「次期学習指導要領を読む」第5回です。通知表の所見を書くとき、「粘り強く取り組みました」という言葉を、何度も使ってしまう。そんな経験がある方も多いのではないでしょうか。
次の学習指導要領では、資質・能力の三つの柱の一つ「学びに向かう力、人間性等」が、次の4つの要素で整理し直される方向です。
- 初発の思考や行動を起こす力・好奇心
- 学びの主体的な調整
- 他者との対話や協働
- 学びを方向付ける人間性
今の評価で使っている「粘り強さ」と「自己調整」の2つの視点だけでは、「学びに向かう力」が狭く理解されてしまっている。審議まとめは、そうはっきり書いています。この4つの要素は、評価の話の前に、私たち担任が「子どもの何を育てたいのか」を考え直すための、よい地図になると感じました。
「学びに向かう力」は、なぜ分かりにくかったのか
「学びに向かう力」と言われても、具体的に子どものどんな姿を指すのか、説明しにくいですよね。
項目が並んでいるだけで、関係が見えない
今の学習指導要領の「学びに向かう力、人間性等」は、多岐にわたる項目が羅列的に書かれていて、項目どうしの関係や各教科の目標に共通する要素が見えにくい。審議まとめは、まずこの点を課題として挙げています。
各教科の目標の三つ目を読み比べてみると、たしかに「進んで」「粘り強く」「よさを感じ」「生活に生かそうとする」など、似ているようで少しずつ違う言葉が並んでいます。教科ごとの特色ではあるのですが、全体として何を育てたいのかは、つかみにくかったように思います。
「粘り強さ」と「自己調整」に矮小化されてきた
もう一つの課題は、評価との関係です。今の評価では、「学びに向かう力」に対応する観点として「主体的に学習に取り組む態度」があり、その評価の視点として「粘り強さ」と「自己調整」の2つが示されています。
審議まとめは、この2つの視点に「矮小化されて」学びに向かう力が理解されているという指摘がある、と書いています。さらに評価の章では、もっと率直な指摘も出てきます。
- 「粘り強さ」が、ノート提出の頻度や課題の締め切りを守ることなど、形式的な「勤勉さ」の評価にとどまっている例がある
- 「自己調整」を振り返りで評価しようとすると教師の負担が大きく、子どもが教師の期待する表現を過度に意識する傾向がある
読んでいて耳が痛くなった方も多いのではないでしょうか。私自身にも思い当たることばかりです。振り返りカードに「次はもっとがんばりたいです」と書いてあれば「自己調整」を評価したことにしてしまったり、提出物の状況で「粘り強さ」を判断したりしていた時期がありました。
再整理の考え方
「初発の思考や行動」から始まる
では、どう整理し直すのでしょうか。審議まとめの考え方の出発点は、「初発の思考や行動」です。聞き慣れない言葉ですが、要するに「自分から考え始める、動き出す」ということのようです。
変化の激しい時代に自分の人生を舵取りしていくには、答えの決まっていない課題に対して、身に付けた力を使って、まず自分から考え始めたり動き出したりすることが必要です。これは、第1回で紹介した「『好き』を育み、『得意』を伸ばす」という方向性とも重なり、一人一人の個性的な人生をつくる基礎になる、と書かれています。
修正しながら、よりよい方向へ
ただし、初発の思考や行動は、ひとりよがりになったり、まとまりを失ったりすることもあります。そこで、他者との関わりや、自分を客観的に見るメタ認知を働かせながら、考えや行動を修正していく。この「自分から始める」と「修正する」を行き来しながら、よりよい学びや、その先にある豊かな人生・よりよい社会へ向かっていく。これが、審議まとめが描く学びのプロセスです。
そして、この行き来のプロセスは、教科の基本的な概念を深く理解して身体化(記号接地)したり、創造的な考えを生み出したりするうえでも重要だ、とされています。第2回で書いた「確かな知識」とも、ここでつながってきます。
表に出にくい「情意・感性」も大切にする
もう一つの視点は、教科の学習に向かう態度だけでなく、学んだことを踏まえて、よりよい人生や社会に向かおうとする「情意・感性」も大切にする、ということです。これは学習の過程では表に出にくい内面的な側面ですが、だからこそバランスよく含める必要がある、と書かれています。
4つの要素を一つずつ見る
審議まとめは、4つの要素を「学びや生活に向かう態度」の3つと、「情意・感性」の1つに分けて示しています。
一つずつ読んでいくと、どの要素にも、思い当たる子の顔が浮かんでくるのではないでしょうか。

1. 初発の思考や行動を起こす力・好奇心
各教科で身に付けた知識や技能、思考力などを土台にして、自分から考え始めたり行動を起こしたりする力です。創造性などとも関連する、と書かれています。
教室の姿で言えば、「先生、これってどうなってるの?」「やってみてもいい?」と言い出す子の姿でしょうか。審議まとめは、これが単に「与えられた課題に積極的に取り組むか」という入り口の自主性にとどまらないよう検討する必要がある、とも書いています。手を挙げる回数が多いことと、自分から問いを立てることは、同じではないということだと思います。
2. 学びの主体的な調整
自分の考えや行動を客観的に捉え(メタ認知)ながら学習を調整し、考えや行動を修正したり、次につなげたりする力です。
今の「自己調整」に近いものですが、振り返りカードに書かれた言葉だけでなく、学習の途中で「このやり方だとうまくいかないから、図にしてみよう」と方法を変える姿のような、学びの過程そのものに表れるものとして捉えたいところです。
3. 他者との対話や協働
教師の指導を含む他者からのフィードバック、書籍などとの対話、多様な他者との協働・共感や対立の乗り越えなどを通して、学びを支える態度です。
ここで私が注目したのは、「書籍等との対話」や「対立の乗り越え」が含まれていることです。友達と仲良く話し合うことだけが「協働」ではなく、本を読んで考えを深めることも、意見がぶつかったときにどう向き合うかも、この要素に入っています。
話し合いではほとんど発言しないけれど、図書室でじっと本を読んでいる子。そういう子も、ちゃんと「対話」をしているということですよね。
4. 学びを方向付ける人間性
自分の考えや行動を、自身の豊かな人生やよりよい社会に向けていく人間性です。民主主義、共生社会、持続可能な社会、環境、個人と社会のウェルビーイング、アイデンティティ、エージェンシーなどと関連する、とされています。
この要素だけは「情意・感性」に分類されていて、学習の過程で表に出にくい内面的な側面です。審議まとめの図では、下の3つの要素を行き来しながら、粘り強く継続的に考えたり行動したりする経験を繰り返すことで、上の「人間性」が育まれる、という関係で示されています。
4つの要素は、学級経営とどうつながるか
「非認知能力」との関係
ここまで読んで、「これって最近よく聞く『非認知能力』のこと?」と思った方もいるのではないでしょうか。実際、4つの要素は非認知能力と深く関わっています。審議まとめは、自制心、実行機能と呼ばれる能力、他者と協働する能力など、いわゆる非認知能力は「学びに向かう力」と関わりが深い、と書いています。そして、それらは「『好き』を育み、『得意』を伸ばす」と「当事者意識を持って、自分の意見を形成し、対話と合意ができる」を両輪で実現していく過程で伸ばしていくことが期待できる、としています。
つまり、非認知能力を育てるための特別なプログラムを別に用意するというより、日々の授業や学級での活動の中で、4つの要素が行き来する経験を積み重ねることが大切だ、という考え方です。
総合と特活は「学びに向かう力」と特に関わりが強い
審議まとめは、総合的な探究の時間と特別活動を、「学びに向かう力」との関わりが極めて強いものとして位置付けています。
- 総合的な探究の時間は、興味・関心に基づいて意味や価値を創造する特質を持つ。だから「初発の思考や行動」「好奇心」と特に関わる
- 特別活動は、民主主義の担い手の育成や共生社会の実現の基盤としての特質を持つ。だから「他者との対話や協働」と特に関わる
学級会で意見を出し合い、ぶつかり、折り合いをつけていく。係活動で「こんなことをやってみたい」と自分たちで動き出す。そうした特別活動の時間は、まさに4つの要素が育つ場です。「学びに向かう力」は教科の授業だけで育てるものではなく、学級経営全体で育てるもの。そう考えると、担任の仕事の見え方も少し変わってくると思います。
評価はどう変わるのか(予告)
とはいえ、やはり気になるのは評価ですよね。4つの要素の整理は、評価の仕組みにも関わってきます。詳しくは次回書きますが、ポイントだけ先に紹介します。
- 「学びに向かう力」は、各教科ごとに目標に準拠して評価するのではなく、総合所見欄での個人内評価を基本にする方向
- 4つの要素のうち、学習の過程で表に出やすい3つ(初発の思考や行動、学びの主体的な調整、他者との対話や協働)が、思考・判断・表現の過程で特に表れた場合には、「思考・判断・表現」の観点別評価に「◯」を付記する方向
- 表に出にくい「学びを方向付ける人間性」は、総合所見欄などでの個人内評価で扱う
つまり、表に出やすいものと出にくいものを分けて、それぞれに合った方法で見取ろう、という考え方です。
私が今から試してみたいこと
1. 「初発」の姿を見逃さないメモをつける
4つの要素の中で、私がいちばん意識したいと思ったのは「初発の思考や行動を起こす力・好奇心」です。子どもが自分から問いを立てたり、何かを試そうとしたりした瞬間を、短くメモしておく。それだけで、子どもの見え方が変わる気がします。
2. 振り返りの問いを変えてみる
振り返りカードの問いを、「がんばったこと」「次にがんばりたいこと」から、「途中でやり方を変えたところはある?」「友達や本から、考えが変わったところはある?」に変えてみる。そうすると、子どもが「学びの主体的な調整」や「他者との対話や協働」について書きやすくなります。教師の期待する言葉を書かせるのではなく、子どもが自分の学び方に気づくきっかけにしたいところです。
3. 「対立の乗り越え」を学級で経験させる
意見が分かれたときに、すぐに多数決で決めたり、教師が答えを出したりするのではなく、「どうしたらみんなが納得できるかな」と考える時間をとる。これは「他者との対話や協働」を育てる、学級経営そのものだと思います。この点は第12回で詳しく書きます。
うまくいかないこともあります
一方で、4つの要素に整理されたからといって、すぐに子どもの見取りが上手になるわけではありません。特に「学びを方向付ける人間性」のような内面的なものは、見取ろうとすればするほど、教師の思い込みが入りやすい部分でもあります。
また、子どもによって、これらの要素の表れ方はずいぶん違います。審議まとめも、子どもの多様な特性によって表れ方に違いがあることに留意する必要がある、と書いています。おしゃべりな子の「対話」は見えやすいけれど、じっくり本と向き合う子の「対話」は見えにくい。4つの要素を「子どもを評価するためのものさし」ではなく、「子どもの良さを見つけるための窓」として使いたいと思います。
おわりに 「学びに向かう力」は、学級の空気の中で育つ
4つの要素を眺めていると、どれも、一時間の授業の中だけで育つものではないと感じます。自分から問いを立てられる安心感、失敗してもやり直せる雰囲気、意見がぶつかっても大丈夫だという信頼。そうした学級の空気の中で、少しずつ育っていくものです。
だからこそ、「学びに向かう力」は、授業と学級経営をつなぐ言葉でもあるのだと思います。
次回は、評価の具体的な変化として、通知表の「主体的に学習に取り組む態度」がどうなるのか、個人内評価と「◯」の付記について書きます。
参考にした資料
中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)

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