#10 調整授業時数制度ってなに? 学校が自分たちで時間をデザインできるようになる日

教育の動き・学習指導要領

「次期学習指導要領を読む」第10回です。「もう少しこの単元に時間をかけたいのに、時数が足りない」。「学年の先生と相談する時間が、放課後にしかとれない」。そんなもどかしさを感じたことがある方は多いですよね。

「調整授業時数制度」は、各教科等の標準授業時数を一定の範囲で下回って教育課程を組み、そこで生まれた時間を、学校の判断で別のことに使えるようにする新しい仕組みです。使い道は大きく3つです。

  • 別の教科等の授業時数に上乗せする
  • 学校独自の新しい教科を開設する
  • 「裁量的な時間」に充てる(子どもの学びのための「学習枠」と、教師の組織的な研究・研修のための「研究・研修等枠」)

これまで「特例校」として国の指定を受けた学校だけができていたことを、国への申請なしに、どの学校でも「常に利用可能な選択肢」にしよう、という方向です。審議まとめの中でも、とりわけ学校の日常を大きく変えうる制度だと感じました。私もまだ全体像をつかみきれていないので、読みながら整理してみます。


なぜ、こういう制度が必要なのか

そもそも、なぜこんな制度が必要なのでしょうか。

年度当初の時数配分が、柔軟さを奪っている

今は、年間の標準総授業時数と各教科等の標準授業時数が学校教育法施行規則で決まっていて、年度当初の計画段階でそれらを確保したうえで教育課程を組むことになっています。

審議まとめは、この仕組みのもとでは、子どもの個性や特性に応じた学びや、学校・地域の実態を踏まえた学びの展開が難しい、という指摘を紹介しています。また、教師の研究・研修の時間を確保することも難しく、柔軟で「余白」のある教育課程にしにくい、とも書いています。

特例校制度は「特別なこと」になっていた

今でも、「教育課程特例校制度」や「授業時数特例校制度」を使えば、学校や地域の創意工夫を生かした教育課程を組むことはできます。でも、国の審査・指定が必要で時間や手間がかかるため、活用しにくいという声があり、学校の創意工夫は「特別なこと」になっている、と審議まとめは書いています。

先行する学校での成果

一方で、研究開発学校制度のもとで、標準総授業時数の範囲内で生み出した時間を、子どもの個性や特性に応じた学びや、教員の組織的な研究・研修に充てる取組が、令和8年4月時点で9都道府県68校で行われています。そこでは、子どもの多様な実態に応じた資質・能力の育成や、学校のねらいに応じた実践開発、教師の力量向上などに効果を挙げている、とされています。

さらに、現行の標準授業時数・教科書のもとで調整を試行する「サキドリ研究校」も全国332校で取り組まれていて、先行研究開発学校と合わせて400校もの指定がすでに行われているそうです。


制度の基本的な仕組み

図1:調整授業時数制度の基本的な枠組み(イメージ)
図1:調整授業時数制度の基本的な枠組み(イメージ)。教科の時数を一定の範囲で減らし、生まれた時間を「裁量的な時間」や他教科の上乗せに使う仕組みの全体図です(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.455[資料1-4-3])

内容はすべて扱ったうえで、時数を下回ってよい

調整授業時数制度では、対象となる各教科等について、学習指導要領に示す内容をいずれも取り扱うことを前提に、標準授業時数を下回って教育課程を組むことができます。

「時数を減らしていい」と聞くと、内容も減るのかと思ってしまいますよね。でも、ここは誤解しやすいところで、「内容を減らしてよい」わけではありません。内容はすべて扱う。そのうえで、授業の工夫や教科書の精選、デジタル学習基盤の活用などで、より少ない時数で扱えるようにする、という考え方です。

審議まとめには、先行研究開発学校のほとんどが、現行の学習指導要領のもとでも、デジタル学習基盤の活用による効率化や、教師の発話テンポをよくするなどの授業改善によって、特段の問題を生じさせることなく、1コマ45分を40分に短縮するなどして調整授業時数を生み出している、という注記もあります。

減らせない教科もある

すべての教科を下回ってよいわけではありません。標準授業時数が35コマ以下(週1コマ相当以下)の教科等は、減らすことができません。また、調整したあとの時数が35コマ未満になるように減らすこともできません。週1コマ程度の時数は、学習の継続性のために大事だからです。

一方、今の授業時数特例校制度では対象外だった「総合的な学習の時間」も、調整の対象に含める方向です。

どれくらい下回ってよいのか

標準を下回ってよい上限については、「最大限大きくとった場合で対象教科の15%程度」を想定するとされています。小学校5年生の場合で138コマ程度、週あたり4コマ程度です。ただし、具体の数字は、先行実践を踏まえて引き続き精査し、適切なタイミングで決定する、とされています。


生まれた時間の使い道

1. 別の教科等への上乗せ

学校が重点的に取り組みたい教科等に、生み出した時間を上乗せすることができます。標準授業時数の定めのあるすべての教科等が対象です。ただし、学校行事やクラブ活動など、標準授業時数の定めのない特別活動の時数に上乗せすることはできません。

2. 新しい教科の開設

特に必要な場合には、学校独自の新しい教科を開設することにも充てられます。

3. 裁量的な時間(学習枠)

「裁量的な時間」と言われても、何に使える時間なのか、すぐにはイメージしにくいですよね。「学習枠」は、学習指導要領に定める教科等には当てはまらないものの、子どもの実態に応じて、資質・能力の育成に特に役立つ教育プログラムを行う時間です。審議まとめは、次のような類型と例を挙げています。

  • 個に応じた学習過程の充実に資する取組:マイ探究の課題の深掘り、自分で選んだ学習課題に自己調整しながら取り組む時間、認知の特性に応じた個別指導や学習カウンセリング、下の学年の未習得事項を学び直すプログラムなど
  • 学習の素地を高める取組:体験活動の充実、企業・団体と連携して視野を広げる取組、言語能力・情報活用能力の重点的な育成、学習方略やメタ認知に関する体系的な指導など
  • 関係性の質を高める取組:いじめ防止や安全に関する教育、ソーシャルスキルの育成など、人間関係づくりに役立つ学習
  • 地域の特色を生かした取組:特別支援学級・学校との交流及び共同学習、地域の多様な大人と探究的に関わる活動など

ほかにも、新聞を活用したメディアリテラシー教育、教科横断の教科書読解プログラム、物語創作や身体表現など教科を横断した表現のプログラムなどが例として挙げられています。読んでいるだけで、いろいろなアイデアが浮かんできます。

4. 裁量的な時間(研究・研修等枠)

もう一つが「研究・研修等枠」です。教育の質の向上を目的にした、授業や指導の改善に直結する組織的な研究・研修のための時間です。類型として、次のようなものが挙げられています。

  • 学校の研究課題に沿った研究授業や研究協議、教科・学年での計画的な教材研究
  • 学校・学年の課題に応じて企画する定期的な研修
  • 教科担任制やチーム学年制と組み合わせた、子どもの情報共有・協議
  • 地域や企業、他校種との連携のための研究・協議

ただし、単なる打ち合わせや、突発的な生徒指導の会議、事務的な情報共有の時間にならないよう、学習や指導の改善と密接に結びつけることが前提とされています。また、学校として組織的に行うもの以外の研究・研修は対象外です。

上限としては、まず「週1コマ(最大35コマ)程度」を研究・研修等枠の上限として設定し、裁量的な時間全体としては「週2コマ(最大70コマ)程度」を上限とする方向が示されています。


子どもの時間を、教師の研修に使っていいのか

正直、最初は引っかかった

研究・研修等枠について読んだとき、私は少し引っかかりを覚えました。子どもの学習に充てるはずの時間を、教師の研修に使う。それは本当に子どものためになるのだろうか、と。

「好循環を仕組み化する」という考え方

審議まとめは、この点について、学校や教師に職務遂行上の「余白」を生み出し、教師の力量向上や学校全体の教育力の向上を経て、子どもの資質・能力の育成につながるという「好循環を仕組化すること」が重要だ、と書いています。

そして、研究・研修等枠の上限について、年間を通じて計画的に時間を確保できないような上限にしてしまうと、「時間があれば随時取り組む」といった断続的・場当たり的な実践になってしまう、とも書いています。だからこそ、週時程に計画的に組み込める「週1コマ程度」が必要だ、という理屈です。

読み進めるうちに、私の引っかかりは少しほどけていきました。第4回で書いた単元づくりも、第7回で書いた形成的評価も、教師が一緒に考える時間があってこそ、学校全体に広がっていくものです。それを、放課後の残業ではなく、勤務時間の中に位置付ける。そういう制度なのだと思います。

もちろん、審議まとめも、各学校でまず業務改善や日課の見直しを通じて、勤務時間内に研究・研修の時間を確保できるよう取り組むことが前提だ、と念を押しています。


いつから始まるのか

調整授業時数制度は、本来は新しい標準授業時数のもとで実施することを想定していますが、全面実施(小学校:令和12年度〜、中学校:令和13年度〜を想定)を待たずに、活用を望む学校が挑戦できるようにする方向が示されています。

  • サキドリ研究校を今年度中に追加募集し、令和9年度に大幅に増やす
  • 関係法令の改正にあたっては、令和10年度からの先行実施期間においても、現行の標準授業時数を基礎としつつ制度を活用できるようにする

自分の学校や地域がサキドリ研究校になれば、もっと早く経験することになるかもしれません。


担任の目線で、どんな使い方が考えられるか

週に1〜2コマ、自由に使える時間があったら。誰でも一度は思い描いたことがありますよね。ここからは、審議まとめに挙げられている類型をもとに、小学校の学年でどんな使い方ができそうかを、私なりに想像してみます。実際の運用は、今後示される要件や上限、そして学校全体の話し合いで決まるものなので、あくまでアイデアです。

「学び直しの時間」を週1コマ

算数の項目で、算数は系統性が強く、一つの単元でのつまずきがその後の学習に雪だるま式に影響する、と指摘されています。学習枠の例には「下学年の未習得事項を効果的に学び直すプログラム」が挙がっています。たとえば週1コマ、子どもが自分の苦手なところを選んで学び直す時間をつくる。得意な子は、自分の興味に沿った発展的な課題に取り組む。そんな使い方が考えられます。

「マイ探究」を深める時間

第19回で詳しく書きますが、総合的な探究の時間では、個人を起点に課題を設定する「マイ探究」を重視する方向が示されています。学習枠の例にも「マイ探究の課題の深掘り」が挙がっています。総合の時間だけでは足りない子どもの「もっと調べたい」に応える時間として使うこともできそうです。

学年の先生で単元をつくる時間

研究・研修等枠を使えば、週1コマ程度、学年の先生が同じ時間に集まって教材研究をすることができます。第4回で書いた「単元の最後の課題」を学年で考えたり、第7回で書いた形成的評価の工夫を共有したりする時間を、放課後ではなく勤務時間の中にとれる。これは、学年経営の在り方そのものを変えるかもしれません。

気になる子について話す時間

研究・研修等枠の類型には、「教科担任制やチーム学年制などと組み合わせた子供の情報の共有」も含まれています。ただし、単なる打ち合わせにならないよう、学習や指導の改善と結びつけることが前提です。「あの子は、この単元のどこでつまずいていたか」「どんな声かけが効いたか」を話し合う時間として使えれば、子ども理解がぐっと深まるはずです。


気をつけたいこと

図2:調整授業時数制度等に係る質確保のための仕組みの全体像
図2:調整授業時数制度等に係る質確保のための仕組みの全体像。国、教育委員会、学校がそれぞれどう関わって制度の質を確保していくかが示されています(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.456[資料1-4-4])

とはいえ、自由に使える時間には、気をつけたいこともありそうです。

「受験対策の時間」にしない

審議まとめは、単なる受験対策への傾倒や、教育の質の向上と関係のない教師の活動など、適切でない取組を防ぎ、改善できる仕組みを設ける必要がある、としています。生まれた時間を何に使うかは、学校の見識が問われるところです。

学校全体での合意が欠かせない

裁量的な時間の質を担保するには、養護教諭や事務職員も含めた全ての教職員が対話し、「チーム学校」として学校運営に参画して、学校としての方向性を深めることが重要だ、とも書かれています。一人の担任が決められることではなく、学校全体で「この時間を何のために使うのか」を話し合うことが出発点になります。

教務の負担にも目を向けたい

年度途中で時数を柔軟に変えられるようになると、時間割の組み替えや時数計算の負担が、教務担当の先生に集中するおそれもあります。審議まとめも、校務支援システムやクラウドツール、AIの活用による負担軽減に取り組むことが重要だと書いています。


おわりに 時間を「与えられるもの」から「デザインするもの」へ

これまで、学校の時間は、ほとんど「与えられるもの」でした。標準授業時数があり、週29コマがあり、その中でどうやりくりするかを考えるのが私たちの仕事でした。

調整授業時数制度は、その時間を、学校が自分たちで「デザインするもの」に変えていく可能性を持っています。それは自由であると同時に、責任でもあります。目の前の子どもたちのために、どんな時間をつくるのか。学校として、教師として、その問いに向き合う日が近づいているのだと思います。

次回からは「学級経営・特別活動」がテーマです。第11回は、学級経営のゴールが「学級全体のウェルビーイング」へ、という話を書きます。


参考にした資料

中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)

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