繰り返し出てきます。そして、心理的安全性の確保を「全ての活動の基盤」と位置付け、特別活動を要とした学級経営を通じて実現を図る、という方向を示しています。

「間違っても良い」「分からないと言える」。算数の項目には、こんな具体的な言葉まで書かれています。深い学びも、対話も、個に応じた学びも、この土台がなければ成り立たない。審議まとめを通して読むと、そんなメッセージが浮かび上がってきます。


審議まとめの中の「心理的安全性」

柔軟な教育課程の「土台」として

第1部第4章の「多様な子供たちを包摂する柔軟な教育課程」の中で、審議まとめは包摂のための取組を3つの層で整理しています。

  1. 学校が共通に編成する教育課程の柔軟化(調整授業時数制度など)
  2. 個々の子どもに着目した特別の教育課程の新設・拡充(第21回で書きます)
  3. 日々の学習指導における包摂性の一層の向上

そして3つ目について、日々の学級経営や学習指導で、多様な子どもたちが学びやすく、心理的安全性が確保された学習環境を整えることは、1と2を機能させるうえでも重要であり、「いわば、教育課程の柔軟化の土台」だ、と書いています。

具体的に重視することとして挙げられているのが、次のような点です。

  • 外してはいけない「資質・能力の軸」が明確だからこそ、子どもの実態に応じた多様なアプローチを可能にすること
  • デジタル学習基盤も活用して、全ての子どもの学びやすさにつながる授業設計や環境整備を行い、必要な場合は合理的配慮を行うこと
  • 全ての活動の基盤となる心理的安全性の確保に向けて、特別活動を要とした学級経営を通じ、子ども同士の人間関係や教師と子どもの信頼関係を育て、「学級全体のウェルビーイング」の実現を図ること
  • 学習の自己調整の機会や学習方略の指導、学習途中の形成的評価の充実を通じて、個に応じた学習過程の充実を図ること
  • こうしたことを学校や教師が決めるときに、当事者である子どもの意見に耳を傾けるよう努めること

最後の一つ、読み飛ばしてしまいそうですよね。さりげなく、でもとても大事なことを言っていると感じました。

対話や協働の「前提」として

第3章(10)の「個に応じた学習過程の充実」の中でも、対話や協働の前提としての集団づくりや心理的安全性の確保の重要性を示すべきだ、と書かれています。一斉・グループ・個別といった様々な形態を効果的に組み合わせる中で、孤立的な学びに陥ることも、集団の中で個が埋没することも避ける。そのための前提が、心理的安全性だという位置付けです。

算数では「間違っても良い」「分からないと言える」

算数・数学の項目には、さらに具体的な記述があります。

授業を「わかる」と感じさせ、さらに算数・数学を「得意」と感じさせるためには、「間違っても良い」「分からないと言える」といった心理的安全性を確保した上で、児童生徒が学習内容に疑問を持ち、考えの理由を説明させるような授業や、習得した知識を普段の生活や現実の事象と関連付けられるような授業を行うことも有効と考えられる。

同じ項目には、学年が進むにつれて算数・数学が好き・楽しいと感じる子が減ったり、あきらめてしまう子が増えたりしているという指摘や、授業で「できる」「わかる」と感じられる機会を多くつくることは、学習意欲や心理的安全性を高めるうえでも大変重要だ、という記述もあります。

特別活動では「安心して意見を表明したり、失敗したりできる関係性」

特別活動の項目では、特別活動の特質の一つとして「すべての子供の安心を支え、学校生活を充実したものとする『包摂性』」が挙げられています。多様な他者とよりよい人間関係を形成し、安心して意見を表明したり、失敗したりできる関係性を育むことを通じて、各教科等の深い学びを支える基盤としての役割を果たす、とされています。


心理的安全性とは何か

「仲良し」とは少し違う

心理的安全性という言葉、職員室の研修で聞いたことがある方も多いですよね。もともとは組織やチームについて使われてきた言葉です。簡単に言えば、「この集団の中では、自分の考えや疑問、失敗を口にしても、ばかにされたり責められたりしない」と感じられる状態のことです。

ここで大事なのは、心理的安全性は「みんな仲良し」「対立がない」ということとは違う、という点です。むしろ、意見が違っても安心して言える、間違いを指摘し合っても関係が壊れない、という状態のことです。前回書いた「納得解」をつくる話し合いも、心理的安全性があってこそ成り立ちます。

「分からない」が言えない教室

では、教室で子どもが「分からない」と言えないのは、どんなときなのでしょうか。

  • 分からないと言うと、「さっき説明したでしょ」と言われる
  • 間違えると、周りの子に笑われる
  • 正解を言う子ばかりがほめられる
  • 先生が急いでいて、聞きにくい雰囲気がある

どれか一つは、思い当たるものがあるのではないでしょうか。最後の一つは、私自身にも身に覚えがあります。授業の進度が気になっているとき、子どもの「分からない」に、つい「あとで聞きに来てね」と返してしまうことがあります。


生徒指導との関係

発達支持的生徒指導の「要」としての特別活動

審議まとめは、令和4年に改訂された生徒指導提要も踏まえ、特別活動を「核」として、すべての子どもを対象に行う生徒指導の第1層(発達支持的生徒指導)や第2層(課題未然防止教育)を充実させていくイメージを明確にする方向を示しています。

図1:生徒指導と特別活動の関係について(イメージ)
図1:生徒指導と特別活動の関係について(イメージ)。生徒指導の4層構造のうち、第1層「発達支持的生徒指導」の要を特別活動が担うことが示されています(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.992[資料2-2 特⑨])

問題が起きてから対応するのではなく、日々の学級の中で、子どもが安心して過ごし、自分らしさを発揮できるように支える。それが発達支持的生徒指導の考え方であり、心理的安全性のある学級づくりそのものだと思います。

学級活動で「自殺予防」や「SOSの出し方」も

あわせて、現行のいじめ防止についての記載にとどまらず、学級活動(2)において自殺予防などに関わる事項を扱うことを明示する方向や、SOSの出し方に関する教育、生命の安全教育などの現代的な課題への対応を整理する方向も示されています。

「困ったときに、困ったと言える」。これも、心理的安全性の大切な一部です。

安心できる学級の風土が、いじめ防止や不登校への対応につながる

さらに、子ども一人一人が安心できる学級(学校)の風土をつくることを通じて、いじめ防止や不登校への対応にもつなげていくことの重要性を明確にする必要がある、とも書かれています。


見落としがちな「アンコンシャスバイアス」

審議まとめは、個に応じた学習過程について書いた箇所で、いわゆる「アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)」に基づく指導を避けるべきことも示すべきだ、としています。

注記では、PISA2025で、日本は科学の学習の楽しさや興味に関する設問で、肯定的な回答の割合が女子より男子の方が有意に高いこと、科学と数学でレベル5以上の割合も女子より男子の方が有意に高いことが紹介されています。

「男の子だから」「女の子だから」。自分では使っていないつもりでも、意外と口にしていることがありますよね。理科の実験で道具を扱う役を、いつも同じような子に任せていないか。算数の発表で、指名する子に偏りはないか。心理的安全性は、教師の何気ない言葉や振る舞いにも左右されます。


私が今から試してみたいこと

1. 「分からない」を歓迎する言葉を決めておく

子どもが「分からない」と言ったときに返す言葉を、あらかじめ決めておくのも一つの方法です。たとえば、「言ってくれてありがとう。ほかにも同じところで迷っている人、いるかもしれないね」。分からないと言った子が、学級の役に立ったと感じられるような返し方をしたいと思います。

2. 間違いを「みんなの教材」にする

子どもの間違いを、その子の失敗としてではなく、「みんなで考える材料」として扱う。「この考え方、途中までとてもいいね。どこで道が分かれたか、みんなで探してみよう」。間違えた子が笑われるのではなく、感謝される教室は、それだけで空気が変わります。

3. 「分からない」を表しやすい仕組みをつくる

声に出して「分からない」と言うのは、勇気がいることです。だからこそ、声に出さなくても表せる仕組みがあると助かります。

  • 自分の理解度を、ノートの端に「◎・○・△」で書いてもらう
  • 端末の共有ボードに、名前を出さずに質問を書けるようにする
  • 「隣の人に説明してみて」の時間をとり、説明できなかったところを「分からない」の手がかりにする

こうした仕組みは、子どもにとっての安心であると同時に、教師にとっては第7回で書いた形成的評価の手がかりにもなります。「分からない」が見えるようになると、声をかけるべき子、もう一度説明すべきところがはっきりします。

4. 教師自身が「分からない」「間違えた」と言ってみせる

もう一つ、効果があると感じているのは、教師自身が「分からない」「間違えた」と言ってみせることです。板書を間違えたときに、「あ、先生間違えたね。教えてくれてありがとう」と言う。子どもの質問に答えられないときに、「それは先生も分からないな。一緒に調べてみよう」と言う。大人が間違いや分からなさを隠さない姿は、子どもにとって何よりの安心材料になります。

5. 子どもの意見を、学級のことを決めるときに聞く

審議まとめが包摂の取組の最後に挙げていた「当事者である子供の意見に耳を傾ける」こと。席替えのやり方、係の決め方、学級のルール。教師が決めていることの中で、子どもの意見を聞けるものはないか、一度点検してみたいと思います。


うまくいかないこともあります

とはいえ、心理的安全性は、つくろうと思ってすぐにつくれるものではありません。一度の失敗で崩れることもあります。教師がどれだけ気をつけていても、子ども同士の関係の中で、「言いにくさ」が生まれることもあります。

また、「何でも言っていい」が、人を傷つける言葉を許すことにならないよう、線引きも必要です。安心して意見を言えることと、相手を尊重することは、セットで育てていくものだと思います。


おわりに 土台は、目立たないけれど欠かせない

心理的安全性は、建物の土台のようなものだと思います。目立たないし、できあがった授業を見ても、すぐには分かりません。でも、土台がなければ、どんなに立派な授業も、すぐに崩れてしまいます。

「分からない」と言える教室。「間違えた」と笑って言える教室。「それ、違うと思う」と言っても大丈夫な教室。審議まとめのあちこちに散らばっていた「心理的安全性」という言葉は、そんな教室をつくることが、これからの学校のすべての出発点なのだと教えてくれている気がします。

次回は、「好き」を育み「得意」を伸ばす、という方向性と、一律の宿題から自分で決める家庭学習へ、という話を書きます。


参考にした資料

中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)

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