#30 音楽・図工、芸術の学びはどう変わるか 「心が動く体験」と「身体を通した表現」を真ん中に

教育の動き・学習指導要領

「次期学習指導要領を読む」第30回です。子どもが「AIで描いた絵」を見せてくれて、思わず上手さに驚いてしまう。そんな場面に出会うと、図工の時間って何のためにあるんだろうと、少し考えてしまいますよね。

審議まとめは、音楽、図画工作などの芸術系の教科について、次のような方向を示しています。

  • 表現及び鑑賞の学習で「心が動く体験」を大切にし、唯一の答えに導くのではなく、子ども一人一人のありようが尊重されるようにする
  • 思いや考えをもつことと、身体を通して表現することを「一連の過程」として重視し、その過程全体を「思考力・判断力・表現力等」として示す
  • 小学校の音楽は、「歌唱」と「器楽」を「歌唱・器楽」の区分に統合し、柔軟な指導ができるようにする
  • 図画工作は、「自分と材料や場所」「自分と表したいこと」といった学びの方向性が分かる区分で整理する
  • マンガ、アニメーション、映像などの多様な芸術や文化に関する学びを充実させる
  • 生成AIも活用の対象とするが、表現する過程などを安易に生成AIに委ねることは適切ではない
  • 題材ごとに全観点を評価するのではなく、複数の題材をまとめて総括的評価を行うことも可能とし、形成的評価を重視する

AIが絵を描き、曲をつくる時代に、子どもが自分の手と声で表現することの意味は何か。芸術の項目を読みながら考えたことを書いてみます。


芸術を学ぶ意味を、子どもが実感できているか

審議まとめが挙げる課題

審議まとめは、AIの進化などに伴い、正解のない問いに対処する力や、人間の本来的な能力としての身体性を伴った技能の育成が、芸術系の教科で一層求められている、としています。一方で、芸術系の教科を学ぶ意義を、子どもが十分に実感できている状況には至っていない、とも書いています。

小学校の音楽と図画工作について挙げられている課題は、たとえば次のようなものです。

音楽 – 表現を工夫する場面で、思いや意図を言葉にすることにとどまり、それを音楽で表すための技能の習得が一体的に行われていない

図画工作 – 発想や構想をする段階を「思考・判断・表現」、材料や用具を使って工夫して表す段階を「技能」と位置付けているが、両者は連続している場合が多く、違いが分かりにくい – 結果としての作品だけでなく、発想や構想をしたり、意図に応じて創造的に表したりする過程を重視した指導への改善が課題

「どう歌いたい?」の先

音楽の課題には、思い当たる方も多いのではないでしょうか。私にも覚えがあります。歌唱の授業で「どんなふうに歌いたい?」と聞くと、子どもたちは「やさしく」「元気に」と答えてくれる。でも、そのあと、やさしく歌うには声をどう出せばいいのか、息をどう使えばいいのかまで、一緒に試すことができていなかった。言葉で思いを語ることと、実際に声で表すことが、つながっていなかったのだと思います。


改善の方向性 五つの柱

審議まとめは、芸術系の教科を学ぶ意義を実感しながら学べるよう、次の基本的な方向性を示しています。

図1:芸術系教科・科目の改善の方向性等
図1:芸術系教科・科目の改善の方向性等。左が現状の課題、右が改善の方向性(五つの柱)です(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.691[資料2-2 芸⑥])
  1. 捉えたり感じたりしたことを、要素や特徴、背景にある文化などとの関わりで理解したり、思考、判断、表現したりできるようにする
  2. 自分の思いや考えをもつことと、諸感覚を働かせつつ身体性を伴った技能で表現することを、一連の過程として重視する
  3. 表現及び鑑賞の学習で、心が動く体験を大切にし、唯一の答えに導くのではなく、一人一人のありようが尊重されるようにする
  4. 感じたことや工夫したことを伝え合う活動や、他者と協働する学習を通じて、感じ方や考え方を深める
  5. 生活や社会の中の芸術や芸術文化と関わり、意味や価値を見いだしたり、つくりだしたりすることを重視する

どれも大切ですが、特に3つ目の「唯一の答えに導くのではなく」という言葉に、芸術の学びの本質があると感じました。

「思いをもつ」と「表す」を一つの過程に

2つ目の方向性を受けて、音楽では、習得した技能を生かして工夫して表現するプロセス全体を「思考・判断・表現」として一体的に示す方向です。図画工作では、子どもが発想や構想をし、工夫して表現するまでのつながりを重視し、その過程を「思考・判断・表現」として示す方向です。

「考える段階」と「技能の段階」を分けるのではなく、思いをもち、試し、表しながら、また思いが変わっていく。その行き来全体を一つの学びとして捉える、ということだと思います。


見方・考え方 「感性」と「文化」と「意味や価値」

芸術系の教科の見方・考え方は、教科の系統ごと(音楽/図画工作・美術・工芸/書道)に、小・中・高を通して文言を統一する方向です。整理の観点として、次の三つが示されています。

  • 「感性」は知性と一体化して創造性の根幹をなすものなので、芸術系の教科に共通して重視し、感性や想像力を働かせることを示す
  • 文化を継承し発展させることを一層重視するため、文化に関する視点を共通に含める
  • 芸術の本質的意義である創造性を重視し、意味や価値を追求することを示す

小学校の音楽はどう変わる?

「歌唱・器楽」の区分

では、小学校の音楽は具体的にどう変わるのでしょうか。大きな変化は、「歌唱」と「器楽」を「歌唱・器楽」の区分として統合することです。今は、歌唱と器楽で同じ曲を扱う場合に、学習のねらいを焦点化した指導や評価が行われにくい、という課題があるからです。表現領域を「歌唱・器楽」と「音楽づくり」で整理し、柔軟で効果的な指導ができるようにする、とされています。

教科書についても、一つの教材を歌唱や器楽、さらには合唱奏で扱うなど、さまざまな学習活動ができるようにする構成上の工夫が、小学校の例として挙げられています。

一つの曲を、まず歌ってみる。次にリコーダーで吹いてみる。最後に歌と楽器を合わせてみる。曲との関わりを深めながら、ねらいに応じて活動を選べるようになりそうです。

「身体の使い方」を重視

歌唱や器楽では、さまざまな歌い方や楽器に適応できる技能として、「身体の使い方」を重視する方向です。知識と技能の関係を明確にし、統合して一文で示すことで、子どもが技能の必要性を感じたり、実感を伴って理解したりすることにつなげる、とされています。

「ハ長調・イ短調」など具体性の高い記述については、授業のねらいや子どもの実態に応じた柔軟な指導ができるよう、内容の取扱いへの移行を検討するとされています。


小学校の図画工作はどう変わる?

学びの方向性が分かる区分

図画工作では、表現や鑑賞の活動自体が目的化し、育てたい資質・能力が明確でない指導が見られる、という課題が挙げられています。そこで、教科の本質に関わりながら学べるよう、学びの方向性を明確にする観点から区分を整理する方向です。小学校の例として、「自分と材料や場所」「自分と表したいこと」が挙げられています。

今の図画工作は「造形遊びをする活動」と「絵や立体、工作に表す活動」で考えることが多いと思います。それが「自分と材料や場所」「自分と表したいこと」となれば、「自分」が主語になります。材料や場所と出会って何を感じるか、自分は何を表したいのか。子ども自身の関わりが、学びの中心にあることがはっきりする区分だと感じました。

〔共通事項〕に「造形の働き」

生活や社会とのつながりを意識した表現と鑑賞の関連が図られるよう、〔共通事項〕に「造形の働き」に関する事項を示す方向です。また、表現の活動では、材料や用具の特徴を生かして使うことや、表現方法を追求することを示し、鑑賞の活動では、作品から特徴を見付けだしたり情報を読み取ったりする「鑑賞に関する技能」を示す方向です。

デジタル学習基盤を効果的に活用して発想や構想をしたり技能を働かせたりすることについても、整理するとされています。


マンガやアニメも、芸術の学びに

図2:多様な芸術や文化に関する学びの充実について(取組イメージ)
図2:多様な芸術や文化に関する学びの充実について(取組イメージ)。舞台芸術(6年生の音楽劇)とメディア芸術(中学2年生の漫画制作)の取組イメージです(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.694[資料2-2 芸⑨-1])

多様な芸術や文化に関する学び

「マンガやアニメが学習指導要領に?」と、少し意外に感じますよね。今回の芸術の項目で目を引くのが、マンガ、アニメーション、ゲーム、演劇、舞踊などを含む多様な芸術や文化に関する学びの充実です。

審議まとめは、こうしたものは子どもにとって身近で、興味・関心をもちやすく、生活や社会の中の芸術や芸術文化との関わりを考えるきっかけにしやすい、と書いています。様々な表現に触れることで、自分の可能性に気付いたり、他者への共感を深めたりすることにもつながる、というのです。

図画工作では、デジタル学習基盤を活用し、漫画、アニメーション、映像などの多様なメディアによる創造的な表現や鑑賞の学習を、発達の段階に応じて充実させるとともに、発表や展示の機会を拡充する、とされています。

特別なソフトがなくても

留意点として、メディア芸術に関わる学習では、特別なソフトウェアを利用しなくても、撮影・記録、描画・加工などの基本機能を使って、端末を有効活用した実践が進められることが望まれる、と書かれています。

タブレットのカメラで粘土の人形を少しずつ動かして撮影し、コマ撮りアニメーションをつくる。そうした活動なら、今の環境でもすぐに始められそうです。

伝統や文化も

我が国や郷土の伝統や文化についても、子どもの興味・関心には一定の成果が見られるものの、否定的な回答も3割程度あるとして、その意義を実感できるようにする工夫が求められています。伝統や文化との関わりについては、小学校中学年までは生活と一体化し、高学年以降、徐々に物事を客観的に捉えられるようになるという発達の段階を踏まえる、とされています。


生成AIとの付き合い方

そうなると、やはり気になるのが生成AIの扱いですよね。芸術系の教科でのデジタル学習基盤の活用については、次のように書かれています。

デジタル学習基盤の活用においては生成AI を含むこととするが、表現する過程などを安易に生成AIに委ねることは適切ではない。

子どもの発達の段階を考慮しつつ、人間ならではの感性や身体性を基盤とする創造的な表現や新たな価値を生み出す営みを重視し、ツールとして適切に用いることが重要だ、とされています。

一方で、鑑賞活動での作品の比較や意見共有、遠隔での交流、表現活動での試行錯誤の記録・保存など、デジタルの特性を生かした活用は望まれています。アーティストやクリエイターによるデジタル技術を活用した表現に触れることも、創造的に考えたり、表現の楽しさを実感したりすることにつながる、とされています。

また、子どもが芸術に関するさまざまなコンテンツに接する機会が多いことを踏まえ、発達の段階に応じて、知的財産の保護と活用に関する指導を充実させる、とも書かれています。

AIが一瞬で絵を描いてくれる時代だからこそ、自分の手で描くこと、何度も描き直すこと、うまくいかなくて悩むこと。その過程そのものに価値がある。審議まとめのこの部分は、そう言っているように読めました。


評価は「過程」と「形成的評価」を重視

題材ごとに全観点を評価しなくていい

図工や音楽の評価、毎学期悩みますよね。評価についても、大きな方向性が示されています。芸術系の教科では、短時間の題材で三つの観点すべてを評価しようとすると、総括的評価が優先され、記録に残す評価だけを行う実態が見られる、という課題からです。

そこで、題材ごとに全ての観点で記録に残す総括的評価を行うという前提に立つのではなく、年間指導計画を踏まえたうえで、複数の題材や区分でまとめて総括的評価を行うことも可能であることを促す、とされています。そして、学習の調整を促す形成的評価を重視する方向です。第7回で書いた評価のスリム化の考え方が、芸術系の教科でも具体的に示された形です。

完成作品だけで評価しない

また、制作の過程での評価が難しく、完成作品だけから技能や思考・判断・表現を評価している現状も課題として挙げられています。「思考・判断・表現」の総括的評価を行う場合は、発想や構想をし工夫して作品に表すなどの学習の過程の中で子どもの姿を捉える、とされています。

さらに、多様な子ども一人一人のよさや成長を捉え、他者との比較ではなく肯定的に評価できるようにすることを重視する、とも書かれています。

図工の評価を、完成した作品を並べて見比べながらつけていた自分を振り返ると、耳が痛い指摘です。途中で何度もつくり直していた子、友達の作品を見て新しいアイデアを思いついた子。その過程こそ、見取るべき姿だったのだと思います。


私が今から試してみたいこと

1. 図工では「途中」を記録する

制作の途中で、子ども自身にタブレットで作品を撮影させ、「今どんなことを考えている?」を一言録音したり書いたりしてもらう。過程を見取る評価の材料になりますし、子どもにとっても自分の試行錯誤を振り返るきっかけになります。

2. 音楽では「どう表したいか」と「どうすればできるか」をセットで

「やさしく歌いたい」という思いが出たら、「やさしく聞こえるには、声をどうする?」と問い返し、実際にいくつか試してみる。思いと技能を往復させる時間を、授業の中に少しでもつくってみたいと思っています。

3. 鑑賞で「正解」を求めない

鑑賞の授業で、「この作品から何を感じた?」と聞いたときに出てくる多様な答えを、どれも大切に受け止める。「唯一の答えに導くのではなく、一人一人のありようが尊重される」学びは、鑑賞の時間から始められると思います。


気になるところもあります

一方で、マンガやアニメーション、映像の学習を充実させるとなると、教師自身の経験や知識が追いつくか不安もあります。審議まとめは、研修の充実や外部人材・文化施設との連携を挙げていますが、外部の人の協力や学校外の施設を活用した授業について、教師の肯定的な回答が半数に満たない現状も書かれています。

また、音楽や図工は、学校によっては専科の先生が担当し、担任が関わる機会が少ない場合もあります。専科の先生と担任が、子どもの様子や作品について情報を共有する仕組みも大切になりそうです。


おわりに 「うまい」より「自分らしい」を

図工の時間に、「先生、これでいい?」と何度も聞きに来る子がいます。そのたびに、「あなたはどうしたい?」と聞き返すようにしてきました。芸術の学びには、「これでいい」という正解はありません。自分の思いをもち、試し、表し、また考える。その過程の中に、学びがあります。

AIが上手な絵を描き、整った曲をつくれる時代に、子どもたちには「うまい」より「自分らしい」表現を大切にしてほしい。心が動く体験をし、自分の手と声と身体で、それを表してみる。音楽や図工の時間が、そんな時間であり続けてほしいと思います。

次回は、通常の学級での特別支援教育と合理的配慮について書きます。


参考にした資料

中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)

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