どうも。「せいたか先生」です。
「大造じいさんとがん」教材研究の第3回です。前回は、四つの情景描写から大造じいさんの心情を読む手順を考えました。今回は、大造じいさんが立てた三つの作戦をたどりながら、残雪に対する心情がどのように変わっていくのかを読んでいきます。
先に結論をお伝えすると、大造じいさんの残雪に対する見方が大きく変わるのは、場面3で銃を下ろした「その瞬間」ではなく、残雪がハヤブサと戦い、さらに人間にも堂々と向き合う姿を見届ける「過程」の中だ、と読むことができます。これは、山際博さんの論考で示されている読みです。今回は、この読みを手がかりに、場面3を中心にじっくり考えていきます。
学習指導要領とのつながり
今回の内容は、小学校学習指導要領(平成29年告示)国語の第5学年及び第6学年「C 読むこと」(1)イ「登場人物の相互関係や心情などについて、描写を基に捉えること。」の中心にあたります。大造じいさんと残雪の関係が、作戦を重ねるごとにどう変わっていくのか。まさに「相互関係や心情」を描写から捉える学習です。
また、場面3の戦いの描写を細かく読むことは、(1)エ「人物像や物語などの全体像を具体的に想像したり、表現の効果を考えたりすること。」にもつながります。
三つの作戦をたどる
まずは、大造じいさんが立てた三つの作戦を整理しておきましょう。山際さんの資料にまとめられている物語の概要を参考にすると、次のようになります。
- 場面1:ウナギつりばりを使ってガンをとらえる作戦。一羽はとらえたものの、残雪に見破られて失敗する
- 場面2:夏のころから準備したタニシを使い、ガンの群れをおびき寄せる作戦。これも残雪の知恵によって失敗する
- 場面3:最初の年に生けどりにしたガンを「おとり」に使う作戦。ところが、作戦の最中にハヤブサが現れる
場面1と場面2は、「作戦を立てる → 残雪に見破られる → 大造じいさんの反応」という同じ形がくり返されています。このくり返しが、場面3で起こる出来事の意外さを際立たせています。
「おとりのガン」にも目を向ける
場面3の作戦で使われるおとりのガンは、場面1でとらえたガンです。大造じいさんに飼いならされたこのガンは、山際さんの整理によれば、野鳥としての本能がにぶっていたために、ハヤブサが現れたときに逃げ遅れてしまいます。
つまり、残雪が命がけで救おうとしたのは、大造じいさんの作戦のために飼われていた仲間でした。場面1の作戦の結果が、場面3の出来事につながっている。この因果関係に気づくと、子どもたちは、三つの作戦がばらばらの出来事ではなく、一本の糸でつながった物語であることを実感できます。「おとりのガンは、いつ、どこから来たガンだろう」と問いかけて、場面1に戻らせてみるとよいと思います。
作戦ごとの大造じいさんの反応
それぞれの作戦のあと、大造じいさんはどんな反応をしているでしょうか。山際さんは、場面1では残雪をいまいましく思いながらも、その知恵に思わず感嘆の声をもらしてしまうこと、場面2では感心しながらも、作戦をことごとく見破る残雪をますますいまいましく思うことを、概要として整理しています。
ここで注目したいのは、大造じいさんの気持ちが、最初から「いまいましい」だけではないということです。くやしさの中に、相手の知恵を認める気持ちが少しずつまじっている。この「まじり方」の変化を丁寧に追うことが、心情の変化を読むうえでの大切なポイントになります。
心情の変化を追う三つの手がかり
心情の変化を追うときには、次の三つの手がかりに注目させるとよいと思います。
- 大造じいさんの言葉(とくに、残雪をどう呼んでいるか)
- 大造じいさんの行動や表情
- 前回扱った情景描写
とくに一つ目の「呼び方」は、子どもたちにも分かりやすい手がかりです。山際さんは、大造じいさんが「たかが鳥」「残雪め」などと評していた残雪を、場面3の終わりでは高く評価するようになり、場面4では「ガンの英雄」と呼びかけるようになることを指摘しています。呼び方を場面ごとに抜き出して並べるだけでも、心情の変化がくっきりと見えてきます。
場面3をくわしく読む
いよいよ、物語のクライマックスである場面3です。
場面3の流れ
山際さんは、場面3の流れを次のように整理しています(記号は山際の資料によります)。
- A おとり作戦の開始
- B 突然のハヤブサの登場
- C 残雪によるガンの群れの危険回避
- D 逃げ遅れたおとりのガンへのハヤブサの来襲
- E 残雪の命がけの再登場(おとりのガンの救援)…銃を下ろした大造じいさん
- F 残雪とハヤブサとの死闘
- G 第二の敵(大造じいさん)に対する残雪の対峙…強く心を打たれた大造じいさん
この流れを黒板に示すと、子どもたちは場面3の中で何が、どの順番で起こったのかを確かめやすくなります。そのうえで考えたいのが、「大造じいさんの見方は、どこで変わったのか」という問いです。
「じゅうを下ろした」のはなぜか
これまで多くの授業では、Eの場面で大造じいさんが銃を下ろした理由を問うことが、学習の中心に置かれてきました。中野圭さん(2023)も、この教材では大造じいさんが銃を下ろした場面を作品の勘所として、その理由を問う授業が多く見られると述べています。
これに対して山際さんは、Eで銃を下ろしたことと、Gで「強く心を打たれ」たことは、同じ次元の心情ではないと論じています。山際さんによれば、Eの時点では、残雪はまだハヤブサと戦ってはいません。本文が「下ろしました」ではなく「下ろしてしまいました」となっていることにも注目し、これは意志による行為というより、自然と起こってしまった行為だと読んでいます。そして、強い猛禽であるハヤブサに、ガンがたった一羽で向かっていく。狩人としての経験からは理解できない残雪の行動に対する「戸惑い」が、銃を下ろさせたのではないか、というのが山際さんの解釈です。
一方、Gの「強く心を打たれて」は、残雪に対する見方が変わったことをはっきりと示す心情の描写です。つまり、Eの「戸惑い」からGの「感動」への変化を引き起こしたのは、そのあいだにある残雪の命がけの戦い、すなわちハヤブサとの死闘(F)と、人間への対峙(G)だった、と山際さんは読んでいます。
「銃を下ろした理由」を問うことの難しさ
中野(2023)は、上月康弘さんの論考(2022)を引いて、「なぜじゅうを下ろしたのか」という問いの問題点も紹介しています。一つは、今の子どもたちには狩人という設定の重みが実感しにくいこと。もう一つは、銃を下ろす場面の周辺には大造じいさんの行動の描写がとても少なく、残雪の行動から間接的に心情を考えるしかないため、理由を考える根拠が不足しがちだということです。
山際さんと中野さんの論点は少し違いますが、どちらも「銃を下ろした理由」だけを学習の中心にすることに、見直しの余地があると考えている点で共通しています。私自身も、この問いをまったく使わないのではなく、「銃を下ろしたときと、強く心を打たれたときでは、大造じいさんの気持ちは同じだろうか」と比べる形で扱うほうが、子どもたちの読みが深まるのではないかと考えています。
「残雪の目には」の一文を誰の思いとして読むか
場面3には、救援に向かう残雪の目には人間もハヤブサもなく、ただ救わねばならない仲間の姿があるだけだった、という内容の一文があります。この一文を、語り手が残雪の心の中を説明したものと読むか、それとも、残雪の姿を見た大造じいさんが感じ取ったことと読むか。ここも読みが分かれるところです。
山際さんは、この一文を大造じいさんの内心とする解釈もあることにふれたうえで、自分はその考えをとらないと述べています。どちらの立場をとるかによって、Eの場面の大造じいさんの気持ちの読み方も変わってきます。
前回、情景描写について「誰の目が見た景色か」を考えました。同じ問いを、この一文にも向けてみることができます。「この一文は、誰が感じたことだろう」と問いかければ、第2回の学習が、そのまま場面3の読みに生きてきます。読みの方法を、別の場面でもう一度使ってみる。それは、子どもたちが読み方を「自分のもの」にしていくための大切な機会になります。
「ぱっ ぱっ」を精読する
山際さんは、残雪とハヤブサの戦いの描写を細かく読むことを提案しています。その中心にあるのが、羽が飛び散る様子を表した「ぱっ ぱっ」という表現です。
「ぱっと」と「ぱっ ぱっ」の違い
山際さんは、まず、少し前の場面との比較に目を向けます。ハヤブサがおとりのガンを一けりする場面では、羽が散る様子が「ぱっと」と一度だけ表されています。これは、ハヤブサの一方的な攻撃によるものです。それに対して、残雪とハヤブサが戦う場面では「ぱっ ぱっ」と、しかも二行に分けて書かれています。なぜ「ぱっと」ではなく「ぱっ ぱっ」なのか。この違いを考えることが、戦いの様子を想像する手がかりになります。
二つの読み方
山際さんは、この「ぱっ ぱっ」について二つの読み方を示しています。
- 読みA:どちらも残雪の羽が散る様子。ハヤブサの連続した猛攻の激しさを表している
- 読みB:一つ目は残雪の羽、二つ目は反撃を受けたハヤブサの羽。両者の互角の戦いの激しさを表している
山際さんは、どちらが妥当かは授業での子どもの議論にゆだねたいと述べています。たしかに、どちらの読みも本文の言葉を根拠に説明することができます。子どもたちに二つの読みを示して、「あなたはどちらだと思う? その理由は?」と問いかければ、描写の一つひとつの言葉に目を向けた、熱のこもった話し合いが生まれそうです。
戦いが美しく描かれている理由
山際さんはさらに、羽が「白い花弁のように」澄んだ空に飛び散るという描写に注目し、命がけの戦いが美しく描かれていることを指摘しています。そして、戦いが美しく描かれるのは、戦っている者同士が対等であるとき(あるいは弱い者が強い者に挑むとき)であり、この描写は、弱いガンが強いハヤブサに果敢に挑み、ハヤブサもそれを受けて互角に戦っていることを示している、と読んでいます。
この読みを知ると、残雪の戦いが、大造じいさんの目にどれほど強く焼きついたのかが想像できます。仲間を救うために、勝ち目のない相手に立ち向かう残雪。その姿を目の当たりにしたからこそ、大造じいさんの見方は大きく変わったのでしょう。
子どもたちにも、戦いの描写を声に出して読ませてみてください。短い文が続くリズムや、二行に分けられた「ぱっ ぱっ」の間を、体で感じることができるはずです。
人間に向き合う残雪
ハヤブサとの戦いのあと、深く傷ついた残雪のもとに大造じいさんがかけつけます。残雪は、近づいてきた「第二のおそろしい敵」に対して、残りの力をふりしぼって首を持ち上げ、正面からにらみつけます。その姿は「いかにも頭領らしい」堂々とした態度として描かれています(椋鳩十「大造じいさんとがん」より)。
ここで大造じいさんは、強く心を打たれ、ただの鳥に対しているような気がしなかった、と描かれます。山際さんは、最期を感じても頭領としての威厳を傷つけまいとする残雪の態度を、大造じいさんの心を大きく揺さぶったもう一つの「戦い」として読んでいます。ハヤブサとの戦いと、人間との対峙。この二つの戦いを見届けたことが、大造じいさんの残雪への見方を決定的に変えたのです。
授業での発問と板書の例
発問の例
- 「大造じいさんは、場面ごとに残雪をどう呼んでいるだろう。抜き出して並べてみよう」
- 「銃を下ろしたときと、強く心を打たれたときでは、大造じいさんの気持ちは同じだろうか」
- 「『ぱっ ぱっ』で散ったのは、誰の羽だろう」
- 「大造じいさんの心を動かしたのは、残雪のどんな姿だったのだろう」
二つ目と三つ目の発問は、意見が分かれやすい問いです。だからこそ、本文のどの言葉を根拠にしたのかを、必ず言葉にさせるようにしたいと思います。
板書の例
板書は、左側に場面3の流れ(A〜G)を縦に並べ、右側に大造じいさんの心情を書き入れていく形が考えられます。Eの横には「戸惑い?」、Gの横には「強く心を打たれた」と書き、そのあいだにあるFの戦いの描写を、子どもたちと一緒に読み解いていきます。心情の変化を矢印で示すと、「どこで、何によって変わったのか」が一目で分かる板書になります。
心情曲線で全体をふり返る
場面3を読み終えたら、物語全体を通した大造じいさんの心情の変化を、心情曲線で表してみるのもおすすめです。横軸に場面1〜4、縦軸に「残雪をどう思っているか」をとり、場面ごとに点を打って線で結びます。
縦軸を単純に「好き・きらい」にするのではなく、「いまいましい」と「認めている」の二つの軸を重ねて描かせると、場面1・2で二つの気持ちがまじり合っている様子や、場面3で「認めている」が一気に高まる様子が表現しやすくなります。線の形が人によって違っていても構いません。大切なのは、なぜその形になるのかを、本文の言葉を根拠に説明できることです。
心情曲線は、第4回で扱う単元のまとめの活動にもつながります。単元の最初に第1回の「一文まとめ」をした子どもたちが、ここで描いた心情曲線をもとに、もう一度物語をまとめ直す。その変化こそが、学びの深まりの証になるはずです。
次回に向けて
今回は、三つの作戦をたどり、場面3を中心に大造じいさんの心情の変化を読みました。
次回は、いよいよ最終回です。場面4の結末と物語の主題について考え、これまでの内容を、単元計画・発問・板書・評価という授業づくりの形にまとめていきます。
参考文献
- 文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)』国語 第5学年及び第6学年(国立教育政策研究所 学習指導要領データベース)https://erid.nier.go.jp/files/COFS/h29e/chap2-1.htm
- 山際博「中学校で再読:『大造じいさんとガン』―『戦い描写』の読みから主題に迫る―」池田市立秦野小学校(しぶたに学園)公開資料 https://ikeda.schoolweb.ne.jp/2710028/download/document/1740751
- 中野圭(2023)「『大造じいさんとがん』における情景描写から読みを深める学習デザイン-『なぜじゅうを下ろしたか』に代わる〈問い〉の効果-」『教育実践研究』第33集、pp.1-6、上越教育大学 http://www.educ.juen.ac.jp/topics/files/elfinder/2023_01.pdf
- 上月康弘(2022)「『大造じいさんとがん』における構造上の問題-〈問い〉の再考と学習デザイン-」『国語科学習デザイン』第5巻第2号、pp.9-18(中野、2023より孫引き)


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