次の学習指導要領は「何が増えるか」より「何を手放せるか」で読む 審議まとめの3つの方向性

次の学習指導要領は「何が増えるか」より「何を手放せるか」で読む 審議まとめの3つの方向性 教員の当たり前を考え直す

 これから約30回にわたり、次期学習指導要領を読んで感じたことや分かったことを記事にしていきたいと思います。令和8年10月5日に中央教育審議会から教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」が発表されました。審議まとめは、答申・告示の前の「方向性」を示した資料です。この記事の内容は今後変わる可能性があります。それを分かった上で読んでいただけると嬉しいです。

「また学習指導要領が変わるのか」。ニュースを見て、思わずため息が出た方も多いのではないでしょうか。私もその一人です。

ただ、審議まとめを読み進めるうちに、少し見方が変わってきました。「新しく何が増えるか」を探しながら読むと、正直しんどい資料です。でも、「何を手放せるようになるか」という目で読むと、驚くほど現場に寄り添った内容に見えてきます。

学習指導要領の改訂と聞くと、私はつい身構えてしまいます。新しい用語が増えて、研修が増えて、書類が増えて……。前回の改訂のときも、「主体的・対話的で深い学び」や「カリキュラム・マネジメント」という言葉を、意味をつかみきれないまま使っていた時期がありました。

今回の審議まとめも、本文だけで400ページ近い分量があります。全部を読み込むのは大変です。そこでこのシリーズでは、小学校の担任の目線から、「教室で何が変わりそうか」「自分は何を考えておけばいいか」を、テーマごとに分けて書いていきます。私自身も読みながら学んでいる途中なので、一緒に読み進めるつもりで書いていきます。

第1回の今回は、全体を貫く考え方を整理します。


審議まとめのキーワードは「多様な子供たちの『深い学び』を確かなものに」

3つの方向性が「三位一体」で示されている

審議まとめは、次の学習指導要領の土台となる考え方を、次の3つの方向性として示しています。

図1:次期学習指導要領に向けた検討の基盤となる考え方
図1:次期学習指導要領に向けた検討の基盤となる考え方。「深い学びの実装」「多様性の包摂」「実現可能性の確保」の三つが、互いに支え合う「三位一体」として描かれています(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.403[資料1-2-1])
  1. 「主体的・対話的で深い学び」の実装
  2. 多様性の包摂
  3. 実現可能性の確保

そして、この3つをまとめて「多様な子供たちの『深い学び』を確かなものに」と総括しています。①と②を合わせると「多様な子供たちの『深い学び』」になり、それを③の実現可能性で「確かなものに」する、という組み立てです。

審議まとめの中では、国際的な対話で通じる言葉として、①を「excellence(質の高さ)」、②を「equity(公正性)」、③を「feasibility(実現可能性)」と言い換えている箇所もあります。この3語で覚えておくと、全体像がすっきりします。

三つ並ぶと、どれも大事そうで、どこから手をつければいいのか分からなくなりますよね。私も最初はそうでした。

3つ目の「実現可能性」が、正面から書かれたこと

私がいちばん大事だと感じたのは、3つ目の「実現可能性の確保」です。

これまでの改訂では、「こういう授業を目指しましょう」という理想が示される一方で、「それを誰がいつやるのか」という話は、どこか後回しになっていた気がします。今回の審議まとめは、「教師の努力と熱意に過度な依存をせず」「教育課程の実施に伴う負担への指摘に真摯に向き合う」と、はっきり書いています。

理想を語るだけではなく、それを実現する条件まで含めて改訂を考える。この姿勢が全体に通っていることが、今回の大きな特徴だと思います。


なぜ今、この3つなのか

図2:主な審議事項
図2:主な審議事項。諮問で示された四つの審議事項です。4番目に「教員の負担」が独立した柱として置かれていることに注目しました(出典:中央教育審議会 教育課程部会『次期学習指導要領等に向けた審議まとめ』(令和8年10月5日)第3部 資料編 p.402[資料1-1-2])

それにしても、なぜ今、この3つなのでしょうか。審議まとめを読むと、その理由は「社会の側」と「学校の側」の両方から説明されています。

社会の側の変化

審議まとめは、まず子どもたちを取り巻く社会の変化から書き始めています。少子化・高齢化、グローバル情勢の混迷、気候変動による災害の激甚化、そしてAIを含むデジタル技術の急速な発展です。

印象に残ったのは、「教育-雇用-引退」という一本道の人生モデルから、転職や学び直し、副業を含む「マルチステージ」の人生へ移っていく、という見通しです。今の子どもたちは、私たちよりも長い人生の中で、何度も「人生の場面転換」に向き合うことになります。だからこそ、学校を出たあとも学び続け、「自らの人生を舵取りする力」が必要になる、という流れです。

もう一つは、社会の分断への危機感です。SNSを通じた偽・誤情報の拡散や、「フィルターバブル」「エコーチェンバー」と呼ばれる現象が挙げられ、異なる価値観をもつ人と対話し、合意をつくっていける「民主的で持続可能な社会の創り手」を育てる必要性が強調されています。

学校の側の課題

学校の現状については、成果と課題の両方が書かれています。

成果としては、コロナ禍の制約の中でもGIGAスクール構想の端末を活用して授業改善が進んだこと、PISA2025で3分野すべてがOECD加盟国中1位になったことが挙げられています。

一方で、課題として次のような点が並んでいます。

  • 知識を現実の事象と結びつけて理解することや、根拠をもって説明することに課題が残っていること
  • 習熟度の低い層が一定程度いて、PISA2025ではその割合が増えていること
  • 自分で課題を立てて探究する子や、うまくいくか分からないことに意欲的に取り組む子の割合が低いこと
  • 不登校の子をはじめ、子どもたちの多様性が格段に増していること
  • そして、教育課程の実施に伴う教師の負担

これを読むと、①の「深い学び」は学力や意欲の課題への答え、②の「包摂」は多様性の課題への答え、③の「実現可能性」は負担の課題への答え、という対応関係になっていることが分かります。3つの方向性は、思いつきで並べたものではなく、現状の課題からまっすぐ導かれたものだと感じました。

学力のこと、子どもの多様さのこと、先生たちの疲れのこと。どれも、職員室で毎日のように話題になっていることですよね。


3つの方向性を、教室の言葉に言い換えてみる

「深い学び」「多様性の包摂」「実現可能性」。こう並べられても、明日の授業とどうつながるのか、ぴんとこないですよね。そこで、3つの方向性を、担任が教室で感じていることに引きつけて言い換えてみます。

①「深い学び」の実装=「分かったつもり」で終わらせない

審議まとめは、「深い学び」について、経験豊富な教師には自然と目指せるものでも、多くの教師にとっては各教科の具体的な場面でイメージをつかみにくい、と率直に書いています。だから次の学習指導要領では、教師が「深い学び」のイメージをつかみやすい書き方にする、というのです。

教室の言葉にすると、「テストでは解けたけれど、ほかの場面では使えない」「用語は言えるけれど説明できない」という状態から、一歩先へ進めること。私はそう受け取っています。

②多様性の包摂=「みんな同じ」を前提にしない

二つ目の「多様性の包摂」について、審議まとめは、不登校の子、障害や認知特性のある子、外国にルーツのある子、特定の分野に特異な才能のある子、経済的に厳しい環境にある子などを挙げ、今の仕組みのままでは全員に深い学びを実現するのは難しい、と認めています。

おもしろいのは、包摂を「指導上の課題」としてだけでなく、それ自体に教育的な価値があると書いている点です。多様な子どもが一緒に学ぶために、ルールを見直したり、環境を調整したり、子どもと教師で話し合ったりする。その試行錯誤そのものが、民主的な社会をつくる力を育てる、という考え方です。

教室の言葉にすると、「みんな同じペース、同じやり方」を当たり前にせず、違いを前提に学級をつくること。そして、その違いをどう扱うかを、子どもと一緒に考えることだと思います。

③実現可能性の確保=先生が倒れない仕組みにする

三つ目は、もう説明するまでもないかもしれません。余裕をもって授業の準備ができた日なんて、最近ほとんどない。そんな方も多いのではないでしょうか。どんなに良い理想も、教師が疲れ切っていては実現できません。審議まとめは、働き方改革との整合性を図ることを、改訂全体に通底させるべき方向性だとしています。

教室の言葉にすると、「良い授業をするための時間を、仕組みとして確保すること」。これが今回の改訂の、いちばん切実なメッセージだと私は感じています。


「手放せるもの」を拾い出してみる

日々の仕事の中に、「これ、本当に必要なのかな」と感じているものが、一つや二つはありますよね。審議まとめを「何を手放せるか」という目で読み直すと、具体的な項目がいくつも見つかります。詳しくはシリーズの各回で書きますが、ここでは主なものを並べてみます。

授業づくりで手放せるもの

  • 教科書を網羅的に教えること。 審議まとめは、教科書「を」網羅的に教える授業や、一時間ごとに完結させる「本時主義」から脱却したいと書いています。教科書の内容自体も精選する方向です。
  • 指導書どおりに授業をしなければという思い込み。 「指導書のとおり授業を行うべきとの認識」が創意工夫を妨げている面がある、という指摘もあります。

時間の使い方で手放せるもの

  • 過度な予備時数。 標準授業時数を大きく上回る計画がまだ残っていることが課題として挙げられています。
  • 週29コマの習慣。 最低授業週数35週で割って週29コマにする習慣を見直し、週28コマ以下への平準化を進める方向です。
  • 年度当初に決めた時数配分を変えられないこと。 新しく「調整授業時数制度」をつくり、学校の判断で教科等の時数を柔軟に調整できるようにする方向が示されています。

評価で手放せるもの

  • 「内容のまとまりごとの評価規準」を学校ごとに作ること。 学習指導要領の文末を変えるだけの作業になっているとして、学校での作成は不要とする方向です。
  • 全単元の「指導と評価の計画」の作成。 文書をつくること自体ではなく、授業の「構想」のプロセスとして示す方向です。
  • 「主体的に学習に取り組む態度」のための形式的な評価材料集め。 「学びに向かう力」は各教科で目標に準拠して評価するのではなく、総合所見欄での個人内評価を基本にする方向が示されています。

こうして並べてみると、日々「これって本当に必要なのかな」と感じていたものの多くが、審議まとめの中で名指しで見直しの対象になっていることに気づきます。

では、手放して生まれた時間は、何に使えばいいのでしょうか。

手放すのは「楽をするため」ではない

ただし、審議まとめは、手放すこと自体を目的にしているわけではありません。生まれた時間を、子どもの深い学びと、教師が力量を高める時間に回したい。そのための「余白」だと、繰り返し書いています。

この「余白」という言葉については、第8回で改めて書きますが、「余白とは、単に時間的余裕を意味するのではなく、多様な子供たちの深い学びを実現するための時間的余裕」という説明が添えられています。手放すことと、子どもの学びを深めることが、セットで考えられているのです。


目指す子どもの姿は「自らの人生を舵取りする」

二つの方向性を「両輪」で

審議まとめは、学校教育を終えた子どもたちの姿として、「自らの人生を舵取りすることができる民主的で持続可能な社会の創り手」を掲げています。そして、そのための方向性として、次の二つを「両輪」で進めると書いています。

  • 「好き」(興味・関心)を育み、「得意」を伸ばす
  • 当事者意識を持って、自分の意見を形成し、対話と合意ができる

この二つの関係の説明が、私にはとても腑に落ちました。「好き」や「得意」が伸びて、自分なりの意見や見方を持つようになると、他者と対話したり合意したりする必然性が生まれる。逆に、普段から自分の意見を持ったり伝えたりする経験がないまま、対話や合意の活動だけをしてもうまくいかない、というのです。

学級担任の仕事と、驚くほど重なる

この二つ、どこかで聞いたことがあるような気がしませんか。学級担任が毎日の学級経営で大切にしていることと、ほとんど重なっているのです。

一人一人の「好き」を見つけて、それを認めること。学級会で、自分の意見を言い、友達の意見を聞き、みんなで決めること。私たちが「学級づくり」と呼んできたものが、次の学習指導要領では教育課程全体の柱として位置付けられようとしている、と読むこともできます。

実際、審議まとめは特別活動について、学級活動を「教育活動全体を下支えする『要』」と位置付け、学級経営が目指すものを「学級全体のウェルビーイングの実現」と捉える方向を示しています。この点は第11回で詳しく書きます。


私が今から試してみたいこと

改訂が実際に教室に届くのは、まだ先です。全面実施は、小学校で令和12年度からが想定されています。それまで待つしかないのかというと、そうでもなさそうです。私自身、今から始めてみようと思っていることがあります。

1. 自分の「手放したいものリスト」をつくる

まずは、日々の仕事の中で「これは子どもの学びにつながっているかな」と迷っているものを、書き出してみようと思っています。審議まとめの方向性と照らし合わせると、学年や学校で相談するときの根拠になります。

2. 「この単元で何ができるようになってほしいか」から考える

次の改訂の授業づくりの中心は、「どんな力を身に付けてほしいか」から出発して単元を構想することです。教科書の次のページから考えるのではなく、単元のゴールから考える。これは今の学習指導要領のもとでも、すぐに始められます。

3. 子どもの「好き」と「意見」を拾う

子どもが夢中になっていること、つぶやいた意見を、意識してメモしてみる。それだけでも、「好きを育み、得意を伸ばす」と「意見を形成する」の両輪に、担任として関わる準備になります。


おわりに 「何を手放せるか」から始めてみる

改訂の資料を読むとき、つい「また何かが増える」と構えてしまいがちです。でも今回は、「手放していいもの」を探しながら読むと、審議まとめの言葉が、現場の声への返事のように見えてくるところがあります。

次回は、「AIが何でも答える時代に、なぜ子どもに知識が必要なのか」というテーマで、審議まとめが示す「確かな知識」について書きます。


中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(令和8年10月5日)第1部第1章・第2章・第5章ほか

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