道徳「手品師」をどう授業するか 「誠実」を一つの正解にしない発問

授業づくり

どうも。「せいたか先生」です。

道徳の教材の中で、「手品師」ほど、先生たちの間で議論になる教材はないかもしれません。

あらすじを簡単に書くと、こうです。腕はいいけれど、売れない手品師がいました。いつか大きな劇場で手品をしたい、という夢を持っています。ある日、手品師は、町で、さびしそうにしている男の子に出会います。手品を見せると、男の子は元気になる。手品師は、「明日も来るよ」と約束します。

ところが、その夜、友人から電話がかかってきます。大劇場に出られるチャンスがある。ただし、今夜すぐに来てほしい、と。手品師は迷います。そして、大劇場のチャンスを断り、次の日、男の子の前で手品をします。

この教材は、「誠実」について考える教材です。でも、授業をすると、子どもたちから必ずこんな声が出ます。「男の子も連れて行けばよかったじゃん」「男の子に手紙を残せばいい」「大劇場に出たほうが、たくさんの人を喜ばせられる」。

ということで今回は、「手品師」をどう授業するか、考えてみます。

「正解」を押しつけない

この教材で一番気をつけたいのは、「約束を守った手品師は誠実で、えらい」という一つの答えに持っていかないことだと思っています。

学習指導要領シリーズの#22でも書きましたが、これからの道徳は「考え、議論する道徳」です。教材の登場人物の行動を「正しい」と決めて、それを子どもたちに分からせる授業ではなく、子どもたちが自分で考えて、友達と議論する授業。

「手品師」は、まさにそういう授業に向いている教材です。手品師の選択には、いろいろな考えがあっていい。

「第三の案」をどう扱うか

子どもたちから「男の子も連れて行けばいい」「手紙を残せばいい」という意見が出たとき、どうするか。

これを「教材の設定ではそれはできないことになっています」と退けてしまうと、子どもたちはしらけます。せっかく考えた意見なのに。

私なら、こう返します。「なるほど、そういう方法もあるね。でも、もしそれができなかったとしたら、手品師はどうする?」。一度受け止めてから、「どちらかを選ばないといけない」という状況に戻す。

あるいは、「その方法だと、手品師の何が守れて、何が守れない?」と聞いてみる。第三の案を考えることも、誠実とは何かを考えることにつながっているからです。

中心になる発問

この教材の中心になる発問は、いくつか考えられます。

1. 「手品師は、なぜ大劇場に行かなかったのだろう?」

一番オーソドックスな発問です。子どもたちからは、「約束したから」「男の子をがっかりさせたくなかったから」「自分にうそをつきたくなかったから」などが出てきます。

2. 「手品師は、迷っているとき、何と何の間で迷っていたのだろう?」

こちらは、手品師の葛藤に焦点を当てる発問です。「自分の夢」と「男の子との約束」。「たくさんの人」と「一人の男の子」。何と何の間で迷っていたのかを考えることで、手品師の選択の重さが見えてきます。

3. 「次の日、男の子の前で手品をしたとき、手品師はどんな気持ちだったのだろう?」

これは、選択のあとの気持ちを考える発問です。「後悔していない」「少しは後悔している」「すっきりしている」。いろいろな考えがあっていい。

4. 「あなたなら、どうする?」

最後に、自分に引き寄せて考える発問です。ここで、「自分なら大劇場に行く」と答える子がいても、それを否定しないことが大事です。「なぜそう思う?」と理由を聞いて、その子なりの「誠実」を言葉にしてもらう。

「誠実」とは何か

授業の終わりに、「誠実って、どういうことだと思う?」と聞いてみてください。

子どもたちからは、「約束を守ること」「うそをつかないこと」「自分の気持ちに正直なこと」「相手を大切にすること」などが出てきます。

手品師の選択を通して、子どもたちが自分なりの「誠実」を言葉にできれば、この授業は成功だと思っています。手品師と同じ選択をするかどうかは、子どもたちが決めればいい。

板書のイメージ

板書は、手品師の葛藤が見えるように、左右に分けて書くことが多いです。

  • 左側:大劇場に行く(自分の夢、たくさんの人、チャンス)
  • 右側:男の子との約束を守る(男の子の笑顔、約束、自分へのうそをつかない)
  • 真ん中:手品師の迷い
  • 下:「誠実とは?」子どもたちの言葉

左右に分けることで、子どもたちは、手品師がどちらも大切なものの間で迷っていたことが、目で見て分かります。

おわりに

「手品師」は、答えが一つではない教材です。だからこそ、先生が答えを決めずに、子どもたちと一緒に悩める。

子どもたちの「男の子も連れて行けばいいじゃん」に、「おっ、いいね」と言える授業。それが、考え、議論する道徳の入り口なんじゃないでしょうか。

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