教材で読む次期学習指導要領#4 「帰り道」の律と周也、二人の見え方のちがいを読む 「多様な他者の感性や情緒を理解する力」とは

授業づくり

どうも。「せいたか先生」です。

6年生の物語「帰り道」。同じ帰り道の同じ出来事を、前半は律の視点で、後半は周也の視点で語る、という作品です。大きな事件が起きるわけではない。でも、6年生の子どもたちは、妙にこの話に入り込みます。たぶん、自分にも「言いたいことが言えなかった帰り道」があるからなんでしょうね。

今回は、この「帰り道」を使って、審議まとめが国語で何度も繰り返している「多様な他者の感性や情緒を理解する」という言葉を考えてみます。

審議まとめが、国語に求めていること

審議まとめの国語のページには、これからの社会で必要な「人間ならではの力」として、こんな力が並んでいます。

  • 自らの考えを言葉にし、論理的かつ説得的に表現し対話する力
  • 多様な他者の感性や情緒を理解するとともに、自らの思いや経験を効果的に表現する力
  • 他者と協働して考えを深める力

そして、国語の見方・考え方の「考え方や判断の仕方」として、「多様な立場や考えを理解して、よりよく伝え合おうとすること」を端的に示す、とあります。その背景として、アルゴリズムによるネット上での社会の分断の危険性にまで触れています。

国語の話でアルゴリズム、です。ちょっと驚きました。でも、言いたいことは分かります。自分と似た考えばかりが流れてくる環境だからこそ、自分とは違う見え方をしている人の内側を想像する力が要る、ということです。

「帰り道」は、まさにその教材

「帰り道」の面白さは、二人の見え方のずれです。

律の側から読むと、周也はよくしゃべる、軽いやつに見える。律は自分の気持ちをうまく言葉にできなくて、もやもやしている。ところが周也の側から読むと、周也は周也で、律の沈黙が気になって、だから余計にしゃべってしまっている。

読み手は、二人の両方の内側を知ることになります。でも、二人はお互いの内側を知らない。この構造、どこかで見たことがありませんか?

そう、前に教材研究を書いた「ごんぎつね」と似ているのです。ごんの気持ちを知っている読み手と、知らない兵十。ただ「帰り道」は、二人とも語り手になる。だから、「どちらかが悪い」という読み方になりにくいんですね。

授業の中心にしたい問い

「同じ出来事が、二人にはどう見えていた?」

まず、前半と後半で同じ場面を探させます。同じ出来事を、律はどう感じ、周也はどう感じていたか。表にまとめると、ずれがはっきりします。

ここで押さえたいのは、審議まとめのいう「運用しながら深める」知識、つまり視点(語り手)という物語の読み方です。「誰の目から語られているか」を意識するだけで、物語の見え方が変わる。この知識は、ほかの物語を読むときにも、自分が書くときにも使えます。

「二人の気持ちが、ほんの少し近づいたのはどこ?」

物語の終わりで、二人の関係はほんの少しだけ動きます。どこで、何がきっかけで動いたのか。言葉なのか、言葉ではない何かなのか。

ここは、子どもによって読みが分かれるところです。そして分かれていいところです。

「あなたなら、どちらに近い?」

最後に、自分に引きつけます。律に近いか、周也に近いか。そして、自分と反対のタイプの人は、あの場面でどう感じていたと思うか。

この問いのねらいは、どちらかを選ばせることではなく、自分と違うタイプの人の内側を、一度想像してみることです。審議まとめのいう「多様な他者の感性や情緒を理解する」は、こういう経験の積み重ねなんじゃないかと思っています。

「思いや経験の表出と想像」という機能

審議まとめは、国語の「話や文章の機能」の一つとして、「思いや経験の表出と想像」(仮称)を挙げています。経験や想像した出来事、思いや心情を、さまざまな表現の工夫で描き出し、想像したり感じたり考えたりすることを促す機能です。

物語を読むことは、この機能の「受け取り手」になること。そして、物語を書いたり、自分の経験を文章にしたりすることは、「送り手」になることです。

なので、「帰り道」の後に、短い作文を書かせるのもありだと思います。たとえば、自分の経験を、相手の視点から書き直してみる。友達とけんかした日のことを、相手の側から書く。正直、6年生には難しいです。でも、書こうとすること自体に意味があります。

気をつけたいこと

この教材は、子どもの人間関係に近い話です。学級の状況によっては、特定の子が「律っぽい」「周也っぽい」とからかわれることもあり得ます。

「あなたはどっちに近い?」の問いは、ノートに書くだけにして、発表は任意にする。そういう配慮は、どの学級でも持っておいた方がいいと思います。審議まとめが国語に限らず全体で強調している「心理的安全性」の話(以前の連載で書いた「分からない」と言える教室をつくる)とも、ここでつながります。

評価について

物語の読みの評価は、いつも悩みます。「正しい読み」があるわけではないので。

審議まとめは、「思考・判断・表現」の総括的評価を、単元の成果として表れたパフォーマンスで、事項の要素が総合的に発揮されているかという視点から、としています。「帰り道」でいえば、二人の見え方のずれを、本文の言葉を根拠にして説明できているか。読みが分かれるところほど、「どこからそう思った?」の根拠を見ると、評価がぶれにくくなります。

まとめ

  • 審議まとめは、国語の「人間ならではの力」として、多様な他者の感性や情緒を理解する力を挙げ、「多様な立場や考えを理解して、よりよく伝え合おうとすること」を見方・考え方に位置付けようとしている
  • 「帰り道」は、同じ出来事を二人の視点から語る物語で、自分と違う見え方を想像する経験にぴったり
  • 視点という読み方の知識を使いながら、「あなたと反対のタイプの人は、どう感じていた?」まで問うと、教室の人間関係にもつながる

物語の授業は、正解がないから難しい。でも、正解がないからこそ、AIには代わりができない時間なのかもしれませんね。

次回は、4年生の「ごんぎつね」で、教科書の「基幹教材」と「関連教材」という考え方を考えます。

参考

  • 中央教育審議会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)第2部第2章「国語」p.129、p.131、p.133、p.141 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/gaiyou/1292164_00001.htm
  • 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」国語 第5学年及び第6学年 C読むこと(1)
  • 森絵都「帰り道」(光村図書『国語 六』)
  • 関連記事:「ごんぎつね」の教材研究 なぜ最後だけ「兵十」の視点に変わるのか/「分からない」と言える教室をつくる 心理的安全性はすべての活動の土台

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